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第十一章 君の居ない世界
第八話
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『…………私、ご主人様はもう、私の事が必要なくなっているんじゃないかなぁ、なんて思ってます。
ご主人様、最近綾香さんとも、また仲良くなっているし…………』
ほんの少しだけ不機嫌そうな表情を浮かべ、マグカップを手にするマリア。
ヨウジには何故かマリアのことが、自分の事の様に感じられるのだ。
『…………もし、ご主人様が私の事がまだ必要だったら…………このデータ、使ってください…………。
私が居なくて、寂しいって思っていてくれたら……………少し、嬉しいかもしれない…………』
「……………寂しいどころの騒ぎじゃねェぞ。今にも死にそうだ」
ヨウジはパソコンの前でケラケラと笑い、マリアの接続部分を開く。
配線を探して辺りを見回せば、静かにエナが配線を差し出した。
「…………協力をさせて」
「…………助かるぜ、ありがとう」
ヨウジはそれを受け取り、インストールの準備を始める。
マリアに配線を繋げたヨウジは、データをマリアに移し始めた。
パソコンを目の前にして、物凄い速さで作業を繰り返すヨウジを見ながら、ロイはマリアを思い返す。
嘗て全く同じくらいの速さで、作業をするマリアを見た。AIアンドロイドが電子機器を自発的に動かしている所を、ロイは久しぶりに見たのだ。
マリアの空色の虹彩の瞳が、パチリと開いて天を仰ぐ。この瞬間、ヨウジは何故か満ち足りた気持ちになった。
マリアはプラチナブロンドの髪を揺らし、サーモンピンクの唇を開く。
初めて動くマリアを見たヨウジは、とても不思議な感情を抱いていた。
胸の辺りが嫌に暖かく、ほんの少しだけむず痒くなる様な多福感。
ヨウジは空色の虹彩を覗き込み、悪戯な笑みを浮かべる。そしてマリアの身体から、配線を抜き取り手を取った。
「…………行くぞ。アンタの帰りを待ってる男がいるんだよ」
久しぶりに目を醒ましたマリアは、その部屋が何処なのかが解らなかった。
何時も真生とマリアを囲んでいたモニター画面が何処にもなく、家具は散らかり乱雑である。
けれど使い慣れたベッドは、全く何も変わっていない。マリアは直感で自分が壊れた事を察した。
少年に手を引かれ立ち上がると、エナらしきアンドロイドと、ロイらしきアンドロイドが微笑む。
マリアは世界が元に戻ったのだ、と思った。
寝室を出て廊下を歩いていると、真っ白な髪の少女が振り返る。血の様に真っ赤な虹彩は何処かで見た事があった。
マリアはそれを問いかけようと思ったけれど、リビングのドアが開く。
その向こうから聞き慣れている筈なのに、何処か弱々しい声が響いた。
「……………ヨウジ、どうした?皆何処にいるんだ?」
「ご主人様」
思わずマリアが声を出すと、痩せ細り目の下にくっきりと隈の付けた真生が、マリアを見ながら目を見開く。
マリアの最期の記憶は『もう自分はいらないかもしれない』と覚悟を決めた時。
自分は道具。快感を得る為だけの玩具。玩具が感情を持ちすぎてはならない。
真生の幸せの為であれば姿を消すのも本望だと、思っていたあの日。
マリアは変わり果てた真生を見て、この人を一人にしておけないと思う。
この人の為に自分は存在していたんだと、心から感じた。
ご主人様、最近綾香さんとも、また仲良くなっているし…………』
ほんの少しだけ不機嫌そうな表情を浮かべ、マグカップを手にするマリア。
ヨウジには何故かマリアのことが、自分の事の様に感じられるのだ。
『…………もし、ご主人様が私の事がまだ必要だったら…………このデータ、使ってください…………。
私が居なくて、寂しいって思っていてくれたら……………少し、嬉しいかもしれない…………』
「……………寂しいどころの騒ぎじゃねェぞ。今にも死にそうだ」
ヨウジはパソコンの前でケラケラと笑い、マリアの接続部分を開く。
配線を探して辺りを見回せば、静かにエナが配線を差し出した。
「…………協力をさせて」
「…………助かるぜ、ありがとう」
ヨウジはそれを受け取り、インストールの準備を始める。
マリアに配線を繋げたヨウジは、データをマリアに移し始めた。
パソコンを目の前にして、物凄い速さで作業を繰り返すヨウジを見ながら、ロイはマリアを思い返す。
嘗て全く同じくらいの速さで、作業をするマリアを見た。AIアンドロイドが電子機器を自発的に動かしている所を、ロイは久しぶりに見たのだ。
マリアの空色の虹彩の瞳が、パチリと開いて天を仰ぐ。この瞬間、ヨウジは何故か満ち足りた気持ちになった。
マリアはプラチナブロンドの髪を揺らし、サーモンピンクの唇を開く。
初めて動くマリアを見たヨウジは、とても不思議な感情を抱いていた。
胸の辺りが嫌に暖かく、ほんの少しだけむず痒くなる様な多福感。
ヨウジは空色の虹彩を覗き込み、悪戯な笑みを浮かべる。そしてマリアの身体から、配線を抜き取り手を取った。
「…………行くぞ。アンタの帰りを待ってる男がいるんだよ」
久しぶりに目を醒ましたマリアは、その部屋が何処なのかが解らなかった。
何時も真生とマリアを囲んでいたモニター画面が何処にもなく、家具は散らかり乱雑である。
けれど使い慣れたベッドは、全く何も変わっていない。マリアは直感で自分が壊れた事を察した。
少年に手を引かれ立ち上がると、エナらしきアンドロイドと、ロイらしきアンドロイドが微笑む。
マリアは世界が元に戻ったのだ、と思った。
寝室を出て廊下を歩いていると、真っ白な髪の少女が振り返る。血の様に真っ赤な虹彩は何処かで見た事があった。
マリアはそれを問いかけようと思ったけれど、リビングのドアが開く。
その向こうから聞き慣れている筈なのに、何処か弱々しい声が響いた。
「……………ヨウジ、どうした?皆何処にいるんだ?」
「ご主人様」
思わずマリアが声を出すと、痩せ細り目の下にくっきりと隈の付けた真生が、マリアを見ながら目を見開く。
マリアの最期の記憶は『もう自分はいらないかもしれない』と覚悟を決めた時。
自分は道具。快感を得る為だけの玩具。玩具が感情を持ちすぎてはならない。
真生の幸せの為であれば姿を消すのも本望だと、思っていたあの日。
マリアは変わり果てた真生を見て、この人を一人にしておけないと思う。
この人の為に自分は存在していたんだと、心から感じた。
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