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Ⅲ.
Ⅲ 第二話
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キッチリとしたスーツを着こなした遊歩はとても色っぽく、こうやって見ると確かにそれなりの権力がありそうに感じられる。
普段の遊歩を知っている俺は、馬子にも衣裳という単語を思い浮かべていた。
髪をセットしている最中に、一度だけ遊歩が振り返る。
そしてベッドで完全にダウンしている俺の方を見て笑った。
「ねぇ、これ似合ってる??格好いいでしょ?」
シックでおしゃれな灰色のストライプのオーダースーツの中に、黒いシャツを合わせている。
この姿からは昨日俺に薬を盛ったりだとか、人の事を何度も浴槽に沈めたりしている事は想像できない。
「めっちゃカッコいい」
本性が解らなくて、という言葉を飲み込みながら褒める言葉を投げかける。
すると遊歩が俺の寝ているベッドの上に跨り、俺の顔に自分の顔を近付けてきた。
「そろそろ俺、仕事行くね?」
【Kiss】
遊歩らしくないコマンドだと思いながら、遊歩の薄く開かれた唇に唇を重ねる。
ちゅ、というリップ音を立ててみれば、遊歩がククッと声を出して笑った。
「何?この新婚みたいなやり取り……!!滅茶苦茶柄じゃねぇよな……!!」
新婚みたいなやり取りといわれてみれば、確かにそんな気がしないでもない。
夫を見送る妻のような事をしている。
「確かに……調子狂うな……しっくりこないよな………」
俺がそう言いながら首を捻らせれば、遊歩が何かを思いついたかのような顔をする。
それと同時に遊歩が俺の顔の前で囁いた。
【Stay】
遊歩がそう囁いた瞬間に遊歩の平手が顔面に飛ぶ。
されるがままに何往復か俺の顔を叩きながら、遊歩がケラケラ笑いだした。
「これこれ!!一番しっくりくる!!!アハハハハ!!じゃあいってきます!!」
遊歩は俺の顔を一頻りひっぱたいた後で、颯爽とベッドルームから出てゆく。
ジンジン痛む顔を撫でながら、ベッドの上に転がり落ちる。
そしてたった一人で遊歩の家の天井を見上げながら、小さく囁いた。
「確かにこれ一番しっくりくるわ………!!」
ベッドの上で遊歩がしているかの様に、ケラケラと声に出して笑う。
遊歩に逢ってから俺は、上手な笑い方を思い出したような気がする。
クズとクズが運命的に出会っただけの偶然でしかないものだが、つまらない俺の日々に彩りが出た事は確かなのだ。
例えその色合いがドブみたいな汚い色だったとしても、色のない世界を生きているより大分良いものだと思う。
俺は日向を失ったあの日に、世界の彩りを失う感覚を理解した。
だからモノクロの世界を生きてきた俺にとっては、この色合いが心地良いのだ。
***
遊歩が家に帰ってきたのは、夜22時過ぎだった。
家に帰って来るなり小さく舌打ちをしてから、ソファーに大股開きで座る。
ぐったりとして疲れ切った遊歩を見ていれば、何だか新鮮で笑いが込み上げてきた。
「……お帰り」
俺がそう囁けば、遊歩は疲れた顔で微笑み返す。
そして俺の顔を見るなりこういった。
【Come】
遊歩の掛けているソファーの足元に座り、遊歩の膝に凭れ掛かる。
上目遣いで遊歩を見上げれば、遊歩が俺の頭をクシャクシャと撫でまわした。
まるで犬の様に扱われていると思いながら、遊歩にされるがままに身体を預ける。
「ああ、ご飯出来てるから。冷蔵庫に入ってるよ」
「やば、出来た嫁みたいじゃん。あとで食べる」
遊歩がそう言いながら笑い、俺の身体を抱き起こす。
そして俺の身体に顔を埋めて深呼吸をした。
「……………めちゃくちゃセックスしてぇ」
昨日あれだけヤったというのに、流石に性欲が強すぎるんじゃないだろうか。
思わず顔を強張らせれば、遊歩が不思議そうな眼差しを浮かべて首を傾げる。
ほんの少しだけあざとい表情を浮かべる遊歩を可愛いと感じてしまったけれど、何かの間違いだろうと頭の中で否定した。
すると遊歩が俺の身体を自分から少しだけ遠ざけて、ゆっくりと立ち上がる。
「ごはん……いただきます」
フラフラとキッチンに向かう遊歩の背中を見守りながら、久しぶりにプレイやセックスをしない夜を過ごす。
あれは大好きな事ではあるが、時間と体力を思いっきり取られるものである。
久しぶりに自由な時間を手にしながら、取り敢えずテレビの電源を着ける。
キッチンの近くにあるテーブルで、遊歩が食事を食べていた。
遊歩が食事を食べる時の食器の音が、自棄に大きく聞こえる気がする。
というかテレビの番組を久しぶりに観たせいで、何にも中身が入ってこない。
思わずテレビの電源を消せば、後ろの方から遊歩の声が聞こえる。
「そんなにリモコン弄ってどうしたの?電池でも切れた?」
遊歩がそういいながら俺の事を見つめている。
口にはまだ箸を咥えたままだ。片手にもった茶碗の中には、半分ご飯が入っていた。
「ううん、違う。なんか観たい番組なくて」
そう返事を返してみれば遊歩が小さく笑う。
「あー、たまにそういう事ってあるよね。
っていうか、一希がテレビ観ようとしてるとこ初めてみた」
遊歩がそう言いながら食事を進めてゆく。
食事を食べる遊歩の横顔を見ていた時に、俺はとある事に気が付いた。
気が付けば俺の身体は、セックスをしない時間の過ごし方を忘れてしまっているようだ。
遊歩と出逢う前は一体、どうやって生きてきたのだろうか。
先ずはちゃんと仕事をして時間を潰していた。次に交流場でDom漁り。
でも絶対に普通に一人で何もせずに、過ごしていた時間があった筈なのだ。
今まで当たり前のように過ごしていた時間の過ごし方が、爛れた生活のせいですっかり忘れ去られてしまっている。
俺が過ごしてきた普通が解らない。
ほんの少しだけ頭を冷やしたいと思い、お風呂に向かい歩き出す。
けれどその時に、遊歩が俺に向かって叫んだ。
「一希!風呂は一緒だって………」
そうだ。そういえば俺今、遊歩と風呂まで一緒に過ごしてた。
でも風呂に入ったら、遊歩に身体を見せることになる。
そしたら多分俺と遊歩は、確実にしたくなってしまう。
俺が考えていることを察したのか、遊歩が悲しそうな表情を浮かべる。
「先……入ってきて……」
「あ、うん、解った………」
今本当に遊歩は禁欲しなきゃいけないんだろうと思いながら、タオルを手にしてバスルームへと向かう。
性的なことをしないでいる遊歩は、今にも萎びてしまいそうな位弱って見えた。
寝室を暗くしてベッドサイドのライトを着ける。
遊歩と同じベッドに潜り込めば、遊歩が俺に小さく囁く。
【Kiss】
ベッドの中で遊歩に唇を寄せれば、遊歩が俺の頭を押さえ付ける。
唇を薄く開いた瞬間、遊歩の舌が俺の口の内に捩じ込まれた。
「ん………」
思わず小さく声を漏らせば、遊歩が更に深く舌を絡ませてくる。
お互いに貪るようなキスを繰り返したその時、身体が疼くような感覚がした。
なんだろう、物足りない。ほしい。
もっともっともっと、遊歩からキスが欲しい。
「遊歩……」
思わず名前を囁いた瞬間、遊歩が俺の身体を抱き寄せる。
遊歩の腕が背中に回り、腰を撫でてからお尻の肉を鷲掴む。
その触り方は完全に遊歩がシたがっている時のもので、此処までくれば完全にヤるとさえ思っていた。
「っうー…………生殺しぃ………おやすみ……」
眉を潜めていっぱいいっぱいの表情を浮かべた遊歩が、俺の身体を引き剥がして目を閉じる。
それから俺に背中を向けて、ごろりと反対側に転がった。
あの遊歩がセックスしないなんてと、俺は驚いて目を見開く。
ベッドサイドのライトを消す為にほんの少しだけ身体を起こせば、既に遊歩は寝息を立てていた。
生殺しと言いながらも意外とさっくり寝るんだなと笑い、眠る遊歩の寝顔を眺める。
さっき自分の中に沸き上がった、ほんの少しだけ物足りないと感じた気持ちは、きっと何かの間違いだ。
そう思い込むことにして、俺は遊歩に背中を向けて目を閉じた。
普段の遊歩を知っている俺は、馬子にも衣裳という単語を思い浮かべていた。
髪をセットしている最中に、一度だけ遊歩が振り返る。
そしてベッドで完全にダウンしている俺の方を見て笑った。
「ねぇ、これ似合ってる??格好いいでしょ?」
シックでおしゃれな灰色のストライプのオーダースーツの中に、黒いシャツを合わせている。
この姿からは昨日俺に薬を盛ったりだとか、人の事を何度も浴槽に沈めたりしている事は想像できない。
「めっちゃカッコいい」
本性が解らなくて、という言葉を飲み込みながら褒める言葉を投げかける。
すると遊歩が俺の寝ているベッドの上に跨り、俺の顔に自分の顔を近付けてきた。
「そろそろ俺、仕事行くね?」
【Kiss】
遊歩らしくないコマンドだと思いながら、遊歩の薄く開かれた唇に唇を重ねる。
ちゅ、というリップ音を立ててみれば、遊歩がククッと声を出して笑った。
「何?この新婚みたいなやり取り……!!滅茶苦茶柄じゃねぇよな……!!」
新婚みたいなやり取りといわれてみれば、確かにそんな気がしないでもない。
夫を見送る妻のような事をしている。
「確かに……調子狂うな……しっくりこないよな………」
俺がそう言いながら首を捻らせれば、遊歩が何かを思いついたかのような顔をする。
それと同時に遊歩が俺の顔の前で囁いた。
【Stay】
遊歩がそう囁いた瞬間に遊歩の平手が顔面に飛ぶ。
されるがままに何往復か俺の顔を叩きながら、遊歩がケラケラ笑いだした。
「これこれ!!一番しっくりくる!!!アハハハハ!!じゃあいってきます!!」
遊歩は俺の顔を一頻りひっぱたいた後で、颯爽とベッドルームから出てゆく。
ジンジン痛む顔を撫でながら、ベッドの上に転がり落ちる。
そしてたった一人で遊歩の家の天井を見上げながら、小さく囁いた。
「確かにこれ一番しっくりくるわ………!!」
ベッドの上で遊歩がしているかの様に、ケラケラと声に出して笑う。
遊歩に逢ってから俺は、上手な笑い方を思い出したような気がする。
クズとクズが運命的に出会っただけの偶然でしかないものだが、つまらない俺の日々に彩りが出た事は確かなのだ。
例えその色合いがドブみたいな汚い色だったとしても、色のない世界を生きているより大分良いものだと思う。
俺は日向を失ったあの日に、世界の彩りを失う感覚を理解した。
だからモノクロの世界を生きてきた俺にとっては、この色合いが心地良いのだ。
***
遊歩が家に帰ってきたのは、夜22時過ぎだった。
家に帰って来るなり小さく舌打ちをしてから、ソファーに大股開きで座る。
ぐったりとして疲れ切った遊歩を見ていれば、何だか新鮮で笑いが込み上げてきた。
「……お帰り」
俺がそう囁けば、遊歩は疲れた顔で微笑み返す。
そして俺の顔を見るなりこういった。
【Come】
遊歩の掛けているソファーの足元に座り、遊歩の膝に凭れ掛かる。
上目遣いで遊歩を見上げれば、遊歩が俺の頭をクシャクシャと撫でまわした。
まるで犬の様に扱われていると思いながら、遊歩にされるがままに身体を預ける。
「ああ、ご飯出来てるから。冷蔵庫に入ってるよ」
「やば、出来た嫁みたいじゃん。あとで食べる」
遊歩がそう言いながら笑い、俺の身体を抱き起こす。
そして俺の身体に顔を埋めて深呼吸をした。
「……………めちゃくちゃセックスしてぇ」
昨日あれだけヤったというのに、流石に性欲が強すぎるんじゃないだろうか。
思わず顔を強張らせれば、遊歩が不思議そうな眼差しを浮かべて首を傾げる。
ほんの少しだけあざとい表情を浮かべる遊歩を可愛いと感じてしまったけれど、何かの間違いだろうと頭の中で否定した。
すると遊歩が俺の身体を自分から少しだけ遠ざけて、ゆっくりと立ち上がる。
「ごはん……いただきます」
フラフラとキッチンに向かう遊歩の背中を見守りながら、久しぶりにプレイやセックスをしない夜を過ごす。
あれは大好きな事ではあるが、時間と体力を思いっきり取られるものである。
久しぶりに自由な時間を手にしながら、取り敢えずテレビの電源を着ける。
キッチンの近くにあるテーブルで、遊歩が食事を食べていた。
遊歩が食事を食べる時の食器の音が、自棄に大きく聞こえる気がする。
というかテレビの番組を久しぶりに観たせいで、何にも中身が入ってこない。
思わずテレビの電源を消せば、後ろの方から遊歩の声が聞こえる。
「そんなにリモコン弄ってどうしたの?電池でも切れた?」
遊歩がそういいながら俺の事を見つめている。
口にはまだ箸を咥えたままだ。片手にもった茶碗の中には、半分ご飯が入っていた。
「ううん、違う。なんか観たい番組なくて」
そう返事を返してみれば遊歩が小さく笑う。
「あー、たまにそういう事ってあるよね。
っていうか、一希がテレビ観ようとしてるとこ初めてみた」
遊歩がそう言いながら食事を進めてゆく。
食事を食べる遊歩の横顔を見ていた時に、俺はとある事に気が付いた。
気が付けば俺の身体は、セックスをしない時間の過ごし方を忘れてしまっているようだ。
遊歩と出逢う前は一体、どうやって生きてきたのだろうか。
先ずはちゃんと仕事をして時間を潰していた。次に交流場でDom漁り。
でも絶対に普通に一人で何もせずに、過ごしていた時間があった筈なのだ。
今まで当たり前のように過ごしていた時間の過ごし方が、爛れた生活のせいですっかり忘れ去られてしまっている。
俺が過ごしてきた普通が解らない。
ほんの少しだけ頭を冷やしたいと思い、お風呂に向かい歩き出す。
けれどその時に、遊歩が俺に向かって叫んだ。
「一希!風呂は一緒だって………」
そうだ。そういえば俺今、遊歩と風呂まで一緒に過ごしてた。
でも風呂に入ったら、遊歩に身体を見せることになる。
そしたら多分俺と遊歩は、確実にしたくなってしまう。
俺が考えていることを察したのか、遊歩が悲しそうな表情を浮かべる。
「先……入ってきて……」
「あ、うん、解った………」
今本当に遊歩は禁欲しなきゃいけないんだろうと思いながら、タオルを手にしてバスルームへと向かう。
性的なことをしないでいる遊歩は、今にも萎びてしまいそうな位弱って見えた。
寝室を暗くしてベッドサイドのライトを着ける。
遊歩と同じベッドに潜り込めば、遊歩が俺に小さく囁く。
【Kiss】
ベッドの中で遊歩に唇を寄せれば、遊歩が俺の頭を押さえ付ける。
唇を薄く開いた瞬間、遊歩の舌が俺の口の内に捩じ込まれた。
「ん………」
思わず小さく声を漏らせば、遊歩が更に深く舌を絡ませてくる。
お互いに貪るようなキスを繰り返したその時、身体が疼くような感覚がした。
なんだろう、物足りない。ほしい。
もっともっともっと、遊歩からキスが欲しい。
「遊歩……」
思わず名前を囁いた瞬間、遊歩が俺の身体を抱き寄せる。
遊歩の腕が背中に回り、腰を撫でてからお尻の肉を鷲掴む。
その触り方は完全に遊歩がシたがっている時のもので、此処までくれば完全にヤるとさえ思っていた。
「っうー…………生殺しぃ………おやすみ……」
眉を潜めていっぱいいっぱいの表情を浮かべた遊歩が、俺の身体を引き剥がして目を閉じる。
それから俺に背中を向けて、ごろりと反対側に転がった。
あの遊歩がセックスしないなんてと、俺は驚いて目を見開く。
ベッドサイドのライトを消す為にほんの少しだけ身体を起こせば、既に遊歩は寝息を立てていた。
生殺しと言いながらも意外とさっくり寝るんだなと笑い、眠る遊歩の寝顔を眺める。
さっき自分の中に沸き上がった、ほんの少しだけ物足りないと感じた気持ちは、きっと何かの間違いだ。
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