89 / 109
第十章 或る男の記録
第七話
しおりを挟む
「……………幸せって長く続かないものなのだからさ…………満たされてると怖くなる。
幸せはとても儚いものだから、形があったら必ず粉々になって、無くなっちまうものなんだよ…………。
…………だから、関係性を誰かと作るのは、何時も怖い。今、お前とこうなってるのでさえ、俺は怖いんだ」
「………どうして要治さん??私は要治さんの事を絶対に裏切らないのに??」
「……………お前の感情が永遠でも、必ず終わりが来るもんなんだよ。感情なんて関係なく、終わる時は全て終わる。
……………だから今、お前を愛しいと思う心が怖い………」
要治とリリスは梨紗子の葬儀の後から、身体と心を重ね合う様になっていた。
戸惑いながらも要治はリリスに心を開く。自分に愛の言葉を囁く様になった要治に対し、リリスは心を躍らせる。
『愛される』という幸せをリリスは要治の手によって知った。
真っ白な髪に指を通しながら、要治は甘い声色でリリスに告げた。
「…………愛してるよリリス。どんな時もお前は近くにいて、俺を支えてくれて嬉しかった…………。
もっと早くに、素直になってりゃ良かったな…………」
「…………私も!!私も要治さんを愛してる!!」
リリスは要治に飛び付き、甘える様に頬擦りをする。要治はリリスの頭を撫でて、華奢な体を抱き留めた。
要治はリリスとの事を誰にも話はしなかった。要治達の年代では、アンドロイドと人間の性交渉は禁忌であると考える人間が多い。
視点としては嘗ての、同性愛に近い差別視をされている。
アンドロイドと人間の性的な関係が、一般視され始めてきたのはごく最近の事だった。
要治はリリスとの関係を決して人には話さなかった。二人の関係は夜の研究所の中で、密やかに成立しているものである。
秘め事を繰り返していたある日、事件が起きた。
***
この夜、要治は仕事の都合で外に出ていた。研究所に残されたリリスは、要治の帰りを待っている。
出入り口から物音が聞こえた時、リリスは要治が研究所に戻って来たのだと思った。
リリスが出入り口に走ると、酔っぱらった東郷と視線が合う。東郷は真っ赤な顔でリリスに手を振った。
「あれ…………東郷さん…………??」
「あはは、リリスごめんねぇ~!!ちょっと今、酔っぱらってるからさぁ…………。此処で寝かせてくれない??」
東郷はネクタイを緩めながら歩き、研究所のソファーにドカッと座る。
リリスは今夜は要治と、触れ合う事は出来ないと悟った。
「…………あ、わかり、ました…………」
リリスは真っ赤な顔で天井を仰ぐ東郷を見て、冷蔵庫からミネラルウオーターを取り出す。
東郷の座っているソファーの前にペットボトルを置くと、東郷がリリスの顔を覗き込んだ。
「………………本当に梨紗子と同じ顔だね…………」
東郷は酒臭い顔をリリスに近付け、唇に唇を重ね合わせようと動く。
リリスは慌てて東郷の肩を押し、懸命に逃れようとした。すると東郷は舌打ちをし、いきなり豹変したのだ。
「……………テメェ!!その顔で俺を拒絶するんじゃねぇっ!!!」
東郷はリリスの身体を突き飛ばし、床の上に突き飛ばす。リリスは東郷の暴力から逃れようと、手で自分の身体を庇った。
東郷はリリスの身体を革靴で踏みにじり、何度も何度も蹴り飛ばす。するとバタバタと急ぎ足の靴音が響き渡った。
「慎一お前ッ!!何してんだよッ…………!!!」
東郷とリリスの間に入った要治はリリスの事を庇う。リリスは東郷から逃れ、要治の胸にしがみ付いた。
ただならぬ雰囲気を醸し出す二人を見て、酔った東郷は逆上する。東郷は声を荒げて叫び散らした。
「何で今、お前が此処に来るんだよ!!どうして今、お前が此処に居るんだよ!!
