疼痛溺愛ロジック~嗜虐的Dom×被虐的Subの恋愛法則~

如月緋衣名

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Ⅷ.

Ⅷ 第三話

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 顔も綺麗でスタイルも良くて、更には食事を作るのも上手いとか一体どういう了見だ。
 そう思いながら遊歩特製のハンバーグを次々口に放り込む。
 
 
「ハンバーグ多めに焼いてあるから、そんな慌てて食うなって……」
 
 
 遊歩がそう言いながら穏やかに笑い、静かに食事を食べ勧めてゆく。
 この日の遊歩は何となくずっと緊張しているように見えて、何故か少しだけよそよそしい。
 それを不思議に思いながら俺はひたすらハンバーグを咀嚼していた。
 
 
 遊歩がテレビに向けてリモコンを弄れば、テレビのニュースがDomとSubのClaim結婚に対しての特集を行っている。
 DomとSubはClaimという届け出を出してしまえば、結婚と全く同じ効果を持つことができるのだ。
 こんな話は俺や遊歩のような人間には余り関係の無い話だろうと、更にハンバーグを食べ進める。
 だって飼い主と玩具だ。どう逆立ちしても結婚なんて二文字は浮かばない。
 それに元々結婚なんて興味なんて無かったし、余り考えることさえなかった。
 
 
 遊歩の事は愛している。だけど傍にこうしていられるだけで構わない。
 これ以上の事を望まない。今が本当に幸せである。
 そんなことより今の俺としては、遊歩が作ってくれたハンバーグが美味しいのが全てだ。
 テレビ画面を見ている遊歩が、ほんの少しだけ頬を赤く染める。
 俺の方に視線を向けたと思いきや、いきなりこんな事を言い出した。
 
 
「あのさぁ、俺たち結婚しねぇ?」
 
 
 あの遊歩から飛び出してくる結婚という文字の破壊力。
 余りの衝撃に思わず噎せれば、心配そうに遊歩が俺の顔を覗き込んできた。
 
 
「ああ、ほら………もう………一希馬鹿だなー……あんな詰め込むから………」
 
 
 そう言いながら水を差しだしてきた遊歩から、水を受け取り一気に飲み干す。
 身体の状態を完全に整えてから、真っ直ぐ遊歩の方をみた。
 あれはもしかしたら俺の聞き間違えなり、妄想なり何かの間違えに違いない。
 
 
「え……??今なんて???」
 
 
 俺がそう聞き返せば、遊歩がほんの少しだけムッとした表情をする。
 
 
「一希ぃ!!流石にこれ何度も言わせないでくれない??
だから、俺と結婚してよって……」
 
 
 結婚。これは聞き間違いではない。結婚だ。正真正銘俺が知ってる結婚の話をしている。
 余りの衝撃に凍り付いたままでいれば、不安そうな遊歩が俺の顔を覗き込んだ。
 
 
「一希は……俺とじゃ嫌……?」
「は!?え!?全然!?!?嫌じゃないよ!?!?嫌とかないから!!!!
すっげーびっくりしてるけど!!すっげーびっくりしてるけど!!!!!」
 
 
 俺がそう言うと遊歩が嬉しそうに笑う。
 そして椅子から立ち、リビングから出て行った。
 
 
「少しだけ待ってて……」
 
 
 遊歩が居なくなったリビングの中で、テレビの音をBGM代わりにしながら頬をつねる。
 ちゃんと痛みを身体で感じることが出来たのを実感してから、もしかしたらマゾだから痛みが足りてないかもと不安になった。
 遊歩がリビングに戻ってくるなり、遊歩に対してこう言う。
 
 
「遊歩ごめん。ちょっと殴ってくんない……?」
 
 
 遊歩が呆れたような顔をしながら、ベロアで出来た小さな小箱をテーブルの上に置く。
 それから俺に向かい歩み寄ってきた。
 
 
「なんでお前今そんな事俺に言うの?」
 
 
 地味にグレアの空気を醸し出しながら、遊歩が俺の頬に手を当てる。
 
 
「いや………こんなに都合が良すぎると………夢なんじゃないかって思っちゃって……」
 
 
 俺がそう言いだした瞬間に、遊歩が俺の顔を物凄い勢いで拳で殴り飛ばした。
 重たい痛みと物凄い衝撃に、ほんの少しだけ目が回る。
 
 
 痛い。滅茶苦茶痛い。夢じゃない。
 
 
 フローリングの床に転がり倒したままで、遊歩の家の天井を見上げる。
 すると俺を見下ろしながら遊歩がひょっこり顔を出した。
 
 
「……どう?痛い?夢じゃないだろ?」
 
 
 夢じゃない。それに何時もの遊歩だ。殴り方に情け容赦が一切ない。
 すると遊歩が床で伸びている俺の左手を取り、甲に唇を押し当てた。
 それと同時に俺の左手の薬指に金属独特の冷たさが通る。
 指を確認すれば、首輪の形をした指輪が其処には付いていた。
 ガチなヤツだ。ガチなプロポーズだ。間違いなく夢じゃない。
 
