疼痛溺愛ロジック~嗜虐的Dom×被虐的Subの恋愛法則~

如月緋衣名

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Ⅱ. 

Ⅱ 第一話

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 遊歩と俺が出会って約一か月。気が付けばほぼほぼ毎日のように、遊歩と顔を合わせる様になっていた。
 あの時遊歩と出会った交流場は、見事に二人仲良く出入り禁止。
 更には俺はその時に働いていたつまらない居酒屋の仕事を、顔の怪我を理由にクビになった。
 
 
 そもそも自傷で注意は受けていたばかりだ。抗う必要もなくさらりと辞める。
 そしてそれからというもの、どちらかの家にどちらかが行く生活を送っているのだ。
 
 
「ねぇ、もう俺の家に住めばぁ?俺家事してくれたら養ってあげるよー?」
 
 
 遊歩の家のキッチンを借りて、適当な料理を作る。
 今日の献立は遊歩の家にあった牛肉と茄子とピーマンを、焼き肉のタレで炒めたものと、電子レンジでチンして蒸した玉ねぎに、鰹節とポン酢をかけたもの。
 それに即席の味噌汁さえだせば完璧だ。
 
 
「引っ越し代がねぇからまずそこからだよ」
 
 
 そういいながら笑い、遊歩の前に皿を並べてゆく。
 こうやって誰かと一緒に過ごすのなんて、日向と一緒にいた頃以来だ。
 
 
「それもなんとかしてやるから、大人しく俺に監禁されてよ」
 
 
 遊歩がなんの仕事をしていて、どうやって生計を立てているのかは、正直一切俺はわからない。
 俺と遊歩は余り詳しく、お互いのプライベートを詮索しない。
 ただ俺は仕事を辞めたのを遊歩は解っていて、遊歩が何か仕事をしていることを俺が把握してる位だ。
 
 
 けれどまともに金を稼いだりしてないこと位は、何となく勘で解っている。
 この男はロクな生き方をしてない。きっと死ぬ時はロクな死に方しないだろうと思う。
 
 
「んー監禁はちょっと魅力的かな……憧れる……」
「わー、ド変態!!」
 
 
 俺の顔の怪我が大分綺麗になったことに気付いた遊歩が、ケラケラと下衆な笑いを浮かべる。
 それからわざとらしくロマンティックに俺の顔を撫でながら、甘いマスクで囁いた。
 
 
「そういえば、一希ってこんな顔してたねぇ……半分痣塗れの顔の方が慣れちゃったなぁ……」
「いや待って。それやったの遊歩じゃん………」
 
 
 俺がそう言いながら呆れたようにため息を吐けば、遊歩が俺の目をじっと見つめる。
 でもこの誰が見たって格好の良い色男と、毎日一緒にいるのは悪い気はしない。
 
 
「でも、感じたでしょ?」
 
 
 綺麗な顔から吐き出される言葉は本当に、どうしようもない位にクズだ。
 でもこれ位の方が正直気が楽で仕方ない。
 
 
「最高だったわ!」
「即答なんだ!アハハハハ!!」
 
 
 玩具として飼われている。この関係性には恋愛感情なんてものはない。
 俺は殴られたいし壊されたいし支配されていたいから、こうして遊歩といる。
 遊歩だって殴りたいし壊したいし支配したいのは解っている。
 俺達はまさにお互いに出逢うべくして出逢った……とでも思わせてくれる偶然の形で巡り逢った。
 
 
 遊歩と初めて出逢った日に、運命という言葉を確かに思い返した。
 でも頭ではよく理解しているが、運命なんてそんなに甘ったるいものなんかじゃない。
 それに俺と遊歩の関係性なんて、共犯者みたいなものだと思う。
 遊歩みたいな傍若無人の乱暴者と、俺みたいな社会不適合な自殺願望者の欲望が一致しただけ。
 クズとクズが奇跡的に出逢って、奇跡的な性の合致を遂げただけの簡単な話だ。
 
 
Kneel跪け
 
 
 命令の通りに床に崩れ落ちれば遊歩が俺の顔を叩く。
 軽い平手を繰り返されながら、だんだんと速度が上がっていくのに気が付いた。
 ゆっくりと絶妙に平手の強さが上がってゆく度に、思わず小さく息を漏らす。
 その瞬間遊歩は俺の頭をボールの様に、フローリングの床に叩き付けた。
 
 
「っは…………!!!」
 
 
 床の冷たい感覚と衝撃。この瞬間に一瞬にしてSubスペースに入る。
 あとはもう簡単。望まれるがままに堕ちてゆくだけ。
 
 
Shush声出すなよ
 
 
 俺の腹部目掛けて一気に強い蹴りがぶち込まれ、俺は声も出せずに蹲る。
 鳩尾に入って息が吸えない。苦しい。体中が悲鳴を上げているみたいだ。
 それでも遊歩の命令に従って、声を出さずに這い回る。
 その様を見下ろしながら遊歩は、とても恐ろしい表情で笑っていた。
 
 
 遊歩の好きな暴力は、他のSubの好むような甘ったるいものじゃないのが解る。
 かといってSMかと言われたら、それもまた違うものだ。
 この暴力の呼び方は『DV』が妥当なんだと思う。
 
 
「アハハっ!!!一希ほんと、ほんと良い顔してる!!!!」
 
 
 遊歩が俺の胸倉を掴んで、無理矢理身体を起き上がらせる。
 それから下衆に笑いながら、顔に拳を入れていった。
 殴られている此方から見れば俺なんかより、遊歩の表情の方が良い顔をしているような気がした。
 この衝撃と痛みと疼痛が愛しい。
 
 
「ね、笑って?このまんま笑ってみてよ!!!」
 
 
 遊歩はそう言いながら、俺の髪を鷲掴んで無理矢理俺の身体を立たせるかのように起こす。
 責め立てられてボロボロの状態で立ち上がると、足がガクガクと震えていた。
 俺の身体が攻められすぎて限界で、何だか面白い気持ちになってゆく。
 だから俺は遊歩の命令通りに声を出さずに、満面の笑みでピースサインまで作って見せた。
 
 
「く………!!!アハハハハ!!!!まじ、まじでお前……!!!!最高!!!」
 
 
 遊歩がそう言いながら俺の身体を床に突き飛ばし、その上に重なるように乗り上げる。
 この頃にはもう俺の手首にあった、刃物で切り刻まれた傷痕は治っていた。
 代わりに俺の身体は遊歩が付けた痣塗れだ。
 
 
Speakしゃべっていいよ
 
 
 遊歩が出した命令コマンドで俺はやっと解放される。
 そして開口一番に遊歩にこう言った。
 
 
「ふ………また顔に痣出来たんじゃねぇの?これ?」
 
 
 更に遊歩はケラケラと笑い、俺の身体の上を転がり回る。
 そんな遊歩を眺めながら、SubとDomの関係性は人によって大分形が違うものだと感じた。
 
 
***
 
 
 日向は完璧な人間だ。俺と違って優秀で素敵な人だ。
 誰もが日向に憧れていたし、何時も日向の周りは人に溢れていた。
 それに比べて俺はとても劣っている。
 遊歩と違って成績だって下から数えた方が早いし、ピアスが一つあいたところで誰も気に留めない位には、俺はそもそも不真面目だ。
 日向みたいな完璧な人の相手は、本当に俺なんかで務まるのだろうか。
 
 
「ねぇ日向、どうして俺なんかと一緒にいてくれるの……?
俺は日向と違って完璧な人間じゃないから、日向に手放されたら嫌だって思うんだ」
 
 
 俺がそう問いかければ、日向が不思議そうな表情を浮かべる。
 まるでこんな事を俺に言われるなんて、夢にも思っていなかったとでも言わんばかりだ。
 日向の部屋のふわふわした寝具に、二人で絡まり合いながら小さな不安を口にする。
 すると日向呆れたような表情をしてから、小さく笑って俺を抱き寄せた。
 
 
「俺は一希が良かったよ?だから、信じて欲しいんだ……。俺には一希だけだから」
 
 
 日向はそう囁きながら、俺の身体を抱き寄せる。
 肌と肌が触れ合って、日向の熱がダイレクトに俺に伝わった。
 日向はとても温かい。言葉も口付けも何もかも。だけど掌だけがほんのり冷たい。
 この温度を知っているのはこの世界で俺だけしかいないなんて、なんて特別な感覚なんだろう。
 満たされてゆく。そう感じた瞬間に、日向が俺の髪を撫でる。
 その時に日向がほんの少しだけ、遠くを見る様な眼差しを浮かべた。
 
 
「あと、俺は一希が思っているほど完璧な人間じゃないよ?」
 
 
 日向はそう囁くと何事も無かったかの様に笑う。最近の日向は時々寂しそうな顔をする。
 けれど日向は俺がそれに気が付いた瞬間に、それを誤魔化してしまうのだ。
 この時にほんの少しだけ日向が遠く感じる。
 
 
「……俺には日向は完璧だよ?日向は俺にとって素敵すぎるんだ……」
 
 
 日向の胸に頭を摺り寄せていると、何だか切ない気持ちになってゆく。
 すると日向はほんの少しだけ照れ臭そうに微笑んだ。
 
 
「……やだなぁ一希、そんな風に思って貰えるのは嬉しいけど、俺が一希を手放す事は無いって信じて」
 
 
 日向がそう囁きながら、今にも泣き出しそうな俺の瞼に唇を寄せる。
 じゃあどうして日向はこんなに悲しそうな顔をするの?どうしたら心の底から笑ってくれるの?
 そう思いながら、俺はとある言葉を口にした。
 
 
「俺の一生を日向にあげるから、死ぬまでずっと一緒にいて……」
 
 
 俺がそう言ったその時に、日向が猫みたいな目を輝かせる。この時にみた日向の表情はとても綺麗だった。
 日向が喜んでいるのが手に取るように解り、心が愛しさで溢れかえる。
 愛しさに沈んで息が出来ないと心から思った。
 
 
「……うん、勿論………約束だよ……」
Kiss誓いのキスして
 
 
 誓うような口付けをしながら、息が止まりそうな位の愛しさに溺れる。
 このままずっと幸せな日々が続けばいいのにと、心の底から思っていた。
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