君だけに捧ぐメロディ【高校生天才作曲家の俺が夢破れて売り専ボーイになり同じ境遇のイケメンと本気で恋をしちゃう迄の物語】

如月緋衣名

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第四話

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 今日は夏樹が家にちゃんと帰れた記念飲み会で、前にきた居酒屋に来ている。
 面子は俺の夏樹とナオとゆきちゃん。ついこの間なら想像出来ない面子である。
 取り敢えずあの後、夏樹は無事に家に帰った。
 身体を売るという真似はもうしない事を条件に、音楽をする許可は手に入れたそうだ。
 
 
 けれど俺も夏樹も音楽さえ手に入れば、快楽を過剰に求める必要は余り無い。
 あれはやっぱり音楽の代替え行為だったと、ビールを口に含ませながら思う。
  
 
「良かったね夏樹君!!色々落ち付いて!!!」
 
 
 ゆきちゃんがそう言いながら、安心した表情を浮かべる。その隣にはほんの少しだけ照れ臭そうなナオがいた。
 余り気に留めていなかったけれど、この二人の距離が前よりほんの少し近い気がする。
 何となく今の二人の関係は良好そうだ。これは多分、付き合うのも時間の問題なんじゃないだろうか。
 そういえば夏樹が家にちゃんと帰った次の日に、マコとカナちゃんが付き合いだしたと一報が入る。
 みんなこぞって春を迎えやがってと、心の中でほくそ笑んだ。
 
 
「いやー、御心配お掛け致しました!!」
 
 
 そう言いながら頭を下げる夏樹を横目に、テーブルの下で指を絡ませる。
 すると夏樹がほんの少しだけ照れ臭そうに俺を見た。
 今日も俺の恋人がとても愛くるしくて、意地悪したい気持ちに駆られる。
 夏樹とこうなってから自覚したことだか、どうやら俺は人より独占欲が強かったようだ。
 こうして時折ちょっかいを掛けて、無理矢理その視線を自分に向けたくなってしまう。
 
 
「ホント良かったよ……ナオ君と滅茶苦茶心配したんだよね!!ねー?」
「なー本当に。でも、俺の予想通りやっぱり悠の家にいたろ??」
 
 
 お互いに見つめ合いながら笑い合う二人を、夏樹と二人で眺めている。
 その間も俺はこっそりと、夏樹の手のひらにちょっかいを掛けていた。
 困る夏樹に笑いかけた瞬間、自分の携帯のバイブが鳴り響く。
 携帯を開いてみれば、其処には榊さんからのメッセージが来ていた。
 
 
『お前も店辞めたって聞いたけど、無事か?』
 
 
 ああ、そういえば榊さんにはまだ連絡を入れていなかった。辺りをキョロキョロ見回して、榊さんへの返事を打ち込む。
 流石にこの内容を人に見られるのは厄介だ。
 
 
『無事。榊さんにはちゃんと伝えておくけど、お陰様で夏樹と付き合う事になりました』
 
 
 そう一言返信を返せば、すぐに返事が返って来る。その内容は(笑)というスタンプ一個だけだった。
 (笑)って!!!(笑)ってなんだよ!!(笑)って!!!!
 
 
 そう思いながらクスっと笑えば、俺の携帯電話がまた鳴り響く。
 今日は自棄に忙しい日だ。こぞって皆が連絡をくれる。
 それに動画についたコメントも激しくて、ひっきりなしに携帯を見ている気がした。
 
 
 有難い話だが昔の俺のバズ経験もあってか、チャンネルの登録件数は目標は上回ったのだ。
 ABANDNNEのチャンネルのコメント欄は、今のところ『お帰りなさい』のラッシュである。
 正直もう忘れられているとさえ思っていた俺達は、結構今感動していた。
 暖かく迎えられながら、華々しくまたこの世界に返り咲いたのだ。
 
 
 携帯に表示された名前は『高瀬翔太』つまり、うちの兄貴。昼間に復活したことを告げたばかりだ。
 また音楽を始めたと、だからこれからも見守って欲しいとメッセージを送る。
 きっとそれを見てくれたのだと思った。
 慌てて通話ボタンを押して個室から出る。すると慣れた声が響いてきた。
 
