魔法少女はまだ翔べない

東 里胡

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八月五日金曜日~長雨のち「夏休み後半」

夏休み後半③

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「おじいちゃん、亡くなる最後までキラリに会いたがってたよ」

 おばあちゃんの言葉に、ノビルをチラリと見下ろしたらプイッと顔を背けられた。
 この態度、絶対に怪しい!

「希帆の病気が治ったら、またここに帰ってくればいい、ってそう思ってたんだ。あの子の性格上、それはあり得ないのにね」

 ふふっと寂しそうに笑うおばあちゃんに何も言えなくなって、しゃがみ込んでノビルを撫でる。

「沢田さんはいい人だと思うよ、少し希帆の言いなりになってるのが気になるけど」
「ママの仕事の後輩だから、ね」
「仮にも結婚しようって言うんだから、もう少し大事に扱ってあげればいいのにねえ」
「確かに。でも、あれがママなりの精一杯かも」

 素直じゃないママは、私のこともいつも怒ってばかり。
 心配してるくせに、怒ってばかり。
 沢田さんもいつも怒られてた。
 だけど、ちゃんとママは私のことも沢田さんのこともフォローしてくれた。
 自分が怒りすぎたのを反省してたんだと思う。

「あの日、希帆を怒ったのは、キラリに相談も無しで結婚を決めてしまっていたからさ。ま、私に『一人で育ててみせる』って啖呵切って出て行ったくせに、と思ったのもある。だけどさ、今思うと不安だったのかもしれない」
「え?」
「唯一の肉親である私だってもう年だし、希帆自身に何かあったら誰がキラリを守れるんだろう? そう考えてしまったんじゃないかい?」

 その話を聞いた瞬間、顔に熱が集まった気がした。
 目の奥が熱くなって、その内に視界がぼやけて。
 慌てて私は目を擦る。

「沢田さんは、希帆のそんな気持ちを全部受け止めようとしてくれたんだろうさ。キラリのことも可愛がってくれてるのはおばあちゃんの目から見てもわかったよ。そんな人だから、結婚を決めたんだろうね」

 そっと見上げたおばあちゃんの横顔が寂しそうに海を見下ろしていた。

「素直じゃないし、いつも怒ってばかりで、本当に腹が立つけどさ。順番は逆だったけど、キラリに話しに来たんだろうね、希帆は。待っててもあっちから擦り寄って来る気配はないし。だったらさ? 二度目の治療が終わったら、おばあちゃんとお見舞いに行ってみないかい、キラリ」

『親子だしケンカすることもあるとは思う。でも必ず最後は仲直りしてあげてね。次の治療を希帆さんが頑張れるためにも、ね?』

 おばあちゃんの言葉が、沢田さんの声と重なる。
 小さく頷いて、だけど少しだけまだ心は晴れなかった。
 ちゃんとわかってるつもり、だけどどうしてもまだママと話し合う気にはなれない。
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