43 / 89
7.思いがけない再会
7-3
しおりを挟む
――――目をつぶると、土砂降りの大雨、ザァザァとした音がよみがえってくる。
息苦しささえ感じるほどの叩きつけるような雨、むせ返るような湿度の中で、時間を気にしながら躊躇していた。
スマホを確認したら、十九時を少し回ったあたり。
そんなことより、電池残量が残り十二パーセントということに目を丸くした。
充電器の調子悪かったもんなあ、新しいの買わなきゃ、なんて思いながら、今度はコンビニの中の壁時計を見た。
まだもうちょっと大丈夫かな? 雨に当たらない場所で、待ってるんだよね?
コンビニの軒下で少しでも雨足が弱まるのを待っている私の目の前に、黄色いバスが止まってマヒロくんが降りてきた。
家がこの近所らしく、降りて真っすぐに家に向かって帰ることもあれば、ママの迎えが遅い日はコンビニで時間を潰したりしてる。
マルの家からの帰り道、コンビニに立ち寄る私の時間とよく合うから、いつしか顔見知りになって名前まで知る仲だった。
「お姉ちゃん、こんばんは! すごい雨だね」
逃げるように走ってコンビニの軒下に滑り込んできたマヒロくんは、雨粒を顔にまとわせたまま、生えかけの前歯を出してニカッと笑う。
「ホントだね、ゲリラ豪雨だ」
「ゴリラゴウウ?」
「残念、ちょっと違う、ゴリラではない」
私とマヒロくんの笑い声は雨の音にかき消されて、互いに降りやまない空を見上げた。
「僕、今日はお迎えないからゆっくりできないんだ。ママ、転んで足を怪我しちゃったの。だから帰りは走って帰るからねって言ってあるから」
じゃあね、と雨のカーテンの中に飛び出そうとするマヒロくんのリュックをグッと掴んで引き留める。
「待って待って、傘はどうした?」
「プールのロッカーに忘れちゃった」
エヘヘと笑うマヒロくんの笑顔に苦笑して、バッグの中から愛用の赤い折り畳み傘を取り出し握らせた。
この大雨に対抗するには心もとない大きさだけど、無いよりはマシだろうし。
「え? いいよ、いいよ! お姉ちゃんが困るでしょ?」
「大丈夫だよ、いざとなったらコンビニで傘買うから。それよりママが心配してるだろうから早く帰りな?」
私の顔と傘を見比べていたマヒロくんは、考えてからコクンと頷いて。
「ありがとう、あの、この傘は」
「じゃあ、次のプールの日に、またここで会えたらで」
「はいっ、じゃあ、また三日後に!」
「うん、会えなきゃ来週でも」
わかったと彼は傘を広げると、雨の中を走らず慎重に歩き出していく。
本当は走りたいだろうに、そうしないのは私から借りた傘を大事に揺らさないようにしてだろう。
その優しさを見送りながら、私も決心する。
急ぐか、きっと待ってる、困ってるだろう。
そうしてコンビニに入り、私は透明なビニール傘を買った。
壊れても別にいいかな、と雨足がまた強くなっていく夜の町を走り始めた。
息苦しささえ感じるほどの叩きつけるような雨、むせ返るような湿度の中で、時間を気にしながら躊躇していた。
スマホを確認したら、十九時を少し回ったあたり。
そんなことより、電池残量が残り十二パーセントということに目を丸くした。
充電器の調子悪かったもんなあ、新しいの買わなきゃ、なんて思いながら、今度はコンビニの中の壁時計を見た。
まだもうちょっと大丈夫かな? 雨に当たらない場所で、待ってるんだよね?
コンビニの軒下で少しでも雨足が弱まるのを待っている私の目の前に、黄色いバスが止まってマヒロくんが降りてきた。
家がこの近所らしく、降りて真っすぐに家に向かって帰ることもあれば、ママの迎えが遅い日はコンビニで時間を潰したりしてる。
マルの家からの帰り道、コンビニに立ち寄る私の時間とよく合うから、いつしか顔見知りになって名前まで知る仲だった。
「お姉ちゃん、こんばんは! すごい雨だね」
逃げるように走ってコンビニの軒下に滑り込んできたマヒロくんは、雨粒を顔にまとわせたまま、生えかけの前歯を出してニカッと笑う。
「ホントだね、ゲリラ豪雨だ」
「ゴリラゴウウ?」
「残念、ちょっと違う、ゴリラではない」
私とマヒロくんの笑い声は雨の音にかき消されて、互いに降りやまない空を見上げた。
「僕、今日はお迎えないからゆっくりできないんだ。ママ、転んで足を怪我しちゃったの。だから帰りは走って帰るからねって言ってあるから」
じゃあね、と雨のカーテンの中に飛び出そうとするマヒロくんのリュックをグッと掴んで引き留める。
「待って待って、傘はどうした?」
「プールのロッカーに忘れちゃった」
エヘヘと笑うマヒロくんの笑顔に苦笑して、バッグの中から愛用の赤い折り畳み傘を取り出し握らせた。
この大雨に対抗するには心もとない大きさだけど、無いよりはマシだろうし。
「え? いいよ、いいよ! お姉ちゃんが困るでしょ?」
「大丈夫だよ、いざとなったらコンビニで傘買うから。それよりママが心配してるだろうから早く帰りな?」
私の顔と傘を見比べていたマヒロくんは、考えてからコクンと頷いて。
「ありがとう、あの、この傘は」
「じゃあ、次のプールの日に、またここで会えたらで」
「はいっ、じゃあ、また三日後に!」
「うん、会えなきゃ来週でも」
わかったと彼は傘を広げると、雨の中を走らず慎重に歩き出していく。
本当は走りたいだろうに、そうしないのは私から借りた傘を大事に揺らさないようにしてだろう。
その優しさを見送りながら、私も決心する。
急ぐか、きっと待ってる、困ってるだろう。
そうしてコンビニに入り、私は透明なビニール傘を買った。
壊れても別にいいかな、と雨足がまた強くなっていく夜の町を走り始めた。
34
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?
ただ巻き芳賀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。
栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。
その彼女に脅された。
「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」
今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。
でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる!
しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ??
訳が分からない……。それ、俺困るの?
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
瞬間、青く燃ゆ
葛城騰成
ライト文芸
ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。
時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。
どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?
狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。
春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。
やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。
第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる