はざまの中の僕らの話

むらくも

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1年目

*巣作り【β×Ω】(2)/完

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 オレの言った意味に気付いたのか、先輩の頬が一気に赤くなった。
「巣作り……? っ、まさか」
「症状はいつものヒートと同じだから、たぶん大丈夫」
 体はいつも通り少しだるいけど、動けなくはない。どちらかというと巣作りなんて始めてしまった恥ずかしさの方が強い。
「お、俺の情緒が大丈夫じゃないんだが……?」
「仁科儀先輩。ちょっと抱きしめられて欲しい」
 洗濯籠ひっくり返して服にくるまって寝てたのに、まだ足りないって思ってる自分に少し戸惑っている。
 でも、足りないものは足りない。素直に欲求を伝えられるのはヒートのお陰かもしれない。 
「さ、先に風呂に入っ」
「今がいい」
「いや、汗臭い」
「風呂に入ると匂い薄くなるだろ。ちょっとでいいから。なぁ」
 じっと見つめると、先輩は観念したみたいだった。
「くそ……どこでそんな甘え方を覚えたんだ……」
 ぶつぶつ言いながら先輩が近付いてくる。
 恐る恐るといった様子で手が伸びてきて、小柄な身体がそっと密着する。ぎゅうっと思いっきり抱きしめると、ぐえ、と小さな呻き声がした。
 
 鼻をくすぐる先輩の匂い。服から香るものよりずっと強くて、ヒートでぼーっとした頭がくらくらしてくる。
「春真……? 本当に大丈夫なのか?」
「ん……いいにおい」
「に、にお……おわっ!」
 ベッドに引き込んでシーツに押し付けると、さすがに予想外だったのか明らかにわたわたと慌て始めた。いつも向こうが余裕だからちょっと面白い。
「こっ、こらっ、んっ……」 
 上着とシャツのボタンを外して、服の中に顔を突っ込んだ。鼻先に触れる肌から立ち上がる匂いを思いっきり嗅ぐと、くすぐったそうに先輩が身をよじる。
 態度のデカさじゃ先輩が圧倒的だけど、体格は地味にオレの方が大きい。肌着を捲られたからか、すっぽり下に収まった身体がじたばたと動いてちょっと興奮する。
「こ、らっ……くすぐった……うわっ風呂も入ってないのに舐めるな!」
 ちょっと胸舐めただけなのに先輩はわぁわぁと騒ぎだした。そういう雰囲気になるとすぐ人の体舐めてるくせに。珍しく照れてるのか顔が赤い。
「やだ」
「やだ!? 何を子供みたいな事を」
「いい匂いさせてる先輩が悪い」
「αみたいな台詞を……ッ!」
 そう言われても実際いい匂いがするんだから仕方ない。巣作りなんてホントかよって思ってたけど、今となってはしたくなる気持ちが凄く分かる。
 この匂いに包まれていたい。本人が居ないならせめて服や布団で……って思うのは仕方ない。
「っ、あ……吸う、なッ……ん……っ!」
「……感じてる?」
 乳首に軽く吸い付くと、ちょっと色っぽい声が溢れ落ちてきた。いつもオレがしてやられるから新鮮だ。
 
 オレの行動で感じてくれているかもしれないと思うと、心臓がざわついて仕方ない。
「うるさいッ……! お、お前本当にヒートなのか!?」
「だからオレは軽いんだって。でも……先輩の匂いのせいでいつもより頭くらくらする」
「ひ、人のせいにするな……っあぁっ!?」
 今度は思いっきり乳首を吸い上げてやった。ビクンとはっきり身体を跳ねさせて、少し甲高い声を吐き出した唇がわなわなと震えている。
 吸う分だけ、あ、あ、と小さな吐息が聞こえる。先端を口に入れたままべろりと舌で撫でると先輩の爪がガリッと背中を引っ掻いた。
「可愛い」
「くそ、β相手だと思って好き勝手に……!」
「あーそれはあるかも。α相手じゃ発情されてこんな堪能する余裕なさそうだ」
 αはΩのフェロモンを食らうとあっという間に発情してしまう。その時の力の強さったらない。
 ヒート中のオレが先輩を押し倒して好き勝手触れるのは先輩がβで影響を受けにくいからだ。多少先輩もフェロモンのせいでムラムラはしてるかもしんないけど。
「んん、きもちい……せんぱい」
「……何だ」
「服全部脱いで」
「……はぁ、全く……」
  じっと先輩を見つめると深い溜め息が聞こえた。先輩の手がボタンを外して、上着とシャツを脱いで。身に纏っている布をひとつひとつ取り除いていく。
 上半身も下半身も服で覆われている肌が段々露になっていって――思わず生唾を飲んだ。

 
「んっ、っ、あ……!」
 オレの中に入り込んで来た仁科儀先輩が腰を揺らす。身体が上下に揺すられて、ぎしぎしと備え付けのベッドが軋んだ音を立てている。 
「やっと大人しくなったな……! 人の体唾液まみれにして!」
 髪から足先までぐっしょり濡れた先輩が不敵に笑った。さっきまでオレにあちこち舐められて顔を赤くしてたのに、時々溢れてくる声は感じてたんじゃないかって思うくらいだったのに。
 すっかり形勢が逆転してしまって、オレがひたすら突き上げられて啼かされている。
「あっ、んっ、んぅぅッ! だ、ってっ……先輩の匂い、たまんなくてッ……」
「――――――ッッ!」
 ヒュッと息を吸った先輩の頬がまた一気に赤くなる。いつもの自信満々な表情に見慣れてるせいか、何だかあどけなくて可愛い。
 ……そう思った瞬間、一際奥まで先輩の熱がねじ込まれてビクンと身体が仰け反った。何度も何度もさっきより明らかにスピードを上げてオレの中に出入りし始めている。 
「あっ!? ちょっ、はや……っ! アっ、ひっ、はげし、っぁあッ……!」
 先輩のが奥深くの気持ちいいところを突き上げてきて、頭の中がヒートどころじゃなくなってきた。ヒートの熱より先輩との行為で沸き上がってくる熱の方がだいぶ強い気がする。
 あんまり思考が上手く回らない。
「ふふ、いい顔だな……可愛い、春真……っ!」
 仁科儀先輩の姿と声と匂いに溶かされながら、ただただ触れる熱と感触を噛み締めてベッドの上で抱き合っていた。

 ……初っぱなからこれで二週間ももつんだろうか、なんて。
 行為が終わって動けなくなった自分が頭を抱えるのは、もう少しだけ後の話。 
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