上 下
6 / 22

6 喜びと悲しみと

しおりを挟む
「世界最強の、魔導師……?」

 わたしは頭を反らし、ルーフェイと名乗った青年をジト目で眺めた。

 自分で「世界最強」とかいっちゃう男は、十中八九、救いようのない馬鹿か、ただの詐欺師だ。

 でも、ルーフェイの、深い知性に満ちた穏やかな眼差しは、そのどちらでもない可能性をわたしに感じさせた。

「……そんなすごい人が、このわたしに何の用? それに、どうしてわたしの素性を知ってるの?」
「そうだね……まずは、ふたつ目の質問から答えるとしよう」

 ルーフェイは、真面目な顔でいった。

「僕が君のことを知っているのは、僕が君のお父上から君の捜索をまかされた人間だからだ」
「っ!? お父様がっ?」

 わたしは、思わず声を弾ませた。

 そうか……、そうだったのか……。

 お父様はこれまでずっと、わたしのことを探し続けてくれていたんだ……。
 
 王国の人間すべてに裏切られたと思っていたけれど、お父様だけは、わたしを見捨ててはいなかった。わたしのことを、いまも昔と変わらず愛してくれている……。

 ああ、ごめんなさい、お父様……。たとえ一時でも、あなたの愛をうたがった愚かな娘を、どうか、どうかお許しください……っ。

「君が王宮から失踪してすぐ、君のお父上は僕のところへ使いを寄こしたんだ。僕は彼に大きな借りがあったから、娘を救って欲しい、という彼の願いを快く引き受けた。けれど、君を探すのは思ったよりずっと難しかった。敵も用意周到でね、さまざまな痕跡をうまく消していたから、君がこの町にいることを突き止めるのに、ずいぶん時間がかかってしまった」
「そうだったの……」

 わたしは、目から大粒の涙がぽろぽろこぼしながら、うなずいた。

「わたしは、まだ自分のことを探し続けてくれている人がいるなんて、思ってもみなかったわ。もう永遠に助けなんか来ない、とあきらめていたの……。だから、いっそのこと、もう死んじゃおうか、なんて……」
「手遅れにならなくてよかったよ」
「ああっ、はやくお父様に会いたい! お父様に思いきり抱きしめてほしいっ!」

 わたしが泣き笑いしながらいうと、ルーフェイは、なぜかつらそうに視線を落とした。

「エメリア……。それは、無理だ」
「えっ?」
「君のお父上は、七日前に亡くなっている」

 ルーフェイの言葉を聞いた瞬間、あたたかな光が差しはじめていたわたしの世界は、ふたたび真っ暗になった。

「うそ……でしょう……?」
「嘘じゃない」

 ルーフェイは、向かいの壁をにらみながらいった。

「七日前の夜、領内の森の中でイノシシに襲われたという話だ。だが、たぶんそれは真実じゃない。僕は、君をここへ送り込んだのと同じ人間が、お父上を暗殺したんだと考えている」
「そんなっ、ど、どうしてお父様が!?」
「それは……まだわからない。ただ、君のお父上は、君を探し出すために全財産を投げうつ覚悟だったから、敵はそれを目障りに思ったのかもしれない。僕がいなくても、そのうちお父上はきっと君を見つけていたと思うからね」
「そんなっ……そんなことで……っ」

 わたしは、顔を両手でおおって泣き崩れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女の朝の身支度

sleepingangel02
恋愛
政略結婚で愛のない夫婦。夫の国王は,何人もの側室がいて,王女はないがしろ。それどころか,王女担当まで用意する始末。さて,その行方は?

《R18短編》優しい婚約者の素顔

あみにあ
恋愛
私の婚約者は、ずっと昔からお兄様と慕っていた彼。 優しくて、面白くて、頼りになって、甘えさせてくれるお兄様が好き。 それに文武両道、品行方正、眉目秀麗、令嬢たちのあこがれの存在。 そんなお兄様と婚約出来て、不平不満なんてあるはずない。 そうわかっているはずなのに、結婚が近づくにつれて何だか胸がモヤモヤするの。 そんな暗い気持ちの正体を教えてくれたのは―――――。 ※6000字程度で、サクサクと読める短編小説です。 ※無理矢理な描写がございます、苦手な方はご注意下さい。

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

夫には愛人がいたみたいです

杉本凪咲
恋愛
彼女は開口一番に言った。 私の夫の愛人だと。

幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。 ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。

処理中です...