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第九章 地獄の中を駆け巡る

第二話★

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 真生はマリアの手を引きながら、夜の喧騒の中を駆け抜ける。
 アンドロイドが狂暴化をしている今、マリアを連れて避難所に向かうのは危険だと真生は思う。
 今人間たちの前にマリアを晒せば、本当に何をされるか解らない。
 機動隊と自衛隊が街の中を行き交い、あちこちで銃声が響き渡っている。
 真生は自宅へと走りながら、前嶋に電話を掛けていた。
 
 
 携帯電話の向こうから聞こえてくるのは、規則的な呼び出し音。
 自宅マンションに到着した瞬間、バタバタと住人が飛び出してくる。
 自動ドアを越えてエントランスホールに立った時、噎せ返る程の鉄の臭いが漂った。
 エントランスホールで逃げ遅れた人が、アンドロイドに何発も何発も殴られている。
 血塗れになった拳が視界に入った瞬間、真生はマリアを連れて階段を駆け上がった。
 
 
 マンション中も大変な騒ぎになっている。まるでパニックホラーの映画の中みたいだと真生は思う。
 息を切らしながら、真生とマリアはなんとか自宅に戻る。
 玄関を厳重に鍵を掛け、部屋の中で息を潜めた。マリアは真生の手を握り囁く。
 
 
「…………ご主人様、大丈夫です。最悪の事があっても私が守ります。
まだ、軍事用戦闘データを消去していないので………!!」
 
 
 マリアはそう言って玄関の前に立つ。
 自分を守ろうとする背中の余りの美しさに、呼吸が苦しくなるのを感じた。
 すると携帯が鳴り響き、真生は慌てて通話ボタンを押す。着信は前嶋からだった。
 
 
「…………もしもし前嶋さん、無事ですか!?!?此方はなんとか自宅に避難をしています!!」
『穂積さん。私は大丈夫です。けれど…………緊急でアダム社に乗り込まなければならなくなりました。
……………今の混乱はLILITHのオリジナルが、引き起こしている可能性が高い…………』
 
 
 LILITH6はLILITH6がダウンロードされている、AIアンドロイドであればネットワークを組める。
 それにリリスはマリアよりもずっと、伝達能力に長けているのだ。
 東郷は『ネットワークを組んでさえおけば』と真生に言った。
 けれど真生はこの時に『リリスを元にして生まれた段階で、ネットワークが組まれているのではないか』と思った。
 
 
『リリスを止めるのに必要なのは、力だけじゃない。知能がどうしても必要になる。
このままではAIに、人間が殺される………』
 
 
 LILITH6の入っているアンドロイド同士で信号を送り合い、協力を仰ぐことが出来る。
 今起きている混乱総てをリリスが起こしているのなら、リリスのオリジナルの動きを、誰かが止めない限りこの騒動は止まらない。
 リリスと向かい合う為には、高い戦闘能力が必要になる。けれど相手は知能を使い、他のアンドロイドを自由に操る事が出来るのだ。
 戦闘能力だけでは力が足りない。そうなるとリリスと同じ、またはそれ以上の知能を持ったアンドロイドが必要になる。
 
 
『……………けれど、リリスと対峙出来るレベルの高知能のAIは…………マリアさんしか、いないんです…………』
 
 
 電話の向こうの前嶋は、とても口重そうな様子だった。
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