魔法少女はまだ翔べない

東 里胡

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八月五日金曜日~長雨のち「夏休み後半」

夏休み後半⑥

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 八月も半ばを過ぎて、宿題もほとんど終えてしまった。
 お盆時は海に入っては行けない、とおばあちゃんに言われて泳ぎにも行けない。
 でも、それは私だけじゃなく町の人も皆海に入ってはいない。
 霊に足を引っ張られるから、なんて言われちゃったら、そういうのにビビリの私は絶対に入れない。
 ママからの連絡が、ここ三日来ていなかった。
 相当具合が悪いんだと思う。
 四日前のメッセージは、久々に長文だった。

――――

 おはよう、キラリ。
 この間は、色々ごめんね。
 治療が終わったら、すぐに会いに行くからね?
 九月の二学期頭には、キラリがまた東京の学校に戻れるように手配する。
 それとね、ママはやっぱり結婚しません。
 よくよく考えたら沢田さんじゃちょっと頼りないでしょ?
 だから、また二人で楽しく暮らそう。
 ママは、その日を楽しみに治療頑張るから!
 もうちょっと待っててね

――――

 読んだ時、ズキリと胸が痛んだ。
 沢田さんと別れたってこと? 
 それは、私のせいで?

『別に結婚してもいいよ、沢田さんはいい人だし、ママもきっと幸せになれる。でも、そこに私はいらないと思う』
『ママなんか大嫌い、沢田さんも大嫌い。二人とも早く東京に帰ってよ!!』

 本当は似合ってると思ってた。
 いつも暴走気味のママをなだめてくれたのは、沢田さんだったし。
 沢田さんが仕事でミスったら、それをフォローしてたのはママ。
 公私ともにお互いが必要だって思ったから結婚するつもりだったんでしょ?
 
 何度か、メッセージを作っては、送れずにいた。

 沢田さんと結婚していいんだよ、反対なんかしてないんだよ。
 ちゃんとママと会って話がしたい。
 私が思ってること、考えたこと、怒らないで聞いてほしい。
 それと、おばあちゃんと仲直りしてほしい。
 だってママが私を心配してくれてるように、おばあちゃんも毎日ママを心配してる。
 言わなくたって、わかる。
 だって寂しそうなんだもん。

 そう打っては消していた。
 会った時に話そうって思ってたから。

【デカイため息だな】

 久々に聴く声に顔をあげたら、縁側に座る私の前にノビルがいた。

「珍しい、ノビルから話しかけてくるなんて。ずっと話してくれなかったくせに」
【それは、まあ、色々とな? で、希帆の様子はどうだ?】
「わかんない、連絡がないから、ちょっと心配。でも何かあれば病院から連絡来るはずだし、きっと大丈夫とは思うけど」
【そうか】

 私の言葉にホッとしたように尻尾を振ったのを見逃さなかった。
 さっきだってママのこと、希帆って呼び捨てにしたし、やっぱりノビルってば。

「ねえ、ノビルってさ? 本当は、おじい」
【キラリ、絶対また来いよ、ここに】
「え?」
【夏が終わったら東京に帰るんだろ?】
「……うん、そうだね」
【そしたら、真希ちゃん寂しがるだろうし、たまにでいいからさ。キラリだけでも顔見せに来てやってくんねえかな?】

 じいっと私のことを懇願するように見上げるノビルに曖昧に笑う。

「私は来たいよ、でも、ママが」
【うん、怒鳴ってたな、この間も。お前が留守の間、ずっと二人して怒鳴り合ってたぞ? なあ、希帆は本当に病人なのか? あんな細くなってたくせに、デカイ声だったなあ】
「細くなってた、くせに?」
【ほ、ほら、前にお前の面倒をみて欲しいって来ただろ? あの時と比べてだ】
「ふうん?」

 やっぱり怪しい、ジロリと視線を落としたらクルンと背中を向けてしまった。

【本当はな、キラリも希帆もここに住めばいいのに、って思ってた。そしたら、真希ちゃんも寂しくないし、希帆も一人で頑張らなくていいんじゃないかって】

 ノビルの背中が何だか寂しそうで、サンダルを履いてノビルを背中から抱きしめた。

「ノビルも寂しいんでしょ? 私がいなくなったら」
【お、俺は全然寂しくなんかねえからな? うぬぼれるなよ】
「私は寂しくなるよ、ノビルと離れるの。だって、大好きだもん」

 ぎゅうっと抱きしめたら、いつもは嫌がるのにされるがままでいてくれて。

【東京は、近くて遠いんだよなあ】

 ノビルの呟きがなんだか切なくなって涙が零れた。
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