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第七章 リリスとマリア
第二話
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帰りのタクシーに乗り込み、真生とマリアは二人で揺られている。
真生は車の窓から時折照らす街灯に、照らされるマリアの横顔を見ていた。
何時もなら愛しくて仕方がない筈のマリアが、今日はとても腹立たしく感じる。
真生は堪えきれずに溜め息を吐き、マリアを睨んだ。
「……………なぁマリア、さっきのなんだったんだ?」
真生が問い詰めた瞬間、マリアが首を傾げる。苛立ったままの真生は声を荒げた。
「だから、さっきのだ!!狂暴化したアンドロイドの話だ!
…………綾香の前でする必要性があったか!?綾香はこれからロイを失うのに…………!!」
綾香にとってロイは大切な存在だが、真生にとっても同じだった。
まっさらな状態から見てきたロイが廃棄にされる。それも陰惨な事件が起きたせいで。
真生はとても弱っていた。そして何時もと違い、冷静さを欠いていたのだ。
「………………私の記憶データの中で、最も疑わしいものはLILITH6です。
LILITH6が発売される前には、このような事件は起きて居ませんでした…………それに…………!!」
「…………やっぱりマリアは人間じゃない!人が傷付く言葉を、全く理解していない!!」
真生がマリアの言葉を打ち消す様に、被せて暴言を吐き捨てる。
マリアは今にも泣き出しそうな表情を浮かべ、唇をギュッと噛み締めた。
「………………それに!!少しでも早く解決が出来れば!!ロイが廃棄されずに済むかもしれないって!!思ったんです!!
ロイが廃棄されずに済むのであれば!!綾香さんが落胆しないで済む!!
…………それとも、私を廃棄して、ご主人様が綾香さんを支えますか…………?私は道具だから、そうなる覚悟はもう決まってます…………。
ごめんなさい、人間じゃなくて………私が、本当の人間らしさを、解らなくて…………」
マリアはそう言い放ち、目にいっぱい涙を浮かべる。
この時に真生は自分が一番、冷静さを欠いていた事に気が付いた。
本当に人間らしさが欠けているのは、自分の方なんじゃないかと真生は思う。
涙を流すマリアの横顔は、人間よりもずっと至純だった。真生は眼鏡を指で押し上げ、深く溜め息を吐く。
「…………ごめん、八つ当たりだ。俺が本当に馬鹿だ……………。
君を廃棄する気なんて無い…………………。今、俺が一番まともじゃない…………」
真生はそう嘆いて頭を垂らし、ぐっと唇を噛み締める。自分が情けなくて仕方がないと真生は思う。
タクシーを降りて自宅マンションの前に降り立った二人は、会話をせずにお互いに俯いていた。
エレベーターに乗り部屋に帰り、お互いに静かなままで、各々の作業を始める。
マリアがキッチンに立つと、真生は移動用のノートパソコンを開く。その時、真生の携帯がけたたましく鳴り響いた。
時刻は夜22時を過ぎている。こんな時間の電話は流石に迷惑だ。
真生は携帯を開き、着信の主を見る。其処には東郷慎一の名が浮かび上がっていた。
慌てて通話ボタンを押して、自分の耳に携帯を宛てる。すると電話の向こうから明るい声色が響き渡った。
『………………久し振り、穂積君。元気してたかな?』
軽快に話す東郷の声を聞きながら、真生はマリアの言葉を思い出す。
真生が表情を強張らせると、マリアが慌てて駆け寄ってきた。
「…………東郷さん、お久し振りです。元気でしたよ」
マリアに解る様にわざと東郷の名前を呼ぶ。
空色の虹彩の瞳孔によく似た記憶装置が、ほんの少しだけ広がったのを真生は確認していた。
『ああ、なら良かったよ。
前に話したマリアちゃんを連れて、うちの会社に遊びに来る約束、そろそろ叶えたいなぁってさぁ…………』
マリアと真生は顔を見合わせる。マリアは静かに固唾を飲み込んだ。
真生は車の窓から時折照らす街灯に、照らされるマリアの横顔を見ていた。
何時もなら愛しくて仕方がない筈のマリアが、今日はとても腹立たしく感じる。
真生は堪えきれずに溜め息を吐き、マリアを睨んだ。
「……………なぁマリア、さっきのなんだったんだ?」
真生が問い詰めた瞬間、マリアが首を傾げる。苛立ったままの真生は声を荒げた。
「だから、さっきのだ!!狂暴化したアンドロイドの話だ!
…………綾香の前でする必要性があったか!?綾香はこれからロイを失うのに…………!!」
綾香にとってロイは大切な存在だが、真生にとっても同じだった。
まっさらな状態から見てきたロイが廃棄にされる。それも陰惨な事件が起きたせいで。
真生はとても弱っていた。そして何時もと違い、冷静さを欠いていたのだ。
「………………私の記憶データの中で、最も疑わしいものはLILITH6です。
LILITH6が発売される前には、このような事件は起きて居ませんでした…………それに…………!!」
「…………やっぱりマリアは人間じゃない!人が傷付く言葉を、全く理解していない!!」
真生がマリアの言葉を打ち消す様に、被せて暴言を吐き捨てる。
マリアは今にも泣き出しそうな表情を浮かべ、唇をギュッと噛み締めた。
「………………それに!!少しでも早く解決が出来れば!!ロイが廃棄されずに済むかもしれないって!!思ったんです!!
ロイが廃棄されずに済むのであれば!!綾香さんが落胆しないで済む!!
…………それとも、私を廃棄して、ご主人様が綾香さんを支えますか…………?私は道具だから、そうなる覚悟はもう決まってます…………。
ごめんなさい、人間じゃなくて………私が、本当の人間らしさを、解らなくて…………」
マリアはそう言い放ち、目にいっぱい涙を浮かべる。
この時に真生は自分が一番、冷静さを欠いていた事に気が付いた。
本当に人間らしさが欠けているのは、自分の方なんじゃないかと真生は思う。
涙を流すマリアの横顔は、人間よりもずっと至純だった。真生は眼鏡を指で押し上げ、深く溜め息を吐く。
「…………ごめん、八つ当たりだ。俺が本当に馬鹿だ……………。
君を廃棄する気なんて無い…………………。今、俺が一番まともじゃない…………」
真生はそう嘆いて頭を垂らし、ぐっと唇を噛み締める。自分が情けなくて仕方がないと真生は思う。
タクシーを降りて自宅マンションの前に降り立った二人は、会話をせずにお互いに俯いていた。
エレベーターに乗り部屋に帰り、お互いに静かなままで、各々の作業を始める。
マリアがキッチンに立つと、真生は移動用のノートパソコンを開く。その時、真生の携帯がけたたましく鳴り響いた。
時刻は夜22時を過ぎている。こんな時間の電話は流石に迷惑だ。
真生は携帯を開き、着信の主を見る。其処には東郷慎一の名が浮かび上がっていた。
慌てて通話ボタンを押して、自分の耳に携帯を宛てる。すると電話の向こうから明るい声色が響き渡った。
『………………久し振り、穂積君。元気してたかな?』
軽快に話す東郷の声を聞きながら、真生はマリアの言葉を思い出す。
真生が表情を強張らせると、マリアが慌てて駆け寄ってきた。
「…………東郷さん、お久し振りです。元気でしたよ」
マリアに解る様にわざと東郷の名前を呼ぶ。
空色の虹彩の瞳孔によく似た記憶装置が、ほんの少しだけ広がったのを真生は確認していた。
『ああ、なら良かったよ。
前に話したマリアちゃんを連れて、うちの会社に遊びに来る約束、そろそろ叶えたいなぁってさぁ…………』
マリアと真生は顔を見合わせる。マリアは静かに固唾を飲み込んだ。
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