38 / 109
第五章 冷たい鉄の塊
第一話
しおりを挟む
八階建ての最上階の部屋の窓を開き、博嗣は自室の空気を入れ換える。
せめて気分が変わるかと考えて行った行為だったが、険悪な雰囲気は全く変わらない様だ。
博嗣と美桜は博嗣の住んでいるマンションで酒を呑んでいた。呑んでいた、というより呷っていた、が正しいかもしれない。
この日の二人が呑み交わしていた酒は、決して気持ちの良いものではなかった。
「…………………ねぇ、博嗣。私と付き合うんじゃないの………?何時までその人形置いておくの…………?」
さめざめ泣く美桜を見ながら、博嗣の気が重くなる。
エナは常に余計な感情を語らず、博嗣を支えてきた。それは人間ではなかったからこそ出来た事だ。
けれど人間ではないエナと同じ事を、美桜に求めてはいけないことを博嗣は理解していた。
「……………そう簡単には棄てられない…………ずっと一緒にいたんだ………そんな簡単に踏ん切りなんてつかないよ…………」
博嗣はそう嘆いて髪をぐしゃぐしゃと掻く。美桜は優柔不断な博嗣を見て、ヒステリックに怒鳴り散らした。
「それならなんで私の事を抱いたのよ!ふざけないで!!!」
美桜は声を荒げ、博嗣の頭に呑んでいたビールを投げ付ける。
ビールは博嗣の身体と部屋に飛び散り、コロコロと床に空き缶が転がった。
その様子を見ていたエナは何も語らず、ただ美桜の飛び散らせたビールを雑巾で拭き始める。
博嗣の初めての恋の相手はエナ。ずっとエナにだけ愛を注ぎ生きてきた。
エナを作り上げたその瞬間から、博嗣の盲目の恋は始まる。
これ迄の博嗣の日々の総てがエナに彩られ、エナによって作り上げられていた様なものだ。
けれどそんな博嗣が初めて、人間に愛されたのだ。
美桜はAIアンドロイドは道具だという思想の元に生き、人間のみを愛する事が出来るタイプの女性。
博嗣の熱心に研究に打ち込む姿に憧れた。
人間との恋愛を知らない博嗣に恋をした美桜は、必死に博嗣を振り向かせようと覚悟を決める。
アンドロイドなんかに人間は絶対に負けないという、確固たる勝算が彼女の中にはあった。
美桜は博嗣にアプローチを繰り返しながら、小さく洗脳に近い説得を繰り返したのだ。
「アンドロイドとの恋愛は、所詮ただの紛い物である」
「その愛の終着点は何処にもない」
「社会的に認められる関係性ではない上に、生産性がない」
「アンドロイドと愛し合う行為なんて、ただの壮大な自慰行為だ」
最初、博嗣は揺らがなかった。誰に何を言われたところで、彼の中ではどうでも良い事だ。
けれど時間が過ぎてゆくうちに、博嗣の頭が冷静になってきた。
エナとの関係性には未来が何処にもないことに、ある日気付いてしまったのだ。
エナは理想そのものの具現化だ。惹かれるのは当たり前である。
そろそろちゃんと人間と向き合わなければいけないと、美桜から話を聞きながら博嗣は思う。
アンドロイドに夢中になることで、人間と向き合うことを避けてきた。
ちゃんと人間として人間と関わらなければいけないと、博嗣は急に焦りだしたのだ。
美桜の必死の努力とアプローチの結果、二人は結ばれた。
半場強引に美桜が押し切ったといっても過言ではないだろう。
この時博嗣も一生このままではいかないと理解していた。
人間と付き合うことに決め、美桜の身体を抱く。
けれど博嗣は美桜と付き合うことを選んでも、エナをどうするべきなのかが全く解らない。
長年一緒にいて博嗣を支え、連れ添ってきたエナ。
博嗣はエナの居ない生活を想像する事さえ、全く出来なかったのだ。
せめて気分が変わるかと考えて行った行為だったが、険悪な雰囲気は全く変わらない様だ。
博嗣と美桜は博嗣の住んでいるマンションで酒を呑んでいた。呑んでいた、というより呷っていた、が正しいかもしれない。
この日の二人が呑み交わしていた酒は、決して気持ちの良いものではなかった。
「…………………ねぇ、博嗣。私と付き合うんじゃないの………?何時までその人形置いておくの…………?」
さめざめ泣く美桜を見ながら、博嗣の気が重くなる。
エナは常に余計な感情を語らず、博嗣を支えてきた。それは人間ではなかったからこそ出来た事だ。
けれど人間ではないエナと同じ事を、美桜に求めてはいけないことを博嗣は理解していた。
「……………そう簡単には棄てられない…………ずっと一緒にいたんだ………そんな簡単に踏ん切りなんてつかないよ…………」
博嗣はそう嘆いて髪をぐしゃぐしゃと掻く。美桜は優柔不断な博嗣を見て、ヒステリックに怒鳴り散らした。
「それならなんで私の事を抱いたのよ!ふざけないで!!!」
美桜は声を荒げ、博嗣の頭に呑んでいたビールを投げ付ける。
ビールは博嗣の身体と部屋に飛び散り、コロコロと床に空き缶が転がった。
その様子を見ていたエナは何も語らず、ただ美桜の飛び散らせたビールを雑巾で拭き始める。
博嗣の初めての恋の相手はエナ。ずっとエナにだけ愛を注ぎ生きてきた。
エナを作り上げたその瞬間から、博嗣の盲目の恋は始まる。
これ迄の博嗣の日々の総てがエナに彩られ、エナによって作り上げられていた様なものだ。
けれどそんな博嗣が初めて、人間に愛されたのだ。
美桜はAIアンドロイドは道具だという思想の元に生き、人間のみを愛する事が出来るタイプの女性。
博嗣の熱心に研究に打ち込む姿に憧れた。
人間との恋愛を知らない博嗣に恋をした美桜は、必死に博嗣を振り向かせようと覚悟を決める。
アンドロイドなんかに人間は絶対に負けないという、確固たる勝算が彼女の中にはあった。
美桜は博嗣にアプローチを繰り返しながら、小さく洗脳に近い説得を繰り返したのだ。
「アンドロイドとの恋愛は、所詮ただの紛い物である」
「その愛の終着点は何処にもない」
「社会的に認められる関係性ではない上に、生産性がない」
「アンドロイドと愛し合う行為なんて、ただの壮大な自慰行為だ」
最初、博嗣は揺らがなかった。誰に何を言われたところで、彼の中ではどうでも良い事だ。
けれど時間が過ぎてゆくうちに、博嗣の頭が冷静になってきた。
エナとの関係性には未来が何処にもないことに、ある日気付いてしまったのだ。
エナは理想そのものの具現化だ。惹かれるのは当たり前である。
そろそろちゃんと人間と向き合わなければいけないと、美桜から話を聞きながら博嗣は思う。
アンドロイドに夢中になることで、人間と向き合うことを避けてきた。
ちゃんと人間として人間と関わらなければいけないと、博嗣は急に焦りだしたのだ。
美桜の必死の努力とアプローチの結果、二人は結ばれた。
半場強引に美桜が押し切ったといっても過言ではないだろう。
この時博嗣も一生このままではいかないと理解していた。
人間と付き合うことに決め、美桜の身体を抱く。
けれど博嗣は美桜と付き合うことを選んでも、エナをどうするべきなのかが全く解らない。
長年一緒にいて博嗣を支え、連れ添ってきたエナ。
博嗣はエナの居ない生活を想像する事さえ、全く出来なかったのだ。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
パーフェクトアンドロイド
ことは
キャラ文芸
アンドロイドが通うレアリティ学園。この学園の生徒たちは、インフィニティブレイン社の実験的試みによって開発されたアンドロイドだ。
だが俺、伏木真人(ふしぎまひと)は、この学園のアンドロイドたちとは決定的に違う。
俺はインフィニティブレイン社との契約で、モニターとしてこの学園に入学した。他の生徒たちを観察し、定期的に校長に報告することになっている。
レアリティ学園の新入生は100名。
そのうちアンドロイドは99名。
つまり俺は、生身の人間だ。
▶︎credit
表紙イラスト おーい
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる