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43.融解
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「ラズリウ王子。ラズリウ。すまない、やっぱりさっきの発言は取り消したい」
話の展開についていけず、ラズリウは無言でぱちぱちと目を瞬かせる。
「婚約、したい。君と」
ぎゅっと両手を握りしめながら、目の前の人間は思いもしない事を口にした。揶揄っている様子はない。ただただ、真っ直ぐに金色の瞳がこちらを見ている。
受け止めきれずに素通りしていった言葉をもう一度思い出して、考えて、考えて、考えて。更に考えて。
やはり少し、理解が追い付かない。
「……はぁ!? ふざけるのも大概にしろ!」
ようやく頭が話に追い付けた瞬間、ラズリウの口はまた乱暴な口調で声を漏らす。
「すまない……俺の指名でラズリウとスルトフェンの恋仲を引き裂いたと思ったんだ。当然身を引くべきだと、ずっと考えていた」
「ずっとって……いつから」
「極夜祭の舞踏会」
「な、っ、そんなに前!?」
冬に入る頃からずっとそんな誤解をされたままだったという事に、驚かずにはいられなかった。
ならば急にスルトフェンがついてくるようになったのも、研究所でグラキエ王子を見失ってしまうようになったのも、恐らくそれが原因なのだろう。有人観測に備えての事なのだと、不安がる自分に言い聞かせていたのに。
開いた口が塞がらないラズリウに、今度はグラキエ王子は少し拗ねた表情を向ける。
「ダンスの練習相手。俺が目の前に居たのにスルトフェンを選んだじゃないか」
「それは……みっともないところ……見られたくなかった、から」
女性役なんて初めてで醜態を晒すかもしれなかったから、気を遣わなくて良いスルトフェンに声をかけたのだ。実際に数え切れないほど足を踏んで踏まれて、情けない体制で転んで、本当に散々な状態の練習が続いていた。
あわよくば午前中で切り上げて……などと目論んでいたがそれどころではなくて。二人とも体を動かすのは得意なはずなのに、指導役の言う「糸の絡まった操り人形の様な奇怪な動き」を解消するので必死だった。
しかしまさか、それが原因になっていたとは。
「あの時、本当はスルトフェンと添いたかったんじゃないかと思った。一緒に練習がしたかったけれど」
「勝手に人の気持ちを決めないで」
思い込みにも程がある。
けれど逆の立場だったら自分はグラキエ王子の手を引けるだろうか。自分よりも仲の良いであろう相手に声をかける彼を、引き留める事が出来ただろうか。
……とてもそんな勇気はない。
ラズリウは軽く頭を振った。
もう少しだけ声をかけるタイミングを遅らせていれば。向かい合ったままでいれば。共に練習をしようと素直に誘っていれば。そうすれば今日までずっと一緒に居られたのかもしれないのに、無駄な見栄を張ってしまった。
内心悔しがるラズリウの思考を知るはずもなく、グラキエ王子は申し訳なさそうな顔を浮かべている。
「すまない……きちんと確かめればよかった。思い込みでもったいないことをしてしまったな」
はぁ、と軽く溜め息をついて、何度か大きな呼吸を繰り返して。ほんの少し沈黙に包まれた後、金色の瞳が改めてラズリウを見た。
「もっと沢山見せたいものも、聞かせたいものもあるんだ。季節のひと巡りでは到底足りない。一生かけても足りるか分からない。だから」
正面から向かい合う真剣な顔は、ほんのりと赤みが差している。
「どうか俺と正式に婚約をして貰えないだろうか、ラズリウ王子。ずっと側に居たい。隣に居てほしいんだ」
差し出された手。
その向こうの顔は表情を変える事なくラズリウを見ている。同情も何も感じられない、ただ真っ直ぐな瞳で。けれど彼の白い肌は目に見えて赤くなっていく。
その姿に喉の奥でぐちゃぐちゃに絡まった糸が、ゆっくりと解けていった。
「……元より……そのつもりで、来ました。けれどこの国の優しさを、貴方の温かさを知って、ますます手放し難くなってしまった」
泣きそうになりながら、差し出された手の平に自分の手を重ねた。
両手で包んで額に押し当てながら、詰まって喉の奥に戻っていきそうになる言葉を少しずつ口から押し出していく。
「この国の鳥籠に、この先も居たい。願わくば、その……グラキエ王子の隣に……ずっと」
ゆっくりと、ひとつずつ。
こぼれ落ちてしまわないように、頭に浮かぶ言葉を口にする。
「ラズリウ……!」
けれど全て言い終わる前にグラキエ王子からの抱擁がきて途切れた。その勢いは半ば突撃に近い。
「うわっ、ちょっ、ぁあっ!」
勢いを流しきれずにふらついたラズリウはベッドの端に足を取られてしまって。グラキエ王子に抱きつかれたままベッドに倒れ込み、押し倒されたような格好になる。
そのくせ悪びれる様子もなく、すぐ近くの顔はふにゃりと綻んだ。すっぽりとその腕の中にラズリウを閉じ込めてしまう。
「急に危ないだろ! 重たい、どいて!」
「いやだ。しばらく離れていたから、もっとくっついていたい」
今までラズリウが側に寄っても、ほとんどが緩く肩を抱く程度だったのに。まるで甘える子供の様にぎゅうっと抱きついてくる。
さっきはあっさりと床にねじ伏せる事が出来たのに、マウントを取られているせいか上手く退けられない。グラキエ王子が不在の間にもっと修行をしておけばよかった。
「離れてたのは自業自得じゃないか! どれだけ……僕がどれだけ避けられて悲しかったと……」
ラズリウを遠ざけていたのはグラキエ王子だ。勝手に思い込んで、距離を置いて。有人観測に行くのだって、すぐには教えてくれなかった。
だというのに、その物言いは納得がいかない。側に居たかったのに。
じとりと恨めしく睨む視線が効いたのか、グラキエ王子は申し訳なさそうにしながら少し離れた。しかしすぐにそっと手の平がラズリウの頬を包んで額同士が触れる。
「すまなかった。もうしない。思い込む前にちゃんと聞く」
「そうして……んっ」
唇に暖かいものが触れた。
何が起きたか分からずに目の前の顔を見つめると、我に返ったのか穏やかな微笑みが焦ったような表情に変わって。
「すまない! つ、つい」
あわてふためいた様子でグラキエ王子の指がラズリウの唇をごしごしと拭う。少しくすぐったい。普段は無遠慮な方なのに、こういう時は気を遣ってくるのか。
けれど、嬉しい。好いた相手に触れられるのはとても嬉しい。
「……キス、だけ?」
「え。あ、あの……」
「冗談だよ」
――あながち嘘でもないけれど。
唇だけではなくて全身で触れたい。間に何も挟むことなく、素肌を重ね合わせて。
そんな雰囲気を察したのか、真っ赤になりながら本気で困惑した顔を浮かべるグラキエ王子。その顔に思わず頬が緩んだ。肌が白いせいで耳や首がどんどん真っ赤になっていくのがすぐに分かる。
「でも……いつか、心の準備ができたら……最後までしてほしい」
「!!!!!」
そっと抱き寄せて耳元に囁くと、びくんと目に見えて跳ね上がった体が硬直した。
この先受け入れるなら目の前の王子が良い。他の誰かではなくて、この人が。避けられ続けた恨みもあるから……そこまではまだ言ってあげないけれど。
笑いを噛み殺しながら、そっと朱に染まった耳を撫でた。
が、こういった誘いに耐性がないのか、グラキエ王子はラズリウの言葉に固まったまま動かない。その様子と驚いた表情に少しだけ溜飲が下がる。
そっと赤い頬に触れると、また更にぼわりと赤くなって。ぐらりとその上体が傾ぐ。
「……あれ? えっ? ちょっ、グラっ」
どさりと落ちてきたグラキエ王子はまさかの気絶をしていた。少し触れただけだったけれど、彼にはやりすぎだったらしい。
けれどその腕はしっかりとラズリウを抱き締めたままで、もぞもぞと動いてみても上手く外れない。
「まぁ、いいか……」
自分の上に横たわる体をぎゅうっと抱きしめた。ずっと自分から触れにいくだけだったのに、向こうから強く抱きしめられているのだ。夢かと疑ってしまいそうな状況にそっと己の頬をつねってみたが、痛みは感じる。夢ではないらしい。
落ち着く香りと温度に包まれ、とくとくと走る心音にすっかり満たされて。段々うとうととし始めたラズリウは、大人しく微睡みの中へ沈んでいった。
話の展開についていけず、ラズリウは無言でぱちぱちと目を瞬かせる。
「婚約、したい。君と」
ぎゅっと両手を握りしめながら、目の前の人間は思いもしない事を口にした。揶揄っている様子はない。ただただ、真っ直ぐに金色の瞳がこちらを見ている。
受け止めきれずに素通りしていった言葉をもう一度思い出して、考えて、考えて、考えて。更に考えて。
やはり少し、理解が追い付かない。
「……はぁ!? ふざけるのも大概にしろ!」
ようやく頭が話に追い付けた瞬間、ラズリウの口はまた乱暴な口調で声を漏らす。
「すまない……俺の指名でラズリウとスルトフェンの恋仲を引き裂いたと思ったんだ。当然身を引くべきだと、ずっと考えていた」
「ずっとって……いつから」
「極夜祭の舞踏会」
「な、っ、そんなに前!?」
冬に入る頃からずっとそんな誤解をされたままだったという事に、驚かずにはいられなかった。
ならば急にスルトフェンがついてくるようになったのも、研究所でグラキエ王子を見失ってしまうようになったのも、恐らくそれが原因なのだろう。有人観測に備えての事なのだと、不安がる自分に言い聞かせていたのに。
開いた口が塞がらないラズリウに、今度はグラキエ王子は少し拗ねた表情を向ける。
「ダンスの練習相手。俺が目の前に居たのにスルトフェンを選んだじゃないか」
「それは……みっともないところ……見られたくなかった、から」
女性役なんて初めてで醜態を晒すかもしれなかったから、気を遣わなくて良いスルトフェンに声をかけたのだ。実際に数え切れないほど足を踏んで踏まれて、情けない体制で転んで、本当に散々な状態の練習が続いていた。
あわよくば午前中で切り上げて……などと目論んでいたがそれどころではなくて。二人とも体を動かすのは得意なはずなのに、指導役の言う「糸の絡まった操り人形の様な奇怪な動き」を解消するので必死だった。
しかしまさか、それが原因になっていたとは。
「あの時、本当はスルトフェンと添いたかったんじゃないかと思った。一緒に練習がしたかったけれど」
「勝手に人の気持ちを決めないで」
思い込みにも程がある。
けれど逆の立場だったら自分はグラキエ王子の手を引けるだろうか。自分よりも仲の良いであろう相手に声をかける彼を、引き留める事が出来ただろうか。
……とてもそんな勇気はない。
ラズリウは軽く頭を振った。
もう少しだけ声をかけるタイミングを遅らせていれば。向かい合ったままでいれば。共に練習をしようと素直に誘っていれば。そうすれば今日までずっと一緒に居られたのかもしれないのに、無駄な見栄を張ってしまった。
内心悔しがるラズリウの思考を知るはずもなく、グラキエ王子は申し訳なさそうな顔を浮かべている。
「すまない……きちんと確かめればよかった。思い込みでもったいないことをしてしまったな」
はぁ、と軽く溜め息をついて、何度か大きな呼吸を繰り返して。ほんの少し沈黙に包まれた後、金色の瞳が改めてラズリウを見た。
「もっと沢山見せたいものも、聞かせたいものもあるんだ。季節のひと巡りでは到底足りない。一生かけても足りるか分からない。だから」
正面から向かい合う真剣な顔は、ほんのりと赤みが差している。
「どうか俺と正式に婚約をして貰えないだろうか、ラズリウ王子。ずっと側に居たい。隣に居てほしいんだ」
差し出された手。
その向こうの顔は表情を変える事なくラズリウを見ている。同情も何も感じられない、ただ真っ直ぐな瞳で。けれど彼の白い肌は目に見えて赤くなっていく。
その姿に喉の奥でぐちゃぐちゃに絡まった糸が、ゆっくりと解けていった。
「……元より……そのつもりで、来ました。けれどこの国の優しさを、貴方の温かさを知って、ますます手放し難くなってしまった」
泣きそうになりながら、差し出された手の平に自分の手を重ねた。
両手で包んで額に押し当てながら、詰まって喉の奥に戻っていきそうになる言葉を少しずつ口から押し出していく。
「この国の鳥籠に、この先も居たい。願わくば、その……グラキエ王子の隣に……ずっと」
ゆっくりと、ひとつずつ。
こぼれ落ちてしまわないように、頭に浮かぶ言葉を口にする。
「ラズリウ……!」
けれど全て言い終わる前にグラキエ王子からの抱擁がきて途切れた。その勢いは半ば突撃に近い。
「うわっ、ちょっ、ぁあっ!」
勢いを流しきれずにふらついたラズリウはベッドの端に足を取られてしまって。グラキエ王子に抱きつかれたままベッドに倒れ込み、押し倒されたような格好になる。
そのくせ悪びれる様子もなく、すぐ近くの顔はふにゃりと綻んだ。すっぽりとその腕の中にラズリウを閉じ込めてしまう。
「急に危ないだろ! 重たい、どいて!」
「いやだ。しばらく離れていたから、もっとくっついていたい」
今までラズリウが側に寄っても、ほとんどが緩く肩を抱く程度だったのに。まるで甘える子供の様にぎゅうっと抱きついてくる。
さっきはあっさりと床にねじ伏せる事が出来たのに、マウントを取られているせいか上手く退けられない。グラキエ王子が不在の間にもっと修行をしておけばよかった。
「離れてたのは自業自得じゃないか! どれだけ……僕がどれだけ避けられて悲しかったと……」
ラズリウを遠ざけていたのはグラキエ王子だ。勝手に思い込んで、距離を置いて。有人観測に行くのだって、すぐには教えてくれなかった。
だというのに、その物言いは納得がいかない。側に居たかったのに。
じとりと恨めしく睨む視線が効いたのか、グラキエ王子は申し訳なさそうにしながら少し離れた。しかしすぐにそっと手の平がラズリウの頬を包んで額同士が触れる。
「すまなかった。もうしない。思い込む前にちゃんと聞く」
「そうして……んっ」
唇に暖かいものが触れた。
何が起きたか分からずに目の前の顔を見つめると、我に返ったのか穏やかな微笑みが焦ったような表情に変わって。
「すまない! つ、つい」
あわてふためいた様子でグラキエ王子の指がラズリウの唇をごしごしと拭う。少しくすぐったい。普段は無遠慮な方なのに、こういう時は気を遣ってくるのか。
けれど、嬉しい。好いた相手に触れられるのはとても嬉しい。
「……キス、だけ?」
「え。あ、あの……」
「冗談だよ」
――あながち嘘でもないけれど。
唇だけではなくて全身で触れたい。間に何も挟むことなく、素肌を重ね合わせて。
そんな雰囲気を察したのか、真っ赤になりながら本気で困惑した顔を浮かべるグラキエ王子。その顔に思わず頬が緩んだ。肌が白いせいで耳や首がどんどん真っ赤になっていくのがすぐに分かる。
「でも……いつか、心の準備ができたら……最後までしてほしい」
「!!!!!」
そっと抱き寄せて耳元に囁くと、びくんと目に見えて跳ね上がった体が硬直した。
この先受け入れるなら目の前の王子が良い。他の誰かではなくて、この人が。避けられ続けた恨みもあるから……そこまではまだ言ってあげないけれど。
笑いを噛み殺しながら、そっと朱に染まった耳を撫でた。
が、こういった誘いに耐性がないのか、グラキエ王子はラズリウの言葉に固まったまま動かない。その様子と驚いた表情に少しだけ溜飲が下がる。
そっと赤い頬に触れると、また更にぼわりと赤くなって。ぐらりとその上体が傾ぐ。
「……あれ? えっ? ちょっ、グラっ」
どさりと落ちてきたグラキエ王子はまさかの気絶をしていた。少し触れただけだったけれど、彼にはやりすぎだったらしい。
けれどその腕はしっかりとラズリウを抱き締めたままで、もぞもぞと動いてみても上手く外れない。
「まぁ、いいか……」
自分の上に横たわる体をぎゅうっと抱きしめた。ずっと自分から触れにいくだけだったのに、向こうから強く抱きしめられているのだ。夢かと疑ってしまいそうな状況にそっと己の頬をつねってみたが、痛みは感じる。夢ではないらしい。
落ち着く香りと温度に包まれ、とくとくと走る心音にすっかり満たされて。段々うとうととし始めたラズリウは、大人しく微睡みの中へ沈んでいった。
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