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21_クラフター
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次の日。
さっと昼ご飯を食べた後、約束通りサナの居るっていう工房に向かっていた。思いっきり泣いてそのまま寝たせいか、目がちょっと腫れぼったい。
「ここのようだな」
「うわっぷ、ごめ……っでえぇぇぇっか!」
立ち止まったエルに軽くぶつかりながら顔を上げると、目の前にあったのはめちゃくちゃデカかい工房らしき建物だった。
手前の細長い建物は他と同じくらいなのに、その後ろには隣の建物が三つくらいは余裕で入りそうな大きさの建物がくっついてる。軽い運動場くらいは作れそう。
変人工房って言われてるくらいだから、何か勝手に小さくてゴチャゴチャしたガレージみたいな想像をしてた。正直こんな立派だとは思わなかった。持ち主の人ゴメン。
一人反省しながら入り口に視線を落とすと、エルがしれっとドアを開けて入ろうとしてる所だった。
「えっちょっと! 普通のお店じゃねぇんだから!!」
慌ててドアノブを握る手を捕まえる。ちょっと開いてしまったけど、いきなりフルオープン家屋侵入は防いだのでよしとしたい。
けれどエルは不思議そうな顔をしていた。知り合いの家でも入る時は中の人呼ぶだろうと抗議をすると、意味が分からないとでも言いたそうな顔で首を傾げる。
「どうやって。ドアを開けなければ声は聞こえんだろう」
「えっ。インターホン、とか……」
「いんたーほん?」
「えぇー……」
だめだ、これ未知の遭遇してるやつだ。インターホンってどう説明すればいいんだろう。俺じゃサナみたいにペラペラ話せないぞ……。
「インターホンとやらはともかくとして。ドアを微妙に開けた状態の方が、住民からすればよほど不審ではなくって?」
「お、おっしゃるとおりデス……」
ごもっともなレティの指摘に反論する余地もない。素直にエルを止めてた手を外すと、スッと入り口のドアが開いた。
中に居たのは筋肉隆々な小麦色の肌が眩しい白ひげのデッカイおじさんと、エベレスト登山の荷物かってくらいでっかいリュックを背負ったサナの二人。
にしても身長差が凄い。おじさんの身長がサナの二人分くらいありそう。しかも隣に小柄な女の子が立ってるから、余計に大型巨人に見える。
「うんうん、オンタイムだよ感心かんしーん!」
仁王立ちするサナの腰についてるのは刑事ドラマとかで見る銃じゃなかろうか。ファンタジー世界、ほんと何でもありだな。
「何ですの、その身の丈に合わない大荷物は」
「さすが元悪役令嬢、棘が鋭いー!」
けらけら笑うサナはくるりと一回転してピタッと止まった。あんなデカい荷物背負ってんのに遠心力なんか無かったみたいな顔で、ビシッと着地した体操選手よろしく両手を宙に向けたポーズを決める。
「材料詰め込むためには入れ物も大きくないとね。レアな材料も見つかっちゃうかもだし?」
「欲をかくと身を滅ぼしますわよ」
「滅びる前の救援を希望しまーす!」
くるくる回るサナに、ああ言えばこう言う……とレティは眉間にシワを寄せて額を押さえた。余裕たっぷりで冷静で優雅なお嬢様のイメージだったのに、このたった二日で苦労人の気配が漂ってきている。
サナの他人様を引っ掻き回す力の強さよ。二人とも頑張れ。
そんな俺達を見守るように眺めてたおじさんだけど、そろそろ止まれとサナの頭を軽く叩いた。
「やかましい弟子ですまんな。宜しく頼む」
「まあ、行くのは弟子だけですの?」
言葉にしたのはレティだけど、多分この場の全員同じ事を思ったと思う。どう見てもムキムキなおじさんの方が戦闘向きに見えるもん。デカイ斧とか似合いそう。
キョトンとした二人だけど、俺達の言いたいことを理解したらしいサナがけらけらと笑った。
「親方は縦に大きすぎなんだよねぇ。鉱山じゃつっかえて足手まといになっちゃうんだよ」
「まったく、親代わりになんて言い草だ」
ぺしぺしとサナの頭を軽く叩きながら、親方は苦笑する。
何かちょっと、イメージ違う。サナの上司みたいな立場なら超クレイジーマッドサイエンティストを想像してたのに。ごく普通の親方だ。むしろ超良い人そう。
変人工房なんて呼び方はあてにならないなと思いつつ、サナを連れて工房を出た。
探索したいっていう鉱山は街の後ろのデッカイ山だった。
昔は鉱山が中心で、山を取り囲むみたいにして街が広がってたらしい。だけど災害に遭ったり魔王復活で増えた魔物に攻め込まれたりして、今の形まで小さくなってしまったんだそうだ。
そんな話を聞いてる内に鉄の扉で閉じられたダンジョンの入り口が見えてきた。
岩肌に少しだけ開いた穴に手を突っ込んだサナが、そのまま手前に腕を引くと穴の周りがパカリと四角く開く。中には丸い球が先端に付いたレバーを上にガコンと動かすと、ギギギと鉄の扉が動いた。
「イェッフー! ダンジョンだ、ダンジョンだっ、ダン、ジョン、だぁーッ! ひと狩り行こうぜェェーッッ!!」
「いやそれ髭のおじさんとハンター混ざってんじゃん! ゲームが違うだろゲームが! しかも狩りじゃなくて探索に来たんだろ!!」
ダンジョンに突入した瞬間にテンションが限界突破したらしい。サナが元気よく走り出そうとしてるのを何とか引きずり戻して止めるけど、女子とは思えない馬力で引きずられそうになる。元社会人とか絶対嘘だろ、元わんぱく小学生とかだろこれ。
視界の端に影が見えて周りを見ると、顔がついた岩が集まってきていた。討伐隊の時に会ったデッカいのみたいな厳つさはなくて、どっちかっつーとプニン寄りだ。
ただ、その岩の集団からガチガチガチガチと何かがぶつかり合うみたいな物騒な音が響いてくる。
「……あ、れ……なんか……威嚇されてる?」
顔つきもこっち睨んでるっぽいし。どことなく緊張感が漂ってきてるし。
「逆だ。威嚇されていると向こうが認識した」
「二人のあの大声ですもの、必然ですわね」
「うぐっ……す、すんません」
岩の魔物的には威嚇というより開戦の合図だったっぽい。レティと会話を交わしてすぐ、戦闘に突入してしまった。
突然始まった戦闘だったけど、少しすると沢山集まってた岩の魔物は全滅していた。
見た目のとおり皮膚が硬くて、エルの剣よりはレティの魔法の方が効果が高いみたいだ。当然、俺の杖なんて全く、全然、少しも歯が立たない。むしろ木の杖だったら倒すどころか武器が壊れてたかもしれない。
なのにダメージが三分のニくらいになってるとはいえ、エルの攻撃が何で効いてるのか意味が分からん。貫通ダメージとかだったらズルいにも程がある。
……だけど、一番意味が分からないのは。
「何でサナが岩倒せんの!?」
銃ひとつでガンガン魔物を倒していく猪系女子である。鉄砲玉は金属だろうが。
「うへへへ、これねぇ、街の武器マイスター謹製の魔法銃んだよね!」
「まほう、じゅう……魔法の銃!?」
西部劇みたいに銃をくるくる回しながら目の前の顔はドヤ顔で笑う。
ずっりぃ。こっちは分類的には魔法職なのに、申し訳程度にすらならない打撃しか出来ないんだぞ。アイテム作れる上に魔法銃とか、同じ異世界転生なのに待遇が違いすぎるだろ。
「あたし魔法使えるほどじゃないけど微妙に魔力あるらしいんだよね! んでもってこれは微量な魔力を上手い事変換して銃弾にしてくれるありがたーい神武器なのである! なお魔力変換器は色々な魔法ツールに応用されていて一般的にも普及し」
「あーっ分かった、最後らへんはあんま分かんないけど凄い技術のチート武器使ってるずっこい転生者だってのは分かった!」
弾丸みたいに飛んでくるマシンガントークを何とか止めると、サナは今度を目をきらきら……いや、ギラギラさせながら顔を輝かせた。
「チ ー ト ! いいねぇいいねぇ、その響きー!! 異世界転生で最強無双とか憧れるぅー!!!」
嬉しそうな顔でガハガハ笑う姿は女子というより宴会してるオッサンである。こういうところは前世社会人ぽい。まさか酒飲んでないよな、今。
そして、サナの高笑いが響いたせいでまた魔物の群れが姿を現してしまったのだった。
「このまま進んで大丈夫なんだろうか……」
「大丈夫だ、問題ない」
先行き不安な俺の独り言を聞き付けた地獄耳な猪系女子は、どっかで聞いたような台詞を言いながらキリッとした顔を作る。
……ぜんっぜん、大丈夫に思えないんだけど。
さっと昼ご飯を食べた後、約束通りサナの居るっていう工房に向かっていた。思いっきり泣いてそのまま寝たせいか、目がちょっと腫れぼったい。
「ここのようだな」
「うわっぷ、ごめ……っでえぇぇぇっか!」
立ち止まったエルに軽くぶつかりながら顔を上げると、目の前にあったのはめちゃくちゃデカかい工房らしき建物だった。
手前の細長い建物は他と同じくらいなのに、その後ろには隣の建物が三つくらいは余裕で入りそうな大きさの建物がくっついてる。軽い運動場くらいは作れそう。
変人工房って言われてるくらいだから、何か勝手に小さくてゴチャゴチャしたガレージみたいな想像をしてた。正直こんな立派だとは思わなかった。持ち主の人ゴメン。
一人反省しながら入り口に視線を落とすと、エルがしれっとドアを開けて入ろうとしてる所だった。
「えっちょっと! 普通のお店じゃねぇんだから!!」
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けれどエルは不思議そうな顔をしていた。知り合いの家でも入る時は中の人呼ぶだろうと抗議をすると、意味が分からないとでも言いたそうな顔で首を傾げる。
「どうやって。ドアを開けなければ声は聞こえんだろう」
「えっ。インターホン、とか……」
「いんたーほん?」
「えぇー……」
だめだ、これ未知の遭遇してるやつだ。インターホンってどう説明すればいいんだろう。俺じゃサナみたいにペラペラ話せないぞ……。
「インターホンとやらはともかくとして。ドアを微妙に開けた状態の方が、住民からすればよほど不審ではなくって?」
「お、おっしゃるとおりデス……」
ごもっともなレティの指摘に反論する余地もない。素直にエルを止めてた手を外すと、スッと入り口のドアが開いた。
中に居たのは筋肉隆々な小麦色の肌が眩しい白ひげのデッカイおじさんと、エベレスト登山の荷物かってくらいでっかいリュックを背負ったサナの二人。
にしても身長差が凄い。おじさんの身長がサナの二人分くらいありそう。しかも隣に小柄な女の子が立ってるから、余計に大型巨人に見える。
「うんうん、オンタイムだよ感心かんしーん!」
仁王立ちするサナの腰についてるのは刑事ドラマとかで見る銃じゃなかろうか。ファンタジー世界、ほんと何でもありだな。
「何ですの、その身の丈に合わない大荷物は」
「さすが元悪役令嬢、棘が鋭いー!」
けらけら笑うサナはくるりと一回転してピタッと止まった。あんなデカい荷物背負ってんのに遠心力なんか無かったみたいな顔で、ビシッと着地した体操選手よろしく両手を宙に向けたポーズを決める。
「材料詰め込むためには入れ物も大きくないとね。レアな材料も見つかっちゃうかもだし?」
「欲をかくと身を滅ぼしますわよ」
「滅びる前の救援を希望しまーす!」
くるくる回るサナに、ああ言えばこう言う……とレティは眉間にシワを寄せて額を押さえた。余裕たっぷりで冷静で優雅なお嬢様のイメージだったのに、このたった二日で苦労人の気配が漂ってきている。
サナの他人様を引っ掻き回す力の強さよ。二人とも頑張れ。
そんな俺達を見守るように眺めてたおじさんだけど、そろそろ止まれとサナの頭を軽く叩いた。
「やかましい弟子ですまんな。宜しく頼む」
「まあ、行くのは弟子だけですの?」
言葉にしたのはレティだけど、多分この場の全員同じ事を思ったと思う。どう見てもムキムキなおじさんの方が戦闘向きに見えるもん。デカイ斧とか似合いそう。
キョトンとした二人だけど、俺達の言いたいことを理解したらしいサナがけらけらと笑った。
「親方は縦に大きすぎなんだよねぇ。鉱山じゃつっかえて足手まといになっちゃうんだよ」
「まったく、親代わりになんて言い草だ」
ぺしぺしとサナの頭を軽く叩きながら、親方は苦笑する。
何かちょっと、イメージ違う。サナの上司みたいな立場なら超クレイジーマッドサイエンティストを想像してたのに。ごく普通の親方だ。むしろ超良い人そう。
変人工房なんて呼び方はあてにならないなと思いつつ、サナを連れて工房を出た。
探索したいっていう鉱山は街の後ろのデッカイ山だった。
昔は鉱山が中心で、山を取り囲むみたいにして街が広がってたらしい。だけど災害に遭ったり魔王復活で増えた魔物に攻め込まれたりして、今の形まで小さくなってしまったんだそうだ。
そんな話を聞いてる内に鉄の扉で閉じられたダンジョンの入り口が見えてきた。
岩肌に少しだけ開いた穴に手を突っ込んだサナが、そのまま手前に腕を引くと穴の周りがパカリと四角く開く。中には丸い球が先端に付いたレバーを上にガコンと動かすと、ギギギと鉄の扉が動いた。
「イェッフー! ダンジョンだ、ダンジョンだっ、ダン、ジョン、だぁーッ! ひと狩り行こうぜェェーッッ!!」
「いやそれ髭のおじさんとハンター混ざってんじゃん! ゲームが違うだろゲームが! しかも狩りじゃなくて探索に来たんだろ!!」
ダンジョンに突入した瞬間にテンションが限界突破したらしい。サナが元気よく走り出そうとしてるのを何とか引きずり戻して止めるけど、女子とは思えない馬力で引きずられそうになる。元社会人とか絶対嘘だろ、元わんぱく小学生とかだろこれ。
視界の端に影が見えて周りを見ると、顔がついた岩が集まってきていた。討伐隊の時に会ったデッカいのみたいな厳つさはなくて、どっちかっつーとプニン寄りだ。
ただ、その岩の集団からガチガチガチガチと何かがぶつかり合うみたいな物騒な音が響いてくる。
「……あ、れ……なんか……威嚇されてる?」
顔つきもこっち睨んでるっぽいし。どことなく緊張感が漂ってきてるし。
「逆だ。威嚇されていると向こうが認識した」
「二人のあの大声ですもの、必然ですわね」
「うぐっ……す、すんません」
岩の魔物的には威嚇というより開戦の合図だったっぽい。レティと会話を交わしてすぐ、戦闘に突入してしまった。
突然始まった戦闘だったけど、少しすると沢山集まってた岩の魔物は全滅していた。
見た目のとおり皮膚が硬くて、エルの剣よりはレティの魔法の方が効果が高いみたいだ。当然、俺の杖なんて全く、全然、少しも歯が立たない。むしろ木の杖だったら倒すどころか武器が壊れてたかもしれない。
なのにダメージが三分のニくらいになってるとはいえ、エルの攻撃が何で効いてるのか意味が分からん。貫通ダメージとかだったらズルいにも程がある。
……だけど、一番意味が分からないのは。
「何でサナが岩倒せんの!?」
銃ひとつでガンガン魔物を倒していく猪系女子である。鉄砲玉は金属だろうが。
「うへへへ、これねぇ、街の武器マイスター謹製の魔法銃んだよね!」
「まほう、じゅう……魔法の銃!?」
西部劇みたいに銃をくるくる回しながら目の前の顔はドヤ顔で笑う。
ずっりぃ。こっちは分類的には魔法職なのに、申し訳程度にすらならない打撃しか出来ないんだぞ。アイテム作れる上に魔法銃とか、同じ異世界転生なのに待遇が違いすぎるだろ。
「あたし魔法使えるほどじゃないけど微妙に魔力あるらしいんだよね! んでもってこれは微量な魔力を上手い事変換して銃弾にしてくれるありがたーい神武器なのである! なお魔力変換器は色々な魔法ツールに応用されていて一般的にも普及し」
「あーっ分かった、最後らへんはあんま分かんないけど凄い技術のチート武器使ってるずっこい転生者だってのは分かった!」
弾丸みたいに飛んでくるマシンガントークを何とか止めると、サナは今度を目をきらきら……いや、ギラギラさせながら顔を輝かせた。
「チ ー ト ! いいねぇいいねぇ、その響きー!! 異世界転生で最強無双とか憧れるぅー!!!」
嬉しそうな顔でガハガハ笑う姿は女子というより宴会してるオッサンである。こういうところは前世社会人ぽい。まさか酒飲んでないよな、今。
そして、サナの高笑いが響いたせいでまた魔物の群れが姿を現してしまったのだった。
「このまま進んで大丈夫なんだろうか……」
「大丈夫だ、問題ない」
先行き不安な俺の独り言を聞き付けた地獄耳な猪系女子は、どっかで聞いたような台詞を言いながらキリッとした顔を作る。
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