SANYO

キンカク

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一年目

13点 探す者

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  俺が水川学園に入学してから一週間が経っていた。一週間経った今でも俺と日笠、東堂の三人しかメンバーが集まっていない。バスケは五人でのスポーツであるため最低でもあと二人も必要であり、さらには顧問になってくれる先生も見つけなければならない。
  以前、2組の男子数人と接触することが出来なかったため、放課後になるとすぐに2組の教室に直行した。今日は日笠は予定があるらしく、東堂もバイトが入っているため、俺一人で行くことになった。
  2組に在籍している井上さんに聞いたが、2組の男子生徒は全員で四人いるらしく、一人はもうサッカー部に入ると言っていたらしい。そのため、もしかしたら残った三人に可能性があるから聞いてみるといい、と話を聞いていた。
  2組に向かっていると、ちょうど教室から出てきた井上さんに遭遇した。今週からは新入生の仮入部期間であるため、井上さんは部活の荷物を手にぶら下げていた。
  「あ、三くんだ。やっほー。」
  井上さんは俺に気づくと、謎のあだ名で呼んできた。
  「急にどうしたの。その呼び方は。」
  「美玖たち、同い年なんだし仲良くしたいからさ!最初はきっくんか三くんで迷ったんだけど、名前の方が親近感あるかなと思って三くんになったの。」
  井上さんの明るく人見知りしない性格が存分に感じられる会話だ。違和感はあるが女の子からあだ名で呼ばれたことは初めてだったので、悪い気はしない。
  「まあ、呼び方は何でもいいけどさ。」
  「なら今日から三くんだね。美玖のことは呼び捨てでいいからね。」
  俺は今まで生きてきた中で、女の人を呼び捨てで呼んだことが妹くらいしか無かったので、少々抵抗があった。
  「井上さんはなんか同い年ってよりも年上みたいな雰囲気があるから美玖さんって呼ぶかな。」
  「えー、何それ。」
  井上さんは少し不機嫌気味で俺を見てきた。
  「それより今教室に男子いる?」
  ようやく本題に入ることができた。今日こそは2組の男子とコンタクトを取りたい。
  美玖さんは教室を覗き込むと笑顔で振り返った。
  「うん、四人ともいるよ。」
  「そっか、良かったよ。ありがとう」
  俺は安堵の息を吐き、美玖さんにお礼を言った。
  「それじゃ美玖は今から部活に行くから。頑張ってね!」
  「ああ、美玖さんもね。」
  俺は美玖さんに手を振りながら見送った。
  美玖さんは明るく、話しをしていてとても楽しいと思える性格の子だ。この学校ではなくもっと男子と女子の比率が同じくらいの高校に入学していたら、きっとモテていただろう。
  俺は教室に顔を入れ様子を見ると男子生徒が四人で固まって話をしていた。俺はすぐさま教室に入り、その群れの中に突進する闘牛のように素早く四人に近づいた。
  四人のうちの手前にいた男子が俺に気づき、少し驚いた顔をした。
  「ねぇ、ちょっといいかな?」
  俺が声をかけると奥に座っていた男子が口を開いた。
  「誰ですか?」
  「俺は1年4組の菊川三陽、よろしく。少し聞きたいことがあるんだ。この中で部活をもう決めた人はいる?」
  俺の質問に先ほど口を開いた男子が軽く手を挙げた。
  「俺はサッカー部に入るよ。」
  「そうか、なら千田と同じだな。」
  「あぁ、そっか。4組なら千田君と同じクラスになるのか。」
  俺と彼との話を3人は静かに聞いていた。
  「他の三人は決まってたりするの?」
  三人に尋ねると俺の右に座っていた人から順に口を開いた。
  「俺は部活をするつもりはないな。ここは北海道でも頭のいい高校だから部活をする時間はないよ。」
  「俺も部活は中学でこりごりだよ。」
  「僕も太ってるから部活なんてしたくないよ。入ったとしても文化部かな。」
  三人ともどうやら部活に入る気がまるでないようだ。ここからどうやって誘い出そうものなのか。
  「実は俺、男子バスケ部を作るつもりなんだよ。今は俺を含めてすでに三人集まってるから、あとは顧問の先生が決まったら部活を申請することができるんだ。」
  四人とも誰一人、口を開くことなく話を聞いていた。
  「だから最低でもあと二人は集めたいんだよ。もう一年の男子全員には話をしたんだけど、みんな興味を持ってくれなくてさ。だから三人のうちどうかなっと思って。」
  三人ともお互いに目配せをしていたが、これといって興味を示してはいない様子だった。やはり日笠のように無理やりにでも勢いでいくしかないのだろうか。もしも一年生がダメであれば二年生を当たらなくてはならない。三年生はすでに受験に向けて勉学に励んでいる生徒が多い。
  俺は2組の教室を出る寸前に、四人と連絡先を交換した。
  やはり日笠がいないと心細い。日笠のような明るい性格が俺にも必要なんだと痛感した。
  俺は教室を後にし、学校の昇降口へと向かった。

ーーーーーーーーーー

  今日もいつも通り練習を終え、家に向かっていた。水川学園から私の家までは歩いて30分くらいである。2年生の頃までは自転車で通学していたが、3ヶ月ほど前にタイヤがパンクしてしまい、徒歩通学になってしまった。
  まだ4月とあって夜は少し肌寒い。スカートのため足が寒い。
  私が家に着く頃には20時を過ぎていた。虫の鳴き声がよく耳に響いてくる。
  「ただいま。」
  私が玄関で靴を脱いでいると、奥の部屋から次男の弟の秋嶺(あきみね)が出てきた。
  「姉ちゃん、おかえり」 
  「秋ちゃん、学校どうだった?」
  弟の秋嶺はこの4月で中学2年生になった。私とは4つも歳が離れているため、よく親子にも間違われることもしばしばある。
  「うん、特にこれということはなかったよ。」
  二人で少し話しながらリビングに入ると母親と長男で高校一年生の秋吉(あきよし)がテレビを見ながらくつろいでいた。
  「あら、明菜おかえり。すぐにご飯の準備するからね。」
  母親はそう言うと台所に立った。手慣れたように私の好きな八宝菜を作り始めた。野菜を炒める音と食欲をそそるいい匂いが五感を刺激してきた。
  席に座りソファーでくつろいでいた秋吉が私に話しかけてきた。
  「どう、姉貴?今年は即戦力になる新入生は入ってきたか?」
  秋吉はアイスを噛み砕きながら首を後ろに反らせた。
  「中々すごい子が入ってきたわよ。去年の全国大会で優勝に導いた柳井栞ちゃんが入部してきたの。今日新入生と一緒に練習したんだけど、高校でも即戦力になる逸材だった。」
  私が秋吉と話していると、キレイに盛り付けられた八宝菜が私の前に置かれた。
  「すごい人が入ったんだな。男子の俺でもその子の名前は聞いたことあるわ。」
  秋吉はガリガリとアイスを食べていた。
  「そういえば秋吉に面白い知らせがあるわよ。」
  私の言葉を聞いて、秋吉はアイスを食べることをやめた。
  「菊川三陽くんが水川学園に入学したよ。」
  「!?」
  秋吉は驚きの顔を隠すことなく、私の方にゆっくりと顔を向けた。
  「菊川が?」
  私の目を見ると秋吉は静かにはははと微笑んだ。
  
  
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