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五月十四日土曜日 曇天「母VS祖母」
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「お邪魔します」
私を先頭に上がった家は、外観と同じで古い家だった。
どこを見渡しても茶色い木目の目立つ薄い板壁、フロアマットのリビングには魔法の絨毯のような赤い敷物。
隣の和室とは続き間になっていて、そこにあった仏間にママは目を止めた。
「父さん……」
そう呟いたママは、私の手を引き仏壇の前につれていくと座らせられた。
「あんたのじいちゃんよ」
見上げた先に飾られた写真には、白髪のおじいさんが笑っている。
目を細め優しそうな笑顔の、私のおじいちゃん?
ハッとしてママを見たら手を合わせて目をつぶっていて、小さな声で。
「ごめんなさい、ごめんね、父さん……」
そう言って、ギュッと目をつぶって、泣いていた。
「三年前さ。さ、二人ともこっちおいで。キラリは、餡子が食べれるかい? 今朝、お隣から大福をもらったんだよ」
ふりむくとリビングのちゃぶ台に、お茶が三つと大福があった。
「食べれます」
おばあちゃんの隣に敷かれた座布団の上に座る。
なんとなく、私が二人の間に入っておいた方が良い気がしたからだ。
ママも無言のまま、呆けたように座ってから。
「教えてほしかった」
そう、ポツリとつぶやいた。
「連絡先も知らない親不孝に、どうやって教えたらいいって言うんだい」
「変わってないわよ、ずっと。同じ番号使ってた! いつか、大事な時に連絡が来るんじゃないかって」
「バカな子だよ、あんたは! 忘れちゃったのかい? 自分で自分の連絡先の番号を破いて持っていったじゃないか」
おばあちゃんの指さす先には家の電話があって、その壁にはお知り合いの電話番号が細かく書かれている古く黄ばんだポスターの裏紙。
その一部が破けていた。
ママもそれを思い出したらしく、グッと一度眉間に皺をよせてから。
「ごめんなさい」
小さな小さな声だけど、そうつぶやいた。
「で? 今日はいきなりどうしたんだい?」
おばあちゃんにも聞こえていたのだろうけれど、それ以上ママを責めることなく淡々と話を進める。
「突然なんだけど、本当に突然で悪いと思ってるんだけど……、この子を、キラリのことを三ヶ月ほど預かってほしいの」
「はい!?」
驚きの声が出たのは、おばあちゃんではなく私だった。
どういうこと? 私を預かって欲しいって、ここに?
「キラリは、この春に都内の私立中学に入学したばかりなのよ。できれば母さんに私のアパートに来てもらって、キラリの世話をお願いしたかったの。でも、多分それは無理そうでしょ? だから昨日、キラリの中学に問い合わせたら、三ヶ月ほどならば休学という形を取ってもらえることになって、それで」
「希帆、落ちつきなさい。私も、キラリも、あんたが何を言っているのか、サッパリわからないんだよ。ちゃんと順を追って話しな?」
少し温くなったお茶を一気に飲み干したママの湯飲み茶わんに、落ちつかせるために二杯目のお茶をおばあちゃんが注ごうとしたら。
「私ね、病気なの、病気になっちゃったの。入院して手術して、それから抗がん剤治療とかするんだってさ」
え……?
「胃の調子が悪いなって思ってはいたのよ、だけどまだ若いしって思ってたの。そしたら会社の検診で引っかかっちゃって、精密検査受けたら、まあ……、うん、そういうことで、さ。いやあ、まいったわ」
まいった、まいった、と無理に笑ってみせるママの顔が見る見る滲んでいく。
その時、私の肩を抱いたのはおばあちゃんで。
「まいったね、本当にまいった。お父さんと同じ病気だなんて、親子そろって、もう」
そう呟いたおばあちゃんの声も震えていて。
「やだ、父さんもだったの? もう、遺伝かな?」
アハハと笑ったママの声は鼻声だった。
「ママ、大丈夫……?」
昨日目を真っ赤にしてたのは、きっと精密検査の結果がわかったからだ。
「大丈夫、大丈夫。まだあんたを残しては行けないもん」
おばあちゃんに抱きしめられた私の頭を撫でてくれるママの手の感触にまた涙が落ちた。
私を先頭に上がった家は、外観と同じで古い家だった。
どこを見渡しても茶色い木目の目立つ薄い板壁、フロアマットのリビングには魔法の絨毯のような赤い敷物。
隣の和室とは続き間になっていて、そこにあった仏間にママは目を止めた。
「父さん……」
そう呟いたママは、私の手を引き仏壇の前につれていくと座らせられた。
「あんたのじいちゃんよ」
見上げた先に飾られた写真には、白髪のおじいさんが笑っている。
目を細め優しそうな笑顔の、私のおじいちゃん?
