恋する電脳Cybernetics~君の名はMARIA~【若き天才プログラマー×高知能AIアンドロイド美少女】

第十一章 君の居ない世界

第三話

　流石に羽目を外したかもしれないと綾香が思い始めたのは、待ち合わせ場所に到着し始めた辺りである。
　この日、綾香はある人と会う約束をしていた。
　場所は渋谷駅。駅前にある巨大なスクリーンの広告を見ながら、怠い体に喝を入れる。
　恋人に触られている間の時間は、とても長く過ぎてゆくものだと綾香は思う。
　グズグズになるまでロイに愛撫をされ、気が付いたらすぐにでも、準備をしなければいけない時間を迎える。
　綾香とロイは余韻に浸る間も無く、慌てて家から飛び出す結果となった。
　
　
　広場をロイと見回しながら、待ち合わせの主を探す。
　するとグラビアモデルの様な派手な肉体をした、とても美しいアンドロイドがやって来た。
　猫の様な緑色の瞳と、真っ赤な髪色のショートカット。彼女が歩くと様々な人の目を惹く程、派手な美人のアンドロイドだ。
　その後を追い駆けながら、茶色の髪に雀斑の糸目の男が歩いてきた。
　
　
「…………悪い！！ホント遅くなった！！大事なパーツ探してた所でさ…………！！！」
「あ、橋本君、お疲れ様。私達も今来た所だから大丈夫よ！！」
　
　
　この日、綾香が待ち合わせをしていたのは博嗣だった。博嗣は美桜に別れを告げられ捨てられた。
　けれど美桜に聞いても博嗣に聞いても、お互いがお互いに『捨てられた』と言い張る。
　実際の所は何方が、本当の事を言っているのかは解らない。
　そんな二人の事を、綾香はこう推測したのだ。美桜はエナに勝てないと思い、別れを告げた。博嗣はただ単純に別れを告げられた。
　それならお互いに振られたと認識しても、全くおかしくないなと思う。
　そして博嗣は美桜に捨てられたその日に、新しい肉体でエナを再生させたのだ。
　
　
　綾香がロイとの関係を公言し、綾香の人間関係が一変した。
　今までつるんでいた美桜からは急に絶縁をされ、今となっては会話さえもしない。
　それに関しては仕方が無いと綾香は思う。美桜はAIアンドロイドに半殺しにされている過去がある。
　縁を切りたくなる気持ちは、内心良く解っているつもりだった。
　
　
　その代わり、自分を同志とでもいわんばかりに、博嗣が綾香に寄りついた。
　元々薄い人間関係しか持ってなかった綾香に、共通の趣味を持った仲間が出来た。
　綾香は初めて出来た本当の友達と、趣味の話題をして日々を過ごしている。
　今の自分は良く笑えていると、綾香は感じていた。
　そして、最近美桜は幹彦と付き合い始めた。美桜からの猛烈なアタックが切っ掛けだったらしい。
　綾香と幹彦はロイの事があったが、円満に別れる事が出来た。たまに顔を合わせても普通に会話をする。
　美桜との交際を始めた事は、幹彦から聞いた話だった。
　
　
　幹彦曰く『アンドロイドが恋愛対象にならない者同士、上手くやっていけている』との事だ。
　
　
　綾香と博嗣はお洒落なケーキ屋に行き、三つケーキを買う。上手にケーキを選べない博嗣の代わりに、綾香が全てを選んだ。
　お洒落な切り方の苺の乗ったショートケーキと、ガトーショコラ。フルーツがふんだんに飾られたタルト。
　それをロイに持たせ、電車を乗り継ぎある場所へと向かう。其処は真生の住んでいるマンションだった。