疼痛溺愛ロジック~嗜虐的Dom×被虐的Subの恋愛法則~

如月緋衣名

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Ⅴ.

Ⅴ 第二話

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 ソファーから場所を変えて、お風呂の中でもやって、やっとベッドにきて、またセックスしはじめた辺りで、空が明るくなってることに気付く。
 でもそんなの今お構い無しに、ただひたすらやりまくりたい。
 快楽と遊歩の熱と声に溺れていたい。それ以外なにも考えたくない。
 
 
「ゆうほ……おれまたいっちゃう……もう、ずっといってる…………」
 
 
 さっきから俺の身体はイキっぱなしで、もう頭が真っ白だ。
 俺の身体には沢山の遊歩の噛んだ痕が残っている。
 それでも遊歩は飽きもせず、俺の身体に自分の痕跡を残した。
 
 
Comイケよ
 
 
 遊歩が俺の目を覗き込んだ瞬間に、呼吸が乱れて涙が溢れ出す。
 もう既に乱れに乱れてぐちゃぐちゃになったシーツを、きつく握り締めながら身体を震わせた。
 
 
「あ……!!ああ!!やっ……!!あああああ!!」
 
 
 俺がイク度に遊歩がほんの少し、安心したような顔をする。
 汗ばんだ顔に遊歩の指が伸び、俺の前髪を撫でてゆく。
 遊歩の大きな手に触れて頬擦りしながら、静かに瞳を閉じた。
 
 
 額に唇の感触を感じながら心から愛しいと思う。
 俺は遊歩を好きになりかけている。遊歩に恋をしそうになっている。
 そう気付いたのと同時に、やっと意識を手放した。
 どうしてこんな傍若無人の乱暴者に、恋なんてしそうになっているんだ。
 
 
 口を開けば下ネタか失礼な事しか言わない彼を、愛しいなんて感じ始めてるんだ。
 自分が殺されること位しか、彼には期待してなかった。
 好きになりそうだなんて馬鹿みたい。
 だけど遊歩の温かい手にだけは、ずっとずっと惹かれていたと思うのだ。
 
 
 遊歩のイビキの音で目を覚ませば、時計は昼を指している。
 相変わらずこの男は何で生計を立てているのか、正直一切解らない。
 身体中についた痕を抱き締めるようにして、ゆっくりとベッドから降りる。
 するとすぐに俺の身体は、ベッドの中に引き摺り込まれた。
 
 
「……何処行くんだよ!」
 
 
 遊歩が声を荒げて起き上がり、俺の身体を押し倒す。
 セックスの最中の時と同じくらいに、遊歩の呼吸は乱れていた。
 
 
「あ、いや、何処でも、ない………。起き上がっただけ………」
 
 
 そう返事を返せば遊歩が今にも泣き出しそうな顔をする。
 その顔は昔日向がしていた、感極まった目を思い起こさせた。
 
 
「……そう」
 
 
 遊歩がそう言いながら俺の身体をきつく抱き締め、胸元に頬擦りしながらベッドに転がる。
 まるで機嫌の悪そうな子どもの様に愚図る遊歩を、迂闊にも可愛いと感じてしまった。
 
 
「………遊歩、俺もう平気だよ?」
 
 
 俺がそう言うと遊歩はグレアの空気を醸し出す。
 この状態になってしまえば遊歩は、絶対いうことを聞かない。
 その辺りでもう少しだけ遊歩に甘えていようと諦めた。
 
 
 俺の腕に絡まりながら、遊歩が静かに目を閉じる。
 サラサラとした亜麻色の髪がとても綺麗で、思わず触れたいと感じてしまう。
 前髪を指先で撫でれば、遊歩のくっきりとした二重瞼が俺を真っ直ぐに見つめた。
 
 
 好きになりかけていると自覚すれば、心臓が無駄に高鳴る気がする。
 目の前にいる遊歩に見とれているのに気付いた時、部屋中にとある音が響き渡った。
 ぐぅぅぅぅ、という轟音と共に、遊歩がククっと声を漏らす。
 
 
「あは、アハハハハ!ごめん俺腹へったわ!!」
 
 
 まるでグレアの空気を誤魔化すかのように、遊歩がヘラヘラと笑い出す。
 それを感じ取りながら、俺も何も気付いていない風に笑った。
 
 
「俺も……!!何か食べようぜ……!!」
 
 
 お互いに騙し合っている。遊歩が何を隠しているのかなんて解らない。
 そう感じてしまった瞬間、心がズキリと痛んだ。
 
 
「ハンバーガー食いてぇんだけど、それでいい?配達して貰うから」
 
 
 遊歩がそう言いながら俯せになり、携帯を片手に弄り出す。
 その時に日の光に遊歩の背中が照らされた。
 思えば遊歩は俺に余り背中を向けるような真似はしない。
 珍しいと思いながら遊歩の背中に頬を寄せようとした時、とあるものが視界に入った。
 
