上 下
34 / 89
6.掛け違えたボタンを解く

6-1

しおりを挟む
「マルさん、夏月のことずい分心配しててくれたんだね」
『まあ……、相棒だから、じゃない』

 本当はそれだけじゃない、そうじゃない。
 屋上で出会った時に、きっと互いのことが理解できたからだ。
 抱えていたこと、吐き出せない思い、飲み込んでしまう癖が同じだったから、マルと友達になった。
 でも私とマルだけの秘密だから、それは春陽には言わない。

「絶対彼氏だと思ったんだけどなあ」
『んなわけないじゃん!』
「本当に? マルさん、結構イケメンじゃない?」

 まあ、イケメンの部類には入るが、彼氏ではない。
 残念がる春陽だけど、そこは強く否定しておこう、マルの名誉のためにも。
 だってマルの好きな女の子のタイプを知っているんだもん。
 華奢で色白でちょっとドジそうな雰囲気のアイドルのこと、推してるの知ってたし。
 そういえば、あのアイドルの雰囲気がちょっと春陽に似てるなって思ったこともあった。
 家が近づくに連れて人影もまばらとなり、春陽の口数も増えてくる。
 人混みで私に話しかけていたら、ヤバイ人だって思われかねないからアイコンタクトや小声を通していたけれど、ここら辺りまで来るとその警戒もとけはじめたようだ。

「それにしても、言って欲しかったよ。Harukaのこと」
『やだよ、恥ずかしいもん』
「なんで? 私だって夏月の歌聞きたかったのに」
『聞いてたじゃん、何度も』
「だって、あれはカラオケでしょ? 配信で歌えるなんてすごいよ、夏月! 声がすごくキレイだった」
『春陽、自画自賛してんの? 同じ歌声のくせに』
「それはまあ、声はそうかもだけど……、私は夏月みたいに想いを込めて歌ったことないから」

 寂しそうにつぶやいた春陽は、いつかのことを言っている気がした。
 私も夏月と同じ部活に入りたかったな、って寂しそうに笑ってた日のことを不意に思いだす。

『ねえ、春陽は』

 言いかけた私の声に気づかなかったのか。

「明日も探そう、スマホ。夏月は嫌がるかもしれないけど、私は残したいよ? 夏月が最期に作った曲。聴いてみたい」
『待って、待って! それってスマホに電源入れようとしてるってこと?』
「あとは見ないようにするから! ね?」
『やだって、絶対ダメ! 湯船に一晩漬けこんで洗濯機で洗って、あとはハンマーでブッ叩いてよ』
「そこまでするの!?」

 私の依頼に、呆れたように春陽が笑った時だった。

「春陽! 春陽!!」

 見えてきた家の前には人影が二人。
 ママを支えるようにするパパがいて、春陽と叫んだのはママだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ラ・ラ・グッドバイ

おくむらなをし
恋愛
大学の事務員として働く派遣社員の吉田は、何度目かの失恋をした。 仕事も恋も長続きしない自分に苛立ちながら副業にしている日雇いの現場へ向かい、そこで栗谷ほまれという年下の女性に出会った。 妙にパーソナルスペースが狭い彼女の態度に戸惑いながらも一緒に食事をして別れ際、彼女は「またね」という言葉を口にする。 その後2人は意外なかたちで再開することとなり……。 ◇この作品はフィクションです。全20話+アフターSS、完結済み。 ◇この小説はNOVELDAYSにも掲載しています。

【完結】あきらめきれない恋をした

東 里胡
青春
雪降る入試の日、お守りを無くしてしまった二宮花菜は、他校生の及川空人に助けられ恋をする。 高校生になった花菜は空人と再会するが、彼には一つ年上の春香という彼女がいることを知り早速失恋。 空人の幸せを願い、想いを口にすることなく、友達として付き合っていくことに決めた花菜。 だが、花菜の想いに気づいてしまった春香は、空人に近寄らないでと泣く。 どんな時も良くも悪くもあきらめが悪い花菜だったが、空人のことはあきらめなければと想いを抑え込もうとしたが――。 空人の親友真宙を交え、絡んでいく恋心と同じように花菜の病が加速していく。

少女は共味を持っている!

