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協力
7.遭遇
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……少しだるい程度だったのに、段々と足取りが重くなってきた。
ただ部屋に向かって歩いてるだけで息が上がる。心臓がばくばく動いてるのに全然酸素が回ってこなくて苦しい。
「っ……なん、だこれ……」
ついには足すら動かなくなって、寮へ向かう廊下の途中でしゃがみこんだ。体が熱い。これじゃさっきのΩの生徒みたいだと頭の隅で考えて、ざあっと血の気が引いた。
まずい。自分はアイツと違って何も持ってない。薬どころか首輪ですらも。
だって、だって今までこんなになった事はなかった。薬を多少飲み忘れたって平気だった。しかも今日はちゃんと飲んでるのに。
とにかく人の通らないところに籠らないといけない。そう思うけれど焦りとパニックで体が固まってしまって動かない。
αが、通りかかったりしたら。
他のΩより特徴が薄いと言われてるとはいえ、もしこれがヒートだったりしたら何が起きるか分からない。
じわじわと嫌な汗が滲んでくる。
動かないと。床を這ってでも。
今日の騒動で見たα集団の様子を思い出して寒気がした。
何とか体を追い立ててずるずると進んでいく。だけど、それすらも危うくなってきて。
「おい、大丈夫か?」
急に声をかけられてビクッと体が震えた。恐る恐る振り返ると、さっきの騒動で活躍していたβ様の顔。
――よかった、αじゃない。
ホッとしたせいか一気に体から力が抜けた。向こうは完全に動けなくなってしまったオレを見て何か察したらしい。肩を貸して貰って、すぐ近くの教室へ移動した。
廊下側の窓の下まで何とか移動してうずくまってると、パチンと鍵のかかる音がして足音が近付いてくる。
「ほら、これを飲め」
しゃがんだ生徒会長に差し出されたのは青みがかった丸い錠剤。正体が分からずにじっと手の主を見ると、少し困ったように笑った。
「ああ悪い、得体の知れないものは飲めないな。貰い事故対策用の鎮静ピルだ」
「ちん、せい……?」
「αやΩの緊急抑制剤のようなものだ。これで少しは楽になるだろう」
βにそんなもの要るんだろうか。普段なら絶対手を出すとは思えないけど、今はそれどころじゃなかった。苦しい、熱い、この状態をどうにかしたい。
その一心で手を伸ばそうと力を入れる。だけど上手く腕が上がらない。見かねたのか錠剤の乗った手が近付いてきて口元を塞いだ。ころんと転がり込んできた塊の縁がじわりと唾液に溶けて、少し苦味が広がった。
何とか飲み下すと背中をさすってくれる。落ち着くまでずっと、大丈夫、大丈夫、と囁く声が鼓膜を揺らしていて。
背中の暖かい手のせいもあるんだろうか。何だか酷く……安心した。
しばらく背中をさすってもらって、やっと落ち着いてきた。息を深く吐き出してゆっくりと吸う。何度も何度もしつこいくらい繰り返して、ふうっとひとつ息をついた。
「落ち着いたか?」
「んん……なんとか……」
動けなくなるまでが早すぎて本気でどうなるかと思った。もしも生徒会長が通りかからなかったらと考えるとゾッとする。
「何だったんだ今の……」
「さっきのΩのフェロモンだろうな」
「でも、Ωのフェロモンはαに影響するんじゃ」
Ωのフェロモンは子作りの相手を呼ぶためのものだって教わった。オレも男だし、そういう意味では射程範囲かもしれないけど。
だったらさっきの反応はおかしい。呼んだのに相手が動けなくなったんじゃ意味ないだろ。
「意外とそうでもないようだ。Ωが影響を受けたのか連鎖的に発情してしまったりするケースも何度か見かけたし」
「えっ」
生徒会長が言ってるのって、αのヒートじゃなくてΩのヒート状態になるって話か。Ωのフェロモン浴びて同じヒートになるっていうのか。流石に影響する対象に見境が無さすぎるだろ。
でも……それが有り得るんだとしたら説明は一応つく。
「個人差があるらしいから、αへの影響のように絶対的な話ではないが。むしろその個人差で予測がつかなくて厄介なんだ」
「へ、へぇ……」
頭痛くなってきたぞ。
ヒートって自分だけ気にしてたらダメなやつなのか。よりによってこの学校は他の学校よりΩの人数が集められてるっていうのに、それは難易度が高すぎる。
「βでもフェロモンに敏感な体質だとあてられてしまうようだ。とはいえβ故に軽微だがな」
ふと気がついたら、生徒会長の手が頭を撫でていた。
「だからあまり気にするな。別におかしい事じゃない」
「……ありがとう、ございます……」
優しい顔と声。どうやら元気づけてくれてるらしい。確かにフェロモンの影響を受けないはずのβがこんなになったらショックかもしれない。
オレΩだからやっちまった感しかないけど。
「紛いとはいえヒート状態は消耗するから部屋でゆっくり休むといい。ほら、手」
差し出された手を取って取ろうとして――違和感に気付いて引っ込めた。
やばい。
「ん? どうした」
少し心配そうな顔が見つめてくる。
いやそんな心配されるような事でもない。大丈夫だから、そんな顔させてこっちが申し訳なくなるような表情はしないでほしい。
「いえ、あの……後で行くんで、その」
今立ち上がる訳にはいかない。ヒートもどきみたいな状態になったせいか、固くなってる下半身が丸分かりになってしまう。
ここでバレるのはさすがに恥ずかしすぎる。
しばらく不思議そうにこっち見てたけど、ああなるほど、なんて呟きが聞こえてきた。
「思ったよりしっかり当てられていたか」
そう呟くと、ポーチから何かのシートを引っ張り出した。アルコールみたいな匂いがする。ウエットティッシュだろうか。
不思議に思ってると前屈みになってた肩をとすんと後ろの壁に押し付けられて、生徒会長の右手が脚の間に滑り込んでくる。何が起こったのか理解しきる前にベルトは外れるし前は寛げられるし。
「ひっ!? うあ、ちょっ、何すんだよ!」
……下着の中に手突っ込まれるし。
慌てて暴れるけど、固くなってるそれを擦られて一気に力が抜けた。
「出してやる」
「い、要らな……っ、う……!」
にーっと悪戯っ子みたいに笑った生徒会長の手はもぞもぞと股間を撫でてる。やっぱりヒートになりかけて過敏なのか、他人に触られる違和感を軽く通り越して気持ちよさが押し寄せてきた。
「遠慮するな」
にっこり笑う顔の持ち主はその手でオレのをがっつり立たせて、外へ引っ張り出す。
よく知らない先輩に触られてあっという間にコレは……あっさり陥落しすぎだろオレ……っ!
「え、遠慮なんかっし、てな……っっ」
「ほら、力抜け」
泣きたくなりながら頑張って押し返しても、優しい声が耳のすぐ近くで囁いてどんどん力が抜けていく。こんなのたちの悪いセクハラだろって頭は考えてるのに、よりによって体が持ち主のオレじゃなくて生徒会長の言うことを聞く。
「っ、ぅ……う゛ーッ……!」
ぐるぐる混乱する思考からはもう何の反論の言葉も出てこなくなってしまった。
頑張って唸りながら睨むけど、情けないし恥ずかしいしでもう訳が分からない。おまけに生徒会長がつけてる香水の甘い匂いのせいなのか頭がくらくらする。
「恥ずかしいならもたれ掛かってるといい」
「っ、は……っつ……」
ぽんぽんと背中を優しく叩かれて、くらくらして、逆らえなくて。誘導されるまま生徒会長の肩に頭を預けてしまった。
「ふふ、いい子だ」
優しい声が鼓膜を揺らして、背中をさすってた暖かい手のひらが今度は頭を撫でる。
あの時Ωの生徒相手に生徒会長がこの声で話しかけてた理由が分かった気がする……逆らえない、全然。いっぱいいっぱいで苦しい状態にこの声で囁かれると言うことを聞いてしまう。
……結局、オレの頭も触られてる気持ちよさに負けて。なけなしの抵抗心もしばらくすると消え失せてしまったのだった。
ただ部屋に向かって歩いてるだけで息が上がる。心臓がばくばく動いてるのに全然酸素が回ってこなくて苦しい。
「っ……なん、だこれ……」
ついには足すら動かなくなって、寮へ向かう廊下の途中でしゃがみこんだ。体が熱い。これじゃさっきのΩの生徒みたいだと頭の隅で考えて、ざあっと血の気が引いた。
まずい。自分はアイツと違って何も持ってない。薬どころか首輪ですらも。
だって、だって今までこんなになった事はなかった。薬を多少飲み忘れたって平気だった。しかも今日はちゃんと飲んでるのに。
とにかく人の通らないところに籠らないといけない。そう思うけれど焦りとパニックで体が固まってしまって動かない。
αが、通りかかったりしたら。
他のΩより特徴が薄いと言われてるとはいえ、もしこれがヒートだったりしたら何が起きるか分からない。
じわじわと嫌な汗が滲んでくる。
動かないと。床を這ってでも。
今日の騒動で見たα集団の様子を思い出して寒気がした。
何とか体を追い立ててずるずると進んでいく。だけど、それすらも危うくなってきて。
「おい、大丈夫か?」
急に声をかけられてビクッと体が震えた。恐る恐る振り返ると、さっきの騒動で活躍していたβ様の顔。
――よかった、αじゃない。
ホッとしたせいか一気に体から力が抜けた。向こうは完全に動けなくなってしまったオレを見て何か察したらしい。肩を貸して貰って、すぐ近くの教室へ移動した。
廊下側の窓の下まで何とか移動してうずくまってると、パチンと鍵のかかる音がして足音が近付いてくる。
「ほら、これを飲め」
しゃがんだ生徒会長に差し出されたのは青みがかった丸い錠剤。正体が分からずにじっと手の主を見ると、少し困ったように笑った。
「ああ悪い、得体の知れないものは飲めないな。貰い事故対策用の鎮静ピルだ」
「ちん、せい……?」
「αやΩの緊急抑制剤のようなものだ。これで少しは楽になるだろう」
βにそんなもの要るんだろうか。普段なら絶対手を出すとは思えないけど、今はそれどころじゃなかった。苦しい、熱い、この状態をどうにかしたい。
その一心で手を伸ばそうと力を入れる。だけど上手く腕が上がらない。見かねたのか錠剤の乗った手が近付いてきて口元を塞いだ。ころんと転がり込んできた塊の縁がじわりと唾液に溶けて、少し苦味が広がった。
何とか飲み下すと背中をさすってくれる。落ち着くまでずっと、大丈夫、大丈夫、と囁く声が鼓膜を揺らしていて。
背中の暖かい手のせいもあるんだろうか。何だか酷く……安心した。
しばらく背中をさすってもらって、やっと落ち着いてきた。息を深く吐き出してゆっくりと吸う。何度も何度もしつこいくらい繰り返して、ふうっとひとつ息をついた。
「落ち着いたか?」
「んん……なんとか……」
動けなくなるまでが早すぎて本気でどうなるかと思った。もしも生徒会長が通りかからなかったらと考えるとゾッとする。
「何だったんだ今の……」
「さっきのΩのフェロモンだろうな」
「でも、Ωのフェロモンはαに影響するんじゃ」
Ωのフェロモンは子作りの相手を呼ぶためのものだって教わった。オレも男だし、そういう意味では射程範囲かもしれないけど。
だったらさっきの反応はおかしい。呼んだのに相手が動けなくなったんじゃ意味ないだろ。
「意外とそうでもないようだ。Ωが影響を受けたのか連鎖的に発情してしまったりするケースも何度か見かけたし」
「えっ」
生徒会長が言ってるのって、αのヒートじゃなくてΩのヒート状態になるって話か。Ωのフェロモン浴びて同じヒートになるっていうのか。流石に影響する対象に見境が無さすぎるだろ。
でも……それが有り得るんだとしたら説明は一応つく。
「個人差があるらしいから、αへの影響のように絶対的な話ではないが。むしろその個人差で予測がつかなくて厄介なんだ」
