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第三章 Parlez-moi d'amour

第一話 ☆

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 ベッドの上で横たわる紫苑を囲む様に、玲央の服が山積みになっている。
 仕事用のスーツだろうがプライベートのおしゃれ着だろうが関係なく、積み上がってしまっていた。
 なんでこんな事が起きたのかは、紫苑自身も解らない。
 気が付いたら玲央の服を集めて、其処に包まってしまっていたのだ。
 何となくその服の山に埋もれていれば、ほんの少しだけ心地が良い。
 ベッドの上に積み上がっている玲央の服は、全てが高級ブランド物なのを知っている。
 この服の山は一体、総額いくらになるのだろうかと紫苑は思う。
 そんな高級な服の中に紛れ込みながら、紫苑はすやすやと寝息を立てていた。
 
 
 玲央が家に帰れば、何時もテレビの前にある筈の背中が無い。
 不思議に思った玲央が寝室を覗きに行けば、自分の服に埋もれた紫苑を発見した。
 玲央はそれを見るなり呼吸困難になる程に歓喜する。
 超高級ブランドで出来たΩの巣を眺めながら、玲央は恍惚の笑みを浮かべた。
 
「紫苑…………!!やっぱり君は僕の事………!!!大好きなんじゃないか………!!!」
 
 微睡みの中にいた紫苑は玲央の言葉で慌てて飛び起き、不機嫌そうに舌を打つ。
 玲央の何時もの自惚れた自分が愛されている理論が、目覚ましの代わりになるのは不愉快だ。
 この男は一体何を言っているのだという雰囲気を醸し出せば、うっとりとした表情の玲央が言葉を続けた。
 
 
「紫苑………だってこれって………巣作りだよね………??Ωの巣作りってやつだよね???」
 
 
 目をキラキラ輝かせながら自分の顔を覗き込む玲央に対し、紫苑は何が何だかわからず首を傾げる。
 紫苑は自分がΩでありながらも余りΩの事を解らない。
 それ故に玲央が何を言っているのかを、一切理解できないでいた。
 
 
「え?何それ………??」
 
 
 この日紫苑は何となく身体が怠く感じ、ずっとベッドで横たわっていた。
 風邪でもひいたのだろうと思っていた位で、自分の身体に何が起きているのかなんて想像さえしていなかったのだ。
 
 
「………え??Ωの巣作り、知らない??紫苑Ωなのに??」
 
 
 玲央が目を丸くしながら、紫苑に問いかける。それに対して紫苑はただ、小さく頷いただけだった。
 返事を返された玲央は顔がにやけるのを懸命に堪え、紫苑にタブレットを手渡す。
 余りにも玲央が不審な動きをするのが不愉快だと思いながら、それを受け取り電源を入れる。
 紫苑はタブレットを弄りながら、今日は画面を見るのも辛いと感じていた。
 何時も熱中してやっているテレビゲームでさえ、今日は一切やる気が起きない。
 身体がとても怠くて、起き上がるのさえやっとだ。
 長い間逃亡を続けていた身だ。疲労が出たのもあるだろう。そう思いながら紫苑は検索を進めていた。
 
 
 Ωの巣作りを調べれば、沢山の情報が飛び込んでくる。すると其処には信じがたい事実が記されていた。
 発情期に入ったΩが意中のαの匂いがするものを、かき集めてその匂いに包まる。
 そしてαが自分を抱いてくれるのを、其処で待つ習性を巣作りという。
 その事実を知った紫苑は顔を強張らせ、自分の周りに積み上がっていた玲央の服を蹴散らす。
 玲央はそんな風にムキになる紫苑を、遠巻きに眺めながらうっとりとした笑みを浮かべていた。
 
 
「………紫苑、そんな恥ずかしがらなくていいよ??
今僕は紫苑の本能が、僕を意中の人って感じてくれてる事がとっても嬉しいから………!!!」
 

 そう言いながら目を輝かせる玲央に対して、理不尽にも紫苑は怒り狂っている。
 心の底からそれを認めたくないと思っていた。
 こんな浮かれポンチを意中の人だと身体が感じているのは、本気で受け入れられない。
 きっと何かの間違いに決まっていると紫苑は思う。
 
 
「自惚れんなって言ってんだろ馬鹿野郎…………」
 
 
 玲央を制するように言い放てば、身体の奥底が沸騰する位に熱くなる。
 それと同時に紫苑の身体から、噎せ返る位の甘い芳香が漂ってきた。
 玲央はこの時ふとある事を思い返す。そういえば紫苑は運命の番によって起こる、軽い発情ヒートしか経験していない。
 本格的な発情期が訪れるのは、これが初めてなんじゃないだろうか。
 不安な予感が頭を過った瞬間にベッドの上にいる紫苑が震えだす。
 そのまま喘ぎの様な嬌声を出して、蕩けた表情を浮かべて玲央を見た。
 