ふうまさきと
青春
共感覚を持つ少女のお話。 ちょっとあらすじ  父親の虐待によって人の性格や感情を味として感じる共感覚に目覚めた周船寺唯は、正門から校内へ入って行く人を見かけた。その人は転校生の桔梗院柊で、なぜか味がしなかった。 完結しました。 詰めすぎ間がありますね、、、

process(0)

おくむらなをし
青春
下村ミイナは、高校1年生。 進路希望調査票を紙飛行機にして飛ばしたら、担任の高島先生の後頭部に刺さった。 生徒指導室でお叱りを受け、帰ろうとして開けるドアを間違えたことで、 彼女の人生は大きく捻じ曲がるのであった。 ◇この物語はフィクションです。全30話、完結済み。 ◇この小説はNOVELDAYSにも掲載しています。

僕は君を思い出すことができない

朱村びすりん
青春
「久しぶり!」  高校の入学式当日。隣の席に座る見知らぬ女子に、突然声をかけられた。  どうして君は、僕のことを覚えているの……?  心の中で、たしかに残り続ける幼い頃の思い出。君たちと交わした、大切な約束。海のような、美しいメロディ。  思い出を取り戻すのか。生きることを選ぶのか。迷う必要なんてないはずなのに。  僕はその答えに、悩んでしまっていた── 「いま」を懸命に生きる、少年少女の青春ストーリー。 ■素敵なイラストはみつ葉さまにかいていただきました! ありがとうございます!

アルファポリス収益報告書 初心者の1ヶ月の収入 お小遣い稼ぎ(投稿インセンティブ)スコアの換金&アクセス数を増やす方法 表紙作成について

黒川蓮
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスさんで素人が投稿を始めて約2ヶ月。書いたらいくら稼げたか?24hポイントと獲得したスコアの換金方法について。アルファポリスを利用しようか迷っている方の参考になればと思い書いてみました。その後1ヶ月経過、実践してみてアクセスが増えたこと、やると増えそうなことの予想も書いています。ついでに、小説家になるためという話や表紙作成方法も書いてみましたm(__)m

あめふりバス停の優しい傘

朱宮あめ
青春
雨のバス停。 蛙の鳴き声と、 雨音の中、 私たちは出会った。 ――ねぇ、『同盟』組まない? 〝傘〟を持たない私たちは、 いつも〝ずぶ濡れ〟。 私はあなたの〝傘〟になりたい――。 【あらすじ】 自身の生い立ちが原因で周囲と距離を置く高校一年生のしずくは、六月のバス停で同じ制服の女生徒に出会う。 しずくにまったく興味を示さない女生徒は、 いつも空き教室から遠くを眺めている不思議なひと。 彼女は、 『雪女センパイ』と噂される三年生だった。 ひとりぼっち同士のふたりは 『同盟』を組み、 友達でも、家族でも恋人でもない、 奇妙で特別な、 唯一無二の存在となってゆく。

図書準備室のシキガミさま

山岸マロニィ
青春
港町の丘の上の女子高の、図書準備室の本棚の奥。 隠された秘密の小部屋に、シキガミさまはいる―― 転入生の石見雪乃は、図書館通学を選んだ。 宇宙飛行士の母に振り回されて疲れ果て、誰にも関わりたくないから。 けれど、図書準備室でシキガミさまと出会ってしまい…… ──呼び出した人に「おかえりください」と言われなければ、シキガミさまは消えてしまう── シキガミさまの儀式が行われた三十三年前に何があったのか。 そのヒントは、コピー本のリレー小説にあった。 探る雪乃の先にあったのは、忘れられない出会いと、彼女を見守る温かい眼差し。 礼拝堂の鐘が街に響く時、ほんとうの心を思い出す。 【不定期更新】

処理中です...