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七月十七日日曜日 晴天、のち「久々の再会」
7/17③
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「沢田さん!?」
ママの会社の後輩、この暑い中スーツ姿の沢田さんが、ドアを開けた私を見てヤアと手をあげる。
相変わらず細く垂れた目で優しそうな笑顔を浮かべていて、見知った顔に久々に会えて私もホッとした。
「キラリちゃん、元気にしてた?」
「はい、元気です。沢田さん、今日は、どうしてここに?」
だって、ここは東京ではない。
沢田さんは車に乗って、ここまでやってきたのだ。
わざわざ? それとも、用事があって、ついでに?
「希帆さんに頼まれて。病室にお見舞いがいっぱい届いてるけど、一人じゃ食べきれないからキラリちゃんやお母さんのところに届けてくれないかってさ」
ホラと見せてくれたバスケットの中にはたくさんのフルーツや、保冷バッグも持っていることから、何か日持ちのしなさそうなものも預かってきたのだろう。
沢田さんは、いつもママの頼み事を断れない人だ。
ママより、三つ年下の沢田さんは、ママと組んで営業をしている。
時々、家に来てはママに仕事の話を相談しながら、いつの間にか最後は飲み会に雪崩れ込んで。
その頃にはママの愚痴を沢田さんが聞く係となっていた。
気の弱そうで優しそうな笑顔をした沢田さんは、いつもママに使われていて、きっと今日もそうだ。
仕事の休みの日まで沢田さんとこき使うなんて、いくら病人とはいえ、ママはひどい。
「ママってば、休みなのにまた沢田さんを使ったんですね。すみませんでした」
「いいの、いいの。きっとキラリちゃんや、希帆さんのお母さんに食べさせたかったんだと思うし。それに、ボクもずっとキラリちゃんが元気にしてるか気になってたから、顔見れて安心したし。あ、ここまでのドライブも楽しかったよ」
微笑む沢田さんの手から、申し訳なく思いながらもお見舞いの品を受け取った。
「あ、おばあちゃん今いないんですけど、もうすぐ帰ってくると思うんで、上がって待ちませんか?」
せっかく遠くから来てくれたんだし、麦茶くらい飲んでってもらわないとと気を使ったのに。
「ううん家主さんのいないお家には上がれないよ。また今度あらためて挨拶に来るから」
「またママにこき使われちゃうの?」
ため息交じりでママを非難するような声をあげたら、沢田さんはクスクスと笑った。
「そんなんじゃないよ。大丈夫」
「なら、いいんですけど」
ママならやりかねないからなあ。
「そうそう、希帆さん、がんばってるよ。本当はすごく辛かったはずなのに、以前と全然変わらないくらい元気。ちょっと痩せちゃっただけで、威勢の良さは病気する前よりもあるかもしれない」
「そうなの?」
「もうちょっと大人しくしてないと退院できないよ、って伝えてるんだけどね」
「困ったママですよね、本当に」
沢田さんから聞くママの話、病室でも負けん気の強さを発揮しているみたいで安心した。
「実はね?」
「はい」
「七月末に外泊が認められるかもしれないって」
「え!?」
「それでね、本当に外泊がもらえたら、希帆さんがここに来たがってるんだ。その時は、ボクが車で連れてくるつもりだけど」
「ママ、そんなに、元気になったの?」
「あ、元気だよ? でも、今回は外泊ってだけ。その後すぐに二回目の治療に入るからね」
沢田さんの話に、まだママは闘病真っ最中だということを思い知らされる。
受け取ったバスケットの持ちてを握る手にギュッと力を込めて力んでしまうと。
「大丈夫、希帆さんがキラリちゃんを残していくはずないじゃない」
「……はい」
「きっと今日にでも、外泊の許可が降りたら、連絡来ると思うから。希帆さんのお母さんにも伝えておいてあげてくれる? 本当はボクから直接伝えられれば良かったんだけどさ」
玄関先で少しだけ、ママの近況を聞いたり。
逆に私が今どんな学校にいて、友達ができて、と話したら。
「希帆さん、安心すると思う」
ママへの土産話にするね、と笑いながら、沢田さんは帰って行った。
その後すぐにおばあちゃんが帰ってきて、沢田さんが持ってきてくれたプリンを一緒に食べながら、外泊の話を伝えた。
おばあちゃんは、しばらく何かを考えるような顔をして。
「まあ、仕方ないね」
と小さなため息をついた。
「おばあちゃん?」
「ん、なんでもない。なんでもない。さて、そろそろ晩御飯の支度でもするかね」
私に向けた笑顔は、いつものおばあちゃんだったけど、さっきのため息はどんな意味があるの?
ママが外泊にここに来るの、おばあちゃんは嫌なのかな?