 
 よく見なければ解らないけれど、遊歩の背中にほんの少しだけ皮膚の色が違う場所がある。
 ほんの少しだけ光沢を帯びているそれが、何かの傷跡である事に俺はすぐ気付いた。
 よく見なければ解らないものではあるが、それはとても無数に付いている。
 しかも一部だけに集中しているのだ。
 
 
 遊歩から大根おろし器と言われる位には、日常的に怪我をしてきたこの俺だ。人の傷に関してだけはとても敏感である。
 しかもこの傷跡は間違いなく、人が故意に付けたような傷だ。
 でなければこんな傷の形に成り得ない。
 遊歩に悟られないように傷を見ないふりをしながら、遊歩の隣に同じように寝転ぶ。
 
 
「……いいよ。俺ダブルチーズバーガーあったらそれ食いたい!!」
 
 
 取り繕うかの様に笑みを浮かべれば、遊歩がそれに合わせて笑う。
 この時に俺は遊歩に悟られてやいないかと内心ハラハラしていた。
 
 
「解った」
 
 
 遊歩がそう言いながら笑い、何事も無かったかの様にバスローブを羽織る。
 電話を掛けながら部屋から出てゆく遊歩の背中を眺めながら、俺はキュウと切なく痛む胸を抑えていた。
 
 
***
 
 
 遊歩に限って俺みたいに、そういうプレイをしているとは思えない。
 ダイナミクスと実際の性癖は余り関係がないとも話では聞くが、遊歩のような人間にそんな癖があるとは全く思えないのだ。
 
 
 俺の目の前で遊歩が夢中になりながら、ハンバーガーを食べている。
 何も会話をせずに食事を食べる遊歩を見ながら、余程体力を使っていたんだと感じた。
 昨日したセックスは遊歩の欲の為じゃない。どう見ても俺に余計なことをさせない為だ。
 そう思うと申し訳なささえ感じた。
 
 
 粗方食事を食べきった後で、遊歩が口の端についたケチャップを自ら拭う。
 そしてやっと口を開いた。
 
 
「…………あのさ、お前その、元彼の友達の件、どうすんの?」
 
 
 俺の顔色を窺いながら、探り探りに言葉を吐き出す。
 余りにも滑らかではない言葉の運びに、思わずほんの少しだけ笑いが込み上げた。
 
 
「ああ、遺書の事ね………。話した方が良いのは、解ってるんだ………。
だけど一人で話すのは少し怖いなって思っ……」
「俺一緒に会うわ」
 
 
 俺が途中までしか話していないのに、遊歩が俺にそう言い放つ。
 余りの衝撃に固まってしまっている俺を見ながら、遊歩が残りのポテトフライを指で摘まんだ。
 真っ直ぐに俺の顔を見ながら、モグモグ食事を食べる遊歩に俺はただ頷いた。
 
 
 遊歩は今どんな気持ちで同行するつもりなのかと、不安な気持ちが沸き上がる。
 それに死人に迄嫉妬するくらいに独占欲の強い遊歩なら、俺が義人さんに逢いに行くことさえ嫌な筈だと解っていた。
 
 
「ありがと…………。でも遊歩嫌じゃないの?」
「嫌に決まってんじゃん」
 
 
 間髪入れずに遊歩が言葉を吐き捨てる。それからまたポテトフライを摘まみ、静かに咀嚼をし始めた。
 暫しの沈黙を挟ませながら、遊歩がわざとらしくゲップをして見せる。
 その姿に対してほんの少しだけ嫌悪感を抱いているような視線を送ると、遊歩が視線を俺から逸らした。
 
 
「まぁ、心配だから。
好き好んで逢いたい人じゃないけど、お前の安全と天秤に掛けたらそれしかないし。
だからお前にあった事、後でちゃんと全部話せよ?」
 
 
 さらっと遊歩が俺が恥ずかしくなるような言葉を口にして、照れ臭そうに立ち上がる。
 そしてまたさっきとは打って変わってような態度でこういった。
 
 
「まー、その後でフェラチオ期待してますよ一希くーん???」
「……は?お前あんだけセックスしときながらまだやんの!?」
 
 
 俺が思いっきり大きな声を出せば、遊歩が何時も通りの下衆な笑みを浮かべて笑う。
 下衆だし下品だしどうしようもない男なのに、俺には遊歩がとても恰好良く見える。
 このままではヤバイ。本当に本当に好きになる。
 若干の焦りを感じながらも、俺は恋に気付いていないフリをする。
 そう言えばどこかの誰かが恋の始まりは「好きになってはいけないと思う事」だと言っていた。
 その言葉を言った人間が、何処のどいつか解らないけれど。
 
 
 もしかしたら本当にそうなのかもしれないとこの時ばかりは考えて、やっぱりそんなの考えちゃいけないと自分で自分の感情を無視した。
 この形が最高だから俺の感情一つでこの形を壊したくない。
 好きになるのも失くしてしまう事も怖い。
 この時に俺はこのまま変わらずに、遊歩と一緒の何時もの日々を送れたらいいと思っていた。
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