SANYO

キンカク

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一年目

8点 3日目

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  入学式から3日経過し、高校で初めての授業が始まった。俺は元々は暗記力は得意な方ではあるが、数学などはまるで出来ない。しかもここ水川学園は進学校としても有名で、勉強の内容もかなりレベルが高い。xの関数やら連立だの俺にはお手上げだ。
  俺が頭を抱えていると沖田さんが小声で教えてくれる。しかしそもそもの部分を把握しきれてないため、さっぱり分からない。それにしても沖田さんは何から何まで優しいな。だいたいの男ならこの優しさに勘違いしそうである。
  午前の授業が終わり昼休憩の時間になった。
  「菊川、一緒に飯食おうぜ。」
  後ろから日笠が弁当を右手に持ちながら歩いてきた。
  「いいよ。あれ、千田は一緒じゃないの?」
  「あぁ、千田はサッカー部の先輩のとこ行くってよ。」
  日笠は俺の隣に座り弁当の蓋をあけた。
  「とりあえず飯食い終わったら他の一年のクラスに行くか。一人でもバスケに興味持ってくれたらいいけど。」
  今朝、担任の横山から聞いた話だと今年の一年男子は俺と日笠、千田を合わせて15人しかいないらしい。
  バスケは最低でも5人いないと試合出来ないためあと三人は欲しい。
  「5組には男子はいないらしいから、1組から声かけて行くか。」
  俺と日笠の話す内容が聞こえてきたのか、隣にいた沖田さんが声をかけてきた。
  「男子部員を探してるの?」
  俺が沖田さんに目を向けると柳井さんが目の前にいた。
  「どうも、菊川くん日笠くん。」
  なんともお嬢様のような口調である。
  「えっと、沖田さんもう柳井さんと仲良くなったんだね。」
  「うん!一緒の部活に入るわけだし、仲良くしたかったから。昨日二人で女バスの様子見に行ってきたの。」
  すごいな、女子のコミュ力は。まだ三日しか経過していないのに。
  「バスケ部は創部出来そうなのかしら。」
  柳井さんが不思議な雰囲気を纏いながら話しかけてきた。
  「まだ俺と日笠しか集まってないから、なんとも言えない感じかな。」
  「そう。」
  柳井さんは視線を落とし、タコのウインナーを口に入れた。
  俺は入学式のころから気になっていたことを柳井さんに聞いてみた。
  「柳井さんさ、一人一人の自己紹介の時にさ、俺に声かけてきたよね。俺のこと知ってるの?」
  柳井さんは星型の人参を食べて箸を置いた。
  「もちろん知ってますよ。中学一年のときに神奈川の名門・横川第一中学のスタメンに抜擢され、二年の時にチームを全中優勝に導いた人ですからね。しかも決勝では絶対的に優勝候補であった、京都の名門・静学中学に対して25点差をつけ圧倒的な強さで優勝し、また個人としても平均得点30点以上の成績でしたからね。」
  柳井さんの言葉に沖田さんと日笠は驚愕した反応をしていた。
  「ですが最後の三年生の大会では何故だかベンチメンバーにも選ばれていなかったので、不思議でしたけど。」
  話し終えると再び星型の人参を食べ始めていた。
  「おいおいおい、菊川ってそんなすごいやつだったのかよ!?」
  日笠が身を乗り出してきた。
  「う、うん。一応は。」
  日笠は興奮を抑えられず俺の中学の時の話を聞いてきた。
  俺が日笠の質問攻めをされていると、柳井さんが口を開いた。
  「またあの時のプレーを見てみたいものですね。」
  柳井さんはおしぼりで口と手を拭きながら席を立った。
  なんとも不思議な雰囲気を纏った人である。
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