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第一話 愛しい子猫
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友人のA子の飼っていた猫がどうやら、いよいよ寿命で駄目そうだと最近私は聞いたばかりだ。
A子の飼っていた猫は茶虎の大きな雌猫で、彼女は大層その猫を可愛がっていた。
人生を共に生きてきたパートナーだと涙ながらにA子は語る。
ガックリと肩を落とした彼女の気持ちは、以前猫を飼っていた事がある身からすれば、確かに痛い程理解は出来た。
嘸かし今彼女は辛かろうと、何時もグループで遊んでいた友達のB子と話し合っている時だった。
A子から以前、誕生日プレゼントに受け取った時計の針が変に回り始めたのだ。
その時計はなんの変哲もない目覚まし時計で、可愛らしい子猫の絵が描いてある。
ピンク色のパールカラーの合金鋼。延々とグルグル回り続ける分針とそれに合わせて動く時針。
延々とその目覚まし時計の時間ばかりが過ぎてゆく。
余りにも薄気味の悪い故障の仕方は、なんだかとても嫌な感じを醸し出していた。
「これ、凄く薄気味悪い」
B子は人より霊感が強く、嫌な感覚というものをすぐに察知する。
私は目覚まし時計の電池を抜き取りながら、苦笑いを浮かべていた。
「………まぁ、こんな故障の仕方は初めて見たよね」
時計自体が動かなくなった事も、目覚ましのアラーム音がなり続けた事もある。
それにこの時計は電波時計の様に、電波を受信するような機能もない。
アナログに指で合わせなければならない時計である。
それがグルグルと回り始めるのは、早々見れない故障の様に感じられた。
電池さえ抜いてしまえばその時計は動きを止める。
やっと動きが止まったのかと思いながら、私は何時も通りの場所に故障してしまった時計を置く。
とても気に入っていたものだった為に、何だか捨てるのは寂しいなとその時は思っていた。
けれど次に異変が起きたのは扇風機だった。
私とB子の間で首を動かしながら、こちらに風を送っていた扇風機から煙がいきなり上がる。
慌てたB子が扇風機のコンセントを引き抜けば、煙を出しながらそれはファンを動かすのを止めた。
時計に引き続いて、立て続けて壊れていく電化製品。私とB子は思わず息を呑み込んだ。
「流石に扇風機から煙が出るとか、危なすぎるでしょ…………」
B子がそう言いながら扇風機の様子を見ようと近付き、煙が出た箇所をまじまじと見る。
すると真っ暗な暗闇の中を見つめたB子が小さく呟いた。
「…………猫がいた。今其処に」
猫。
ペット禁止のこのマンションの中に、猫なんている筈が無い。
それに私の部屋に動物が入り込む様な隙間だって無いのだ。
B子の云った言葉の意味が解らずに固まっていた時、私はとある事を思い返す。
そういえばこの扇風機は、A子が引っ越しの際に譲ってくれたものだった。
「猫って、何色だったの………?」
私がそう問いかければ、B子がとても言いにくそうな表情を浮かべる。
暫しの沈黙の後で、彼女は重々しい口を開いた。
「………あのね、A子の家の猫、そっくりな猫だったの…………」
嫌な感覚が背筋を走るのと同時に、私は慌てて携帯を取り出す。
A子に連絡を入れようとする指先はずっと、震えている様な気がした。
五回コールが鳴り響いた後で、A子がゆっくりと電話に出る。
その時のA子の声は、とても暗い声をしていた。
『…………はい、もしもし』
「あのねA子!!ちょっと部屋で変な事が起きて………!!!」
私はA子にさっき迄部屋で起きていた事を告げる。
すると電話の向こうでA子が堰を切ったかの様に、ぐすぐすと涙声を上げた。
天真爛漫なA子のすすり泣く声を、私もB子もその時に初めて聞いたのだ。
「…………あのね私、A子にもB子にも、隠していた事があるの。実は私の猫、もう一月前に亡くなってて………。
死んでるって思いたくなくて、冷凍庫の中に入れて、ずっと一緒にいて………」
この時A子はペットロスになっていた。
猫の亡骸を冷凍庫の中に入れ、身体が腐る事の無いように保護を続けていたのだ。
愛猫の死を受け入れることの出来なかったA子が、この時それを受け入れる。
そしてこの三日後に私とB子はA子に付き添い、ペット専用の火葬場に行く。
その日は偶然にもA子の愛猫が亡くなって、49日目の事だった。
A子の飼っていた猫は茶虎の大きな雌猫で、彼女は大層その猫を可愛がっていた。
人生を共に生きてきたパートナーだと涙ながらにA子は語る。
ガックリと肩を落とした彼女の気持ちは、以前猫を飼っていた事がある身からすれば、確かに痛い程理解は出来た。
嘸かし今彼女は辛かろうと、何時もグループで遊んでいた友達のB子と話し合っている時だった。
A子から以前、誕生日プレゼントに受け取った時計の針が変に回り始めたのだ。
その時計はなんの変哲もない目覚まし時計で、可愛らしい子猫の絵が描いてある。
ピンク色のパールカラーの合金鋼。延々とグルグル回り続ける分針とそれに合わせて動く時針。
延々とその目覚まし時計の時間ばかりが過ぎてゆく。
余りにも薄気味の悪い故障の仕方は、なんだかとても嫌な感じを醸し出していた。
「これ、凄く薄気味悪い」
B子は人より霊感が強く、嫌な感覚というものをすぐに察知する。
私は目覚まし時計の電池を抜き取りながら、苦笑いを浮かべていた。
「………まぁ、こんな故障の仕方は初めて見たよね」
時計自体が動かなくなった事も、目覚ましのアラーム音がなり続けた事もある。
それにこの時計は電波時計の様に、電波を受信するような機能もない。
アナログに指で合わせなければならない時計である。
それがグルグルと回り始めるのは、早々見れない故障の様に感じられた。
電池さえ抜いてしまえばその時計は動きを止める。
やっと動きが止まったのかと思いながら、私は何時も通りの場所に故障してしまった時計を置く。
とても気に入っていたものだった為に、何だか捨てるのは寂しいなとその時は思っていた。
けれど次に異変が起きたのは扇風機だった。
私とB子の間で首を動かしながら、こちらに風を送っていた扇風機から煙がいきなり上がる。
慌てたB子が扇風機のコンセントを引き抜けば、煙を出しながらそれはファンを動かすのを止めた。
時計に引き続いて、立て続けて壊れていく電化製品。私とB子は思わず息を呑み込んだ。
「流石に扇風機から煙が出るとか、危なすぎるでしょ…………」
B子がそう言いながら扇風機の様子を見ようと近付き、煙が出た箇所をまじまじと見る。
すると真っ暗な暗闇の中を見つめたB子が小さく呟いた。
「…………猫がいた。今其処に」
猫。
ペット禁止のこのマンションの中に、猫なんている筈が無い。
それに私の部屋に動物が入り込む様な隙間だって無いのだ。
B子の云った言葉の意味が解らずに固まっていた時、私はとある事を思い返す。
そういえばこの扇風機は、A子が引っ越しの際に譲ってくれたものだった。
「猫って、何色だったの………?」
私がそう問いかければ、B子がとても言いにくそうな表情を浮かべる。
暫しの沈黙の後で、彼女は重々しい口を開いた。
「………あのね、A子の家の猫、そっくりな猫だったの…………」
嫌な感覚が背筋を走るのと同時に、私は慌てて携帯を取り出す。
A子に連絡を入れようとする指先はずっと、震えている様な気がした。
五回コールが鳴り響いた後で、A子がゆっくりと電話に出る。
その時のA子の声は、とても暗い声をしていた。
『…………はい、もしもし』
「あのねA子!!ちょっと部屋で変な事が起きて………!!!」
私はA子にさっき迄部屋で起きていた事を告げる。
すると電話の向こうでA子が堰を切ったかの様に、ぐすぐすと涙声を上げた。
天真爛漫なA子のすすり泣く声を、私もB子もその時に初めて聞いたのだ。
「…………あのね私、A子にもB子にも、隠していた事があるの。実は私の猫、もう一月前に亡くなってて………。
死んでるって思いたくなくて、冷凍庫の中に入れて、ずっと一緒にいて………」
この時A子はペットロスになっていた。
猫の亡骸を冷凍庫の中に入れ、身体が腐る事の無いように保護を続けていたのだ。
愛猫の死を受け入れることの出来なかったA子が、この時それを受け入れる。
そしてこの三日後に私とB子はA子に付き添い、ペット専用の火葬場に行く。
その日は偶然にもA子の愛猫が亡くなって、49日目の事だった。
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