魔法少女はまだ翔べない

東 里胡

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六月二十七日月曜日 晴れ時間「ライバル」

6/27晴れ③

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 その日、ちょっとした事件が起きた。
 つい先日、受けた期末テストの結果が出たのだ。
 廊下に張り出されるようなことはなかったけれど、先生が丁寧に。

「数学の一位は青山くん、二位は柴田さん、三位は桜庭さん。またキラキラコンビのワンツーね」

 キラと目が合ったらニヤリと笑われた。
 面白くない、面白くない!
 五教科中、三教科をキラにトップを獲られた。
 勉強だって小学生の時から誰にも負けたことがなかったのに。
 受験だって突破してきた私が初めて負けた相手がよりにもよって、またキラだなんて悔しい。
 せめて勉強だけは負けたくなかった、次こそは!
 と考えてから、次はないんだっけ、と思い出した。
 でも、悔しがる私より、もっと悔しがってる人がこっちを見ていたことにその時はまだ気づけないでいた。

「カンニングじゃないの? だって隣の席だし」

 五時限目の用意をしていた私の耳に、そんな声が聞こえてきた。
 運悪く、カノンちゃんもキラも教室にはおらず、他の子たちにも聞こえていないみたいだ。

「ああ、カンニングなら、あの成績はあり得るよね」

 クスクスと桜庭ファミリーが嫌な笑い方を浮かべて私を見ている。
 なるほど、私が総合二位になったから、桜庭さんは三位に落ちてしまったんだ。
 
「私、カンニングなんか」

 立ち上がって抗議しようとしたら、彼女たちは首をすくめて。

「なんのこと? 別に、柴田さんのこと言ってるわけじゃないし」
「そうだよ、柴田さん自意識過剰。目立ちたがりみたいだもんね? なんでも自分のことに聞こえるんじゃない?」

 腕を組んで笑いながらそう言ったのは、桜庭さんだった。

「私、目立つことなんかしてない」
「してるじゃない、いつまでも前の学校の制服着てさ。田舎のダサイセーラー服なんか見下してるんでしょ、どうせ」
「そんなこと」

 言いかけた時、キラとカノンちゃんが教室に戻ってきた。
 不穏な空気に他の子たちも気づき始めていて、桜庭さんたちは気まずそうに席に戻っていく。

「キラリちゃん、大丈夫?」
「うん、なんともないよ」

 カノンちゃんが私に慌てて近づいてくる。
 キラが話しかけてこなかったのは、女子同士の争いごとに顔を突っ込んだらもっと騒ぎになるかも、と察したのかもしれない。

 カノンちゃんがいるとあの子たちは私に近づいて来なかった。
 言うべきことをズバリと言ってしまうカノンちゃんのことを、苦手としている様子。
 
「ねえ、アンってば。そんな言い方された方は傷ついちゃうよ? もうちょっと優しい言い方できないの?」

 などとドストレートに言うものだから、さすがの桜庭さんも、うっと言葉に詰まってしまうのを見かけたことがある。
 さすがは五人兄弟の長女でクラス委員だ。
 だから、その日の出来事は、カノンちゃんが来て、桜庭さんたちが散って、それで終わったはずだった……のに。

「ごめんね、キラリちゃん! 今日はクラス委員の集まりがあるの。もし良かったらキラと一緒に帰ってくれる?」

 それは嫌だ、と首を振る私の横で、同じようにキラも首を振っていた。
 キラはトラック運転手のお父さんと二人暮らし。
 お父さんの帰りが遅い時や、長距離で帰れない日なんかは、キラは家で夕飯を食べて行ったりもする。
 それがなくても、嫌でも夕方のノビルの散歩で一緒になるんだから、下校の時まで一緒にいたくはないのはお互い様だろう。
 しょうがない、今日は一人で帰ろうか、と歩き出した時だった。
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