18 / 89
3.鏡合わせの私たち
3-4
しおりを挟む
階下では今夜も二人の怒鳴り合いのような声が聴こえている。
話し合いは並行のまま、ママだけが家族の中から弾かれていく、そんな流れになっているのを感じていた。
仕事は辞められないとママは言っていたから。
子どもたちのことは可愛い、だけどそれとは関係なく、自分のことを認めて評価してくれたのは、会社だけだからと。
ママは孤児として育ち奨学金やアルバイトで生計を立て大学を出て今の会社に勤めた。
そこで初めて社会で認められ、自分に自信がついたのだという。
そうして、ある日友人の紹介でパパと出会い、私たちが生まれたけれど、子育てをしている期間が社会から弾かれたようで怖かったのだという。
子育てだけに縛られる人生は寂しい、長野に行けば自分はきっとただの主婦になってしまう。
だから皆と一緒には行けないと、パパの説得にママは耳を貸さなかった。
震えるながら泣く春陽を抱きしめて私も泣いていた。
その時階下からガシャンという、なにか割れるような大きな音が聞こえて、私たちは顔を見合わせて、静かに気づかれないように階段の途中まで降りてみた。
「もう、放っておいて! 私は、どうせ母親失格なのよ。春陽はもちろん、夏月だってあなたといる方が楽しそうだもの。二人とも、あなたといた方が幸せだと思うわ」
ママの泣き叫ぶような声が聞こえて、私たちは無言でお互いの手を握り合う。
どちらの震えなのか、わからないけれどシンクロしているように同じ顔で怯えていた。
今まであったはずの日常が壊れていくのを、何もできずに結果を待つだけしかできない。
私も春陽も家族の一員であることに変わりはないのに、子どもだから口を挟んではいけない。
勝手にそう思い込んで、時が過ぎるのを待とうと思っていた。
少なくとも、その日までは。
「君のことを責めたのは謝る。子供二人育てることの大変さは、僕だって少しはわかってるつもりだ。君は、夏月に母乳を与えながら、同時に春陽にミルクをあげていた。僕にはできないことだったし、愛情がなきゃ無理だ。そうだろう?」
「それでもね、それでも、私、どこかでずっと思ってたの。春陽が夏月くらい元気だったならって。いつだって大事な時に熱を出して旅行を取りやめなきゃになったり、発達も夏月に比べたら遅くて」
胸の奥で心臓の血が凍ってしまっているみたいに、手足が冷たくなっている。
春陽の震えが寄せ合った身体から伝わってきて、止めるように抱きしめた。
話し合いは並行のまま、ママだけが家族の中から弾かれていく、そんな流れになっているのを感じていた。
仕事は辞められないとママは言っていたから。
子どもたちのことは可愛い、だけどそれとは関係なく、自分のことを認めて評価してくれたのは、会社だけだからと。
ママは孤児として育ち奨学金やアルバイトで生計を立て大学を出て今の会社に勤めた。
そこで初めて社会で認められ、自分に自信がついたのだという。
そうして、ある日友人の紹介でパパと出会い、私たちが生まれたけれど、子育てをしている期間が社会から弾かれたようで怖かったのだという。
子育てだけに縛られる人生は寂しい、長野に行けば自分はきっとただの主婦になってしまう。
だから皆と一緒には行けないと、パパの説得にママは耳を貸さなかった。
震えるながら泣く春陽を抱きしめて私も泣いていた。
その時階下からガシャンという、なにか割れるような大きな音が聞こえて、私たちは顔を見合わせて、静かに気づかれないように階段の途中まで降りてみた。
「もう、放っておいて! 私は、どうせ母親失格なのよ。春陽はもちろん、夏月だってあなたといる方が楽しそうだもの。二人とも、あなたといた方が幸せだと思うわ」
ママの泣き叫ぶような声が聞こえて、私たちは無言でお互いの手を握り合う。
どちらの震えなのか、わからないけれどシンクロしているように同じ顔で怯えていた。
今まであったはずの日常が壊れていくのを、何もできずに結果を待つだけしかできない。
私も春陽も家族の一員であることに変わりはないのに、子どもだから口を挟んではいけない。
勝手にそう思い込んで、時が過ぎるのを待とうと思っていた。
少なくとも、その日までは。
「君のことを責めたのは謝る。子供二人育てることの大変さは、僕だって少しはわかってるつもりだ。君は、夏月に母乳を与えながら、同時に春陽にミルクをあげていた。僕にはできないことだったし、愛情がなきゃ無理だ。そうだろう?」
「それでもね、それでも、私、どこかでずっと思ってたの。春陽が夏月くらい元気だったならって。いつだって大事な時に熱を出して旅行を取りやめなきゃになったり、発達も夏月に比べたら遅くて」
胸の奥で心臓の血が凍ってしまっているみたいに、手足が冷たくなっている。
春陽の震えが寄せ合った身体から伝わってきて、止めるように抱きしめた。
36
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです
珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。
それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
拝啓 私のことが大嫌いな旦那様。あなたがほんとうに愛する私の双子の姉との仲を取り持ちますので、もう私とは離縁してください
ぽんた
恋愛
ミカは、夫を心から愛している。しかし、夫はミカを嫌っている。そして、彼のほんとうに愛する人はミカの双子の姉。彼女は、夫のしあわせを願っている。それゆえ、彼女は誓う。夫に離縁してもらい、夫がほんとうに愛している双子の姉と結婚してしあわせになってもらいたい、と。そして、ついにその機会がやってきた。
※ハッピーエンド確約。タイトル通りです。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる