10 / 13
10.口移し
しおりを挟む
春真をドア側の壁にもたれるように座らせ、親衛隊の忠告通りにドアの鍵を全て閉めた。
窓とカーテンも閉じて二人だけの空間が出来上がり、春真の膝に跨がる。満を持して手を差し出すと、キョトンとした視線が向けられた。
「ほら、薬」
「あ……えっと……これ」
おずおずと渡されたのは錠剤がひとつだけ残っている橙色のシート。
ふと印字されている文字を見ると、いつの間にか最初の頃に飲んでいたものより少し強い効能のものに変わっている。少しずつ体質が変わってきているのだろうか。
もしかすると予防活動でフェロモンを浴びているのもあるかもしれない。やはり無理はさせられないなと思いつつ、最後の一錠を取り出した。
「そうだ、俺はいつもの道具を持っていないから」
「あ、水か。道具ならオレが持っ」
春真はいつもの調子で手際よく腰に付けたポーチから道具を出そうとする。それを遮って顎を左手で掴み、黙らせた。
ぐっと顔を近付けると、後ろへ下がろうとしたのか春真は壁に後頭部をぶつけて小さく呻く。既に壁にもたれている状態だというのに何をしているのか。
「……飲み下す時の水分は唾液でいいな?」
「っ……!」
低く囁いて唇に軽く口付けると、目の前の喉がごくりと音を立てて上下に動いた。
膝立ちの姿勢で春真の顎をすくい、手の平に転がしていた薬を口元へもっていく。普段は自分より背の高い春真を見上げる事が多いせいだろうか。少し優越感を覚えてしまう。
にんまりと緩む頬を戻せずにいると、何処か緊張した様子でじっとこちらを見つめている黒い瞳と視線がかち合った。
「……口開けろ。ほら、あーん」
「あー……んぐ!」
そろりと唇が開いた所で、春真の口元へ近付けていた薬を自分の口へ放り込む。予想外だったのか少し動揺した所へ口付けて、薬を奥の方へと押し込んで。縁から溢れてしまわないように出来るだけ口を密着させ、唾液が出るだけ流し込んだ。
「ン……っ、ん、ぅ……」
春真の口内に溜まる二人の唾液を混ぜるついでに舌先で内側を撫でてやると、上着を掴む手にぎゅうっと力が入る。段々と呼吸の隙間から溢れてくる声に甘さが混じって、いつの間にか微かに喘ぐような声に変わっていく。
「は……っぁ……ふ、ぁ、むぅ…………ッ、な、がいっ……」
「薬が詰まっては困るだろう?」
「ん、ぅっ」
笑いながら再度口付けると、ん、ん、と鼻から抜ける様な甘ったるい吐息が溢れてくる。
その声が思考を痺れさせて、繰り返し口付けては唾液を混ぜる行為を繰り返した。久しぶりにキスができたせいもあるのか、どうにも歯止めが利かない。
「っく、薬の前に、っ……窒息する……んっ!」
段々と口の端から二人の唾液が溢れていくようになって、こもっていた甘い声も荒い呼吸と一緒に溢れ落ちるようになっていった。
「ふ、ぁ、ふ……んんッ、ぅ……んぁ……」
濡れて艶を纏った唇からぽたぼたと液体を滴らせているその姿に、ハッキリと分かる程に体が熱くなっていく。
酸欠で潤み、とろんと溶けかけた瞳。熱っぽい視線に見つめられて、背中をぞくぞくとした刺激が駆け上がっていった。
「……すっかりぐしょぐしょになって」
「だ、れの、せ……だよ……」
「ふふ、俺のせいだな」
春真の腕に引き寄せられて、膝の上に座り込む。じいっと見つめられたと思えばすぐに唇が触れてきて。
短く何度も触れては離れていくキスに浸っていると、甘い匂いが一気に強くなっていく。その香りに包まれて、ハチミツのような甘さを帯びた呼吸が鼓膜を揺らし始めた。
いよいよたまらなくなり、春真のタイを緩めて取り去る。シャツのボタンを外して露になった目の前の首筋からは、また一段と強い香りが沸き立っていた。引き寄せられるように肌へ顔を埋めて、頬をすり寄せて。
そこまでいくともう、僅かに残っていたはずの理性は霧散してしまっていた。
肌のあちこちに触れて、口付けて、何度も抜きあって。そろそろ限界がきそうになった頃になって、ようやく薬が効いてきたようだった。
あれだけ纏わりつくように香っていたフェロモンの気配が潮が引くようにかき消えていく。すると段々と頭の痺れが取れていって、春真の首筋にずっと埋めていた頭を持ち上げる。
「……匂いも落ち着いたか。そろそろ戻ろう」
「こ……ここで止めるとか鬼すぎ……」
散々イって完全に体がその気になっている様子の春真は、じとりと恨めしげな瞳を向けてくる。
そんな顔をされるとすぐにでも押し倒したくなるので控えて欲しい。また記憶を飛ばして襲いかかってしまいそうだ。
湧いてくる煩悩を何とか抑え込んで、春真のベルトに着いている予防活動用のポーチから精製水のウエットティッシュを取り出した。欲で白く汚れた身を拭って、服を元通りに整える。
「続きはベッドの上でゆっくりと、な。ゴムも足りないし」
「……っ」
耳元で囁くと、ひくりと春真の体が揺れた。顔を覗き込めば真っ赤になっている。発言の意図を正確に理解して貰えたようで何よりだ。
一応、ゴムは意図せずフェロモンに当てられた時のために常に一つは持っているけれど。今まで週に二日触れていたのが、しばらくご無沙汰になっていたのだ。誤解とはいえ悶々としていた事象も解決したことだし、手持ちの分で治まるとはとても思えない。
新しく出したウエットティッシュで手早く春真の身体も拭って、乱してぐしゃぐしゃになってしまった服を整え直す。ふと春真のナカから溢れ始めている蜜に気が付いて体の底が疼いたものの、何とか衝動を抑えて完遂した。
「帰ろう、春真。俺のベッドへおいで」
「……ん……」
差し出した手を、頬の赤い春真がそっと取る。少しふらふらとしながら歩く春真の腰を抱きかかえながら、ゆっくりと寮の自室へ連れ帰ったのだった。
窓とカーテンも閉じて二人だけの空間が出来上がり、春真の膝に跨がる。満を持して手を差し出すと、キョトンとした視線が向けられた。
「ほら、薬」
「あ……えっと……これ」
おずおずと渡されたのは錠剤がひとつだけ残っている橙色のシート。
ふと印字されている文字を見ると、いつの間にか最初の頃に飲んでいたものより少し強い効能のものに変わっている。少しずつ体質が変わってきているのだろうか。
もしかすると予防活動でフェロモンを浴びているのもあるかもしれない。やはり無理はさせられないなと思いつつ、最後の一錠を取り出した。
「そうだ、俺はいつもの道具を持っていないから」
「あ、水か。道具ならオレが持っ」
春真はいつもの調子で手際よく腰に付けたポーチから道具を出そうとする。それを遮って顎を左手で掴み、黙らせた。
ぐっと顔を近付けると、後ろへ下がろうとしたのか春真は壁に後頭部をぶつけて小さく呻く。既に壁にもたれている状態だというのに何をしているのか。
「……飲み下す時の水分は唾液でいいな?」
「っ……!」
低く囁いて唇に軽く口付けると、目の前の喉がごくりと音を立てて上下に動いた。
膝立ちの姿勢で春真の顎をすくい、手の平に転がしていた薬を口元へもっていく。普段は自分より背の高い春真を見上げる事が多いせいだろうか。少し優越感を覚えてしまう。
にんまりと緩む頬を戻せずにいると、何処か緊張した様子でじっとこちらを見つめている黒い瞳と視線がかち合った。
「……口開けろ。ほら、あーん」
「あー……んぐ!」
そろりと唇が開いた所で、春真の口元へ近付けていた薬を自分の口へ放り込む。予想外だったのか少し動揺した所へ口付けて、薬を奥の方へと押し込んで。縁から溢れてしまわないように出来るだけ口を密着させ、唾液が出るだけ流し込んだ。
「ン……っ、ん、ぅ……」
春真の口内に溜まる二人の唾液を混ぜるついでに舌先で内側を撫でてやると、上着を掴む手にぎゅうっと力が入る。段々と呼吸の隙間から溢れてくる声に甘さが混じって、いつの間にか微かに喘ぐような声に変わっていく。
「は……っぁ……ふ、ぁ、むぅ…………ッ、な、がいっ……」
「薬が詰まっては困るだろう?」
「ん、ぅっ」
笑いながら再度口付けると、ん、ん、と鼻から抜ける様な甘ったるい吐息が溢れてくる。
その声が思考を痺れさせて、繰り返し口付けては唾液を混ぜる行為を繰り返した。久しぶりにキスができたせいもあるのか、どうにも歯止めが利かない。
「っく、薬の前に、っ……窒息する……んっ!」
