魔法少女はまだ翔べない

東 里胡

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五月十四日土曜日 曇天「母VS祖母」

5/14④

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 私の受験や、ママ自身の昇級試験。
 入学式、ママの会社では新入社員が入ってきて、少しずつ痛みが増した胃。
 市販薬で誤魔化して、病院に行くことを諦めていたのだという。
 そんな中で受けた会社の健康診断でひっかかり、精密検査を受けてみたら、胃がんだとわかったらしい。

「それでも早期発見の方でね? お医者さんも奇跡だって言ってたわ」

 夕方、町のスーパーでママが、私と自分の分のパジャマや下着を買ってきた。
 今夜は泊まって、明日帰ることになったのは、あれから一時間ほど三人で泣き続けて疲れてしまったからだ。

「うわあ、うなぎ!」

 滅多に食べられないうなぎのお重がちゃぶ台に三つ並ぶ。
 注文前に「なんでも食べられるのか?」とママの食欲を気にしていたのは、これなのか。

「あ、うな源の、うなぎ? 私、これ大好きだったな」
「そうだよ、さ、キラリ。いっぱい食べて元気になりな? 食べきれなかったら残しな?」

 うなぎは精のつく食べ物だってテレビで言ってた。
 それに、ママが好きだったって……。
 きっと食べきれない心配もママに対してだろう。
 私にだけ話しかけるおばあちゃんだけど、そこにはママに対する優しさがちゃんと感じられた。

「美味しい……」

 ママは一口一口噛みしめるようにうなぎを口に運んでいた。
 おばあちゃんは、そんなママから赤くなった目を逸らし、気づかれぬように目を擦った。

「おばあちゃん、美味しいね」

 うなぎもだけど、私が指さしたのは、野菜たっぷりのサラダと、さやえんどうのお味噌汁のこと。

「おばあちゃんの畑で作ったものばっかりだよ。キラリもここに住む間は、時々手伝ってくれるかい?」
「畑……、入ったことない」
「さすが都会っ子だ、大丈夫かね? コンビニなんかもほとんどないし、虫はいっぱい出るし」
「だ、大丈夫! きっと慣れる」

 おばあちゃんは駄菓子屋を営んでいて、ここいら辺りの子供たちの憩いの場だということをママも覚えていた。
 だから、東京に長く出て来られないってこともわかって、私がここに来ることになった。
 ママが心配しないように精一杯虚勢を張って、大丈夫を強調する。
 コンビニなしの虫いっぱい、今までにない状況になることを覚悟する。
 三ヶ月だけ、私が我慢したら、ママは病気と闘ってきっと元気に戻って来られるはずだ。
 
「母さん、キラリの好きな食べ物とか、苦手なものとか」
「それは、おいおいね? まずは、あんたの連絡先、帰る前に書いてっておくれ。で、六月の十二日日曜日、キラリのことは私が迎えに行ったらいいのかね?」
「大丈夫だよ、おばあちゃん。私、一人で来られるから。もう行き方はちゃんと覚えた」
「キラリは、頭がいいねえ」
「私譲りなのよ」
「へえ? 赤点ばーっかり取ってたくせにねえ」
「ちょ、母さん! 余計な事キラリには教えないでよ、それと……。まあ、うん、おいおい、連絡するから」

 頷いたおばあちゃんに、ママもようやく笑顔を覗かせた。
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