何時も何時も梨紗子の時も、結局お前が邪魔をする…………!!!」
東郷は酔っぱらった様子で暴れ、要治の顔も殴りつける。
要治は殴り飛ばされながら、梨紗子に好かれていたのを東郷に知られていた事に気付く。
要治は東郷のことを知らず知らずのうちに傷付けていたと、今更になって知ったのだ。
幸せはとても儚いものだから、形があったら必ず粉々になって、無くなっちまうものなんだよ…………。
…………だから、関係性を誰かと作るのは、何時も怖い。今、お前とこうなってるのでさえ、俺は怖いんだ」
「………どうして要治さん??私は要治さんの事を絶対に裏切らないのに??」
「……………お前の感情が永遠でも、必ず終わりが来るもんなんだよ。感情なんて関係なく、終わる時は全て終わる。
……………だから今、お前を愛しいと思う心が怖い………」
要治とリリスは梨紗子の葬儀の後から、身体と心を重ね合う様になっていた。
戸惑いながらも要治はリリスに心を開く。自分に愛の言葉を囁く様になった要治に対し、リリスは心を躍らせる。
『愛される』という幸せをリリスは要治の手によって知った。
真っ白な髪に指を通しながら、要治は甘い声色でリリスに告げた。
「…………愛してるよリリス。どんな時もお前は近くにいて、俺を支えてくれて嬉しかった…………。
もっと早くに、素直になってりゃ良かったな…………」
「…………私も!!私も要治さんを愛してる!!」
リリスは要治に飛び付き、甘える様に頬擦りをする。要治はリリスの頭を撫でて、華奢な体を抱き留めた。
要治はリリスとの事を誰にも話はしなかった。要治達の年代では、アンドロイドと人間の性交渉は禁忌であると考える人間が多い。
視点としては嘗ての、同性愛に近い差別視をされている。
アンドロイドと人間の性的な関係が、一般視され始めてきたのはごく最近の事だった。
要治はリリスとの関係を決して人には話さなかった。二人の関係は夜の研究所の中で、密やかに成立しているものである。
秘め事を繰り返していたある日、事件が起きた。
***
この夜、要治は仕事の都合で外に出ていた。研究所に残されたリリスは、要治の帰りを待っている。
出入り口から物音が聞こえた時、リリスは要治が研究所に戻って来たのだと思った。
リリスが出入り口に走ると、酔っぱらった東郷と視線が合う。東郷は真っ赤な顔でリリスに手を振った。
「あれ…………東郷さん…………??」
「あはは、リリスごめんねぇ~!!ちょっと今、酔っぱらってるからさぁ…………。此処で寝かせてくれない??」
東郷はネクタイを緩めながら歩き、研究所のソファーにドカッと座る。
リリスは今夜は要治と、触れ合う事は出来ないと悟った。
「…………あ、わかり、ました…………」
リリスは真っ赤な顔で天井を仰ぐ東郷を見て、冷蔵庫からミネラルウオーターを取り出す。
東郷の座っているソファーの前にペットボトルを置くと、東郷がリリスの顔を覗き込んだ。
「………………本当に梨紗子と同じ顔だね…………」
東郷は酒臭い顔をリリスに近付け、唇に唇を重ね合わせようと動く。
リリスは慌てて東郷の肩を押し、懸命に逃れようとした。すると東郷は舌打ちをし、いきなり豹変したのだ。
「……………テメェ!!その顔で俺を拒絶するんじゃねぇっ!!!」
東郷はリリスの身体を突き飛ばし、床の上に突き飛ばす。リリスは東郷の暴力から逃れようと、手で自分の身体を庇った。
東郷はリリスの身体を革靴で踏みにじり、何度も何度も蹴り飛ばす。するとバタバタと急ぎ足の靴音が響き渡った。
「慎一お前ッ!!何してんだよッ…………!!!」
東郷とリリスの間に入った要治はリリスの事を庇う。リリスは東郷から逃れ、要治の胸にしがみ付いた。
ただならぬ雰囲気を醸し出す二人を見て、酔った東郷は逆上する。東郷は声を荒げて叫び散らした。
「何で今、お前が此処に来るんだよ!!どうして今、お前が此処に居るんだよ!!
何時も何時も梨紗子の時も、結局お前が邪魔をする…………!!!」
東郷は酔っぱらった様子で暴れ、要治の顔も殴りつける。
要治は殴り飛ばされながら、梨紗子に好かれていたのを東郷に知られていた事に気付く。
要治は東郷のことを知らず知らずのうちに傷付けていたと、今更になって知ったのだ。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

びるどあっぷ ふり〜と!
高鉢 健太
SF
オンライン海戦ゲームをやっていて自称神さまを名乗る老人に過去へと飛ばされてしまった。
どうやらふと頭に浮かんだとおりに戦前海軍の艦艇設計に関わることになってしまったらしい。
ライバルはあの譲らない有名人。そんな場所で満足いく艦艇ツリーを構築して現世へと戻ることが今の使命となった訳だが、歴史を弄ると予期せぬアクシデントも起こるもので、史実に存在しなかった事態が起こって歴史自体も大幅改変不可避の情勢。これ、本当に帰れるんだよね?
※すでになろうで完結済みの小説です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる