愛と狂気のダンス

春巻翠

文字の大きさ
上 下
3 / 8
Part.2

愛犬

しおりを挟む


「いい子にしててね、行ってきます」

「ワン!」

紗友は郊外で一人暮らしをしている。
今年でもう27になり、本人としてはそろそろ縁談話の一つや二つ、
欲しいものだと思い始めている。

しかしそこまで真剣に結婚に対して向き合えないのには理由がある。
まだ、20代であるという安心と、彼女は家で1匹のダックスを飼っていたことだ。

ダックスの名前は、リク。
リクは、元々捨て犬であり、紗友によって道端で拾われた。
それが二年前のことである。

紗友はリクを溺愛しており、男が寄ってこない理由をリクのせいにしつつも、リクがいるなら結婚しなくてもいい、と本気で思っている。
リクは普通のダックスより一回り大きく、
いつもパンパンにお腹が膨れている。
少し不安になるのこともあるが、紗友は、エサの量を調節して対策をしていた。



その日もいつものように仕事に行き、クタクタになって帰ってきた。

最近リクの食が細い気がする。

少し高めのエサでも買ってあげようか。

いや、もしかしたら環境要因があるのかもしれない。

郊外とはいえ騒音もかなりの頻度であるし、
ここは7階建てマンションの7階だから気圧の関係とかもあるのだろうか。

しかも最近物音がすることが増えている。

主に風呂場の上からだ。
以前にも風呂場の写真をインスタにあげてフォロワーに聞いたが、

他の住人が風呂に入っている時の音だろうという結論に至った。

あまり酷いようなら上の階に話をしに行こうと思った。


生き物を飼うのは難しい。

その命の責任を私が負うのだ。

でも、こんなに可愛い生き物を飼わずにいられるだろうか、
いやいられない。

そうであるならば、
この小さくて可愛い生き物を立派に育てあげる母親として、
この子に恥じぬ生き方をせねば。

インターネットで犬のストレスに関して隅々まで調べあげ、できる限りの対策をし、明日のごはんは何にしようかなどと考えていた。

その時、ふとテレビの音量が急に上がり、ニュースの音が爆音で室内に響いた。

リクも驚いた様子でじたばたしていた。

焦るリクを宥めながら音量を元に戻した。

リモコンが見当たらないので少し恐怖を感じたが、
テレビ本体のボタンで操作することができた。

ニュースは相変わらず、この辺りで起きている空き巣被害についてだった。

ついこの間隣のマンションにも空き巣が入ったようで、
少し警戒はしていたが、そこまで気にすることもないだろうと思っていた。

テレビを消してソファに腰掛け、
日課であるインスタの更新をしようとした。

昨日は窓から見えた月の写真。
その前は朝外を覗いたら奇跡的に見えた富士山の写真。

基本景色ばっかり上げているがたまにリクも上げたりする。

そして結局、
リクの写真を載せて、

最近食の細いリクに何をあげたらいいか教えてください!

と書き込み、投稿した。

フォロワーは2000人ほど居るので、
直ぐに返信が来た。

「プロテイン」

プロテイン?

「プロテイン」「プロテイン」
「プロテイン」「プロテイン」

続々と謎のコメントが増えてきた。

フォロワー達はおそらくふざけているのだ。

こんな絡まれ方もまあ、悪くは無いなと思い、

コメント欄に「笑」とだけ書き込んでおいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

総理大臣の恐怖スピーチ

萌流球夜
ミステリー
 今日、僕は高校の卒業式に出席している。式が終わり、後は帰るだけという時に、なんと内閣総理大臣の鬼木紋太が現れた。一体なぜ彼はここに来たのか。通称「オニキモン」と呼ばれる狂った総理大臣は、いつものように奇怪な言動を連発した後、驚愕の真の目的を告げる。  この作品は最初にノベマ!に投稿しました。 第36回キャラクター短編小説コンテスト「予想外のラスト! 1万文字以下の超短編 第2弾」 (エントリー期間 2023年2月1日~2月28日13:00)に何かエントリーしたいなと思ったのが書いたきっかけでした。  また、ここに投稿する際に、1ヶ所だけ修正しています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

意味がわかるとえろい話

山本みんみ
ホラー
意味が分かれば下ネタに感じるかもしれない話です(意味深)

春の残骸

葛原そしお
ミステリー
 赤星杏奈。彼女と出会ったのは、私──西塚小夜子──が中学生の時だった。彼女は学年一の秀才、優等生で、誰よりも美しかった。最後に彼女を見たのは十年前、高校一年生の時。それ以来、彼女と会うことはなく、彼女のことを思い出すこともなくなっていった。  しかし偶然地元に帰省した際、彼女の近況を知ることとなる。精神を病み、実家に引きこもっているとのこと。そこで私は見る影もなくなった現在の彼女と再会し、悲惨な状況に身を置く彼女を引き取ることに決める。  共同生活を始めて一ヶ月、落ち着いてきたころ、私は奇妙な夢を見た。それは過去の、中学二年の始業式の夢で、当時の彼女が現れた。私は思わず彼女に告白してしまった。それはただの夢だと思っていたが、本来知らないはずの彼女のアドレスや、身に覚えのない記憶が私の中にあった。  あの夢は私が忘れていた記憶なのか。あるいは夢の中の行動が過去を変え、現実を改変するのか。そしてなぜこんな夢を見るのか、現象が起きたのか。そしてこの現象に、私の死が関わっているらしい。  私はその謎を解くことに興味はない。ただ彼女を、杏奈を救うために、この現象を利用することに決めた。

グレイマンションの謎

葉羽
ミステリー
東京の郊外にひっそりと佇む古びた洋館「グレイマンション」。その家には、何代にもわたる名家の歴史と共に、数々の怪奇現象が語り継がれてきた。主人公の神藤葉羽(しんどう はね)は、推理小説を愛する高校生。彼は、ある夏の日、幼馴染の望月彩由美(もちづき あゆみ)と共に、その洋館を訪れることになる。 二人は、グレイマンションにまつわる伝説や噂を確かめるために、館内を探索する。しかし、次第に彼らは奇妙な現象や不気味な出来事に巻き込まれていく。失踪した家族の影がちらつく中、葉羽は自らの推理力を駆使して真相に迫る。果たして、彼らはこの洋館の秘密を解き明かすことができるのか?

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

処理中です...