上 下
19 / 89
3.鏡合わせの私たち

3-5

しおりを挟む
「でも、それは春陽が元々小さく生まれたのもあって」
「そうよ、春陽を小さく生んでしまったのは私だもの。でも、夏月は元気に生まれたのに。どうして? 双子のはずなのに? そう思ってしまってるの。春陽のこと、可愛くないわけじゃない。いつか、きっと少しずつ健康になるだろうって、そう願ってるけど。この間みたいに、私だって大事な仕事がある時に、あんな風にまた熱を出されたら……、春陽のためだけに長野に行くのも、嫌なのよ」
「仕事は、少し休むとか。君なら優秀だし、きっと長野の銀行でも雇って」
「そういうことじゃないの! 私は今の会社で働いてきたの。あなたと出逢う前からずっと働いてるのよ。辞めたくなんかない」
「子どもより仕事の方が大事だと、そう言うのか?」
「ほら、また繰り返し。もう、いいの、何回話し合ったって同じ。私の気持ちなんか、あなたに伝わるわけない。いいよ、行って? 長野でも、どこでも。私が、あの子たちを捨てるの。家族じゃなくなれば、遠慮なしに長野に行けるでしょ? 春陽も夏月もあなたにあげる」

 ママに捨てられる、私のせいで家族がバラバラになっちゃう。
 ダメだよ、そんなの絶対にダメ!!
 どうしたら、どうにかしなくちゃ!

「なっちゃん?」

 春陽の呼びかけに応えることなく、私は立ち上がり、階段を降りて、パパとママのいるリビングのドアを大きく開けた。

「夏月……、どうした? 眠れないのか? 春陽まで」

 私の背中に隠れるように春陽も一緒についてきた。
 覗いたリビングの真ん中で、入学式の時に記念に写した家族写真のガラスの額縁が割れていた。
 手から血を流しているママが、気まずそうに私たちに背中を向ける。
 その背中が小さく振るえていたから、私は決心を固めた。

「パパ、私長野には行かない」
「え?」
「夏月?」

 突然そう宣言して私は、ママの側に行きその背中にピッタリ張り付いた。

「春陽だけ連れてってあげて、パパ! 春陽の喘息には、長野の方が空気がいいんでしょ」
「夏月? 意味がわかってるのか? ママのところに残るってことは、パパや春陽と離ればなれになるってことなんだよ?」
「でも、それじゃママが一人ぼっちになっちゃうもの。ママ、本当はね、すっごく寂しいんだよ」

 ママの背中が大きく震えて、泣き声が聞こえてきた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです

珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。 それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

拝啓 私のことが大嫌いな旦那様。あなたがほんとうに愛する私の双子の姉との仲を取り持ちますので、もう私とは離縁してください

ぽんた
恋愛
ミカは、夫を心から愛している。しかし、夫はミカを嫌っている。そして、彼のほんとうに愛する人はミカの双子の姉。彼女は、夫のしあわせを願っている。それゆえ、彼女は誓う。夫に離縁してもらい、夫がほんとうに愛している双子の姉と結婚してしあわせになってもらいたい、と。そして、ついにその機会がやってきた。 ※ハッピーエンド確約。タイトル通りです。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

処理中です...