 
「なにこれぇ…………へん、っ………へんなの………からだ、へんっ………!!!」
 
 
 紫苑は普通に話す事もままならない様子で、ハアハア吐息交じりに玲央を見上げる。
 話し方から声のトーン迄も、何時もの紫苑とは全く違う。
 紫苑がこんなに甘ったるい声で話せるのが、玲央には新鮮で仕方なかった。
 涙目で頬を上気させながら縋るように紫苑を見つめる。
 その顔を見てしまった瞬間、玲央の理性も一気に吹き飛んだ。
 
 
「なにそれ、紫苑可愛すぎる…………」
 
 
 玲央が思わず言葉を漏らした瞬間に、紫苑はベッドの上で蹲る。
 そして自分の性器の方を撫でながら小さな声で喘ぎ出した。
 
 
「あ……、や、ここ、だめ………あつい…………へん………ずっとへんなのぉ………」
 
 
 明らかに何時もの紫苑とは様子が違う。何時もの紫苑なら、ギリギリまで声を出すのを我慢する筈なのだ。
 何時もより濃厚なフェロモンの香りと同じで、どうやら発情の感覚も激しい様に感じられる。
 それに玲央も今、ラットの状態に切り替わってしまう寸前だった。
 頭いっぱいに「孕ませたい」という欲望で渦巻き、思わず手が出そうになる。
 今手を出してしまったとすれば、きっとひどく抱いてしまうに違いない。
 せめて抑制剤を服用して安全に抱こうと玲央は思い、ベッドから後ずさりをする。
 すると紫苑が今にも泣きだしそうな声で囁いた。
 
 
「………あ、や、やぁ……れおぉ………はなれないでぇ…………!!!」
 
 
 玲央はこの時、紫苑が自分に対してこんな甘い言葉を吐き出す事が信じられないでいた。
 今だかつてこんなにも本気で、紫苑に求められたことがあっただろうか。
 完全に凍り付いた表情を浮かべた玲央は、紫苑のいるベッドから離れられずに、紫苑を見つめて生唾を飲み込む。
 紫苑はボロボロと涙を流しながら、玲央に向かって叫んだ。
 
 
「おねがい………おかして………ずぷずぷって、してぇ………??
れおの、れおので、してぇ………??れおの、ほし………ほしいのぉ………」
 
 
 玲央はこの時、幸福過ぎて明日死んでも構わないとさえ思っていた。
 あの紫苑が淫猥な言葉を自ら口にしながら、泣いて犯してと懇願している。
 流石の玲央もこれには我慢の限界だった。
 
 
「………これは紫苑が良いって言ったよね??」
 
 
 ベッドの上にいる紫苑に飛び掛かった玲央は、紫苑の服を剥ぐ様に脱がしてゆく。
 全く抑えが効かない状態で紫苑の両脚を開けば、何時もより充血した入り口の粘膜から愛液を垂れ流した。
 まだ紫苑の中に入ってさえもいない玲央が、ハァハァ息を荒げて紫苑を見下ろす。
 何時もより玲央のものも大きく膨れ上がり、このまま抱いてしまったら紫苑は壊れてしまうのではないかと玲央は思った。
 紫苑の入り口が物欲しそうに痙攣を繰り返しているのを、Ωのフェロモンに包まれながら見つめている。
 その光景はとても卑猥で、そしてとても蠱惑的だった。こんなに乱れに乱れる紫苑の姿を見たことが無い。
 朦朧とした様子の紫苑が身体を起こし、玲央に縋り付いてキスをする。
 舌を自分から突き出しながら、玲央の唇を執拗に舐め回す。
 その行為を繰り返しながら、紫苑は自分の入り口に玲央のものを擦り付けた。
 
 
「おねがい、いれて、かきまぜて、これで………ぐちゃぐちゃって、して………!!!」
 
 
 玲央のものに紫苑の愛液が絡まり、いやらしい水音を響かせる。
 紫苑の身体を抑え付けて一気に貫けば、玲央の下で紫苑が悲鳴を上げた。
 
 
「あ!!あああ!!!これ!!!これえ!!!」
「紫苑煽りすぎ………!!!もうどうなっても知らないから………!!!」
 
 
 今までにない程に強い力で紫苑を抑え付けた玲央は、最奥目掛けて腰を突き動かす。
 紫苑の身体は突きまわされる事に達している様で、その都度花の匂いに甘い匂いが混ざり込んだ。
 この時に玲央は紫苑を、この発情期の最中にやり殺してしまうのではないかと不安に思った。
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