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第四話 ぴったり
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「この服をさ、君に着て欲しいんだ」
風俗店で働く彼女は、何時も可愛らしい服をもってくる男性のリクエストに応えていた。
今日のリクエストはタイトなスカートに白いセーター。愛らしいデザインのブーツ。
ほんの少しだけ使用感を感じられる服な事だけは気になるが、彼は彼女に着替えをさせる以外何もしない。
彼が持ってくる服は、恐ろしい程に彼女の身体にぴったりだ。
まるで彼女の為に作られたかのように、彼女の身体に合っている。
それにとても彼は紳士で、金の払いも良かった。
「………どうですか?似合ってますか??」
「よく似合っているよ!!君にとってもぴったりだ!!」
目の前で一回転して見せれば手を叩いて彼は喜ぶ。
そしてその服装の儘で、彼は彼女と手を繋いで会話だけして帰るのだ。
彼女は彼がとても大好きで、彼が来るのを心待ちにしていた。
月に一回顔を出してくれる彼の存在は、普段身体を売る彼女には一種の癒しの様なものだ。
彼を見送り清算を終わらせれば、店のボーイが彼女が居る部屋にやってくる。
そして眉を顰めた気難しい表情を浮かべ、彼はこう囁いた。
「…………君の事を指名しにくる、あの男の人どっかで見た事あるんだよな」
彼女はこの時に、余り彼の言葉を気に留めてはいなかった。
他人の空似だってあるだろうし、そんな事を言っているのはキリが無い。
「ふぅん」
彼女はボーイの言葉を流し、帰宅の準備を始める。
けれどその真相が解ったのは、それから暫く経ってからだった。
男は何時も通りに彼女に逢いにきて、自分が選んだ服を着せる。
けれどこの日彼が選んできた服は、真っ黒なレースのワンピースだった。
それに真っ黒なハイヒールとパールのネックレス。
彼女は姿見で自分の服装を映しながら、まるで喪服の様だと感じていた。
彼女が彼の前に立てば、何時も通りの満面の笑みを浮かべる。
それから彼は拍手をしながらこう言った。
「…………ぴったりだ………君は本当によく似てる…………」
似ているとは一体誰の事を言っているのだろう。
彼女はそう思いながらも、余計な言葉を何も言わずにただ微笑む。
すると彼は今まで聞いた事も無いような優しい声色で、彼女に囁いた。
「君はね………そっくりなんだよ。僕の死んだ妻に。靴のサイズも服のサイズも同じなんて、奇跡だ…………」
そう言いながら笑う彼の表情を見て、彼女は凍り付く。
彼女はこの時に初めて、自分が今まで着せられていた服が死人の服だった事に気付いた。
恐怖に慄く彼女の顔を見た男は、とても冷ややかな表情を浮かべて部屋から出て行く。
彼はその日以来、店に来ることは無くなった。
「ああ、思い出した。あの人、俺が凄く昔に好きだった小説家だ。
確か奥さんが自殺か何かして、殺人容疑を掛けられていた筈」
彼が帰ったプレイルームの中で、ボーイが彼女にそう言った。
彼女は置き去りにされた喪服を見ながら、最後に見た冷ややかな表情を思い返す。
この時に彼女は、彼が妻を本当に殺したのではないだろうかと考えた。
数日後、新聞を見ていると無理心中のニュースが目に入る。
とある小説家の男が女を道連れに自殺をした。
女はデリバリーヘルスの女で、彼の亡くなった妻の服を着せられていたそうだ。
彼女はその記事を見て、あの人の事だと息を呑む。
もしかしたら今頃殺されていたのは、自分だったのかもしれない。
そんな彼女は今でも、彼の亡き妻の着ていた服を捨てれないでいる。
風俗店で働く彼女は、何時も可愛らしい服をもってくる男性のリクエストに応えていた。
今日のリクエストはタイトなスカートに白いセーター。愛らしいデザインのブーツ。
ほんの少しだけ使用感を感じられる服な事だけは気になるが、彼は彼女に着替えをさせる以外何もしない。
彼が持ってくる服は、恐ろしい程に彼女の身体にぴったりだ。
まるで彼女の為に作られたかのように、彼女の身体に合っている。
それにとても彼は紳士で、金の払いも良かった。
「………どうですか?似合ってますか??」
「よく似合っているよ!!君にとってもぴったりだ!!」
目の前で一回転して見せれば手を叩いて彼は喜ぶ。
そしてその服装の儘で、彼は彼女と手を繋いで会話だけして帰るのだ。
彼女は彼がとても大好きで、彼が来るのを心待ちにしていた。
月に一回顔を出してくれる彼の存在は、普段身体を売る彼女には一種の癒しの様なものだ。
彼を見送り清算を終わらせれば、店のボーイが彼女が居る部屋にやってくる。
そして眉を顰めた気難しい表情を浮かべ、彼はこう囁いた。
「…………君の事を指名しにくる、あの男の人どっかで見た事あるんだよな」
彼女はこの時に、余り彼の言葉を気に留めてはいなかった。
他人の空似だってあるだろうし、そんな事を言っているのはキリが無い。
「ふぅん」
彼女はボーイの言葉を流し、帰宅の準備を始める。
けれどその真相が解ったのは、それから暫く経ってからだった。
男は何時も通りに彼女に逢いにきて、自分が選んだ服を着せる。
けれどこの日彼が選んできた服は、真っ黒なレースのワンピースだった。
それに真っ黒なハイヒールとパールのネックレス。
彼女は姿見で自分の服装を映しながら、まるで喪服の様だと感じていた。
彼女が彼の前に立てば、何時も通りの満面の笑みを浮かべる。
それから彼は拍手をしながらこう言った。
「…………ぴったりだ………君は本当によく似てる…………」
似ているとは一体誰の事を言っているのだろう。
彼女はそう思いながらも、余計な言葉を何も言わずにただ微笑む。
すると彼は今まで聞いた事も無いような優しい声色で、彼女に囁いた。
「君はね………そっくりなんだよ。僕の死んだ妻に。靴のサイズも服のサイズも同じなんて、奇跡だ…………」
そう言いながら笑う彼の表情を見て、彼女は凍り付く。
彼女はこの時に初めて、自分が今まで着せられていた服が死人の服だった事に気付いた。
恐怖に慄く彼女の顔を見た男は、とても冷ややかな表情を浮かべて部屋から出て行く。
彼はその日以来、店に来ることは無くなった。
「ああ、思い出した。あの人、俺が凄く昔に好きだった小説家だ。
確か奥さんが自殺か何かして、殺人容疑を掛けられていた筈」
彼が帰ったプレイルームの中で、ボーイが彼女にそう言った。
彼女は置き去りにされた喪服を見ながら、最後に見た冷ややかな表情を思い返す。
この時に彼女は、彼が妻を本当に殺したのではないだろうかと考えた。
数日後、新聞を見ていると無理心中のニュースが目に入る。
とある小説家の男が女を道連れに自殺をした。
女はデリバリーヘルスの女で、彼の亡くなった妻の服を着せられていたそうだ。
彼女はその記事を見て、あの人の事だと息を呑む。
もしかしたら今頃殺されていたのは、自分だったのかもしれない。
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