君だけに捧ぐメロディ【高校生天才作曲家の俺が夢破れて売り専ボーイになり同じ境遇のイケメンと本気で恋をしちゃう迄の物語】

如月緋衣名

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第三話

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 手に取るように夏樹の顔が人見知りのモード全開になっているのを、見ないふりをしてビールを煽る。
 完全個室の居酒屋に八人。四対四の合コン形式の飲み会の席順は、男子の脇に女子が入る形になっていた。
 俺の隣にはボブヘアーの女の子。さっき名前は聞いたけどもう既に忘れている。そして夏樹の隣には、案の定ゆきちゃんがいた。
 
 
 もう既に夏樹の表情が死にかけているのを察知している。けれど今はそれを見て見ぬふりを続けなければいけない。
 そんな中で黒髪ロングヘアの声が甲高い女の子が、猫を被った笑みを浮かべて夏樹に問いかけた。
 
 
「夏樹君ホント美人だよねぇ……女の子より肌とか髪とか綺麗なんじゃない??」
「ああ、まぁ、それなりに気は使ってるから」
 
 
 件のゆきちゃんのお友達に対し、ややぶっきらぼうに返事を返す。
 というか女の子との会話に、夏樹は全然慣れてない。その様を横目に見ながら、それじゃ駄目だろうと心から思う。
 これじゃあそもそも、友達もまともに作れないんじゃなかろうか。
 
 
 黒髪ロングの女の子の隣には、ナオが座っている。ナオと夏樹に挟まれるようにゆきちゃんは座っていた。
 この時にナオはやっぱりゆきちゃんが気がかりで、此処に来てしまったんだろうと思う。
 俺は色々な事が心配で気が気じゃなかった。
 
 
「………夏樹君お手入れとか何使っているの?」
 
 
 ゆきちゃんが懸命に夏樹に話しかける。
 するとゆきちゃんの方には一切目をくれず、携帯を弄りながら話し出した。
 
 
「化粧水とかは此処の化粧品メーカーの使ってる」
 
 
 携帯の画面を開いてそれを見せた瞬間、ゆきちゃんが目を見開く。
 それからオドオドと夏樹に向かってこう言った。
 
 
「え……この化粧水、すごく高いところのじゃない……??」
 
 
 その場にいる女の子たちの空気が固まるのを垣間見ながら、俺は思わずタッチパネルでビールの追加を頼む。
 自分たちよりいい化粧水を使っている美しい男なんて、最早存在自体がマウントだ。
 
 
 それでも恋は盲目とでもいうのだろうか、そんな夏樹に尊敬の眼差しをゆきちゃんは送っていた。
 ビールを更に煽りながら、心の底でこう思う。普通なら其処は退いて許されるところだろう。
 
 
「…………えー、夏樹君意識高いねー!!素敵!!」
 
 
 女の子から気遣いの声が上がるのを横目に、夏樹が静かにウーロン茶に口を付ける。
 この時にもう既に夏樹が機嫌が悪いを通り過ぎ、怒りのベクトルに向いているのは勘付いていた。
 最早この状態は胃が痛い。居心地の悪さが手に取るように解る。
 ふとナオの方に目を向ければ、夏樹より不機嫌そうな空気を醸し出している。
 ナオが夏樹を一瞥したかと思うと、小さな声で呟いた。
 
 
「化粧品とか気遣いしてるって、オカマみたい」
 
 
 夏樹は今とても、気分が悪いに違いない。
 それを聞いていないフリを続けながら、タッチパネルで何かを注文している。
 するとすぐにテーブルにビールが運ばれてきた。正直俺の心配な気持ちは天元突破だ。
 思わずマコに助けを求めようと視線を送れば、件のカナちゃんと笑い合っているではないか。
 これは駄目だ、一切誰も役に立たないと思っていた。
 
 
「…………夏樹、お前酔うと面倒くさいから、ペース気をつけろ」
 
 
 痺れを切らせて言葉に出せば、俺に叱られると思ったのかしおらしく夏樹が嘆く。
 
 
「だいじょーぶ、これだけにするから………」
 
 
 俺の隣に座っているボブヘアーの女の子が、俺にキラキラした視線を送ってくる。
 この時に俺は直感で、彼女にロックオンされたことに気が付いた。
 
 
「え……高瀬さんって優しいんですね!!」
 
 
 こう言われた瞬間に物凄く嫌な感覚が走る。
 自分が完全に女性に興味が無いからなのか、こういう欲の孕んだ視線を女性に送られるのは苦手だ。
 この時にこんな合コンまがいの飲み会に、参加しなければ良かったとさえ思う。
 