「へ、へぇ……」
頭痛くなってきたぞ。
ヒートって自分だけ気にしてたらダメなやつなのか。よりによってこの学校は他の学校よりΩの人数が集められてるっていうのに、それは難易度が高すぎる。
「βでもフェロモンに敏感な体質だとあてられてしまうようだ。とはいえβ故に軽微だがな」
ふと気がついたら、生徒会長の手が頭を撫でていた。
「だからあまり気にするな。別におかしい事じゃない」
「……ありがとう、ございます……」
優しい顔と声。どうやら元気づけてくれてるらしい。確かにフェロモンの影響を受けないはずのβがこんなになったらショックかもしれない。
オレΩだからやっちまった感しかないけど。
「紛いとはいえヒート状態は消耗するから部屋でゆっくり休むといい。ほら、手」
差し出された手を取って取ろうとして――違和感に気付いて引っ込めた。
やばい。
「ん? どうした」
少し心配そうな顔が見つめてくる。
いやそんな心配されるような事でもない。大丈夫だから、そんな顔させてこっちが申し訳なくなるような表情はしないでほしい。
「いえ、あの……後で行くんで、その」
今立ち上がる訳にはいかない。ヒートもどきみたいな状態になったせいか、固くなってる下半身が丸分かりになってしまう。
ここでバレるのはさすがに恥ずかしすぎる。
しばらく不思議そうにこっち見てたけど、ああなるほど、なんて呟きが聞こえてきた。
「思ったよりしっかり当てられていたか」
そう呟くと、ポーチから何かのシートを引っ張り出した。アルコールみたいな匂いがする。ウエットティッシュだろうか。
不思議に思ってると前屈みになってた肩をとすんと後ろの壁に押し付けられて、生徒会長の右手が脚の間に滑り込んでくる。何が起こったのか理解しきる前にベルトは外れるし前は寛げられるし。
「ひっ!? うあ、ちょっ、何すんだよ!」
……下着の中に手突っ込まれるし。
慌てて暴れるけど、固くなってるそれを擦られて一気に力が抜けた。
「出してやる」
「い、要らな……っ、う……!」
にーっと悪戯っ子みたいに笑った生徒会長の手はもぞもぞと股間を撫でてる。やっぱりヒートになりかけて過敏なのか、他人に触られる違和感を軽く通り越して気持ちよさが押し寄せてきた。
「遠慮するな」
にっこり笑う顔の持ち主はその手でオレのをがっつり立たせて、外へ引っ張り出す。
よく知らない先輩に触られてあっという間にコレは……あっさり陥落しすぎだろオレ……っ!
「え、遠慮なんかっし、てな……っっ」
「ほら、力抜け」
泣きたくなりながら頑張って押し返しても、優しい声が耳のすぐ近くで囁いてどんどん力が抜けていく。こんなのたちの悪いセクハラだろって頭は考えてるのに、よりによって体が持ち主のオレじゃなくて生徒会長の言うことを聞く。
「っ、ぅ……う゛ーッ……!」
ぐるぐる混乱する思考からはもう何の反論の言葉も出てこなくなってしまった。
頑張って唸りながら睨むけど、情けないし恥ずかしいしでもう訳が分からない。おまけに生徒会長がつけてる香水の甘い匂いのせいなのか頭がくらくらする。
「恥ずかしいならもたれ掛かってるといい」
「っ、は……っつ……」
ぽんぽんと背中を優しく叩かれて、くらくらして、逆らえなくて。誘導されるまま生徒会長の肩に頭を預けてしまった。
「ふふ、いい子だ」
優しい声が鼓膜を揺らして、背中をさすってた暖かい手のひらが今度は頭を撫でる。
あの時Ωの生徒相手に生徒会長がこの声で話しかけてた理由が分かった気がする……逆らえない、全然。いっぱいいっぱいで苦しい状態にこの声で囁かれると言うことを聞いてしまう。
……結局、オレの頭も触られてる気持ちよさに負けて。なけなしの抵抗心もしばらくすると消え失せてしまったのだった。
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