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Part.2
愛犬
しおりを挟む「いい子にしててね、行ってきます」
「ワン!」
紗友は郊外で一人暮らしをしている。
今年でもう27になり、本人としてはそろそろ縁談話の一つや二つ、
欲しいものだと思い始めている。
しかしそこまで真剣に結婚に対して向き合えないのには理由がある。
まだ、20代であるという安心と、彼女は家で1匹のダックスを飼っていたことだ。
ダックスの名前は、リク。
リクは、元々捨て犬であり、紗友によって道端で拾われた。
それが二年前のことである。
紗友はリクを溺愛しており、男が寄ってこない理由をリクのせいにしつつも、リクがいるなら結婚しなくてもいい、と本気で思っている。
リクは普通のダックスより一回り大きく、
いつもパンパンにお腹が膨れている。
少し不安になるのこともあるが、紗友は、エサの量を調節して対策をしていた。
その日もいつものように仕事に行き、クタクタになって帰ってきた。
最近リクの食が細い気がする。
少し高めのエサでも買ってあげようか。
いや、もしかしたら環境要因があるのかもしれない。
郊外とはいえ騒音もかなりの頻度であるし、
ここは7階建てマンションの7階だから気圧の関係とかもあるのだろうか。
しかも最近物音がすることが増えている。
主に風呂場の上からだ。
以前にも風呂場の写真をインスタにあげてフォロワーに聞いたが、
他の住人が風呂に入っている時の音だろうという結論に至った。
あまり酷いようなら上の階に話をしに行こうと思った。
生き物を飼うのは難しい。
その命の責任を私が負うのだ。
でも、こんなに可愛い生き物を飼わずにいられるだろうか、
いやいられない。
そうであるならば、
この小さくて可愛い生き物を立派に育てあげる母親として、
この子に恥じぬ生き方をせねば。
インターネットで犬のストレスに関して隅々まで調べあげ、できる限りの対策をし、明日のごはんは何にしようかなどと考えていた。
その時、ふとテレビの音量が急に上がり、ニュースの音が爆音で室内に響いた。
リクも驚いた様子でじたばたしていた。
焦るリクを宥めながら音量を元に戻した。
リモコンが見当たらないので少し恐怖を感じたが、
テレビ本体のボタンで操作することができた。
ニュースは相変わらず、この辺りで起きている空き巣被害についてだった。
ついこの間隣のマンションにも空き巣が入ったようで、
少し警戒はしていたが、そこまで気にすることもないだろうと思っていた。
テレビを消してソファに腰掛け、
日課であるインスタの更新をしようとした。
昨日は窓から見えた月の写真。
その前は朝外を覗いたら奇跡的に見えた富士山の写真。
基本景色ばっかり上げているがたまにリクも上げたりする。
そして結局、
リクの写真を載せて、
最近食の細いリクに何をあげたらいいか教えてください!
と書き込み、投稿した。
フォロワーは2000人ほど居るので、
直ぐに返信が来た。
「プロテイン」
プロテイン?
「プロテイン」「プロテイン」
「プロテイン」「プロテイン」
続々と謎のコメントが増えてきた。
フォロワー達はおそらくふざけているのだ。
こんな絡まれ方もまあ、悪くは無いなと思い、
コメント欄に「笑」とだけ書き込んでおいた。
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