眠る前、窓から見上げた月には、雲がかかっている。
さっきの、おばあちゃんの顔みたいだなって思った。
私にはわからない、なにか大事なことを考えているようなそんな顔をしていたから、気になって仕方がないんだ。
ママの会社の後輩、この暑い中スーツ姿の沢田さんが、ドアを開けた私を見てヤアと手をあげる。
相変わらず細く垂れた目で優しそうな笑顔を浮かべていて、見知った顔に久々に会えて私もホッとした。
「キラリちゃん、元気にしてた?」
「はい、元気です。沢田さん、今日は、どうしてここに?」
だって、ここは東京ではない。
沢田さんは車に乗って、ここまでやってきたのだ。
わざわざ? それとも、用事があって、ついでに?
「希帆さんに頼まれて。病室にお見舞いがいっぱい届いてるけど、一人じゃ食べきれないからキラリちゃんやお母さんのところに届けてくれないかってさ」
ホラと見せてくれたバスケットの中にはたくさんのフルーツや、保冷バッグも持っていることから、何か日持ちのしなさそうなものも預かってきたのだろう。
沢田さんは、いつもママの頼み事を断れない人だ。
ママより、三つ年下の沢田さんは、ママと組んで営業をしている。
時々、家に来てはママに仕事の話を相談しながら、いつの間にか最後は飲み会に雪崩れ込んで。
その頃にはママの愚痴を沢田さんが聞く係となっていた。
気の弱そうで優しそうな笑顔をした沢田さんは、いつもママに使われていて、きっと今日もそうだ。
仕事の休みの日まで沢田さんとこき使うなんて、いくら病人とはいえ、ママはひどい。
「ママってば、休みなのにまた沢田さんを使ったんですね。すみませんでした」
「いいの、いいの。きっとキラリちゃんや、希帆さんのお母さんに食べさせたかったんだと思うし。それに、ボクもずっとキラリちゃんが元気にしてるか気になってたから、顔見れて安心したし。あ、ここまでのドライブも楽しかったよ」
微笑む沢田さんの手から、申し訳なく思いながらもお見舞いの品を受け取った。
「あ、おばあちゃん今いないんですけど、もうすぐ帰ってくると思うんで、上がって待ちませんか?」
せっかく遠くから来てくれたんだし、麦茶くらい飲んでってもらわないとと気を使ったのに。
「ううん家主さんのいないお家には上がれないよ。また今度あらためて挨拶に来るから」
「またママにこき使われちゃうの?」
ため息交じりでママを非難するような声をあげたら、沢田さんはクスクスと笑った。
「そんなんじゃないよ。大丈夫」
「なら、いいんですけど」
ママならやりかねないからなあ。
「そうそう、希帆さん、がんばってるよ。本当はすごく辛かったはずなのに、以前と全然変わらないくらい元気。ちょっと痩せちゃっただけで、威勢の良さは病気する前よりもあるかもしれない」
「そうなの?」
「もうちょっと大人しくしてないと退院できないよ、って伝えてるんだけどね」
「困ったママですよね、本当に」
沢田さんから聞くママの話、病室でも負けん気の強さを発揮しているみたいで安心した。
「実はね?」
「はい」
「七月末に外泊が認められるかもしれないって」
「え!?」
「それでね、本当に外泊がもらえたら、希帆さんがここに来たがってるんだ。その時は、ボクが車で連れてくるつもりだけど」
「ママ、そんなに、元気になったの?」
「あ、元気だよ? でも、今回は外泊ってだけ。その後すぐに二回目の治療に入るからね」
沢田さんの話に、まだママは闘病真っ最中だということを思い知らされる。
受け取ったバスケットの持ちてを握る手にギュッと力を込めて力んでしまうと。
「大丈夫、希帆さんがキラリちゃんを残していくはずないじゃない」
「……はい」
「きっと今日にでも、外泊の許可が降りたら、連絡来ると思うから。希帆さんのお母さんにも伝えておいてあげてくれる? 本当はボクから直接伝えられれば良かったんだけどさ」
玄関先で少しだけ、ママの近況を聞いたり。
逆に私が今どんな学校にいて、友達ができて、と話したら。
「希帆さん、安心すると思う」
ママへの土産話にするね、と笑いながら、沢田さんは帰って行った。
その後すぐにおばあちゃんが帰ってきて、沢田さんが持ってきてくれたプリンを一緒に食べながら、外泊の話を伝えた。
おばあちゃんは、しばらく何かを考えるような顔をして。
「まあ、仕方ないね」
と小さなため息をついた。
「おばあちゃん?」
「ん、なんでもない。なんでもない。さて、そろそろ晩御飯の支度でもするかね」
私に向けた笑顔は、いつものおばあちゃんだったけど、さっきのため息はどんな意味があるの?
ママが外泊にここに来るの、おばあちゃんは嫌なのかな?
眠る前、窓から見上げた月には、雲がかかっている。
さっきの、おばあちゃんの顔みたいだなって思った。
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