ハッとしてママを見たら手を合わせて目をつぶっていて、小さな声で。
「ごめんなさい、ごめんね、父さん……」
そう言って、ギュッと目をつぶって、泣いていた。
「三年前さ。さ、二人ともこっちおいで。キラリは、餡子が食べれるかい? 今朝、お隣から大福をもらったんだよ」
ふりむくとリビングのちゃぶ台に、お茶が三つと大福があった。
「食べれます」
おばあちゃんの隣に敷かれた座布団の上に座る。
なんとなく、私が二人の間に入っておいた方が良い気がしたからだ。
ママも無言のまま、呆けたように座ってから。
「教えてほしかった」
そう、ポツリとつぶやいた。
「連絡先も知らない親不孝に、どうやって教えたらいいって言うんだい」
「変わってないわよ、ずっと。同じ番号使ってた! いつか、大事な時に連絡が来るんじゃないかって」
「バカな子だよ、あんたは! 忘れちゃったのかい? 自分で自分の連絡先の番号を破いて持っていったじゃないか」
おばあちゃんの指さす先には家の電話があって、その壁にはお知り合いの電話番号が細かく書かれている古く黄ばんだポスターの裏紙。
その一部が破けていた。
ママもそれを思い出したらしく、グッと一度眉間に皺をよせてから。
「ごめんなさい」
小さな小さな声だけど、そうつぶやいた。
「で? 今日はいきなりどうしたんだい?」
おばあちゃんにも聞こえていたのだろうけれど、それ以上ママを責めることなく淡々と話を進める。
「突然なんだけど、本当に突然で悪いと思ってるんだけど……、この子を、キラリのことを三ヶ月ほど預かってほしいの」
「はい!?」
驚きの声が出たのは、おばあちゃんではなく私だった。
どういうこと? 私を預かって欲しいって、ここに?
「キラリは、この春に都内の私立中学に入学したばかりなのよ。できれば母さんに私のアパートに来てもらって、キラリの世話をお願いしたかったの。でも、多分それは無理そうでしょ? だから昨日、キラリの中学に問い合わせたら、三ヶ月ほどならば休学という形を取ってもらえることになって、それで」
「希帆、落ちつきなさい。私も、キラリも、あんたが何を言っているのか、サッパリわからないんだよ。ちゃんと順を追って話しな?」
少し温くなったお茶を一気に飲み干したママの湯飲み茶わんに、落ちつかせるために二杯目のお茶をおばあちゃんが注ごうとしたら。
「私ね、病気なの、病気になっちゃったの。入院して手術して、それから抗がん剤治療とかするんだってさ」
え……?
「胃の調子が悪いなって思ってはいたのよ、だけどまだ若いしって思ってたの。そしたら会社の検診で引っかかっちゃって、精密検査受けたら、まあ……、うん、そういうことで、さ。いやあ、まいったわ」
まいった、まいった、と無理に笑ってみせるママの顔が見る見る滲んでいく。
その時、私の肩を抱いたのはおばあちゃんで。
「まいったね、本当にまいった。お父さんと同じ病気だなんて、親子そろって、もう」
そう呟いたおばあちゃんの声も震えていて。
「やだ、父さんもだったの? もう、遺伝かな?」
アハハと笑ったママの声は鼻声だった。
「ママ、大丈夫……?」
昨日目を真っ赤にしてたのは、きっと精密検査の結果がわかったからだ。
「大丈夫、大丈夫。まだあんたを残しては行けないもん」
おばあちゃんに抱きしめられた私の頭を撫でてくれるママの手の感触にまた涙が落ちた。
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