 
「痛い……です……」
 
 
 ズキズキ痛む顔を抑えて起き上がれば、遊歩が咳払いをして見せる。
 畏まった雰囲気を醸し出しながら、俺の手を自分に引き寄せた。
 
 
「じゃあ解ったな。一希、俺と結婚して………」
「はい………?」
 
 
 プロポーズを承諾してはしまったが、俺と遊歩は一体どんな関係だったのだろうか。
 思いっきり様々な工程を吹き飛ばして、結婚という選択を選んだ気がする。
 愛してるだとか好きだとか、そういう類の言葉は言われた事は無い。
 それに俺だって愛しているとか好きだとか、そういう事は口にしていないのだ。
 
 
「役所行くの、俺の誕生日でいい?」
 
 
 誕生日プレゼント俺でいいですかとは言ったが、本気で言ったつもりじゃなかった。
 いざ改めて言われてしまえば、正直思考が追い付かない。
 
 
「うん……大丈夫………ってか、遊歩俺で良いの……??何時から俺好きなの……?」
 
 
 思わず口を付いて出た言葉に対して、遊歩が嬉しそうに笑う。
 それから少しだけ懐かしそうな表情を浮かべた。
 
 
「うん。一希じゃなきゃ嫌だけど?初めてあった時からだから、殆ど一目惚れ。
………ずっとお前の事、好きだよ。愛してる……」
 
 
 そもそも俺は遊歩と初めて出会った時から、夢を見ていたのではなかろうか。
 この後「ドッキリ大成功」と書かれたテロップを持って、色々な人が出てくるのではなかろうか。
 疑心暗鬼に陥りながら、左手の薬指の指輪を撫でる。すると遊歩が更に言葉を続けた。
 
 
「あの時本当に清々しくってさ……。死以外の欲が本当に無くて。スゲー綺麗に見えた。
本当に何したって一希壊れなくてさ……!!俺が全力出しても逃げないし!!
皆俺の事死神みたいに扱って俺から離れて行っちゃうから、朝起きて一希がまだ近くにいて嬉しかったんだ。
俺あの時に運命って言葉信じた…………」
 
 
 遊歩からそう言われた瞬間に、色々な事を振り返る。
 確かに今考えてみれば、愛されてなければおかしかったのだ。
 ありったけの勇気を振り絞って、愛しているといってくれたに違い無いのに、まだ俺は遊歩に自分の気持ちを伝えてない。
 言わなきゃいけない。ちゃんと俺の口から、愛しているという気持ちを。
 
 
「遊歩………俺ね……俺も………」
 
 
 いざ言葉に出そうとすると、もたついてしまう自分がいる。
 遊歩はそんな俺の事をただ優しく見守ってくれた。
 愛していると人に伝えることは本当に難しい。そう思った瞬間だった。
 
 
 部屋中にけたたましく鳴り響くインターフォンの音に、遊歩と俺は動きを止める。
 それは何度も何度も繰り返し、ただひたすら鳴り響いていた。
 悪戯にしては少しだけしつこい上に、これが鳴り響くのは時間的に迷惑だ。
 
 
「……ちょっと待って」
 
 
 遊歩がそう言いながらモニターを確認する。
 けれどモニターには誰の姿も写ってなんて居なかった。
 
 
「んー……これ、故障だったりするのかなぁ……」
 
 
 二人でモニターの前で首を傾げ、ゆっくりと玄関に近付いてゆく。
 遊歩が深く溜め息を吐きながらドアの鍵を開いた。
 
 
「うーん……このタイミングにインターフォンの故障は痛いなぁ………」
 
 
 あと少しで俺も遊歩に愛していると言えたのになんて、思う気持ちが言葉に出る。
 すると遊歩が頬をほんの少しだけ赤く染めて笑った。
 
 
「後でさ、沢山聞かせてよ……」
 
 
 愛しい。その感情を心の中に浮かべながら、遊歩の背中を見つめていた。
 この良い男が俺の旦那様になる。そう思った瞬間、胸が苦しくなった。
 幸せもちゃんと苦しいんだから、人間は不思議だ。
 
 
 遊歩がドアを開いた瞬間ドアの向こうに人影が見える。それと同時に遊歩の身体は玄関の前で崩れ落ちた。
 どういうことなのかさっぱり解らないままで呆然と立ち尽くす。
 すると遊歩の肩越しに見えた顔は遥さんだった。
 
 
「遊歩だけ、幸せになるなんて許さない!!どうして!!どうして僕じゃないの!!なんで僕じゃない人と、生きていこうとしてるんだよ!!!!」
 
 
 グチャグチャに泣きはらした顔の遥さんが、ドアの前で崩れ落ちる。
 その手には血で真っ赤に染まったナイフが握り締められていた。
 
 
 刺された。遊歩が。遥さんに。どうして。
 
 
 俺はその光景を見ながらただ茫然としていた。
 遊歩が遥さんの方目掛けて何かを云った瞬間、遥さんは武器を手放しそのまま動けなくなる。
 そして遊歩は俺の方を見て、満足そうな笑みを浮かべた。
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