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六月十三日月曜日 晴天「ハジマリの日」
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「キラリちゃん、一緒に帰ろう?」
放課後、鞄を持ち立ち上がったら尾崎さんが声をかけてくれた。
「ありがとう」
迷う道じゃないけれど、一人ぼっちは心細かったので助かる。
今日一日新米転校生として過ごしてきてわかったこと。
転校生っていうのは、すごく、すっごく、疲れるってことだ。
大抵の人は親切だし、気を使ってくれているのがわかって、私もそれに失礼がないようにと身構えちゃうし。
一人一人の顔と名前を一致させようとするけれど、名札を見なきゃ覚えられないし。
今日、名前と顔が一致したのは、尾崎さんと青山くん、増田先生だけ。
顔だけなら、なんとなく特徴的な子もいて、ストレートロングの黒髪が特徴的な色白の美少女とその取り巻きさんたちの総勢三名。
彼女たちの視線は、ちょっと苦手だった
話しかけてくるわけでもなく、目が合うとプイッとそっぽを向かれたりして。
嫌われてるのかな? と思ったけれど。
「嫌な感じでしょ? 気にしなくていいからね? あの子は、桜庭 杏っていうの。親が町議会議員で、ちょっとしたお嬢様だから、ワガママなの」
昼休み、桜庭さんが私を睨む様子を見た尾崎さんは、説明とともに苦笑した。
「アンは可愛いけど、性格に少し難があるんだわ。常に自分が目立ってて一番でいたいのよ。だからキラリちゃんの存在が、ちょっと面白くないんだと思う」
「私のなにが……」
気づかぬうちに桜庭さんの機嫌を損ねるようなことをしていたのだろうか、と不安になった私に尾崎さんは考え込むような仕草をして。
「キラリちゃんは、顔も制服も可愛いし、やっぱ都会っ子だから垢ぬけてて目立つし、それに」
待って、そんなに褒められたことない!!
ブンブンと頭を横に振る私の様子にも止まることなく、尾崎さんは話し続ける。
「キラリちゃんが、キラの家の隣に住んでるっていうのが、一番悔しいんだと思うんだよね」
「どうして?」
「本人は言わないけど、皆にバレてる。アンは、キラのことが好きなのよ」
は? あの元・犬ドロボーのことを? あの美少女が?
「へえ……」
驚き口数の少なくなった私に、尾崎さんはニッと笑って。
「キラは全く気付いてないどころか、アンに一ミリも興味ないみたい。あ、キラはアンだけじゃなく、女子のことは全般的にウザイと思っているやつだけどさ」
今朝の「うぜえ」を思い出して、なるほどな、とうなずいた。
もちろん、尾崎さんには伝えられないけれど。
尾崎さんは、帰りがてら郵便局や、スーパーの場所、クラスメイトの家、この町で一番長生きをしているおじいさんの家など見るもの全てを説明してくれた。
朝は徒歩十分だったはずなのに、なぜか一時間近くかかった気がする。
途中の角で曲がった尾崎さんと別れて、シバタ駄菓子店の看板に向かって走った。
「おばあちゃん、ただいま~!」
駄菓子屋の店先で、丸椅子に座って新聞を読んでいたおばあちゃんが顔をあげた。
六月といえど、今日は夏日の気温。
暑くないのかな? 気温が結構高いのに、と思ったら、おばあちゃんの背からは涼しい風が吹いている。
緑色の羽が回る古い型式の扇風機が、おばあちゃんに冷を運んでいたのだった。
「おかえり、キラリ。道に迷わず帰って来れたかい?」
「うん、途中まで尾崎カノンさんと一緒だったから」
「あら、カノンちゃんと。良かったじゃないかい、あの子は昔っから面倒見のいい子だからね、五人兄弟の長女なんだよ。きっとキラリの面倒もみてくれるさ」
ん? 私も妹分に加えられるってこと? 同級生なのにー!
「暑かっただろ? 好きなアイス選んで持って行きな? ただし高いのはダメだよ。それともう一本同じの取って、中庭に持ってってやって」
「え? ノビルも食べるの?」
「いや、ノビルは食べないよ。あれ? そういや、キラリに、ノビルの紹介をしたんだっけかね? まあ、いいさ。さっきからうちの庭の雑草むしってくれてる人がいるんでね、差し入れてやって。キラリも着替えたら手伝ってやっておくれ」
この暑いのに、草むしり!?
ゾッとしながら選んだのは食べたことのない輪切りの形をしたパインアイス。
それを二個手に取って、店の奥から家の中に上がり縁側へと向かう。
「あっ」
草むしりをする男の子がそこにいた。
背中をこっちに向けてしゃがみ込み、私には気付いていない様子だけど、アイツだ! 青山キラ!!
「あのっ!」
私のかけた声にようやく気付いて、こっちを振り向く。
額には玉の汗、ひゃあ暑そうだ。
軍手の甲でその汗を拭いながら、青山くんは立ち上がり、学校にいた時と同じように不機嫌そうな顔をしてこっちを見た。
放課後、鞄を持ち立ち上がったら尾崎さんが声をかけてくれた。
「ありがとう」
迷う道じゃないけれど、一人ぼっちは心細かったので助かる。
今日一日新米転校生として過ごしてきてわかったこと。
転校生っていうのは、すごく、すっごく、疲れるってことだ。
大抵の人は親切だし、気を使ってくれているのがわかって、私もそれに失礼がないようにと身構えちゃうし。
一人一人の顔と名前を一致させようとするけれど、名札を見なきゃ覚えられないし。
今日、名前と顔が一致したのは、尾崎さんと青山くん、増田先生だけ。
顔だけなら、なんとなく特徴的な子もいて、ストレートロングの黒髪が特徴的な色白の美少女とその取り巻きさんたちの総勢三名。
彼女たちの視線は、ちょっと苦手だった
話しかけてくるわけでもなく、目が合うとプイッとそっぽを向かれたりして。
嫌われてるのかな? と思ったけれど。
「嫌な感じでしょ? 気にしなくていいからね? あの子は、桜庭 杏っていうの。親が町議会議員で、ちょっとしたお嬢様だから、ワガママなの」
昼休み、桜庭さんが私を睨む様子を見た尾崎さんは、説明とともに苦笑した。
「アンは可愛いけど、性格に少し難があるんだわ。常に自分が目立ってて一番でいたいのよ。だからキラリちゃんの存在が、ちょっと面白くないんだと思う」
「私のなにが……」
気づかぬうちに桜庭さんの機嫌を損ねるようなことをしていたのだろうか、と不安になった私に尾崎さんは考え込むような仕草をして。
「キラリちゃんは、顔も制服も可愛いし、やっぱ都会っ子だから垢ぬけてて目立つし、それに」
待って、そんなに褒められたことない!!
ブンブンと頭を横に振る私の様子にも止まることなく、尾崎さんは話し続ける。
「キラリちゃんが、キラの家の隣に住んでるっていうのが、一番悔しいんだと思うんだよね」
「どうして?」
「本人は言わないけど、皆にバレてる。アンは、キラのことが好きなのよ」
は? あの元・犬ドロボーのことを? あの美少女が?
「へえ……」
驚き口数の少なくなった私に、尾崎さんはニッと笑って。
「キラは全く気付いてないどころか、アンに一ミリも興味ないみたい。あ、キラはアンだけじゃなく、女子のことは全般的にウザイと思っているやつだけどさ」
今朝の「うぜえ」を思い出して、なるほどな、とうなずいた。
もちろん、尾崎さんには伝えられないけれど。
尾崎さんは、帰りがてら郵便局や、スーパーの場所、クラスメイトの家、この町で一番長生きをしているおじいさんの家など見るもの全てを説明してくれた。
朝は徒歩十分だったはずなのに、なぜか一時間近くかかった気がする。
途中の角で曲がった尾崎さんと別れて、シバタ駄菓子店の看板に向かって走った。
「おばあちゃん、ただいま~!」
駄菓子屋の店先で、丸椅子に座って新聞を読んでいたおばあちゃんが顔をあげた。
六月といえど、今日は夏日の気温。
暑くないのかな? 気温が結構高いのに、と思ったら、おばあちゃんの背からは涼しい風が吹いている。
緑色の羽が回る古い型式の扇風機が、おばあちゃんに冷を運んでいたのだった。
「おかえり、キラリ。道に迷わず帰って来れたかい?」
「うん、途中まで尾崎カノンさんと一緒だったから」
「あら、カノンちゃんと。良かったじゃないかい、あの子は昔っから面倒見のいい子だからね、五人兄弟の長女なんだよ。きっとキラリの面倒もみてくれるさ」
ん? 私も妹分に加えられるってこと? 同級生なのにー!
「暑かっただろ? 好きなアイス選んで持って行きな? ただし高いのはダメだよ。それともう一本同じの取って、中庭に持ってってやって」
「え? ノビルも食べるの?」
「いや、ノビルは食べないよ。あれ? そういや、キラリに、ノビルの紹介をしたんだっけかね? まあ、いいさ。さっきからうちの庭の雑草むしってくれてる人がいるんでね、差し入れてやって。キラリも着替えたら手伝ってやっておくれ」
この暑いのに、草むしり!?
ゾッとしながら選んだのは食べたことのない輪切りの形をしたパインアイス。
それを二個手に取って、店の奥から家の中に上がり縁側へと向かう。
「あっ」
草むしりをする男の子がそこにいた。
背中をこっちに向けてしゃがみ込み、私には気付いていない様子だけど、アイツだ! 青山キラ!!
「あのっ!」
私のかけた声にようやく気付いて、こっちを振り向く。
額には玉の汗、ひゃあ暑そうだ。
軍手の甲でその汗を拭いながら、青山くんは立ち上がり、学校にいた時と同じように不機嫌そうな顔をしてこっちを見た。
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