段々と口の端から二人の唾液が溢れていくようになって、こもっていた甘い声も荒い呼吸と一緒に溢れ落ちるようになっていった。
「ふ、ぁ、ふ……んんッ、ぅ……んぁ……」
濡れて艶を纏った唇からぽたぼたと液体を滴らせているその姿に、ハッキリと分かる程に体が熱くなっていく。
酸欠で潤み、とろんと溶けかけた瞳。熱っぽい視線に見つめられて、背中をぞくぞくとした刺激が駆け上がっていった。
「……すっかりぐしょぐしょになって」
「だ、れの、せ……だよ……」
「ふふ、俺のせいだな」
春真の腕に引き寄せられて、膝の上に座り込む。じいっと見つめられたと思えばすぐに唇が触れてきて。
短く何度も触れては離れていくキスに浸っていると、甘い匂いが一気に強くなっていく。その香りに包まれて、ハチミツのような甘さを帯びた呼吸が鼓膜を揺らし始めた。
いよいよたまらなくなり、春真のタイを緩めて取り去る。シャツのボタンを外して露になった目の前の首筋からは、また一段と強い香りが沸き立っていた。引き寄せられるように肌へ顔を埋めて、頬をすり寄せて。
そこまでいくともう、僅かに残っていたはずの理性は霧散してしまっていた。
肌のあちこちに触れて、口付けて、何度も抜きあって。そろそろ限界がきそうになった頃になって、ようやく薬が効いてきたようだった。
あれだけ纏わりつくように香っていたフェロモンの気配が潮が引くようにかき消えていく。すると段々と頭の痺れが取れていって、春真の首筋にずっと埋めていた頭を持ち上げる。
「……匂いも落ち着いたか。そろそろ戻ろう」
「こ……ここで止めるとか鬼すぎ……」
散々イって完全に体がその気になっている様子の春真は、じとりと恨めしげな瞳を向けてくる。
そんな顔をされるとすぐにでも押し倒したくなるので控えて欲しい。また記憶を飛ばして襲いかかってしまいそうだ。
湧いてくる煩悩を何とか抑え込んで、春真のベルトに着いている予防活動用のポーチから精製水のウエットティッシュを取り出した。欲で白く汚れた身を拭って、服を元通りに整える。
「続きはベッドの上でゆっくりと、な。ゴムも足りないし」
「……っ」
耳元で囁くと、ひくりと春真の体が揺れた。顔を覗き込めば真っ赤になっている。発言の意図を正確に理解して貰えたようで何よりだ。
一応、ゴムは意図せずフェロモンに当てられた時のために常に一つは持っているけれど。今まで週に二日触れていたのが、しばらくご無沙汰になっていたのだ。誤解とはいえ悶々としていた事象も解決したことだし、手持ちの分で治まるとはとても思えない。
新しく出したウエットティッシュで手早く春真の身体も拭って、乱してぐしゃぐしゃになってしまった服を整え直す。ふと春真のナカから溢れ始めている蜜に気が付いて体の底が疼いたものの、何とか衝動を抑えて完遂した。
「帰ろう、春真。俺のベッドへおいで」
「……ん……」
差し出した手を、頬の赤い春真がそっと取る。少しふらふらとしながら歩く春真の腰を抱きかかえながら、ゆっくりと寮の自室へ連れ帰ったのだった。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
理香は俺のカノジョじゃねえ
中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。
今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~
松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。
ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。
恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。
伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。
近況ボードをご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる