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最終章 Avec vous, l'enfer deviendra un paradis.
最終話 ★
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玲央と紫苑が姿を消して、七年という月日が流れる。
その頃には真知子も裏の稼業から足を洗い、全うな美容整形だけで稼いでいた。
そんな真知子には二人の子供がいたのだ。
五歳になったばかりの香蓮という男の子と、四歳になったばかりの絵蓮という男の子。母親は勿論ルネだった。
昔の喧騒がまるで嘘の様な穏やかな土地で、四人家族で暮らしている。
けれど真知子もルネも、玲央と紫苑の事を忘れた日は無かった。
香蓮が出来たのが解ったのと同時に、二人は番契約を結ぶ。
けれど真知子の余りの多忙さに、新婚旅行に二人はまだ出掛けていなかった。
ルネは事あるごとにジンベエザメと泳ぎたかったと夢を語る。
真知子は結婚六年目で、やっと遅い新婚旅行の予定を組んできた。
旅行先は勿論ルネの行きたがっていたセブ島だ。
「………真知子さん、本当に良いの………???」
ルネが旅行のプランをパソコンで眺めながら、目を潤ませている。
そんな姿を横目に、真知子はとても大袈裟だと思っていた。
「いいわよ。私はジンベエザメと泳ぐ趣味は無いけど、貴方は思う存分ジンベエザメと泳いできなさい」
そう言いながら真知子は、香蓮と絵蓮の目の前に数字の書かれた積木を置く。
真知子は愛くるしい子供達が、自分の指定したとおりにそれを並べていく様を見つめている。
その真横でルネはひたすらに感動に打ち震えていた。
なるべくなら泊まるホテルは、日本人観光客に優しいものが良いと真知子は思う。
ルネと子供が寝静まった頃、ホテルの予約を入れようと決めていた。
元々ルネの飼っていた生体を、一つの部屋の中で面倒を見ている。
肉食の魚と子供を接触させない為に、厳重に鍵をかけた部屋に飼育していた。
その部屋は一人になりたい時にとても丁度いいと、真知子は時折そこで休んでいる。
揺らめくアロワナは少しだけ大きくなり、ピラニアは量が減った。
人肉を食べていた魚たちには、健康的に時折鶏肉を与えている。
すっかり所帯じみてしまったと、真知子は自分に対して思う。
けれど穏やかに生きている今が一番幸せだと感じていた。
時折思い返す玲央と一番密に関わり合っていた時間は、余りにも激しくて眩暈さえも覚える。
あんなに人の死と隣り合わせに生きていた時間は、きっときっともう無いだろう。
けれどあれほど迄に狂おしく刺激的な日々を、時折恋しく感じるのだ。
真知子は一人になると、ある事を無性に思い返す。それは紫苑の子供の事である。
あの子は無事に生まれたのだろうかと、胸を痛めてしまうのだ。
ケーキの肉を喰らった儘で生まれた子供は、無事に普通の子供として生きているのだろうか。
もう玲央と紫苑の子供は、生まれていれば七歳くらいになっていても良い筈だ。
思っているより自分の子供たちと歳が近いと真知子は感じていた。だからこそ、安否がとても気になるのだ。
何処かで元気に生きているという証明が、心から欲しいと思っていた。
ルネも子供達も寝静まった頃に、メタルハライドに照らされてパソコンを開く。
赤ワインを口にしながら、セブ島のホテルについて調べていた。
魚たちに囲まれながらセブ島の美しい景色を見つめる。
なるべく旅行者に優しく、綺麗なホテルが良いと真知子は思う。
すると一軒だけ気になるホテルが出てきた。
こじんまりとした小さなホテルには、可愛らしい部屋が幾つもある。
内装も外装もあまり他とは変わらないものだが、真知子はどうしてもそのホテルが気になった。
ホテルの内装が日本人が好む家具の配置をしているからだろうかと、真知子は思う。
本当にどうしてなのかは解らない。ただただそれに惹かれてしまう自分がいた。
ホテルの予約を吸い寄せられるかの様に入れながら、何故か狂おしい程に激しく生きた日々を思い返していた
子供達と肉食魚を両親に託し、真知子とルネは飛行機に乗り込む。
真知子の携帯には母親から搭乗前に、ピラニアへの餌やりが怖いと連絡が来ていた。
それに対して思わず笑みを溢しながら、携帯の電源を切りフィリピンへと発つ。
ルネはジンベエザメと泳げることでとても浮かれているようだった。
こんなに浮かれているルネを見たのは、玲央と一緒に居た頃以来だと真知子は思う。
そんなルネもとても懐かしくて不思議な気持ちになっていた。
日本を出て遠くに旅に行くということは、何処かで玲央とすれ違う事が出来る可能性がある。
きっと今自分自身も浮足を立たせていると真知子は感じていた。
セブ島の海は真っ青で何処を見たって美しい。
白い砂浜を横目にしながら、二人は今夜泊まる予定のホテルへと向かっていた。
「海の近くのホテルだから、部屋から海が見れるんですってよ」
真っ白い外壁の四階建ての小さなホテルには、茶色い可愛らしいドアが付いている。
そのドアに真知子が手を掛けようとした時、少年がそのドアに手をかけた。
その子は日系人で背中に鞄を背負っている。顔立ちが紫苑によく似ているように思えた。
真知子は思わずドキリとして、少年の背中を目で追いかける。
するとその時受付の方から声が響いた。
「マチコ ニカイドウ様ですか?」
受付にはすらりと背の高い、美しい顔立ちの男性が立っている。
頬までで切り揃えられた前髪を丁度中央で分けていた。
詰め襟のホテルマンの制服は灰色で、何処と無くカソックを思い出させた。
「はい、そうです………」
真知子がそう答えてフロントに歩み寄った時、教会から戻ってきた時の玲央の頬の傷を思い返す。
うっすらと小麦色の肌をしている彼の頬には、目立たない位の傷跡があった。
それに真知子はその人の骨格に見覚えがあった。彼の頭蓋骨はどうみても、観音崎玲央だったのだ。
この人は玲央だと真知子が気付いた時に、彼は真知子を見つめて微笑んだ。
真知子は色々な感情を噛み締めて、ホテルの部屋にチェックインの手続きをする。
この人が玲央だったなら、さっきの子供は間違いなく紫苑の子供。
そう感じた瞬間にサインを書く指先が震えた。
「真知子さん、僕ちょっと周辺見てくるから、部屋の番号だけ教えて!」
そう言いながらルネがホテルから出ていき、目の前の海に走ってゆく。
真知子とホテルマンは、荷物を手にしてエレベーターに向かった。
玲央だ。玲央に違いないと真知子は思いながら、その顔をまじまじと見つめる。
すると彼は真知子の顔を覗き込み、首を傾げて見せた。
「どうしました?僕の顔に何かついていますか?」
そう言って笑うホテルマンに、真知子は無表情ながらに笑い返す。
その仕草が、笑い方が、形は違うのに玲央を思い返させる。
よく見れば整形手術を施したであろう形跡が、顔のあちこちに見える。
玲央なんだと思うと、今にも泣き出しそうになってしまう。
「………ごめんなさいね。じっくり見ちゃって。失礼だったわよね………。
貴方は七年前に消えてしまった、私の大切なお友達そっくりなの」
真知子は感極まる声を懸命に押さえながら、エレベーターの中に乗り込む。
そして部屋に向かう数字の番号を押せば、男が答えた。
「………大切な人に似ていたんですか?」
そう言いながら微笑む男の顔を見ていると、真知子の胸から色々な気持ちが溢れ出しそうになる。
「ええ、片時たりとも忘れたことがない程、大切な人よ…………。今も彼の幸せを願ってる………」
泣き出してしまいそうな程に感極まった声で答えれば、エレベーターが開いたと同時に彼はこう言った。
「………僕はその御方を知りませんが、きっとその人も貴方の様な素敵な人の幸せを、祈らなかった日は無かったと思います」
廊下を歩いて部屋の中に荷物を運び込み、男は静かにドアを開く。
真知子が部屋に入ったのを見届けながら優しい声色で囁いた。
「素敵な旅をお過ごしください」
ドアが閉まる音が響き渡ると同時に、猛禽類のような真知子の目から涙がバラバラと溢れ出す。
真知子とルネが泊まる予定のホテルの部屋の花瓶には、高級そうな真っ赤な薔薇の花が飾られていた。
薫り高い薔薇の匂いを嗅ぎながら真知子は穏やかに囁く。
「………貴方が生きていてくれて、良かった…………」
真知子はそう言いながら、柔らかいベッドの端に腰掛ける。
窓の外から見えた真っ青な海は、とても美しいものだった。
「………聞いて紫苑。今日真知子に逢ったよ。
ルネと結婚したみたいだ。僕、今日とても幸せ………」
湿った音が響き渡る薄暗い地下室で、玲央と紫苑は見つめ合う。
真っ白な猫足のバスタブの中には、夥しい量の血が溜められていた。
フルーツタルトの匂いのする血を全身に浴びた紫苑が、優しい笑みを浮かべて玲央と口付けを繰り返す。
「……真知子さん、幸せそうで良かった………」
そう言いながら紫苑は微笑み、玲央の口付けでフリージアに良く似た甘い芳香を放つ。
すると紫苑は玲央にある事を問い掛けた。
「……ねぇ玲央。玲央は………全部捨てて俺と逃げてきて、本当に良かった?」
紫苑はずっとこれが心配であった。自分は玲央から沢山の大切なものを奪ったと思う。
それが紫苑にとって心の痼だった。切なげな眼で笑う紫苑に、玲央は明るく微笑む。
「うん!いいんだ!君がいるだけで地獄にいても、僕の世界は薔薇色に変わるんだから!」
玲央は目の瞳孔を開かせながら、甘い甘い言葉とキスを紫苑に捧げる。
この時の玲央の表情は、幸福に満ち溢れて見えた。
END
*************************
後書きというものを私は書いたことが今迄無かったなと思いつつ、初めて書かせて頂きます。
まず最期まで読んで下さった方、本当に本当にありがとうございました。
約一冊分位になるであろうこの文字の羅列を、インターネットで読むのは中々しんどかったのではないかと思っております………。
大変文字数多くて申し訳なく………と、いっても、この文体で書く小説が好きなので、多分あんまり文字を変えられない訳ですが←
この話を考えた時にやりたかったことは「最低最悪の運命の番」を作りたかったんです。
フォーク性に人生狂った人とα性に人生狂った人が、運命の番っていう振り切ったエログロBLを、見たくてですね…………私がそもそも………。
私の性癖知識的に非常に好きなものが、本当に昔から「シリアルキラー」というもので……。
この二人は死ぬ時にボニー&クライドみたいに二人で逝くだろうという、そういうカップルが書いてみたかったのです。
ただ非常に現実的ではない話が「遺体の処理」でして…………。それを可能にしたいと前から思っておりまして………。
ほんならオメガバースとケーキバース平行世界で良くね!?!?と、地獄の沙汰の様な事を思い付きましたw
あとカニバリズムに対してエロティックさを見出だしてしまう方なので、その…………書きたくて…………←
こういった小説を書くと何時も思うことは、本当に自分が欲してるもの自家発電で書いてるって思うというか。
非常にすっきりしました。ありがとうございました。
清々しい程善人0wwwww
余談ですが過去に私めにも「小説書きの相方」というものがいた時代がありまして、やっぱりその時代も殺人鬼のカップリング書いたんですが。
「片方死ぬエンディングは悲しい」と言われたのを、私は今でも忘れられなくて。
じゃあHHホームズみたいに殺人ホテル作って、その中で生きていかせるのも良いなと。
ほら、殺さなかったぞ。二人とも。と、私がやりたかった私の目標達成出来て満足です。
私はこれからもまた何か文字を書きます。
作品概要欄見ると解ると思いますが、無節操に書きます。
グロからエロから、暗いのから明るいのから。
もしかしたらエロくなく、たまにはBL以外も書くかもしれない。描きたい世界観を起こしたいだけなので。
これからも無節操に気儘に自分の赴くままに気分で、世界を描きたいなと。
なのでまた、何かの物語の世界線で。
本当にありがとうございました!!
如月緋衣名 拝
その頃には真知子も裏の稼業から足を洗い、全うな美容整形だけで稼いでいた。
そんな真知子には二人の子供がいたのだ。
五歳になったばかりの香蓮という男の子と、四歳になったばかりの絵蓮という男の子。母親は勿論ルネだった。
昔の喧騒がまるで嘘の様な穏やかな土地で、四人家族で暮らしている。
けれど真知子もルネも、玲央と紫苑の事を忘れた日は無かった。
香蓮が出来たのが解ったのと同時に、二人は番契約を結ぶ。
けれど真知子の余りの多忙さに、新婚旅行に二人はまだ出掛けていなかった。
ルネは事あるごとにジンベエザメと泳ぎたかったと夢を語る。
真知子は結婚六年目で、やっと遅い新婚旅行の予定を組んできた。
旅行先は勿論ルネの行きたがっていたセブ島だ。
「………真知子さん、本当に良いの………???」
ルネが旅行のプランをパソコンで眺めながら、目を潤ませている。
そんな姿を横目に、真知子はとても大袈裟だと思っていた。
「いいわよ。私はジンベエザメと泳ぐ趣味は無いけど、貴方は思う存分ジンベエザメと泳いできなさい」
そう言いながら真知子は、香蓮と絵蓮の目の前に数字の書かれた積木を置く。
真知子は愛くるしい子供達が、自分の指定したとおりにそれを並べていく様を見つめている。
その真横でルネはひたすらに感動に打ち震えていた。
なるべくなら泊まるホテルは、日本人観光客に優しいものが良いと真知子は思う。
ルネと子供が寝静まった頃、ホテルの予約を入れようと決めていた。
元々ルネの飼っていた生体を、一つの部屋の中で面倒を見ている。
肉食の魚と子供を接触させない為に、厳重に鍵をかけた部屋に飼育していた。
その部屋は一人になりたい時にとても丁度いいと、真知子は時折そこで休んでいる。
揺らめくアロワナは少しだけ大きくなり、ピラニアは量が減った。
人肉を食べていた魚たちには、健康的に時折鶏肉を与えている。
すっかり所帯じみてしまったと、真知子は自分に対して思う。
けれど穏やかに生きている今が一番幸せだと感じていた。
時折思い返す玲央と一番密に関わり合っていた時間は、余りにも激しくて眩暈さえも覚える。
あんなに人の死と隣り合わせに生きていた時間は、きっときっともう無いだろう。
けれどあれほど迄に狂おしく刺激的な日々を、時折恋しく感じるのだ。
真知子は一人になると、ある事を無性に思い返す。それは紫苑の子供の事である。
あの子は無事に生まれたのだろうかと、胸を痛めてしまうのだ。
ケーキの肉を喰らった儘で生まれた子供は、無事に普通の子供として生きているのだろうか。
もう玲央と紫苑の子供は、生まれていれば七歳くらいになっていても良い筈だ。
思っているより自分の子供たちと歳が近いと真知子は感じていた。だからこそ、安否がとても気になるのだ。
何処かで元気に生きているという証明が、心から欲しいと思っていた。
ルネも子供達も寝静まった頃に、メタルハライドに照らされてパソコンを開く。
赤ワインを口にしながら、セブ島のホテルについて調べていた。
魚たちに囲まれながらセブ島の美しい景色を見つめる。
なるべく旅行者に優しく、綺麗なホテルが良いと真知子は思う。
すると一軒だけ気になるホテルが出てきた。
こじんまりとした小さなホテルには、可愛らしい部屋が幾つもある。
内装も外装もあまり他とは変わらないものだが、真知子はどうしてもそのホテルが気になった。
ホテルの内装が日本人が好む家具の配置をしているからだろうかと、真知子は思う。
本当にどうしてなのかは解らない。ただただそれに惹かれてしまう自分がいた。
ホテルの予約を吸い寄せられるかの様に入れながら、何故か狂おしい程に激しく生きた日々を思い返していた
子供達と肉食魚を両親に託し、真知子とルネは飛行機に乗り込む。
真知子の携帯には母親から搭乗前に、ピラニアへの餌やりが怖いと連絡が来ていた。
それに対して思わず笑みを溢しながら、携帯の電源を切りフィリピンへと発つ。
ルネはジンベエザメと泳げることでとても浮かれているようだった。
こんなに浮かれているルネを見たのは、玲央と一緒に居た頃以来だと真知子は思う。
そんなルネもとても懐かしくて不思議な気持ちになっていた。
日本を出て遠くに旅に行くということは、何処かで玲央とすれ違う事が出来る可能性がある。
きっと今自分自身も浮足を立たせていると真知子は感じていた。
セブ島の海は真っ青で何処を見たって美しい。
白い砂浜を横目にしながら、二人は今夜泊まる予定のホテルへと向かっていた。
「海の近くのホテルだから、部屋から海が見れるんですってよ」
真っ白い外壁の四階建ての小さなホテルには、茶色い可愛らしいドアが付いている。
そのドアに真知子が手を掛けようとした時、少年がそのドアに手をかけた。
その子は日系人で背中に鞄を背負っている。顔立ちが紫苑によく似ているように思えた。
真知子は思わずドキリとして、少年の背中を目で追いかける。
するとその時受付の方から声が響いた。
「マチコ ニカイドウ様ですか?」
受付にはすらりと背の高い、美しい顔立ちの男性が立っている。
頬までで切り揃えられた前髪を丁度中央で分けていた。
詰め襟のホテルマンの制服は灰色で、何処と無くカソックを思い出させた。
「はい、そうです………」
真知子がそう答えてフロントに歩み寄った時、教会から戻ってきた時の玲央の頬の傷を思い返す。
うっすらと小麦色の肌をしている彼の頬には、目立たない位の傷跡があった。
それに真知子はその人の骨格に見覚えがあった。彼の頭蓋骨はどうみても、観音崎玲央だったのだ。
この人は玲央だと真知子が気付いた時に、彼は真知子を見つめて微笑んだ。
真知子は色々な感情を噛み締めて、ホテルの部屋にチェックインの手続きをする。
この人が玲央だったなら、さっきの子供は間違いなく紫苑の子供。
そう感じた瞬間にサインを書く指先が震えた。
「真知子さん、僕ちょっと周辺見てくるから、部屋の番号だけ教えて!」
そう言いながらルネがホテルから出ていき、目の前の海に走ってゆく。
真知子とホテルマンは、荷物を手にしてエレベーターに向かった。
玲央だ。玲央に違いないと真知子は思いながら、その顔をまじまじと見つめる。
すると彼は真知子の顔を覗き込み、首を傾げて見せた。
「どうしました?僕の顔に何かついていますか?」
そう言って笑うホテルマンに、真知子は無表情ながらに笑い返す。
その仕草が、笑い方が、形は違うのに玲央を思い返させる。
よく見れば整形手術を施したであろう形跡が、顔のあちこちに見える。
玲央なんだと思うと、今にも泣き出しそうになってしまう。
「………ごめんなさいね。じっくり見ちゃって。失礼だったわよね………。
貴方は七年前に消えてしまった、私の大切なお友達そっくりなの」
真知子は感極まる声を懸命に押さえながら、エレベーターの中に乗り込む。
そして部屋に向かう数字の番号を押せば、男が答えた。
「………大切な人に似ていたんですか?」
そう言いながら微笑む男の顔を見ていると、真知子の胸から色々な気持ちが溢れ出しそうになる。
「ええ、片時たりとも忘れたことがない程、大切な人よ…………。今も彼の幸せを願ってる………」
泣き出してしまいそうな程に感極まった声で答えれば、エレベーターが開いたと同時に彼はこう言った。
「………僕はその御方を知りませんが、きっとその人も貴方の様な素敵な人の幸せを、祈らなかった日は無かったと思います」
廊下を歩いて部屋の中に荷物を運び込み、男は静かにドアを開く。
真知子が部屋に入ったのを見届けながら優しい声色で囁いた。
「素敵な旅をお過ごしください」
ドアが閉まる音が響き渡ると同時に、猛禽類のような真知子の目から涙がバラバラと溢れ出す。
真知子とルネが泊まる予定のホテルの部屋の花瓶には、高級そうな真っ赤な薔薇の花が飾られていた。
薫り高い薔薇の匂いを嗅ぎながら真知子は穏やかに囁く。
「………貴方が生きていてくれて、良かった…………」
真知子はそう言いながら、柔らかいベッドの端に腰掛ける。
窓の外から見えた真っ青な海は、とても美しいものだった。
「………聞いて紫苑。今日真知子に逢ったよ。
ルネと結婚したみたいだ。僕、今日とても幸せ………」
湿った音が響き渡る薄暗い地下室で、玲央と紫苑は見つめ合う。
真っ白な猫足のバスタブの中には、夥しい量の血が溜められていた。
フルーツタルトの匂いのする血を全身に浴びた紫苑が、優しい笑みを浮かべて玲央と口付けを繰り返す。
「……真知子さん、幸せそうで良かった………」
そう言いながら紫苑は微笑み、玲央の口付けでフリージアに良く似た甘い芳香を放つ。
すると紫苑は玲央にある事を問い掛けた。
「……ねぇ玲央。玲央は………全部捨てて俺と逃げてきて、本当に良かった?」
紫苑はずっとこれが心配であった。自分は玲央から沢山の大切なものを奪ったと思う。
それが紫苑にとって心の痼だった。切なげな眼で笑う紫苑に、玲央は明るく微笑む。
「うん!いいんだ!君がいるだけで地獄にいても、僕の世界は薔薇色に変わるんだから!」
玲央は目の瞳孔を開かせながら、甘い甘い言葉とキスを紫苑に捧げる。
この時の玲央の表情は、幸福に満ち溢れて見えた。
END
*************************
後書きというものを私は書いたことが今迄無かったなと思いつつ、初めて書かせて頂きます。
まず最期まで読んで下さった方、本当に本当にありがとうございました。
約一冊分位になるであろうこの文字の羅列を、インターネットで読むのは中々しんどかったのではないかと思っております………。
大変文字数多くて申し訳なく………と、いっても、この文体で書く小説が好きなので、多分あんまり文字を変えられない訳ですが←
この話を考えた時にやりたかったことは「最低最悪の運命の番」を作りたかったんです。
フォーク性に人生狂った人とα性に人生狂った人が、運命の番っていう振り切ったエログロBLを、見たくてですね…………私がそもそも………。
私の性癖知識的に非常に好きなものが、本当に昔から「シリアルキラー」というもので……。
この二人は死ぬ時にボニー&クライドみたいに二人で逝くだろうという、そういうカップルが書いてみたかったのです。
ただ非常に現実的ではない話が「遺体の処理」でして…………。それを可能にしたいと前から思っておりまして………。
ほんならオメガバースとケーキバース平行世界で良くね!?!?と、地獄の沙汰の様な事を思い付きましたw
あとカニバリズムに対してエロティックさを見出だしてしまう方なので、その…………書きたくて…………←
こういった小説を書くと何時も思うことは、本当に自分が欲してるもの自家発電で書いてるって思うというか。
非常にすっきりしました。ありがとうございました。
清々しい程善人0wwwww
余談ですが過去に私めにも「小説書きの相方」というものがいた時代がありまして、やっぱりその時代も殺人鬼のカップリング書いたんですが。
「片方死ぬエンディングは悲しい」と言われたのを、私は今でも忘れられなくて。
じゃあHHホームズみたいに殺人ホテル作って、その中で生きていかせるのも良いなと。
ほら、殺さなかったぞ。二人とも。と、私がやりたかった私の目標達成出来て満足です。
私はこれからもまた何か文字を書きます。
作品概要欄見ると解ると思いますが、無節操に書きます。
グロからエロから、暗いのから明るいのから。
もしかしたらエロくなく、たまにはBL以外も書くかもしれない。描きたい世界観を起こしたいだけなので。
これからも無節操に気儘に自分の赴くままに気分で、世界を描きたいなと。
なのでまた、何かの物語の世界線で。
本当にありがとうございました!!
如月緋衣名 拝
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