魔法少女はまだ翔べない

東 里胡

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七月二十日水曜日~晴れのち大荒れ「夏休み前半」

夏休み前半②

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 夏休みの間中、早起きしては魔法の修行を積む。
 呪文は魔法書で自力で覚えなきゃだけど、使いこなすコツはやはりおばあちゃんに習うのが一番手っ取り早い。

「アラン・レガード・パシフィール・ラ・デラッソ!!」

 おかげで夏休みが始まって十日も経つと風と水の魔法を融合させて、私の背丈ほどの水竜巻を出現させることができるようになった。

「やるじゃないのさ、キラリ。あんた、希帆より呑み込みが早いよ」

 おばあちゃんはそう言うと柄杓に私の出現した水を掬い、空に巻き上げる。
 途端にその水は虹色になり野菜たちに降り注ぐ。

「水の無駄使いにならないだろ」
「うん、有効利用だね」

 クスクス笑いながら、おばあちゃんの籠を持ち飛び込んでくる野菜たちを待ち受ける。

「そういえば、キラに泳ぎを習ってるんだって」
「……キラが言ったの?」
「違うよ、近所の人が教えてくれた」

 誰だ、口の軽い人は!!

「海は難しいよね、プールでなら絶対にキラに負けない自信があるのになあ」
「まあ、キラは小さい頃から海でばかり泳いでたからね。夏休み中教えてもらいな? でもキラリならすぐに上達するよ」

 よしよしと私の頭を撫でてくれるおばあちゃんに、頷いた。
 沖のブイまでは遠いけど、その半分くらいの距離なら何とか往復できるようになったし、立ち泳ぎもマスターした。
 後は体力が持つことと、潮の流れさえ読めれば、この夏の間にブイまで行って戻って来られるはず。
 風の書、水の書をマスターすること。
 沖のブイまで行って戻ること。
 それが私のこの夏の目標になった。
 それと、もう一つ。

「ねえ、おばあちゃん、ママに言おうかなって思うんだけど」

 今夜、ママが仮退院し二泊三日でおばあちゃんの家にやってくる。

「言うって魔法のことかい?」
「そう、やっぱり内緒にしとくのは」
「うん、おばあちゃんも何だか心苦しいから、二人で言っちゃおうかね。ただ、そうしたら怒られるのも二人になるけどね?」
「え!?」
「おばあちゃんは『キラリに勝手に教えるな』って怒られるだろうし。キラリは『中途半端に魔法なんか覚えるな! 学生なんだから、もっと大事なことがいっぱいあるでしょ』って怒りそうだよねえ」
「うっ、ありえる……、ママなら言いかねない。でも内緒にしてたことを一番に怒りそう」

 私のついたため息に、おばあちゃんは苦笑して。

「まあ、それで怒ったとしたなら、お前はどうなんだい? って言ってあげるから大丈夫」
「うん?」

 聞き返した私の声はおばあちゃんに届かなかったのだろうか。

「さ、キラが来るよ。帰るよ、キラリ」

 歩き出すおばあちゃんの後を追った。
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