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旧知
20.戦闘
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魔物との距離を一気に詰め、攻撃を仕掛けるべく地面を蹴る。
グランヴァイパーは守備力に特化していてやたらと硬い。素手の直接攻撃ではダメージがほぼ通らない。そこで世界に満ちる魔力に働きかけて空気を揺らす、衝撃波を利用した攻撃を仕掛けた。
……が。
「いっっってぇぇぇぇ! 蛇のくせに硬すぎだろ!?」
衝撃波が通じないどころか打ち返されてハーファの方へ押し寄せてくる。
跳ね返ってきた己の攻撃で上方向に弾き飛ばされ、慌てて空中で姿勢を変えて。着地した所へ降ってくる追撃を右へ左へと避けながら反撃の機会を伺う。
デカい分、攻撃は力押しだ。仲間の支援込みで考えれば身の軽いハーファの方がまだ分があるはず。
そう思った瞬間、後ろから小さな蛇が山ほど湧いて出てきた。慌てて振り払っても次から次へと飛びかかってきてキリがない。
「一瞬止まれ、ハーファ!」
「えっ」
「お前何言ってる! あんな所で止まったらいい的だろうが!」
待機を指示するイチェストの言葉にリレイが即座に噛み付く。普通ならリレイと同じ事を考える。ハーファもいつもなら何言ってんだと反発していただろう。
けれど、イチェストの――【盾】の能力持ちの言う事は別だ。
その場で姿勢を低くして防御姿勢を取る。
小蛇が噛みつこうと大口を開けて向かってくるけれど、透明な壁に阻まれて無効化された。何匹飛んできても決して通らない。
聖典の守護魔法と呼ばれる防御特化の術。盾の神官兵なら大体の奴が得意とするものだけれど、しばらくすると効果が薄れて消えてしまう。これを息を吸うように操って、長く維持出来るのが【盾】の能力だ。
昔魔物に襲われた村で、戦えないイチェストが助け出されるまで生き残れた理由。守るための特別な力。
「ハーファ!!」
飛びかかってくる小蛇の威嚇音に埋もれかけながら、リレイの声が響いてくる。ハーファに向かおうとする小蛇を手前で焼いて攻撃が通らないように援護してくれているらしい。
その表情は珍しく焦っていて、何だか不思議な気分だ。
大丈夫だと声を張ろうとした時、珍しく長めの詠唱をしていたイチェストがパッと顔を上げた。
「よーしっ、ぶっ飛ばせぇ! 全反射装甲!!」
一瞬で光が周りの壁を走って、飛びかかってきた魔物を弾き飛ばす。一部の神官兵が使う反射防御――物理も魔術も関係なく、相手の攻撃をそのまま跳ね返す万能の盾。
何度も付与される盾はハーファの手足へ重点的に重ねられ、相手の攻撃を利用して硬い鱗を砕く武器へと強化されていく。それは小蛇相手だけじゃない。大きい方に対しても次第に攻撃が通るようになっていった。
リレイの魔術が小蛇の群れを蹴散らしてくれるお陰で、大蛇へ全力で殴りかかることが出来る。
……本当は、リレイが向こうを攻撃する方がいいんだろうけれど。狭い場所でハーファが動き回るせいか、相棒の術が飛んでくる事はなかった。
「ハーファ! 回復唱えるから、いいって言うまで深追いすんなよ!」
「了解!」
ここは自分が踏ん張らなければ。
イチェストの声に反応し、ハーファは大蛇から距離を取る。放たれる攻撃を打ち返しながら治癒魔法を待って、回復したと同時に再び攻撃へ転じた。
――グランヴァイパーとの戦闘が始まってから結構な時間が経ったと思う。
