魔法少女はまだ翔べない

東 里胡

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八月五日金曜日~長雨のち「夏休み後半」

夏休み後半⑩

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 ママの退院に合わせて東京に向かう。
 部屋の荷物はそのままにした。
 ママとの話し合いが終わったら、もう一度皆に会いたいからだ。
 どんな結果になろうとも、私もちゃんとママと向き合おうと思った。
 わかってもらえるまで私のやりたいこと、考えてること全部、ママに伝えるために東京に戻る。

「ノビル、おばあちゃんのことよろしくね?」
【まあ、任せておけ】

 尻尾をしょぼんとさせたノビルの頭を撫でる。

【たまには遊びに来いよ? あと、希帆のこと、よろしくな?】
「うん、おじいちゃん」
【違う!!】

 シバタ駄菓子店の前で、おばあちゃんとノビルに見送られて私は歩き出す。
 何度振り返っても見えなくなるまで、おばあちゃんもノビルも私を見送ってくれて。
 角を曲がって見えなくなってから、涙をぬぐった。

「帰るのか?」

 小さなリュックだけで歩く私の背後から、そんな声が聞こえた。
 振り返ったらキラがいた。

「うん、帰る」

 呟いたら、そっか、と納得したように頷いている。
 キラは駅まで送ってくれた。
 東京行きの電車を待ちながら、駅のホームまで見送ってくれた。

「遠いけどな? 隣の県だし」
「え?」
「俺だって、たまには東京に行くし、行ったら必ずオマエのとこ顔出す」
「うん?」
「それにオマエだって、またいつでも遊びにくればいいんだし」
「キラ?」
「そしたら、寂しくねえだろ? 俺らがいなくても。離れてても友達だし。つうか、キラリとはまた絶対会える、そんな気がする。だってオレら、キラキラコンビだし?」

 な、と冗談めかして、真っ赤になったキラに、何度も何度も頷いた。
 落ちてきた涙を誤魔化しながら笑っていたら、目の端に走って来る女の子たちが見えた。

「キラリん家、行ったら今日だって聞いて。水くさいよ、なんで言わないのよ!」

 汗を拭いながら、アンが怒っている。

「本当に東京に戻っちゃうの?」

 カノンが泣き出しそうな顔をした。

「うん、戻る。戻ってちゃんとママと話さなきゃいけないから。けどね? 八月の末には一旦戻ってくるから! だから三人には言わなかったんだよ? その時には、また会おうね? 私、まだスイカ割したことないの、一緒にやろう? 教えてくれる?」
「スイカ割のやり方知らねえって、すげえな」

 キラのボソリとしたつぶやきに、カノンが涙目で拭きだしたら、アンも顔をゴシゴシ擦って笑い出す。

「戻って来たら、連絡するからね~!! 待っててね!!」

 電車の窓から遠ざかっていく三人に手を振った。
 またね、絶対戻って来るからね、って。
 大好きな町が遠ざかっていく。
 皆の笑顔が遠ざかってから、声を出さないようにしてハンカチで顔を覆った。
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