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第十章 或る男の記録
第三話
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ある時AIプログラミング界隈に、とある情報が流れてきた。
AIの持ち主を愛する様に設定すると、学習能力が高くなるという報告を受け、様々なAIプログラマーがAIに自分を愛する設定を施す。
こぞってAIに自分を愛させるプログラマーが増える中、要治はその行為を受け入れられないでいた。
「………………何だよそれ…………俺には向かねぇ……………」
要治はそう言って、咥えた煙草に火を着ける。目の前に座っている東郷は焦り、要治の機嫌を取り始めた。
「や、や、や!!要治ぃ!!少しお金に色付けるからさぁ!!!ちょっと試してみてよぉ!!」
「嫌だ…………!!何でお前の妻と同じ顔のアンドロイドに、恋されなきゃなんねェんだよ…………。
テメェ、それ不愉快じゃねェのか?俺だったら気持ち悪りィと思うわ…………」
要治はずっとリリスの顔が、梨紗子に似ている事を懸念していた。
ずっと梨紗子への思いを隠し通している要治にとって、それは苦行でしかない。
梨紗子と全く同じ顔のアンドロイドに、自分を愛する様に設定する等、余りに惨めにも程がある。
要治は苛々しながら煙草を灰皿に捻り潰し、ボサボサの髪をくしゃくしゃと掻く。
すると梨紗子は要治に微笑んだ。
「………………良いじゃない、別に。ね?」
要治は小さく舌打ちをし、煙草を取りだしまた火を着ける。下品に煙を空中に吐き切ると、小さく二回頷いた。
梨紗子が東郷との結婚を決めた理由は『治療費』だった。
莫大に掛かる梨紗子の治療費を総て、東郷が負担すると言い出したのがきっかけだ。
東郷は元々、裕福な家庭で生まれ育った男である。必要なものは何もかも金で物を云わせて手に入れた。
勿論、梨紗子もその一つであった。
けれどそれは梨紗子が選んだ事ではない。背中を押したのは誰でもない要治だった。
要治はずっと解っていた。梨紗子が自分に恋心を寄せていたことを。そして、自分では幸せに出来ない事を。
要治の家はとても貧しく、学校に通う金は昔から自分で稼いで手に入れていた。
プログラミングの勉強に関しても独学である。
もしも要治の知能を伸ばせる環境が整っていたのであれば、もっと高性能のAIを早くに作れていたと、皆が口を揃えて言う。
要治は劣悪な環境の中でも、必死にプログラミングにしがみついてきた。
そんな要治にチャンスを与えたのは、誰でもない東郷だったのだ。
要治は東郷にたてをつくが、東郷に感謝をしなかった日はない。
今の要治は東郷のお陰で、生きていけている様なものである。
要治は東郷が、梨紗子に恋をしたのに気付いていた。
要治は梨紗子を愛していたが、借金にまみれで生きているのがやっとの自分では、梨紗子を受け入れられる器がないと思う。
要治には莫大な額の梨紗子の病の医療費を、稼げる余裕が無かった。
梨紗子は要治を思っていた。痛いほどそれを感じていた。けれど、要治は梨紗子を突き放したのだ。
仲睦まじく笑い合う二人を眺めながら、これで良かったと要治は思う。
要治はずきずき痛む胸を見ないふりをして、リリスに自分を愛させる設定を施す。
研究室の総ては、要治の自己犠牲により成り立っていた。
AIの持ち主を愛する様に設定すると、学習能力が高くなるという報告を受け、様々なAIプログラマーがAIに自分を愛する設定を施す。
こぞってAIに自分を愛させるプログラマーが増える中、要治はその行為を受け入れられないでいた。
「………………何だよそれ…………俺には向かねぇ……………」
要治はそう言って、咥えた煙草に火を着ける。目の前に座っている東郷は焦り、要治の機嫌を取り始めた。
「や、や、や!!要治ぃ!!少しお金に色付けるからさぁ!!!ちょっと試してみてよぉ!!」
「嫌だ…………!!何でお前の妻と同じ顔のアンドロイドに、恋されなきゃなんねェんだよ…………。
テメェ、それ不愉快じゃねェのか?俺だったら気持ち悪りィと思うわ…………」
要治はずっとリリスの顔が、梨紗子に似ている事を懸念していた。
ずっと梨紗子への思いを隠し通している要治にとって、それは苦行でしかない。
梨紗子と全く同じ顔のアンドロイドに、自分を愛する様に設定する等、余りに惨めにも程がある。
要治は苛々しながら煙草を灰皿に捻り潰し、ボサボサの髪をくしゃくしゃと掻く。
すると梨紗子は要治に微笑んだ。
「………………良いじゃない、別に。ね?」
要治は小さく舌打ちをし、煙草を取りだしまた火を着ける。下品に煙を空中に吐き切ると、小さく二回頷いた。
梨紗子が東郷との結婚を決めた理由は『治療費』だった。
莫大に掛かる梨紗子の治療費を総て、東郷が負担すると言い出したのがきっかけだ。
東郷は元々、裕福な家庭で生まれ育った男である。必要なものは何もかも金で物を云わせて手に入れた。
勿論、梨紗子もその一つであった。
けれどそれは梨紗子が選んだ事ではない。背中を押したのは誰でもない要治だった。
要治はずっと解っていた。梨紗子が自分に恋心を寄せていたことを。そして、自分では幸せに出来ない事を。
要治の家はとても貧しく、学校に通う金は昔から自分で稼いで手に入れていた。
プログラミングの勉強に関しても独学である。
もしも要治の知能を伸ばせる環境が整っていたのであれば、もっと高性能のAIを早くに作れていたと、皆が口を揃えて言う。
要治は劣悪な環境の中でも、必死にプログラミングにしがみついてきた。
そんな要治にチャンスを与えたのは、誰でもない東郷だったのだ。
要治は東郷にたてをつくが、東郷に感謝をしなかった日はない。
今の要治は東郷のお陰で、生きていけている様なものである。
要治は東郷が、梨紗子に恋をしたのに気付いていた。
要治は梨紗子を愛していたが、借金にまみれで生きているのがやっとの自分では、梨紗子を受け入れられる器がないと思う。
要治には莫大な額の梨紗子の病の医療費を、稼げる余裕が無かった。
梨紗子は要治を思っていた。痛いほどそれを感じていた。けれど、要治は梨紗子を突き放したのだ。
仲睦まじく笑い合う二人を眺めながら、これで良かったと要治は思う。
要治はずきずき痛む胸を見ないふりをして、リリスに自分を愛させる設定を施す。
研究室の総ては、要治の自己犠牲により成り立っていた。
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