特大サイズの年経た魔物のせいか守備が恐ろしく高い。守備を崩そうにもなかなか隙が見当たらない。イチェストの支援魔法を利用して地道に殴り続けるけれど、与えられるダメージは微々たるもの。体力回復のスキルを魔物が持っていない事だけが救いだ。
リレイが魔術で攻撃できるようになれば一番いいけれど――あちこちから小蛇が際限なく湧いてきて、なかなか攻撃を一本化できない。
この状況をどうしたものか。ちらりと後ろの相棒へ視線を送ると。
「っ……ワース! ちゃんと戦え!! 出来るだろうが!!」
謎の剣士を叱り飛ばす声が耳に飛び込んできた。初対面のイチェスト相手とは違う、どこか気安い表情。それが当たり前の様な雰囲気。
少し子供っぽくすら見えるその表情は、今までハーファが見たことがないものだった。
「……リレイ……」
今までは戦闘中でも合っていた目線が、噛み合わない。いつもハーファの動向に気を向けてくれていたのに。今日はあの剣士の事ばかり気にしている。
昔の仲間だったのだろうか。それとも、もっと親しい相手なんだろうか。
もやもやとした気持ちのせいか、大蛇の攻撃への反応が少し遅れてしまった。間一髪で攻撃をかわして距離を取る。一瞬だけ視界がぐらりと傾いたけれど、すぐに持ち直して追撃をかわした。
なかなか攻撃が通らなくてもどかしい。
魔力を使う技の練度をもっと上げておけばよかった。己の根本的な魔力が少ないからと敬遠していた過去の自分を、今更ながら恨まずにはいられない。
膠着する戦況を打開する何かがないかと探して周りを見回す。
するとあの剣士が小蛇を斬り伏せながら近付いてくるのが視界に入った。隣を抜けて前に出た剣士は大蛇に剣を突き立てる。あれだけハーファが殴っても傷をつけるのがやっとだった鱗を、たった数度の攻撃で剥がしてしまった。
「装甲が剥がれた所を狙え」
淡々とした声で放たれた言葉。まさか話しかけてくるとは思わなくて面食らってしまった。
けれど、鱗さえ無ければ拳も通るかもしれない。
そう思い直して頷き返すと、一度距離を取る。全速力で助走をつけ、握った拳を思い切り鱗のない部分へ捻じ込んだ。
地面を揺らすような悲鳴を上げる大蛇に、剣士は休むことなく攻撃を繰り返す。踊る様に振るわれる剣は更に鱗の装甲を剥がし、追撃するハーファの拳は確実にダメージを蓄積させていく。
更に数か所の装甲を剥がした後、剣士はリレイの所まで下がった。
聞こえてくるのはハーファ達が話すものとは違う言葉。神官兵が使う聖典魔法のものとも違う。ここ数ヶ月で聞き慣れた、魔術師が術を使う時の言葉。
……相棒がいつも使っているものと同じ、魔術の言葉。
剣士のくせに。魔術師のリレイと同じ言語を、ハーファが分からい言葉を、手慣れた様子で詠っている。
声がふと途切れた瞬間、あの剣士の周囲が揺らいだ。
その周囲に突然炎が現れて大きな炎の塊が出来上がったと思えば、蛇の形になって向かってくる。魔物ごとハーファも燃やす気かと焦ったけれど、その軌道がほんの少しだけ、同じ方向に二度揺らぐ。
「!」
開いた【眼】に蛇を導く道がぼんやりと見えた気がして、反射的にそ道の反対側へ飛び退いて身を伏せる。するとその道の通りに炎の蛇が直進し、グランヴァイパーを勢いよく飲み込んだ。
ごうごうと頭上で唸る炎の音。
可能な限り身を小さくしてはいるけれど、やはり炎のすぐ近くに居るだけあって熱い。しばらくそのまま縮こまり、ようやく炎がかき消えた頃。
大蛇は唸り声を上げながら身を起こした。
