1 / 7
第一話 愛しい子猫
しおりを挟む「……ふわぁぁ……」
ここはアミュレット王国王都に三つある冒険者ギルドの中の一つ、比較的貴族街の近くにある通称青のギルド。
通称名の青は、水属性魔法の得意なゲイル侯爵家が近くにあるから……ということではなく、このギルドの建物の屋根が青いから。ただそれだけ。
ちなみに、あと二つあるギルドは、赤と黒であるが、意味はここと一緒、屋根や建物の色からそう呼ばれているだけである。
その青のギルドの一角、入口からすぐに作られている、いわゆる受付席に座っている、「受付嬢」。
その可愛らしい?受付嬢の口から、それなりのボリュウムで聞こえてきたのは、まごう事無き欠伸の声である。
今の時間は、まだ昼食前。
ここ冒険者ギルドの中では一番暇な時間と言えるかもしれないとき。
早朝の依頼受注ラッシュと、夕方、王都の閉門時間前後の依頼確認ラッシュの狭間の時間。
一日中開いている冒険者ギルドの、夜間から早朝シフトについた者にしてみれば、もうすぐ下番前の一番疲れが出てくるときであったりする時間。
閑散としたギルド内を眺めながら、目の端に溜まった涙をぬぐって、もう一つ生まれてきそうだった空気の塊を飲み込むことで意識を覚醒させた彼女は、背後に設置されている時計に目をやって、この苦行の長さを確かめたのだった。
どこの国でも、冒険者ギルドの受付嬢という職を得ることは、なかなか難しい。
受付という性質上、生まれながらの貴族のお嬢さんでは、まず自分よりも身分の低い民人に頭を下げることを良しとしない。
建物の入り口で、人を中に入れることができなければ、どのような業務もできなくなる。
必然的に、どのような者にでも、取り敢えず笑顔で頭を下げることを厭わない人物でなければ受付という仕事はできないのである。
その上、見た目もあえて威圧を与えるという意味が無いのであれば、美しいことに越したことは無く、その上ある程度物騒なことが想像できる場所であるので、肝が据わっていることとある程度腕っぷしが無いと、これもまた勤めることが難しい職場であるのだ。
であるのに、なぜ冒険者ギルドの受付嬢が若い女性(平民の)にとって羨望の仕事であるのか?
それは、ただ一つ、『玉の輿に乗れる確率がどの仕事をするよりも高い』と思われているからである。
何も貴族に嫁ぐことだけが玉の輿ではない。
身分の差を超えた結婚ということについては、夢を見ている者も一定数居るかもしれないが、ほとんどの乙女は結構現実を考えていて、その結婚が物語ほど幸せになれないかもしれないということを、本能で知っていたりするものだ。
では、受付嬢達の言う玉の輿とは?
身分ではなく、はっきり言って『金』である。
どれだけ裕福になれるかと言うこと。これ一点と言っても過言でない。
そこで、手っ取り早くこの世界で金持ちになるには?
男児であれば、身分関係なく冒険者!
女子であれば、その妻!
となるわけで、すでに高ランクの冒険者に近づくにしても、将来有望な高ランク冒険者の卵に近づくにしても、ギルドの受付嬢ほど、その確率の高いところにいる者はいないわけで……。
冒険者ギルドの受付嬢の椅子の奪い合いは、どの国でも厳しいものとなっているのだ。
「……が、どこにもそんな将来有望な男なんて居ないのよね……」
せっかく、この王国の冒険者ギルドの中でも、比較的貴族街に近いこの「青」に、有望な冒険者が多くいると聞いて、何とか「黒」から移動してきたのに、結局どこでも冒険者は品がないむさくるしい男ばかり……。
「ため息と共に欠伸だって出ちゃう」
今この場に居るのはシフトが変わるのを待っている一人だけ、それ以外の受付嬢たちは、今朝受けた依頼や割り振った依頼の確認のため、受付カウンター前のこの場には居なかった。
受付に設けられている衝立の中で、机に肘をついてだらしなく椅子に座っているときに、ギルドの扉のきしむ音がしばらくぶりに聞こえたのだった。
ここはアミュレット王国王都に三つある冒険者ギルドの中の一つ、比較的貴族街の近くにある通称青のギルド。
通称名の青は、水属性魔法の得意なゲイル侯爵家が近くにあるから……ということではなく、このギルドの建物の屋根が青いから。ただそれだけ。
ちなみに、あと二つあるギルドは、赤と黒であるが、意味はここと一緒、屋根や建物の色からそう呼ばれているだけである。
その青のギルドの一角、入口からすぐに作られている、いわゆる受付席に座っている、「受付嬢」。
その可愛らしい?受付嬢の口から、それなりのボリュウムで聞こえてきたのは、まごう事無き欠伸の声である。
今の時間は、まだ昼食前。
ここ冒険者ギルドの中では一番暇な時間と言えるかもしれないとき。
早朝の依頼受注ラッシュと、夕方、王都の閉門時間前後の依頼確認ラッシュの狭間の時間。
一日中開いている冒険者ギルドの、夜間から早朝シフトについた者にしてみれば、もうすぐ下番前の一番疲れが出てくるときであったりする時間。
閑散としたギルド内を眺めながら、目の端に溜まった涙をぬぐって、もう一つ生まれてきそうだった空気の塊を飲み込むことで意識を覚醒させた彼女は、背後に設置されている時計に目をやって、この苦行の長さを確かめたのだった。
どこの国でも、冒険者ギルドの受付嬢という職を得ることは、なかなか難しい。
受付という性質上、生まれながらの貴族のお嬢さんでは、まず自分よりも身分の低い民人に頭を下げることを良しとしない。
建物の入り口で、人を中に入れることができなければ、どのような業務もできなくなる。
必然的に、どのような者にでも、取り敢えず笑顔で頭を下げることを厭わない人物でなければ受付という仕事はできないのである。
その上、見た目もあえて威圧を与えるという意味が無いのであれば、美しいことに越したことは無く、その上ある程度物騒なことが想像できる場所であるので、肝が据わっていることとある程度腕っぷしが無いと、これもまた勤めることが難しい職場であるのだ。
であるのに、なぜ冒険者ギルドの受付嬢が若い女性(平民の)にとって羨望の仕事であるのか?
それは、ただ一つ、『玉の輿に乗れる確率がどの仕事をするよりも高い』と思われているからである。
何も貴族に嫁ぐことだけが玉の輿ではない。
身分の差を超えた結婚ということについては、夢を見ている者も一定数居るかもしれないが、ほとんどの乙女は結構現実を考えていて、その結婚が物語ほど幸せになれないかもしれないということを、本能で知っていたりするものだ。
では、受付嬢達の言う玉の輿とは?
身分ではなく、はっきり言って『金』である。
どれだけ裕福になれるかと言うこと。これ一点と言っても過言でない。
そこで、手っ取り早くこの世界で金持ちになるには?
男児であれば、身分関係なく冒険者!
女子であれば、その妻!
となるわけで、すでに高ランクの冒険者に近づくにしても、将来有望な高ランク冒険者の卵に近づくにしても、ギルドの受付嬢ほど、その確率の高いところにいる者はいないわけで……。
冒険者ギルドの受付嬢の椅子の奪い合いは、どの国でも厳しいものとなっているのだ。
「……が、どこにもそんな将来有望な男なんて居ないのよね……」
せっかく、この王国の冒険者ギルドの中でも、比較的貴族街に近いこの「青」に、有望な冒険者が多くいると聞いて、何とか「黒」から移動してきたのに、結局どこでも冒険者は品がないむさくるしい男ばかり……。
「ため息と共に欠伸だって出ちゃう」
今この場に居るのはシフトが変わるのを待っている一人だけ、それ以外の受付嬢たちは、今朝受けた依頼や割り振った依頼の確認のため、受付カウンター前のこの場には居なかった。
受付に設けられている衝立の中で、机に肘をついてだらしなく椅子に座っているときに、ギルドの扉のきしむ音がしばらくぶりに聞こえたのだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
熾ーおこりー
ようさん
ホラー
【第8回ホラー・ミステリー小説大賞参加予定作品(リライト)】
幕末一の剣客集団、新撰組。
疾風怒濤の時代、徳川幕府への忠誠を頑なに貫き時に鉄の掟の下同志の粛清も辞さない戦闘派治安組織として、倒幕派から庶民にまで恐れられた。
組織の転機となった初代局長・芹澤鴨暗殺事件を、原田左之助の視点で描く。
志と名誉のためなら死をも厭わず、やがて新政府軍との絶望的な戦争に飲み込まれていった彼らを蝕む闇とはーー
※史実をヒントにしたフィクション(心理ホラー)です
【登場人物】(ネタバレを含みます)
原田左之助(二三歳) 伊代松山藩出身で槍の名手。新撰組隊士(試衛館派)
芹澤鴨(三七歳) 新撰組筆頭局長。文武両道の北辰一刀流師範。刀を抜くまでもない戦闘の際には鉄製の軍扇を武器とする。水戸派のリーダー。
沖田総司(二一歳) 江戸出身。新撰組隊士の中では最年少だが剣の腕前は五本の指に入る(試衛館派)
山南敬助(二七歳) 仙台藩出身。土方と共に新撰組副長を務める。温厚な調整役(試衛館派)
土方歳三(二八歳)武州出身。新撰組副長。冷静沈着で自分にも他人にも厳しい。試衛館の弟子筆頭で一本気な男だが、策士の一面も(試衛館派)
近藤勇(二九歳) 新撰組局長。土方とは同郷。江戸に上り天然理心流の名門道場・試衛館を継ぐ。
井上源三郎(三四歳) 新撰組では一番年長の隊士。近藤とは先代の兄弟弟子にあたり、唯一の相談役でもある。
新見錦 芹沢の腹心。頭脳派で水戸派のブレインでもある
平山五郎 芹澤の腹心。直情的な男(水戸派)
平間(水戸派)
野口(水戸派)
(画像・速水御舟「炎舞」部分)
【短編】怖い話のけいじばん【体験談】
松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。
スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。


【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる