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4 来訪者
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そして――、今に至る。
いまのわたしは、モウラム王国の港町デンにある風俗街ではたらく性奴隷。
マーノは、この業界ではまだマシな方の経営者だから、いちおう給料は出してくれてる。
でも、寮という名の監獄の家賃を払って、最低限の食料を買ったら、もうほとんど残らない。
スズメの涙ほどのお金を毎月コツコツためて平民の身分を買おうと思ったら、それこそわたしはヨボヨボのおばあちゃんになってしまう。
そんな齢になるまで生きていられる性奴隷は、この町にひとりもいない。
つまり、わたしは、ここで死ぬまで男たちの性処理をしなくちゃならないってこと。
あらためて、そんな自分の運命を直視したら、やっぱり死にたくなってきた。
そういえば、この前、同僚のメイランが、まったく苦しむことなく素敵な夢を見ながら眠ったまま死ねるクスリがある、といっていた。
裏通りにいるモグリの医者から買えるらしい。
値段は、ここの給料の一カ月分。そのくらいなら、がんばれば、なんとか貯められる。
いっそのこと、そのクスリを飲んで、このクソみたいな人生をさっさと終わらせるのも悪くないか――、わたしがそんなことを考えて、ひとりでみじめに笑った時、ふいにコンコン、と部屋のドアが叩かれた。
「エメリア、次の客だ。もういけるか?」
マーノの低い声を聞いたわたしは、あわてて床から立ちあがった。
「あ、はい。だいじょうぶです……」
「よし。はじめて来た、若い客だ。やさしくしてやれ」
マーノの重い足音が遠ざかっていくと、かわりにべつの、とても軽やかな気持ちの良い足音が近づいてきた。
客を迎える時にはちゃんと服を着る決まりだったが、わたしは面倒だったので全裸のままドアを開けた。
「入って」
そっけなく言って、なにげなく相手の顔をみた瞬間――、わたしは固まった。
部屋の前に立っていたのは、濃い緑色のローブに身を包んだ、信じられないような美青年だった。
「……っ!」
わたしは、反射的に両腕で胸を隠してしまい、そんな自分をとんでもない馬鹿だと思った。
客にカラダを見られて恥ずかしがる性奴隷なんて、笑い話にもならない。
青年は、長い睫毛にふちどられたサファイア色の眼を細めて微笑み、見た目からイメージした通りの涼やかな声でいった。
「入ってもいいかな?」
「あ、うん……」
わたしは、あいかわらず胸を隠したまま、彼を部屋に招き入れた。
物珍しそうに狭い部屋を見回す青年の後ろで、わたしはそっと深呼吸をしてなんとか気持ちを落ち着け、仕事モードに入った。
「……手と口と、どっちでしてほしい? 時間内にもう一回できるようだったら、両方やってあげるけど」
青年はこちらを振り返って、軽く肩をすくめた。
「その前に、ちょっと話をしよう。時間は、たっぷりあるんだからさ」
いまのわたしは、モウラム王国の港町デンにある風俗街ではたらく性奴隷。
マーノは、この業界ではまだマシな方の経営者だから、いちおう給料は出してくれてる。
でも、寮という名の監獄の家賃を払って、最低限の食料を買ったら、もうほとんど残らない。
スズメの涙ほどのお金を毎月コツコツためて平民の身分を買おうと思ったら、それこそわたしはヨボヨボのおばあちゃんになってしまう。
そんな齢になるまで生きていられる性奴隷は、この町にひとりもいない。
つまり、わたしは、ここで死ぬまで男たちの性処理をしなくちゃならないってこと。
あらためて、そんな自分の運命を直視したら、やっぱり死にたくなってきた。
そういえば、この前、同僚のメイランが、まったく苦しむことなく素敵な夢を見ながら眠ったまま死ねるクスリがある、といっていた。
裏通りにいるモグリの医者から買えるらしい。
値段は、ここの給料の一カ月分。そのくらいなら、がんばれば、なんとか貯められる。
いっそのこと、そのクスリを飲んで、このクソみたいな人生をさっさと終わらせるのも悪くないか――、わたしがそんなことを考えて、ひとりでみじめに笑った時、ふいにコンコン、と部屋のドアが叩かれた。
「エメリア、次の客だ。もういけるか?」
マーノの低い声を聞いたわたしは、あわてて床から立ちあがった。
「あ、はい。だいじょうぶです……」
「よし。はじめて来た、若い客だ。やさしくしてやれ」
マーノの重い足音が遠ざかっていくと、かわりにべつの、とても軽やかな気持ちの良い足音が近づいてきた。
客を迎える時にはちゃんと服を着る決まりだったが、わたしは面倒だったので全裸のままドアを開けた。
「入って」
そっけなく言って、なにげなく相手の顔をみた瞬間――、わたしは固まった。
部屋の前に立っていたのは、濃い緑色のローブに身を包んだ、信じられないような美青年だった。
「……っ!」
わたしは、反射的に両腕で胸を隠してしまい、そんな自分をとんでもない馬鹿だと思った。
客にカラダを見られて恥ずかしがる性奴隷なんて、笑い話にもならない。
青年は、長い睫毛にふちどられたサファイア色の眼を細めて微笑み、見た目からイメージした通りの涼やかな声でいった。
「入ってもいいかな?」
「あ、うん……」
わたしは、あいかわらず胸を隠したまま、彼を部屋に招き入れた。
物珍しそうに狭い部屋を見回す青年の後ろで、わたしはそっと深呼吸をしてなんとか気持ちを落ち着け、仕事モードに入った。
「……手と口と、どっちでしてほしい? 時間内にもう一回できるようだったら、両方やってあげるけど」
青年はこちらを振り返って、軽く肩をすくめた。
「その前に、ちょっと話をしよう。時間は、たっぷりあるんだからさ」
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