SANYO

キンカク

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一年目

18点 夕焼け暮れ

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  俺は今目の前で起きている光景に驚くことしか出来なかった。すぐ隣にいるはずの中宮さんが前のドアから教室に入ってきたのだ。さらに驚くことは中宮さんが想像も出来なかった満面の笑みで現れたことだ。
  「え、菊川くん!?」
  教室に入ってくるとすぐさま俺の存在に気付いたのか、驚きのあまり身動きがとれていない状態であった。一方の俺も満面の笑みをして入ってきた中宮さんを見て驚いていた。今日の昼休みの無表情の顔からは想像も出来ないような可愛い笑顔をしていた。
  「なんでここにあなたがいるのよ!?」
  笑顔からすぐさま怒り顔に変わり、俺に近づいてきた。
  「たまたまここの前を通ったら男子の制服を着ている中宮さんがいて思わず立ち尽くしていたら、目が合ったので。」
  俺は二人いる中宮さんを交互に見ながら話した。
  すると先程からボーッとした顔でいた中宮さんが初めて口を開いた。
  「君が菊川くんだったんだね。」
  俺は名前を呼ばれ視線を座っている中宮さんに向けた。
  声のトーンや声質、声の高さまで全く一緒だった。さらには顔の形やパーツまでもがそっくりである。俺はようやく頭の整理がつき冷静に考えることが出来た。おそらく中宮さんは一卵性の双子なんだろう。しかしなぜこの中宮さんは男子の制服を着ているんだろうか。もしかして、、。
  「今日の昼休みに千夏から連絡があったんだよね。」
  そう言うと椅子から立ち上がり俺に視線を向けた。立ち上がったときの身長も中宮さんとほぼ一緒な気がする。
  「中宮さんとは双子の姉妹なんですか?」
  俺はもう一人の中宮さんを見下ろしながら核心に迫る質問を尋ねた。すると右手を口に近づけふふふと軽く笑った。
  「何か勘違いしてるんじゃないかな。よく見てみなよ。男子の制服着てるんだよ?」
  この言葉を聞き、俺の中で半信半疑であった仮説が確信に変わった。
  「もしかして....。」

ーーーーーーーーーーーーー
  「無理だ。」
  菊川がファミレスを後にしてから三十分ほど経過した頃、普段から勉強を厳かにしていた日笠の頭はパンク寸前であった。
  高校入試では毎日死ぬ気で受験勉強をしていたが、それも一月も続かず、結局はそれぞれの教科をヤマを張って試験へと望んだ。
  「日笠くんよくこんなので合格しましたね。」
  柳井は日笠に勉強を教え始めてから明らかに不機嫌になってきていた。
  「ヤマはってたら運良くそこが出題されたからすんなり合格出来たけど、それも続かないだろうからさ。」
  日笠はハハハと薄い笑いを浮かべながらにっこりと笑った。
  それから間もなくすると沖田が唐突に男子バスケ部のことについて話を振ってきた。
  「そういえば今日昼休みに菊川君がうなだれてたけど、部員あと一人増えそうなの?」
  「それが二年生の人にも訪ねたんだけど全滅でさ。三年生も考えたんだけど進学に向けて動き始めてるからこんな時期に入る人なんていないだろうから諦めたのよ。」
  「そうなると来年の新入生に期待しないとだね。」
  柳井は二人の話を軽く聞きながらジュースを一気に飲み干した。
  「でも品川先輩に聞いたんだけど、二年生の中で日笠くん達と同じように男子バスケ部を作ろうとしてた人がいたらしいよ。」
  「え!?まじで?」
  沖田の言葉に日笠は椅子から立ち上がり、前のめりで沖田に近づいた。
  「うちの女バスのエースに中宮先輩って人がいるんだけど、中宮先輩には双子の弟さんがいるらしいの。確かその弟さんが去年作ろうとしてた、みたいなことを聞いたの。でも日笠くんはその人に勧誘はしてもダメだったんだよね?」
  沖田の言葉を聞き、日笠は自分のスマホを取り出し二年生男子の名前が書かれたメモ帳をよく見た。
  「その人って名前何て言うか分かる?」
  沖田は思い出そうとファミレスの天井に目を写し、必死に考え込んだ。
  すると先ほどまで静かにしていた柳井がようやく口を開いた。
  「その方の名前は中宮夏樹さんだったと思いますよ。」
  柳井の言葉を聞き、スマホのメモ帳から中宮夏樹という名前を探したがどこにも書かれていなかった。
  「その人の名前書いてないんだけど。」

ーーーーーーーーーーーーー
  俺の反応を見てさらに笑いが加速している様子であった。
  おそらくこの人は...。
  何かを察したのか目の前にいる中宮さんが口を開いた。
  「その通り、私は千夏の双子の姉弟の中宮夏樹(なかみや なつき)です。気軽に名前を呼んでくれて構わないからね。見た目は確かに女の子によく間違われるけど、ちゃんとついているからね。」
  俺は目の前の光景に未だに驚かずにはいられなかった。二人は着ている制服が違うだけで、髪型や顔立ちや身長、体型、声までもが瓜二つなのだ。この人が男であるなんて他の人は一目では分からないであろう。
  「君が菊川三陽くんなんだね。君にどうしてもお礼したいことがあったから会えてよかったよ。」
  「え、お礼ですか?」
  夏樹さんはそう言うと俺の肩に手を置き、満面の笑みで口を開いた。
  「私の願望であった男子バスケ部を創部してくれてありがとうね。」
  「え?」
  「実は私も去年動いてたんだけど、無理だったからさ。」
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