SANYO

キンカク

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一年目

11点 練習風景

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  俺たちが話していると下のフロアから活気の溢れた声が響き渡った。松乃さんを他の部員が囲んで練習内容を話し合っていた。俺が驚いたことに、水川学園の女バスの部員は全員で12人と強豪校にしては少な過ぎる。俺のいた中学のバスケ部は全員で50人はゆうに超えていた。さらにその中からユニフォームを手にするのは15人で、そこからさらに試合に出る人数は5人とかなり狭き門をくぐり抜けてきた。そこで全国大会でも女子のチームを何校も見たが、どの中学も少なくとも20人は部員がいた。
  松乃さんの指示に部員がオフェンス(リングに攻め得点する人)とディフェンス(リングを守り得点を妨げる人)の半々に分かれ2対2の練習を始めた。バスケには基本的にスタメン5人にそれぞれ異なるポジションによって役割が違う。その異なるポジションはPG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)の5つである。
  一つ目のPGはチームの司令塔の役割を担っており、オフェンスの時にチームメイトに指示を出すポジションである。基本的にはチームの中でも最も器用な人が務め、高い判断力が必要とされる。PGのスタイルによってチームのプレースタイルが決まる程の重要なポジションである。
  二つ目のSGは3P(スリーポイント)などの長距離シュートを得意とするポジションである。SGの働きによって試合の流れは180°変わると言っていいほど、得点の支柱となるポジションである。
  三つ目のSFは得点力が高く、チームでもオールラウンダー能力が高い人が担うポジションである。試合展開によってSGを担ったりPFを担ったりするなど、身体能力の高さが要求される。
  四つ目のPFはゴール下での得点、守備、リバウンドを主な役割とするポジションである。戦術に合わせ、ゴール下や中距離でもプレーする役割を担う。
  最後のCは常にゴールに最も近い位置でプレーするポジションである。チームの中でも最も背が高い選手が担っており、ディフェンスではチームの守備の要である。
  俺は小学生の時にPGとSGを経験し、中学生の時にSFとPF、Cと全てのポジションをこなしてきた。小学生のときはチームの中でも身長が比較的に低かったが、中学に上がるとグングンと背が伸びたためポジションの変更が何度もあった。確か某人気バスケ漫画にもそんなキャラがいた気がする。
  俺自身、5つのポジションのうち最も向いていると思うのはPGであると自負している。一般的に身長が183cmある俺はPFかCを任せられるが、ゴール下での攻防はかなりのぶつかり合いのため、あまり乗る気がしないのだ。
  これらのポジションによって練習を別々に行うチームも存在するように、今行われている2対2はポジションごとに動きが全く違う。
  女子と男子では一人一人のスピードが全く違うがさすがは水川学園の女バスだ。男子にも劣ることのないスピードを全員が持っている。
  俺が隣の日笠と東堂の様子を見ると、意外にも練習に食いついていたのは東堂ではなく日笠の方だった。確か日笠本人の話だと中学でストリートバスケに興味を持ち、そこからバスケを始めたそうだ。だから本格的な練習を見るのはこれが初めてなんだろう。東堂も一直線で見ているようだった。
  ストリートバスケは屋外で行うバスケであり、ドリブルのテクニックや派手さを見せるスポーツでもあるので、トラベリングやダブルドリブルなどの反則を気にせずプレーできる。基本的に少人数で行うのでチーム練習は新鮮に映っているんだろう。
  練習を見るが選手一人一人のレベルが高く一切の無駄がない。中でも松乃さんの実力は頭一つずば抜けていた。
  隣にいた沖田さんと柳井さんは話をしながら練習を見ていた。
  「先輩たちの一人一人のレベルが高いね。私ここでやっていけるのかな」
  「確かに中学生と高校生とでは子供と大人みたいな違いがあるからね。」
  二人の話を聞いていた園川さんが口を開いた。
  「うち初心者なのに大丈夫なのかな?」
  高校からバスケを始める園川さんには少し無謀な気がする。練習風景を見ると不安になるのも納得がいく。
  「大丈夫だよ!みのっちは努力家だし運動神経いいんだもん。」
  園川さんの隣にいた井上さんが笑顔で話しかけている。
  「二人は中学からの知り合いなの?」
  日笠は離れた距離にいながらもよく話を聞いていた。 
  「みのっちとは中学の頃からの友達なんだ。冬になるとミノムシみたいに服を着込んでたからあだ名がみのっちになったの。」
  井上さんの言葉に園川さんは納得の言っていない様子だった。どうやらみのっちと言うあだ名が気に入っていないようだ。
  「それは可愛いですね。」
  縁さんが色気のある声で話した。
  「やめてよ。ほら練習みるよ」
  園川さんは必死に話を逸らそうとした。
  それからの練習メニューは至ってシンプルなものだった。ディフェンスの動きの確認や5対5のゲーム形式での練習が行われた。それぞれのポジションに合わせたメニューになっている。それにしても練習が始まってから顧問やコーチの姿がまだ見えない。その代わりに松乃さんがチームを引っ張っていた。
  19時半に練習は終わり、一人の部員が二階にいる俺たちに降りてくるように手招きをした。
  俺たちが一階に降り、女子の5人が体育館に入っていった。俺たち男子が外で待っていると部員の一人がやって来て、松乃さんが俺たち男子も来るように呼んでいます、と伝えてきた。
  体育館に入ると部員全員が円陣を組み俺たちが来るのを待っていた。沖田さん達も5人で固まって円陣の中にいた。
  「急に呼んですいませんね。どうでしたか練習を見て」
  松乃さんはポニーテールに結んでいた髪の毛を下ろしていた。
  「すごい勉強になりました。ありがとうございました。」
  俺の言葉に松乃さんは少し柔らかい笑顔で答えた。
  「そう。あなたみたいな人にそう言ってもらえると嬉しいですね。」
  松乃さんの言葉に部員全員の頭にはてなマークが浮かんでいるようだった。
  「明ちゃん、彼とは知り合いなの?」
  松乃さんの隣にいた背の高い部員が口を開いた。
  「知り合いと言うか私が一方的に知っているだけです。彼の名前は菊川山陽くん。二年前、中学バスケの全国大会で数々の歴代記録を更新した人ですよ。」
  松乃さんの言葉に一斉に部員の視線が俺に集中した。
  
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