 
「………いや、別にそういうんじゃないよ。ただ、夏樹の酔い方は俺一番解ってるから」
 
 
 適度に当たり障りなく躱した瞬間、俺の携帯が鳴り響く。
 不思議に思ってそれを開けば、マコからこっそりラインが来ていた。
 
 
『今日、ゆきちゃん夏樹君に告白するつもりらしいから、二人っきりにさせたい。
ちょっと席外してもらっていい?』
 
 
 そのメッセージを見た瞬間に、俺の全身から血の気が引く。
 これでは友達作りにきたというよりかは、敵を作りに来たようなものである。
 慌ててメッセージの返信を打ち込もうとすれば、ナオがまず舌打ちをして外に出て行った。
 
 
 もしかして告白すること、今ナオ知ってるの?流石にそれは気持ちを試し過ぎてはいないだろうかと、思わずマコの方を見る。
 その後すぐに黒髪ロングの女の子が、わざとらしくこう言った。
 
 
「ごめん!!ちょっと私電話しなきゃ!!」
 
 
 そう言いながらバタバタと彼女も部屋から出て行く。それに続いてマコが立ち上がった。
 
 
「俺もカナちゃんとちょっと煙草吸ってくる」
 
 
 ………いや、お前煙草なんて、俺たちの前で吸った事無かったろ。流石にその嘘は少しだけ苦しいものがある。
 颯爽と個室から出て行こうとするマコとカナちゃんを追いかけて、俺は外に出た。
 
 
「まってマコ!!ちょっと話したい!!!」
 
 
 外にでた人間は全員、喫煙所の方に向かう。その中では既にナオが暗い表情を浮かべて煙草を吸っている。
 喫煙所の扉を開くと、ほくほくした笑みを浮かべたマコと目が合った。
 
 
「なぁマコ……!!流石に告白早すぎねぇか……??」
 
 
 俺がそう言い出せば、俺の後を追ってきたボブヘアーの女の子がクスクスと笑う。
 しなを作ってから俺の顔を覗き込んだ。
 
 
「でも高瀬さん、あの二人が上手くいったら、夏樹君の世話係しなくていいんじゃない?
なんか夏樹君って、実際会ってみたら気難しそうだなって思っちゃった」
 
 
 そう言われた瞬間に胸がずきりと痛む。世話係ってなんだよ。そんな風に思われてるのは心外だ。
 それにまだたった一度しか会った事のない人の事を、こんな風に言える神経がしれない。
 するとそれに重ねて、ロングヘアーの女の子も口を開く。
 
 
「……だよね。なんかゆきがずっと好きだった男、どんな男か期待してたけど……お高く留まってて嫌かも」
 
 
 悪口大会を始める女の子たちを横目に、体中に寒気が走る。この時に俺は心底彼女たちが気持ち悪いと思った。
 そういってケラケラ笑う女の子を横目に、ナオが煙草を吸い上げる。
 その光景を見ていれば俺の中で何かが壊れた。
 
 
「……いや待って。アンタら今日夏樹にあったばかりだろ?それになんで夏樹と仲のいい俺の前で、そんな風に貶せんの?」
 
 
 思わずそう言い放った瞬間に、女二人の表情が凍り付く。
 何にも夏樹の事なんて解らない癖に、なんでお前らは俺にそんなことが言えるんだ。
 夏樹の事を見ようともしてないヤツに、夏樹を貶す権利なんて無い。
 
 
「や、ちょっと待って……落ち着いてよ悠……!!」
 
 俺とバカ女二人の間にマコが入り、物凄く焦った表情を浮かべる。
 マコの顔を立てて、已む負えず口を噤み黙り込む。俺たちがいる喫煙コーナーは今、とても空気が悪い。
 感情的になった俺を初めてみたナオが、手からポロリと煙草を落とす。
 此処に居るのも気分が悪いと思った瞬間、喫煙コーナーの扉が開いた。
 扉目掛けて振り返れば、其処には夏樹が立っている。その顔は一切笑っていなかった。
 
 
「ねぇ………これ、何の茶番?」
 
 
 そう言いながらマコの方を一瞥し、それからナオの方に目をやる。
 今にも泣きそうな表情を浮かべた夏樹が、ナオに向かってこう言った。
 
 
「………ねぇ、煙草一本頂戴」
 
 
 そう言いながらナオに手を伸ばした夏樹は、物凄く威圧感がある。
 ナオは完全に夏樹に気圧されたままで、震える指で煙草を手渡した。慣れた様子で煙草を口に咥えれば、ナオがライターで火を付ける。
 煙草の煙をナオの顔目掛けて吹き付ければ、夏樹がこう囁いた。
 
 
「あの子の事さっき振って今滅茶苦茶泣いてるから、行ってあげてよ。君あの子と仲いいでしょ?」
 
 
 ナオが目を見開いて喫煙所から飛び出した後、それを追いかけるかの様にマコもカナちゃんもバカ女二人も走ってゆく。
 煙草を吸っている夏樹と、俺だけが其処には残された。
 
 
「ねー悠哉。俺友達も上手に作れないみたい」
 
 
 夏樹はそう言いながら、俺に背を向けて煙草の煙を揺らしていた。
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