魔法少女はまだ翔べない

東 里胡

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七月一日金曜日 晴天「優しさ日和」

7/1①

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「おはよう、キラ!」

 いつもよりも早めに起きて、中庭でキラを待っていた。
 私を見つけたキラは、まるでオバケでも見るような目で驚いていた。

「キラリ、熱下がったのかよ?」
「うん、昨日ね! ノビルの散歩、一人でしてくれて、ありがとう」

 ここ数日、散歩のため、ノビルのところにキラが来ている気配はしていた。
 だけど、こっちは髪の毛ボサボサだし、なんだかくたびれているしで窓から顔も出せないでいた。
 顔を合わせるのは、私がプチ家出をしちゃって皆が探しに来てくれたあの日以来だった。

「別に。おまえが来るまでは、俺一人だったし。それより、いきなり動いたりして、平気なのか?」
「平気平気、もう寝てるの飽きたし! だから、早く散歩行こうよ、キラ」

 キラがまだ何か言おうとしているのを遮って、ノビルのリードを手に走ろうとしたら。

「待て、ノビル!」

 キラの命令にノビルはピタッと足を止める。
 
「ノビル、今日は走らない、いいな? キラリもだぞ」

 ノビルに言い聞かせるような口調で私にも伝えて来るのは腹が立つけれど、それがキラなりの優しさだということはわかる。
 病み上がりの私が疲れないように、だろう。
 今日は真っすぐに海に向かう。
 海辺までは走れば五分、だけど今日は歩いて一〇分と少し。
 波打ち際までくると、キラがノビルのリードを離して手にしていたフリスビーを投げる。

「ノビル、行け~!」

 キラの声に弾かれるようにノビルは走り出し、フリスビーを加えて嬉しそうに戻って来る。
 尻尾なんかブンブン振っちゃって、まるで普通のそこいら辺にいる犬と何一つ変わりないような気がするけれど。
 喋ったんだよなあ、絶対に。
 朝も私が話しかけても、まるでわからないみたいな顔をしていたから、本当にあれは夢だった気すらしてくる。
 だけど、昨日熱が下がってから、おばあちゃんが約束通り魔法書全五十巻のうちの最初に読む巻を渡してくれたから、全部が全部夢じゃなかったんだけどな?
 現にここに来る途中の道で、すれ違ったいつも会うハチワレ猫が私を見上げて。

【おや、久しぶりじゃないか、最近見かけなかったけど、どうしてたのさ】

 なんて声をかけてきたんだから、どうやら私は本当に生き物の声を聞くことができるようだ。
 最も向こうから話しかけてくれなきゃわからないんだけどね。
 キラに聞こえないように、そっと猫の方に近寄って。

「風邪ひいてたの。心配してくれてありがとう」

 そう返事をしたら、猫は毛を逆立てて一目散にどこかに逃げてしまったのを見て、むやみに返事をしない方がいいこともあるのだとわかった。
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