嗚呼、なんて薔薇色の人生~フォークのα×フォークのΩの運命論~

如月緋衣名

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第三章 Parlez-moi d'amour

第三話 ☆

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 朝日に照らされながら玲央はルネと肩を並べて、女社長をタクシー迄見送る。
 走り去ってゆく車の後ろをぼんやりと眺めながら、ルネは玲央に囁いた。
 
 
「玲央さん、今日お疲れ様でした。明日からお休みなんですよね??
………何かありました??」
 
 
 玲央がルネの方を見れば、とても心配そうな表情を浮かべて此方を見ている。
 彼の身体からは時折、ヴァニラシトロンのネメシアの香りのフェロモンが漂うのだ。
 その瞬間玲央は何時も、ルネが自分に思いを寄せている事に気が付く。
 玲央はルネの事を、とても可愛らしい後輩だと思っている。
 だからこそその恋には決して、気付いてはいけないのだ。
 
 
「……ちょっと実家で不幸があってね。心配かけてすまないね」
 
 
 家で愛しい人が発情ヒートで待っているなんて、ルネには言う訳にいかないと玲央は思う。
 玲央は自分を慕う可愛い後輩を、人としてとても好いていた。
 ルネの小さな形の良い頭を撫でながら、玲央は微笑む。するとヴァニラシトロン独特の甘い香りが漂う。
 今ルネは触られて嬉しいんだろうと思いながら、玲央は優しい気持ちになる。
 頬を赤く染めたルネが感極まった笑みを浮かべ、可愛らしく首を傾げた。
 
 
「………僕、全然玲央さんの売り上げに及ばないけど……玲央さんお留守の間、頑張りますね………!!」
「………有難うルネ!宜しく頼むよ!」
 
 
 そう言いながらルネは玲央に手を振り去ってゆく。玲央はルネの後ろ姿を見送り、タクシーの中に乗り込んだ。
 Ωのフェロモンの匂いは、ネメシアに似ているものが多い。大体がヴァニラシトロンか、ヴァニラチェリーの香りのもの。
 紫苑のフェロモンだけが常に独特な匂いを放っているのだ。
 朝日に照らされながら、タクシーの窓から見える景色を眺める。
 そしてその最中に、ペルフェクションの味が解らなかったことを思い返す。
 あの時誰も自分の味覚が無いことを、疑いもしなかったと玲央は思う。
 とても嘘が上手くなってしまったと心から寂しくなった。
 こんな自分だからこそ、紫苑に愛を向ける時は正直で居たい。そう感じながら自宅へと急いでいた。
 
 
 
 
 玲央が部屋に戻ると同時に、紫苑のフリージアに似たフェロモンの匂いに当てられる。
 フリージアの香りの中に、さらにヴァニラの芳香を感じるのだ。
 寝室から小さく喘ぎ声が漏れているのに気付いた瞬間、理性が吹き飛ぶ位の強いラットに襲われる。
 くらくらする頭を押さえながら玲央は寝室のドアを開く。
 何もしていないのに息が上がるのを、玲央はこの時感じていた。
 ラットで死んでしまうんじゃないかと、不安に思う位の勢いだ。心臓がいやにバクバクと鳴り響く。
 
 
 ベッドの上には足を開いて、泣きながら自慰を繰り返す紫苑が居た。
 いやらしい水の音を響かせながら秘部に自ら手を這わせる。
 その都度に強く芳香が漂い、部屋中に香りが充満する。
 流石の玲央も今迄見たことがない程の紫苑の痴態に、思わずたじろいだ。
 
 
「すっごい事になってるね…………」
 
 
 汗で湿った紫苑が息を乱しながら、一心不乱に自分の入り口付近を指で弄る。
 シーツには汗と愛液で出来た染みがあった。
 思わず玲央が生唾を飲み込めば、紫苑は玲央を見て更に目から涙を流す。
 
 
「………ごめんなさい……ほんとに、ごめんなさい……ひとりじゃじょうずにいけないの………」
 
 
 泣きながら謝罪の言葉を口にする紫苑を、懸命に目に焼き付ける。
 紫苑はまた薬が切れてしまっていたようで、完全に記憶を飛ばしている状態になっていた。
 玲央の目の前で淫らに自慰を繰り返す紫苑を眺めながら、着ている服を脱いで紫苑を抱く準備を始める。
 この時に玲央は一つだけ悪い事を思いついたのだ。
 紫苑に歩み寄ってから飛び切り甘い声色で囁く。
 優しく髪を撫でながら、縋るように瞳を覗き込んだ。
 
 
「………愛してるって沢山言ってくれるなら、触ってあげる」
 

 紫苑には記憶が残らない。それならほんの少しだけ甘い夢を見てみたい。
 愛してると口にする紫苑を一度、見てみたいと玲央は思っていたのだ。
 今の紫苑は本当に愛してくれていたとしても、それを口に出すのは遠い遠い未来になるだろう。
 記憶なく理性のない紫苑を騙すようだが、それくらいは良いかなと玲央は思った。
 玲央を潤んだ瞳で見上げた紫苑は、一切躊躇せずに愛らしい唇から言葉を漏らす。
 
 
「………あいしてる………………」
 
 
 本心からではないとはいえ、紫苑の唇から漏れる愛の言葉はとてもクるものがある。
 玲央は思わず微笑んで、紫苑の唇に唇を重ね合わせた。
 啄ばむ様に唇を重ね合わせる合間に、紫苑の中に指を這わせる。
 するとその時紫苑が身体を震わせながら、飛び切り甘い声色で叫んだ。
 
 
「あっ………!!れお、れおだいすき………!!!あいしてる………!!!」
 
 
 余りの衝撃に玲央は紫苑に這わせる手を止める。
 紫苑が今、自ら大好きと言った。愛してるは言ってと頼んだけれど、大好きは決して頼んでいない。
 似たような意味を持つ言葉だからなのか、本心なのかは解らない。
 玲央は顔を真っ赤に染め上げて思わず言葉を失った。
 紫苑は腰を自ら動かしながら、玲央の指に気持ちの良い場所を擦り付ける。
 その度にぐちゃぐちゃと淫らに濡れた音が響いた。
 渇く間を一切与えられずに乱れる紫苑の秘部は、溢れた愛液で汚れている。
 そしてキスを繰り返しながら、譫言の様に囁き続けた。
 
 
「あいしてる…………あいしてるの………とけちゃう………もう、からだこわれちゃう…………。
だからして………たくさんして………たくさんちょうだい……………」
 
 
 だらしなく開いた唇から溢れた唾液が、紫苑の唇を濡らしてゆく。
 発情期の犬の様に腰を乱して狂う紫苑を、玲央は組み敷いて抱いた。
 
 
「僕も愛してるよ………」
 
 
 小さくフフッと声に出して微笑み、紫苑の入り口に自らを宛がう。
 愛してるという言葉は、まるで呪文の様だと玲央は思う。
 この言葉を言い交わせば言い交わす程、神聖な儀式をしている気持ちにさせられる。
 紫苑の腕が玲央の背中に回り、ぴったりと肌を合わせて熱を分け合う。
 玲央のものをゆっくりと飲み干した紫苑の中は、とても柔らかくて熱くて吸い付く様に纏わりついてきた。
 
 
「あ………!!あいしてる、れお…………!!!」
 
 
 繋がった身体で紫苑と向かい合いながら、花の香りに溺れてゆく。
 濡れた粘膜を紫苑の中が物欲しそうにひくひくと、玲央のものを締め上げる。
 玲央は悩ましげに眉をひそめ邯鄲の息を漏らした。
 
 
「僕、も…………愛してるよ、紫苑…………」
「ん………れお、あいしてる、れお………たくさんして…………」
 
 
 紫苑の掌に玲央が掌を重ねれば、力なく指先を紫苑は絡ませる。
 玲央は紫苑の手をきつく握り締め、馴染ませるように腰を動かした。
 
 
「あっ…………!!」
 
 
 気持ちの良い場所を擦った瞬間、紫苑の身体が仰け反り手を握る力が強くなる。
 其処に狙いを定めて更に駆り立てながら、玲央は飛び切り甘く囁いた。
 
 
「愛してるよ紫苑………世界で一番………一番愛してる!!」
 
 
 愛してると囁く度に、中が畝って絡み付く。
 どろどろに溶けただらしない表情の紫苑が、玲央に向かって微笑んだ。
 
 
「んぅ……れお……あいしてる、よ………!」
 
 
 紫苑の笑顔はとても愛くるしく、まるで天使が地上に降りてきたとさえ玲央は感じる。
 玲央の理性はその瞬間に崩壊した。
 
 
「………っは!!あ………!!いく!いっちゃう………!!」
 
 
 杭を打ち込むかの様に腰を揺らせば、玲央の下の紫苑が激しく跳ねる。
 紫苑の腰が小刻みに震えた瞬間、絶頂を迎えたことに玲央は気付いた。
 イケばイク程に強くなるΩの芳香に、くらくら眩暈がする。
 ベッドの上で果てた様に天井を仰ぐ紫苑に、玲央は囁いた。
 
 
「………発情期終わるまで、沢山愛し合おうね………」
 
 
 紫苑の頬を優しく撫でながら唇を寄せて玲央は微笑む。
 玲央の下で汗ばんだ表情を浮かべた紫苑が、甘える様な声色で囁いた。
 
 
「…………たくさん、あいして……………?」
 
 
 返事の代わりにキスを落として、紫苑の身体を激しく揺さぶる。
 するとまた紫苑の身体から絶頂の時の芳香が滲み出た。
 紫苑が何時もの紫苑に戻ったのは、これから三日後の事。
 玲央は紫苑に初めて「大好き」と「愛している」を言われたことを、一生の思い出にしようと思った。
 
 
 発情期が終わったと同時に、紫苑はまたテレビゲームに没頭する。
 ブルーライトを浴びながら、テレビ画面をじっと見つめていた。
 そんな紫苑の背中をじっと眺めていると、それに気付いた紫苑が玲央に振り返る。
 玲央と視線を絡ませ合いながら紫苑は小さく囁いた。
 
 
「………今日も気持ち悪」
 
 
 またテレビ画面を見てゲームを続ける紫苑に対し、玲央は謎の安心を感じた。
 何時もの紫苑だ。其処にいるのは紛れもない、何時も通りの紫苑である。
 
 
「………ねぇ紫苑、愛してるよ」
 
 
 玲央がそう囁けば、背中を向けた儘で紫苑は舌打ちを返す。
 愛してるを返してくれる紫苑も可愛かったし、記憶がなくなる程自分を求めてくれる紫苑も新鮮だった。
 けれど玲央が一番平伏したい紫苑は、紛れもなくこの紫苑である。
 そして紫苑は舌打ちに対して満面の笑みを浮かべる玲央を、何時もながらに気持ちが悪いと思ったのだった。
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