炎に焼かれた鱗はぼろぼろと地面に落ちて、焼けた内部は爛れて焦げ臭いにおいを放っている。けれどその顔はまだぎらぎらと敵意にまみれていて、術を放った剣士をきつく睨みつけながら。
グランヴァイパーは守備力に特化していてやたらと硬い。素手の直接攻撃ではダメージがほぼ通らない。そこで世界に満ちる魔力に働きかけて空気を揺らす、衝撃波を利用した攻撃を仕掛けた。
……が。
「いっっってぇぇぇぇ! 蛇のくせに硬すぎだろ!?」
衝撃波が通じないどころか打ち返されてハーファの方へ押し寄せてくる。
跳ね返ってきた己の攻撃で上方向に弾き飛ばされ、慌てて空中で姿勢を変えて。着地した所へ降ってくる追撃を右へ左へと避けながら反撃の機会を伺う。
デカい分、攻撃は力押しだ。仲間の支援込みで考えれば身の軽いハーファの方がまだ分があるはず。
そう思った瞬間、後ろから小さな蛇が山ほど湧いて出てきた。慌てて振り払っても次から次へと飛びかかってきてキリがない。
「一瞬止まれ、ハーファ!」
「えっ」
「お前何言ってる! あんな所で止まったらいい的だろうが!」
待機を指示するイチェストの言葉にリレイが即座に噛み付く。普通ならリレイと同じ事を考える。ハーファもいつもなら何言ってんだと反発していただろう。
けれど、イチェストの――【盾】の能力持ちの言う事は別だ。
その場で姿勢を低くして防御姿勢を取る。
小蛇が噛みつこうと大口を開けて向かってくるけれど、透明な壁に阻まれて無効化された。何匹飛んできても決して通らない。
聖典の守護魔法と呼ばれる防御特化の術。盾の神官兵なら大体の奴が得意とするものだけれど、しばらくすると効果が薄れて消えてしまう。これを息を吸うように操って、長く維持出来るのが【盾】の能力だ。
昔魔物に襲われた村で、戦えないイチェストが助け出されるまで生き残れた理由。守るための特別な力。
「ハーファ!!」
飛びかかってくる小蛇の威嚇音に埋もれかけながら、リレイの声が響いてくる。ハーファに向かおうとする小蛇を手前で焼いて攻撃が通らないように援護してくれているらしい。
その表情は珍しく焦っていて、何だか不思議な気分だ。
大丈夫だと声を張ろうとした時、珍しく長めの詠唱をしていたイチェストがパッと顔を上げた。
「よーしっ、ぶっ飛ばせぇ! 全反射装甲!!」
一瞬で光が周りの壁を走って、飛びかかってきた魔物を弾き飛ばす。一部の神官兵が使う反射防御――物理も魔術も関係なく、相手の攻撃をそのまま跳ね返す万能の盾。
何度も付与される盾はハーファの手足へ重点的に重ねられ、相手の攻撃を利用して硬い鱗を砕く武器へと強化されていく。それは小蛇相手だけじゃない。大きい方に対しても次第に攻撃が通るようになっていった。
リレイの魔術が小蛇の群れを蹴散らしてくれるお陰で、大蛇へ全力で殴りかかることが出来る。
……本当は、リレイが向こうを攻撃する方がいいんだろうけれど。狭い場所でハーファが動き回るせいか、相棒の術が飛んでくる事はなかった。
「ハーファ! 回復唱えるから、いいって言うまで深追いすんなよ!」
「了解!」
ここは自分が踏ん張らなければ。
イチェストの声に反応し、ハーファは大蛇から距離を取る。放たれる攻撃を打ち返しながら治癒魔法を待って、回復したと同時に再び攻撃へ転じた。
――グランヴァイパーとの戦闘が始まってから結構な時間が経ったと思う。
特大サイズの年経た魔物のせいか守備が恐ろしく高い。守備を崩そうにもなかなか隙が見当たらない。イチェストの支援魔法を利用して地道に殴り続けるけれど、与えられるダメージは微々たるもの。体力回復のスキルを魔物が持っていない事だけが救いだ。
リレイが魔術で攻撃できるようになれば一番いいけれど――あちこちから小蛇が際限なく湧いてきて、なかなか攻撃を一本化できない。
この状況をどうしたものか。ちらりと後ろの相棒へ視線を送ると。
「っ……ワース! ちゃんと戦え!! 出来るだろうが!!」
謎の剣士を叱り飛ばす声が耳に飛び込んできた。初対面のイチェスト相手とは違う、どこか気安い表情。それが当たり前の様な雰囲気。
少し子供っぽくすら見えるその表情は、今までハーファが見たことがないものだった。
「……リレイ……」
今までは戦闘中でも合っていた目線が、噛み合わない。いつもハーファの動向に気を向けてくれていたのに。今日はあの剣士の事ばかり気にしている。
昔の仲間だったのだろうか。それとも、もっと親しい相手なんだろうか。
もやもやとした気持ちのせいか、大蛇の攻撃への反応が少し遅れてしまった。間一髪で攻撃をかわして距離を取る。一瞬だけ視界がぐらりと傾いたけれど、すぐに持ち直して追撃をかわした。
なかなか攻撃が通らなくてもどかしい。
魔力を使う技の練度をもっと上げておけばよかった。己の根本的な魔力が少ないからと敬遠していた過去の自分を、今更ながら恨まずにはいられない。
膠着する戦況を打開する何かがないかと探して周りを見回す。
するとあの剣士が小蛇を斬り伏せながら近付いてくるのが視界に入った。隣を抜けて前に出た剣士は大蛇に剣を突き立てる。あれだけハーファが殴っても傷をつけるのがやっとだった鱗を、たった数度の攻撃で剥がしてしまった。
「装甲が剥がれた所を狙え」
淡々とした声で放たれた言葉。まさか話しかけてくるとは思わなくて面食らってしまった。
けれど、鱗さえ無ければ拳も通るかもしれない。
そう思い直して頷き返すと、一度距離を取る。全速力で助走をつけ、握った拳を思い切り鱗のない部分へ捻じ込んだ。
地面を揺らすような悲鳴を上げる大蛇に、剣士は休むことなく攻撃を繰り返す。踊る様に振るわれる剣は更に鱗の装甲を剥がし、追撃するハーファの拳は確実にダメージを蓄積させていく。
更に数か所の装甲を剥がした後、剣士はリレイの所まで下がった。
聞こえてくるのはハーファ達が話すものとは違う言葉。神官兵が使う聖典魔法のものとも違う。ここ数ヶ月で聞き慣れた、魔術師が術を使う時の言葉。
……相棒がいつも使っているものと同じ、魔術の言葉。
剣士のくせに。魔術師のリレイと同じ言語を、ハーファが分からい言葉を、手慣れた様子で詠っている。
声がふと途切れた瞬間、あの剣士の周囲が揺らいだ。
その周囲に突然炎が現れて大きな炎の塊が出来上がったと思えば、蛇の形になって向かってくる。魔物ごとハーファも燃やす気かと焦ったけれど、その軌道がほんの少しだけ、同じ方向に二度揺らぐ。
「!」
開いた【眼】に蛇を導く道がぼんやりと見えた気がして、反射的にそ道の反対側へ飛び退いて身を伏せる。するとその道の通りに炎の蛇が直進し、グランヴァイパーを勢いよく飲み込んだ。
ごうごうと頭上で唸る炎の音。
可能な限り身を小さくしてはいるけれど、やはり炎のすぐ近くに居るだけあって熱い。しばらくそのまま縮こまり、ようやく炎がかき消えた頃。
大蛇は唸り声を上げながら身を起こした。
炎に焼かれた鱗はぼろぼろと地面に落ちて、焼けた内部は爛れて焦げ臭いにおいを放っている。けれどその顔はまだぎらぎらと敵意にまみれていて、術を放った剣士をきつく睨みつけながら。
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