 
『お疲れ様。さっき新しい曲聴いた。良いじゃん』
「……ありがと兄貴」
 
 
 個室の前に立ち、兄貴の言葉に返事を返す。ちゃんと観ていてくれたことが心から嬉しい。
 耳がそれなりに肥えている兄に誉められることは、とても誇らしいことだと思う。
 
 
『お前がまた音楽できて良かったよ。てか良いヴォーカル捕まえたじゃん』
「ああ、良いでしょ?あの人の歌あってこそ生きるでしょ?俺の曲!」
 
 
 夏樹の歌声が誉められることは、自分が誉められるみたいに嬉しい。
 彼に出逢って俺の人生は一瞬にして世界が変わった。
 夏樹は今や俺の全てだと云っても過言じゃない。
 すると兄貴がある事を言い出した。
 
 
『結構有名な配信者のKATOって人がいるんだけど、お前等の曲そういえば動画で紹介してたよ。さっき。
URL送るから見ろよ』
 
 
 そういえば最近の動画の配信者に関して、俺は余り詳しくない。
 自分達がその世界に戻るのであれば、ちゃんと勉強しておく価値がある。
 
 
「え、それどんな人?教えて?」
『あー、なんか時々目茶苦茶エモい話してくれるゲイのオッサン。超人気。今おくった』
「へぇ、どれどれ?」
 
 
 兄貴が送ってきた画像と動画のURLを確認する。
 すると其処に映されたのは、どっからどうみても元常連客の加藤さんだった。
 今日上げられた動画のタイトルは『失恋した時に元気になるおススメ音楽』である。その失恋の相手というのは、間違いなく俺の事に違いない。
 
 
「…………何してんの!?この人!?」
 
 
 思わず大声を出して笑えば、動画の中身の話だと勘違いした兄貴が笑う。
 
 
『なー、最近の配信者ってほんと色々やるよな!目茶苦茶トンでもないことしてるよ!』
 
 
 受話器の向こうで苦笑いを浮かべながら、言葉を濁して目を泳がす。すると俺の携帯がいきなり、けたたましく鳴り響いた。
 何通も何通も連続して送られてくるメールの音に、電話がいきなりしづらくなる。
 不思議に思って通知を確認すれば、その全てが動画サイトのコメントだった。
 
 
 …………待ってこれ、バズってない?!?!えっ、加藤さん滅茶苦茶凄くない!?!?
 
 
「ちょ………ちょっと兄貴ごめん!!俺、電話切る!!!!なんかバズったっぽい!?!?!?」
『は!?嘘マジで!?!?やばくない!?!?すげぇ!?!?!?母さん!!母さん大変!!悠哉がバズったかも!!』
 
 
 受話器の向こうから兄貴が騒ぐ声が響く。その後ろでどうやら母さんらしい悲鳴が聞こえる。
 慌てて電話を切ってから、個室の扉を開いて叫ぶ。その間も俺の携帯電話はけたたましく鳴り響いていた。
 まるで携帯が何か違う生き物の様に蠢いている。
 
 
「夏樹!!ちょっと動画見て!!多分バズってる………!!!」
 
 
 俺の叫びを聞いた部屋にいる三人が、目を丸くする。ナオとゆきちゃんは首を傾げ、夏樹は目を見開いて携帯を開いた。
 物凄く変な汗が体中から溢れ出し、なんだか物凄く喉が渇く。
 すると携帯画面を開いた夏樹が、今にも泣き出しそうな表情を浮かべて俺に向かって飛んできた。
 
 
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!!」
 
 
 大声を出して飛んできた夏樹を受け止めれば、俺は後ろにあった壁に頭をぶつける。
 鈍い痛みを感じながら転げ落ちた時、これは夢じゃないんだろうと思った。
 挙句の果てに夏樹の奴は、周りの目を全く気にせず俺の頬にキスを繰り返す。
 俺はそれを冗談っぽく受け流しながら、夏樹の身体を抱きしめた。
 
 
「やったな俺たち………!!!」
 
 
 俺がそう言って微笑めば、俺に乗り上げた夏樹が笑う。夏樹の笑みは感極まっていた。
 
 
「うん………!!!やった………!!俺たちやったね………!!!」
 
 
 そう言いながら夏樹がボロボロ泣き始めて、俺は思わず吹き出す。
 一度は諦めていたものだからこそ、こうしていい形で結果が出ると嬉しいなんてもんじゃない。
 最早この状態の言葉を言い表せるものなんて、この世に無いと思える位に幸せだ。
 
 
「えー??何二人滅茶苦茶嬉しそうじゃん??なんかあったの??」
 
 ナオがそう問いかけてきたのに向かい、俺と夏樹が満面の笑みを浮かべる。
 
 
「長年の夢が叶ったの!!」
 
 
 全く同じタイミングに同じ言葉を口にしながら、俺たちは笑い合う。それから二人でハイタッチをして見せた。
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