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第三話 進捗状況
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「あーもうびちゃびちゃじゃん!」
「すみません。 ついトリップしてしまいました」
冬美の先程までの狂気はもう無い。完全に正気に戻っている。しかしもうときはすでに遅く、いや、いつもどおりではあるのだが、全身返り血を浴びまくっていて外に出たらすぐにバレてしまうほどひどい有様だった。一番血がついたらめんどくさい髪も、フードにかぶさってる部分以外は濡れてしまっている。
樺恋も綾人も呆れた様子で冬美を見ている。
「まぁ毎度のことだからもう気にしない。 これ使って拭け」
「ありがとうございます」
そう言って綾人は、二人に白いバスタオルを渡した。しかし銃を使っていたためあまり返り血を浴びていない樺恋には不必要だったらしく、冬美に自分がもらったバスタオルを手渡していた。
冬美は二枚両方ともを使用し、樺恋と一緒に新しい服に着替える。少しでも血痕が付着していると、大変なことになるから。髪の毛についた血も特殊な液体で流す。それと血の臭いも消すために香水もつける。
「ねぇ冬美ちゃん」
「なに」
「インカムって、ダサいと思わない?」
「そうですか? それよりも私は、耳が4つもあるから両方につけなくていいのかなと気になっているのですが……」
「必要ないよ! 聴力があるわけじゃないんだから。……茶化さないでよね」
樺恋の獣耳と尻尾は、楽しそうにゆらゆらと動いている。亜人の感情はすぐ耳と尻尾に現れるため、嘘を言ってもすぐバレる。
冬美は元気良く動く尻尾を見ながら、クスリと笑った。
相変わらず、樺恋ちゃんはわかりやすいですね。
「楽しんでるところ申し訳ないんだが、そろそろここから離れてくれないだろうか」
「わかりました」
「じゃあね~綾人さん」
「コードネームで! まだ任務中」
「は~い」
そうして冬美と樺恋は綾人から追い出されるようにしてその場を離れた。
インカムは目立つから綾人に預けて現場を離れるのだが樺恋は忘れていたようでそのままつけてきてしまった。樺恋は億劫そうにインカムをズボンのポケットにしまう。
二人は歩いて町中に出た。そのまま宛もなく歩く。
「この後予定ないんだよね?」
「えぇ。 この後はどうしましょうか」
「とりあえずそのへんの店によってうろついてから本部に戻ろう」
「悪くないですね」
そうして冬美と樺恋は軽い足取りで近くにあったショッピングモールに入った。
*****
僕が初めて描いた絵は風によって舞い上げられた赤い紅葉を浴びている少女の絵だった。少女はとても楽しそうな表情を浮かべた亜人。その絵を完成させた途端、僕の中の世の中の不信感や、欲求不満とかが満たされた気がした。そこから僕は、限界まで喉をからした人が無我夢中で水を飲むように絵を描き続けた。筆を持つ手が、想像力を膨らます頭が止まることを知らなかった。
でも僕は、他の人が幸せそうな絵と感じるものを描き続けるうちに欲が出てくるようになった。もっと残酷な絵を描きたいという欲が。
ホラーでもリョナでもグロでもなんでもいい。とにかくこの世の人々が一番嫌う残酷な絵を描きたくなった。そうなってからは、絵を描くと満たされるものが半減してしまい物足りなさを感じていた。そんな状況に伴って僕が描く絵はますます幸せそうになっていき僕はそれが嫌だった。
いろいろ残酷なシチュエーションを思い描き続けていくうちに偏った想像しかできなくなった。思い浮かべる人物は限られるようになって、その人を取り巻く環境も一定になっていった。
僕は、思った通りの絵が描けなくなっていくことに不安を感じ、こっそりと脳内の物語の絵を描く合間を縫ってルーズリーフにまとめていった。そして、誰にも気づかれないようにカンバスのちょっとだけ空いている隙間に差し込んでいった。ちょっとした夢日記のようなものだ。
そんな少女的なことをしていると、何故か想像していた物語が夢の中にまで出てくるようになった。それも今まで想像したことがないような場面まで。
「連さま、お客様です」
……っと、物思いにふけっていると突然、ドアがノックされた。
そのまま無視してしまおうかなっと一瞬思ったけど、そんな事したら後で罪悪感とかにさいなまれるだけなので行くことにした。
お客様と言っても、大体の見当はつく。この家に来る者は僕の絵のチェックをする担当者か、友人の二人しかいない。おそらく今家の前にいるのは前者だろう。
ドアの前に立っていた、僕が一人だけ雇っているメイドに僕がさっきまでいた仕事部屋の鍵を閉めるように頼んだ後、玄関へ向かった。
「絵の進捗状況を確認しに来ました」
「どうぞ」
進捗状況を確認してくる担当者は毎回違う人だ。今回やってきたのは、身長の割にはガリガリで何日も寝てないようなくまのある男性だった。
多少不気味ではあるけど、色々喋りかけてこないのは内気な僕にとっては嬉しいことだった。
「今回の絵は、先生のデビュー作品のリメイク版なんですね」
「はい。 今回は、人物を小悪魔にしてみました」
「いいと思いますよ。 今回はなんの要望もないとのことなのでそのまま引き続きよろしくおねがいします」
「わかりました」
「すみません。 ついトリップしてしまいました」
冬美の先程までの狂気はもう無い。完全に正気に戻っている。しかしもうときはすでに遅く、いや、いつもどおりではあるのだが、全身返り血を浴びまくっていて外に出たらすぐにバレてしまうほどひどい有様だった。一番血がついたらめんどくさい髪も、フードにかぶさってる部分以外は濡れてしまっている。
樺恋も綾人も呆れた様子で冬美を見ている。
「まぁ毎度のことだからもう気にしない。 これ使って拭け」
「ありがとうございます」
そう言って綾人は、二人に白いバスタオルを渡した。しかし銃を使っていたためあまり返り血を浴びていない樺恋には不必要だったらしく、冬美に自分がもらったバスタオルを手渡していた。
冬美は二枚両方ともを使用し、樺恋と一緒に新しい服に着替える。少しでも血痕が付着していると、大変なことになるから。髪の毛についた血も特殊な液体で流す。それと血の臭いも消すために香水もつける。
「ねぇ冬美ちゃん」
「なに」
「インカムって、ダサいと思わない?」
「そうですか? それよりも私は、耳が4つもあるから両方につけなくていいのかなと気になっているのですが……」
「必要ないよ! 聴力があるわけじゃないんだから。……茶化さないでよね」
樺恋の獣耳と尻尾は、楽しそうにゆらゆらと動いている。亜人の感情はすぐ耳と尻尾に現れるため、嘘を言ってもすぐバレる。
冬美は元気良く動く尻尾を見ながら、クスリと笑った。
相変わらず、樺恋ちゃんはわかりやすいですね。
「楽しんでるところ申し訳ないんだが、そろそろここから離れてくれないだろうか」
「わかりました」
「じゃあね~綾人さん」
「コードネームで! まだ任務中」
「は~い」
そうして冬美と樺恋は綾人から追い出されるようにしてその場を離れた。
インカムは目立つから綾人に預けて現場を離れるのだが樺恋は忘れていたようでそのままつけてきてしまった。樺恋は億劫そうにインカムをズボンのポケットにしまう。
二人は歩いて町中に出た。そのまま宛もなく歩く。
「この後予定ないんだよね?」
「えぇ。 この後はどうしましょうか」
「とりあえずそのへんの店によってうろついてから本部に戻ろう」
「悪くないですね」
そうして冬美と樺恋は軽い足取りで近くにあったショッピングモールに入った。
*****
僕が初めて描いた絵は風によって舞い上げられた赤い紅葉を浴びている少女の絵だった。少女はとても楽しそうな表情を浮かべた亜人。その絵を完成させた途端、僕の中の世の中の不信感や、欲求不満とかが満たされた気がした。そこから僕は、限界まで喉をからした人が無我夢中で水を飲むように絵を描き続けた。筆を持つ手が、想像力を膨らます頭が止まることを知らなかった。
でも僕は、他の人が幸せそうな絵と感じるものを描き続けるうちに欲が出てくるようになった。もっと残酷な絵を描きたいという欲が。
ホラーでもリョナでもグロでもなんでもいい。とにかくこの世の人々が一番嫌う残酷な絵を描きたくなった。そうなってからは、絵を描くと満たされるものが半減してしまい物足りなさを感じていた。そんな状況に伴って僕が描く絵はますます幸せそうになっていき僕はそれが嫌だった。
いろいろ残酷なシチュエーションを思い描き続けていくうちに偏った想像しかできなくなった。思い浮かべる人物は限られるようになって、その人を取り巻く環境も一定になっていった。
僕は、思った通りの絵が描けなくなっていくことに不安を感じ、こっそりと脳内の物語の絵を描く合間を縫ってルーズリーフにまとめていった。そして、誰にも気づかれないようにカンバスのちょっとだけ空いている隙間に差し込んでいった。ちょっとした夢日記のようなものだ。
そんな少女的なことをしていると、何故か想像していた物語が夢の中にまで出てくるようになった。それも今まで想像したことがないような場面まで。
「連さま、お客様です」
……っと、物思いにふけっていると突然、ドアがノックされた。
そのまま無視してしまおうかなっと一瞬思ったけど、そんな事したら後で罪悪感とかにさいなまれるだけなので行くことにした。
お客様と言っても、大体の見当はつく。この家に来る者は僕の絵のチェックをする担当者か、友人の二人しかいない。おそらく今家の前にいるのは前者だろう。
ドアの前に立っていた、僕が一人だけ雇っているメイドに僕がさっきまでいた仕事部屋の鍵を閉めるように頼んだ後、玄関へ向かった。
「絵の進捗状況を確認しに来ました」
「どうぞ」
進捗状況を確認してくる担当者は毎回違う人だ。今回やってきたのは、身長の割にはガリガリで何日も寝てないようなくまのある男性だった。
多少不気味ではあるけど、色々喋りかけてこないのは内気な僕にとっては嬉しいことだった。
「今回の絵は、先生のデビュー作品のリメイク版なんですね」
「はい。 今回は、人物を小悪魔にしてみました」
「いいと思いますよ。 今回はなんの要望もないとのことなのでそのまま引き続きよろしくおねがいします」
「わかりました」
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