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七月二十日水曜日~晴れのち大荒れ「夏休み前半」
夏休み前半③
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「キラリ!! ただいまあ」
時々スマホのテレビ電話で話してはいたけれど、約一か月ぶりに会うママは画面越しに見ていた以上に痩せていた。
いつも頭に巻いていたバンダナではなく、どうやら今日はウィッグをつけているみたい。
以前と同じような髪型のウィッグ姿で、治療する前と何も変わらない笑顔。
「おかえり」
そう呟いたら、我慢していた涙がボロボロと落ちた。
「やだ、あんたが泣くと釣られちゃうじゃない」
笑いながら目尻を擦ったママが私を抱き寄せる。
細くなった身体に包み込まれたら、ますます泣けてくるけど必死に唇を噛んでそれを堪えた。
ママが笑っていて良かった。
病気と闘って勝とうとしてくれている、それだけで勇気が湧いた。
「おかえり、希帆。立ちっぱなしは疲れるだろ? それに運転してくれた人も休ませてやりなさいよ」
そういえば、とママが顔をあげて、隣に立っていた沢田さんを横目で見た。
「あ、あの、僕は、希帆さんの後輩でして」
タオルで汗をぬぐいながら、おばあちゃんに頭を下げる沢田さんに。
「まだ、いいから! まずは、ね? 上がろう? キラリ、麦茶あるかな? ママ、喉渇いちゃった」
「うん。あ、沢田さんも上がってください。おばあちゃん、スイカ出そうよ、朝畑で採れたやつ。すっごく甘いんだよ、ママ」
「知ってる。母さんの畑で取れたのは、全部美味しいし」
ママの言葉にドキッとした。
そうだ、ママもおばあちゃんが魔法使いだということは知ってるんだもんね。
「おだてても、他にはなーんも出ないよ」
ぶっきらぼうなおばあちゃんの口調は、なんとなく優しい。
おばあちゃんも、ママがこうして会いに来たのが嬉しいのだと思う。
「沢田さん、上着脱いだら? 暑いんでしょ?」
麦茶とスイカを沢田さんの前に置くと、またタオルで額の汗を拭っている。
何も休日までスーツを着て来なくてもいいのに。
「そんな緊張しないで、足もくずしなさいな。今日は、どこか宿とってたりするのかい?」
「あ、はい、えっと」
「だったらあんたの話は明日か、そうだね、明後日にしとこうか? 先に希帆と話しておきたいからね?」
おばあちゃんの声に、沢田さんはハッとしたように顔をあげて、ママの方をチラリと見た。
ママも苦笑して、おばあちゃんに頷いてみせる。
私だけが何が何やらサッパリわからない。
「ねえ、なんの話?」
「今はいいんだよ、キラリ。後で話そうね。それより、希帆。あんた食べたいものはないの?」
「うなぎ、って言いたいとこだけど、まだそこまでの食欲はなくってさ。でもワガママ言ってもいいかな? 母さん」
「なんだい?」
「母さんの夏カレーが食べたい」
「あ! 私も好き! おばあちゃんの夏カレー!」
ママは私に親指をピッと立てたから、私も同じポーズで笑う。
「お客さんにカレーなんて、ねえ」
おばあちゃんのため息に。
「大丈夫、何でも食べるから、この人」
ママの言葉に、東京の家で沢田さんにコンビニのたこ焼きや、冷凍お好み焼きをお酒のつまみに出していたのを思い出した。
時々スマホのテレビ電話で話してはいたけれど、約一か月ぶりに会うママは画面越しに見ていた以上に痩せていた。
いつも頭に巻いていたバンダナではなく、どうやら今日はウィッグをつけているみたい。
以前と同じような髪型のウィッグ姿で、治療する前と何も変わらない笑顔。
「おかえり」
そう呟いたら、我慢していた涙がボロボロと落ちた。
「やだ、あんたが泣くと釣られちゃうじゃない」
笑いながら目尻を擦ったママが私を抱き寄せる。
細くなった身体に包み込まれたら、ますます泣けてくるけど必死に唇を噛んでそれを堪えた。
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病気と闘って勝とうとしてくれている、それだけで勇気が湧いた。
「おかえり、希帆。立ちっぱなしは疲れるだろ? それに運転してくれた人も休ませてやりなさいよ」
そういえば、とママが顔をあげて、隣に立っていた沢田さんを横目で見た。
「あ、あの、僕は、希帆さんの後輩でして」
タオルで汗をぬぐいながら、おばあちゃんに頭を下げる沢田さんに。
「まだ、いいから! まずは、ね? 上がろう? キラリ、麦茶あるかな? ママ、喉渇いちゃった」
「うん。あ、沢田さんも上がってください。おばあちゃん、スイカ出そうよ、朝畑で採れたやつ。すっごく甘いんだよ、ママ」
「知ってる。母さんの畑で取れたのは、全部美味しいし」
ママの言葉にドキッとした。
そうだ、ママもおばあちゃんが魔法使いだということは知ってるんだもんね。
「おだてても、他にはなーんも出ないよ」
ぶっきらぼうなおばあちゃんの口調は、なんとなく優しい。
おばあちゃんも、ママがこうして会いに来たのが嬉しいのだと思う。
「沢田さん、上着脱いだら? 暑いんでしょ?」
麦茶とスイカを沢田さんの前に置くと、またタオルで額の汗を拭っている。
何も休日までスーツを着て来なくてもいいのに。
「そんな緊張しないで、足もくずしなさいな。今日は、どこか宿とってたりするのかい?」
「あ、はい、えっと」
「だったらあんたの話は明日か、そうだね、明後日にしとこうか? 先に希帆と話しておきたいからね?」
おばあちゃんの声に、沢田さんはハッとしたように顔をあげて、ママの方をチラリと見た。
ママも苦笑して、おばあちゃんに頷いてみせる。
私だけが何が何やらサッパリわからない。
「ねえ、なんの話?」
「今はいいんだよ、キラリ。後で話そうね。それより、希帆。あんた食べたいものはないの?」
「うなぎ、って言いたいとこだけど、まだそこまでの食欲はなくってさ。でもワガママ言ってもいいかな? 母さん」
「なんだい?」
「母さんの夏カレーが食べたい」
「あ! 私も好き! おばあちゃんの夏カレー!」
ママは私に親指をピッと立てたから、私も同じポーズで笑う。
「お客さんにカレーなんて、ねえ」
おばあちゃんのため息に。
「大丈夫、何でも食べるから、この人」
ママの言葉に、東京の家で沢田さんにコンビニのたこ焼きや、冷凍お好み焼きをお酒のつまみに出していたのを思い出した。
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