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第五章 冷たい鉄の塊
第一話
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八階建ての最上階の部屋の窓を開き、博嗣は自室の空気を入れ換える。
せめて気分が変わるかと考えて行った行為だったが、険悪な雰囲気は全く変わらない様だ。
博嗣と美桜は博嗣の住んでいるマンションで酒を呑んでいた。呑んでいた、というより呷っていた、が正しいかもしれない。
この日の二人が呑み交わしていた酒は、決して気持ちの良いものではなかった。
「…………………ねぇ、博嗣。私と付き合うんじゃないの………?何時までその人形置いておくの…………?」
さめざめ泣く美桜を見ながら、博嗣の気が重くなる。
エナは常に余計な感情を語らず、博嗣を支えてきた。それは人間ではなかったからこそ出来た事だ。
けれど人間ではないエナと同じ事を、美桜に求めてはいけないことを博嗣は理解していた。
「……………そう簡単には棄てられない…………ずっと一緒にいたんだ………そんな簡単に踏ん切りなんてつかないよ…………」
博嗣はそう嘆いて髪をぐしゃぐしゃと掻く。美桜は優柔不断な博嗣を見て、ヒステリックに怒鳴り散らした。
「それならなんで私の事を抱いたのよ!ふざけないで!!!」
美桜は声を荒げ、博嗣の頭に呑んでいたビールを投げ付ける。
ビールは博嗣の身体と部屋に飛び散り、コロコロと床に空き缶が転がった。
その様子を見ていたエナは何も語らず、ただ美桜の飛び散らせたビールを雑巾で拭き始める。
博嗣の初めての恋の相手はエナ。ずっとエナにだけ愛を注ぎ生きてきた。
エナを作り上げたその瞬間から、博嗣の盲目の恋は始まる。
これ迄の博嗣の日々の総てがエナに彩られ、エナによって作り上げられていた様なものだ。
けれどそんな博嗣が初めて、人間に愛されたのだ。
美桜はAIアンドロイドは道具だという思想の元に生き、人間のみを愛する事が出来るタイプの女性。
博嗣の熱心に研究に打ち込む姿に憧れた。
人間との恋愛を知らない博嗣に恋をした美桜は、必死に博嗣を振り向かせようと覚悟を決める。
アンドロイドなんかに人間は絶対に負けないという、確固たる勝算が彼女の中にはあった。
美桜は博嗣にアプローチを繰り返しながら、小さく洗脳に近い説得を繰り返したのだ。
「アンドロイドとの恋愛は、所詮ただの紛い物である」
「その愛の終着点は何処にもない」
「社会的に認められる関係性ではない上に、生産性がない」
「アンドロイドと愛し合う行為なんて、ただの壮大な自慰行為だ」
最初、博嗣は揺らがなかった。誰に何を言われたところで、彼の中ではどうでも良い事だ。
けれど時間が過ぎてゆくうちに、博嗣の頭が冷静になってきた。
エナとの関係性には未来が何処にもないことに、ある日気付いてしまったのだ。
エナは理想そのものの具現化だ。惹かれるのは当たり前である。
そろそろちゃんと人間と向き合わなければいけないと、美桜から話を聞きながら博嗣は思う。
アンドロイドに夢中になることで、人間と向き合うことを避けてきた。
ちゃんと人間として人間と関わらなければいけないと、博嗣は急に焦りだしたのだ。
美桜の必死の努力とアプローチの結果、二人は結ばれた。
半場強引に美桜が押し切ったといっても過言ではないだろう。
この時博嗣も一生このままではいかないと理解していた。
人間と付き合うことに決め、美桜の身体を抱く。
けれど博嗣は美桜と付き合うことを選んでも、エナをどうするべきなのかが全く解らない。
長年一緒にいて博嗣を支え、連れ添ってきたエナ。
博嗣はエナの居ない生活を想像する事さえ、全く出来なかったのだ。
せめて気分が変わるかと考えて行った行為だったが、険悪な雰囲気は全く変わらない様だ。
博嗣と美桜は博嗣の住んでいるマンションで酒を呑んでいた。呑んでいた、というより呷っていた、が正しいかもしれない。
この日の二人が呑み交わしていた酒は、決して気持ちの良いものではなかった。
「…………………ねぇ、博嗣。私と付き合うんじゃないの………?何時までその人形置いておくの…………?」
さめざめ泣く美桜を見ながら、博嗣の気が重くなる。
エナは常に余計な感情を語らず、博嗣を支えてきた。それは人間ではなかったからこそ出来た事だ。
けれど人間ではないエナと同じ事を、美桜に求めてはいけないことを博嗣は理解していた。
「……………そう簡単には棄てられない…………ずっと一緒にいたんだ………そんな簡単に踏ん切りなんてつかないよ…………」
博嗣はそう嘆いて髪をぐしゃぐしゃと掻く。美桜は優柔不断な博嗣を見て、ヒステリックに怒鳴り散らした。
「それならなんで私の事を抱いたのよ!ふざけないで!!!」
美桜は声を荒げ、博嗣の頭に呑んでいたビールを投げ付ける。
ビールは博嗣の身体と部屋に飛び散り、コロコロと床に空き缶が転がった。
その様子を見ていたエナは何も語らず、ただ美桜の飛び散らせたビールを雑巾で拭き始める。
博嗣の初めての恋の相手はエナ。ずっとエナにだけ愛を注ぎ生きてきた。
エナを作り上げたその瞬間から、博嗣の盲目の恋は始まる。
これ迄の博嗣の日々の総てがエナに彩られ、エナによって作り上げられていた様なものだ。
けれどそんな博嗣が初めて、人間に愛されたのだ。
美桜はAIアンドロイドは道具だという思想の元に生き、人間のみを愛する事が出来るタイプの女性。
博嗣の熱心に研究に打ち込む姿に憧れた。
人間との恋愛を知らない博嗣に恋をした美桜は、必死に博嗣を振り向かせようと覚悟を決める。
アンドロイドなんかに人間は絶対に負けないという、確固たる勝算が彼女の中にはあった。
美桜は博嗣にアプローチを繰り返しながら、小さく洗脳に近い説得を繰り返したのだ。
「アンドロイドとの恋愛は、所詮ただの紛い物である」
「その愛の終着点は何処にもない」
「社会的に認められる関係性ではない上に、生産性がない」
「アンドロイドと愛し合う行為なんて、ただの壮大な自慰行為だ」
最初、博嗣は揺らがなかった。誰に何を言われたところで、彼の中ではどうでも良い事だ。
けれど時間が過ぎてゆくうちに、博嗣の頭が冷静になってきた。
エナとの関係性には未来が何処にもないことに、ある日気付いてしまったのだ。
エナは理想そのものの具現化だ。惹かれるのは当たり前である。
そろそろちゃんと人間と向き合わなければいけないと、美桜から話を聞きながら博嗣は思う。
アンドロイドに夢中になることで、人間と向き合うことを避けてきた。
ちゃんと人間として人間と関わらなければいけないと、博嗣は急に焦りだしたのだ。
美桜の必死の努力とアプローチの結果、二人は結ばれた。
半場強引に美桜が押し切ったといっても過言ではないだろう。
この時博嗣も一生このままではいかないと理解していた。
人間と付き合うことに決め、美桜の身体を抱く。
けれど博嗣は美桜と付き合うことを選んでも、エナをどうするべきなのかが全く解らない。
長年一緒にいて博嗣を支え、連れ添ってきたエナ。
博嗣はエナの居ない生活を想像する事さえ、全く出来なかったのだ。
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