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6 喜びと悲しみと
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「世界最強の、魔導師……?」
わたしは頭を反らし、ルーフェイと名乗った青年をジト目で眺めた。
自分で「世界最強」とかいっちゃう男は、十中八九、救いようのない馬鹿か、ただの詐欺師だ。
でも、ルーフェイの、深い知性に満ちた穏やかな眼差しは、そのどちらでもない可能性をわたしに感じさせた。
「……そんなすごい人が、このわたしに何の用? それに、どうしてわたしの素性を知ってるの?」
「そうだね……まずは、ふたつ目の質問から答えるとしよう」
ルーフェイは、真面目な顔でいった。
「僕が君のことを知っているのは、僕が君のお父上から君の捜索をまかされた人間だからだ」
「っ!? お父様がっ?」
わたしは、思わず声を弾ませた。
そうか……、そうだったのか……。
お父様はこれまでずっと、わたしのことを探し続けてくれていたんだ……。
王国の人間すべてに裏切られたと思っていたけれど、お父様だけは、わたしを見捨ててはいなかった。わたしのことを、いまも昔と変わらず愛してくれている……。
ああ、ごめんなさい、お父様……。たとえ一時でも、あなたの愛をうたがった愚かな娘を、どうか、どうかお許しください……っ。
「君が王宮から失踪してすぐ、君のお父上は僕のところへ使いを寄こしたんだ。僕は彼に大きな借りがあったから、娘を救って欲しい、という彼の願いを快く引き受けた。けれど、君を探すのは思ったよりずっと難しかった。敵も用意周到でね、さまざまな痕跡をうまく消していたから、君がこの町にいることを突き止めるのに、ずいぶん時間がかかってしまった」
「そうだったの……」
わたしは、目から大粒の涙がぽろぽろこぼしながら、うなずいた。
「わたしは、まだ自分のことを探し続けてくれている人がいるなんて、思ってもみなかったわ。もう永遠に助けなんか来ない、とあきらめていたの……。だから、いっそのこと、もう死んじゃおうか、なんて……」
「手遅れにならなくてよかったよ」
「ああっ、はやくお父様に会いたい! お父様に思いきり抱きしめてほしいっ!」
わたしが泣き笑いしながらいうと、ルーフェイは、なぜかつらそうに視線を落とした。
「エメリア……。それは、無理だ」
「えっ?」
「君のお父上は、七日前に亡くなっている」
ルーフェイの言葉を聞いた瞬間、あたたかな光が差しはじめていたわたしの世界は、ふたたび真っ暗になった。
「うそ……でしょう……?」
「嘘じゃない」
ルーフェイは、向かいの壁をにらみながらいった。
「七日前の夜、領内の森の中でイノシシに襲われたという話だ。だが、たぶんそれは真実じゃない。僕は、君をここへ送り込んだのと同じ人間が、お父上を暗殺したんだと考えている」
「そんなっ、ど、どうしてお父様が!?」
「それは……まだわからない。ただ、君のお父上は、君を探し出すために全財産を投げうつ覚悟だったから、敵はそれを目障りに思ったのかもしれない。僕がいなくても、そのうちお父上はきっと君を見つけていたと思うからね」
「そんなっ……そんなことで……っ」
わたしは、顔を両手でおおって泣き崩れた。
わたしは頭を反らし、ルーフェイと名乗った青年をジト目で眺めた。
自分で「世界最強」とかいっちゃう男は、十中八九、救いようのない馬鹿か、ただの詐欺師だ。
でも、ルーフェイの、深い知性に満ちた穏やかな眼差しは、そのどちらでもない可能性をわたしに感じさせた。
「……そんなすごい人が、このわたしに何の用? それに、どうしてわたしの素性を知ってるの?」
「そうだね……まずは、ふたつ目の質問から答えるとしよう」
ルーフェイは、真面目な顔でいった。
「僕が君のことを知っているのは、僕が君のお父上から君の捜索をまかされた人間だからだ」
「っ!? お父様がっ?」
わたしは、思わず声を弾ませた。
そうか……、そうだったのか……。
お父様はこれまでずっと、わたしのことを探し続けてくれていたんだ……。
王国の人間すべてに裏切られたと思っていたけれど、お父様だけは、わたしを見捨ててはいなかった。わたしのことを、いまも昔と変わらず愛してくれている……。
ああ、ごめんなさい、お父様……。たとえ一時でも、あなたの愛をうたがった愚かな娘を、どうか、どうかお許しください……っ。
「君が王宮から失踪してすぐ、君のお父上は僕のところへ使いを寄こしたんだ。僕は彼に大きな借りがあったから、娘を救って欲しい、という彼の願いを快く引き受けた。けれど、君を探すのは思ったよりずっと難しかった。敵も用意周到でね、さまざまな痕跡をうまく消していたから、君がこの町にいることを突き止めるのに、ずいぶん時間がかかってしまった」
「そうだったの……」
わたしは、目から大粒の涙がぽろぽろこぼしながら、うなずいた。
「わたしは、まだ自分のことを探し続けてくれている人がいるなんて、思ってもみなかったわ。もう永遠に助けなんか来ない、とあきらめていたの……。だから、いっそのこと、もう死んじゃおうか、なんて……」
「手遅れにならなくてよかったよ」
「ああっ、はやくお父様に会いたい! お父様に思いきり抱きしめてほしいっ!」
わたしが泣き笑いしながらいうと、ルーフェイは、なぜかつらそうに視線を落とした。
「エメリア……。それは、無理だ」
「えっ?」
「君のお父上は、七日前に亡くなっている」
ルーフェイの言葉を聞いた瞬間、あたたかな光が差しはじめていたわたしの世界は、ふたたび真っ暗になった。
「うそ……でしょう……?」
「嘘じゃない」
ルーフェイは、向かいの壁をにらみながらいった。
「七日前の夜、領内の森の中でイノシシに襲われたという話だ。だが、たぶんそれは真実じゃない。僕は、君をここへ送り込んだのと同じ人間が、お父上を暗殺したんだと考えている」
「そんなっ、ど、どうしてお父様が!?」
「それは……まだわからない。ただ、君のお父上は、君を探し出すために全財産を投げうつ覚悟だったから、敵はそれを目障りに思ったのかもしれない。僕がいなくても、そのうちお父上はきっと君を見つけていたと思うからね」
「そんなっ……そんなことで……っ」
わたしは、顔を両手でおおって泣き崩れた。
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