魔法少女はまだ翔べない

東 里胡

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六月二十七日月曜日 雨時間「友情と覚醒」

6/27雨③

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 どこか、遠くで人の声が聞こえた気がした。
 ノビルはピンっと耳を立てて、ハッハと短く息を吐いたかと思うと、橋げたを飛び出して行ってしまった。
 リードを放していた私のせいだ。

「ノビル、待って! お願い、止まって」

 慌てて追いかける私を振りきるように、ノビルが夜の町に吸い込まれていく。
 車にでもはねられたら、どうしよう。
 ノビルが迷子になっちゃったら、どうしよう。
 泣き出したくなる気持ちをこらえて、必死に後を追う。
 交差点を右に曲がり、もう一つ先を左に曲がった、そこまでは見えた。
 だけど、その左の曲がり角まで辿り着いた時、とうとうノビルの姿を見失ってしまった。
 どうしよう、どうしよう、どうしよう!

「ノビル、ノビルってばああああ」

 町中に響き渡ったんじゃないかってほどに、ノビルを呼んだ私の声が響き渡る。

「ノビル、戻ってきて、お願いっ!」

 もう一度叫んだ時だった。
 どこかで、ワンワンと吠えるノビルの声が聴こえてきた。
 その声は少しずつ私の方に近寄ってきて、曲がり角から現れたのは。

「キラリ!」

 ノビルのリードを引く、キラと。

「キラリちゃん、大丈夫?」

 カノンちゃんが、心配そうな顔をし駆け寄ってきて私を抱きしめた。
 それと。

「ごめんなさい、柴田さん、ごめんなさい!!」

 桜庭ファミリア、じゃなくて。
 桜庭杏さんと、瀬良さんと紀平さんが、顔も隠さずに泣いていて。
 それからクラスメイトたちも次々に集合してきた。

「キラから連絡がきたの。キラリちゃんがいなくなったって。それでクラス名簿で皆を集めて探していたら、アンが自分のせいかもしれないって青ざめていて」
「知らなかったの、柴田さんが引っ越してきた理由。頭もいいし運動神経だっていいし、東京から来たから垢ぬけてて可愛いし。なに一つ、自分では勝てなくて、だからイジワルなこと言っちゃったの。最低だ、私。何も知らないくせにひどいこと言っちゃって。柴田さんが今どんな気持ちで、おばあちゃんと暮らしてるのかも知ろうともしないで」

 何度も何度も、ごめんなさい、と大粒の涙を流し、項垂れた桜庭さんを責める気にはならなかった。

 キラをちらりと見たら、バツの悪そうな顔をして目を逸らした。
 桜庭さんや皆に事情を説明してくれたのはキラだったのだろう。

「さあ、皆もう暗いからね、固まって帰りましょう?」
「増田先生!?」
「困ったわね、先生まで借りだされちゃった。皆、明日も学校だよ? 今夜はお風呂で温まってゆっくり休みなさい。柴田さんへのお説教は、明日にしますね」

 よしよしと私の頭を撫でた先生に、私は頭を下げた。
 よく見れば町の人たちや、きっとクラスメイトたちのお母さんやお父さんまでいて。

「心配かけてすみませんでした」

 慌てて頭を下げたら、皆微笑んで。

「無事だったんだから、いいんだよ? ただね、真希さんは心配してるよ。あんたが帰ってきて入れ違いになったら困るからって、家で待ってるさ。早く帰っておやり」
「あ、誰か真希さん家に連絡入れた?」
「うん、さっき見つかってすぐ入れておいたよ。真希さん、皆にありがとうってさ」

 キラリちゃん、また明日! ゆっくり休んでね、お疲れ様、とそれぞれが私に笑顔で声をかけてくれる。
 泣いたらダメだって、そう思ったから皆の前では泣かなかったけれど。
 人の優しさや温かさに、胸の中がいっぱいになったんだ。

「明日、学校きてね? ちゃんともう一度謝りたい」

 桜庭さんに私は頷いた。

「学校へは行くよ。でも桜庭さんはたくさん謝ってくれたから、もういいの。私のこと一生懸命探してくれたし、心配してくれた。それに町の人の話は、ウソだった。ね、そうでしょう?」

 だって町の人たちも私を探してくれて、心配してくれたもの。
 桜庭さんは、気まずそうに。

「うん、ウソだった。イジワルしてごめん」
「私もごめん、桜庭さんの言う通り、少しだけ自分の制服の方が可愛いって思ってた」
「!! やっぱり!」

 桜庭さんは一瞬目を丸くした後で、プハッと噴き出した。
 その顔を見て、私も釣られて笑う。

「また明日ね、えっと……、キラリちゃん」

 この町では、皆下の名前で呼び合ってる。

「またね、アンちゃん」

 手をあげたら嬉しそうに頷いて、最後は笑顔で道を分かれた。
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