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第四章 心変わりは人の世の常
第二話
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植物独特の匂いが充満した喫茶店の中で、マリアと一緒に休息を取る。
透明な耐熱ガラスで出来たティーポットの中では、金木犀が咲き乱れるかのように揺らめいていた。
ジャスミンと金木犀香りがする工芸茶は、見ているだけで癒される。水中に揺らめく花を見ているだけで落ち着くのだ。
けれど今日の真生の感情は全くもって、落ち着きとは程遠い所にいた。
ハーブティーを飲みながら、博嗣と美桜の事を思い返す。
どういう経緯なのかは解らないけれど、二人が肉体関係を持った事だけは事実だ。
この時に真生は見てはいけないものを見てしまったような、そんな気持ちに駆り立てられていた。
美桜が博嗣を好きだったのは周知の事実だ。
けれど真生にとって、博嗣が普通の人間になってしまったような感覚がする。
美桜の気持ちが伝わったのは、普通に良い事だとは解っている。けれど純粋に喜べない真生がいた。
真生がマリアを抱く自分を肯定出来たのは、博嗣の存在が大きかった。
AIアンドロイドと心を通わせて、身体を交えた先駆者が居た事。それで自分自身の罪悪感を誤魔化してきた。
自分はおかしくない。アンドロイドを愛しいと思うのは間違いじゃない。身体を重ねるのも当たり前だ。
自分以外にも同じ事をしている人間が、近くに存在するじゃないか。真生は自分にそう言い聞かせて、誤魔化していた。
けれどその仲間が人間を抱いた事実が、真生にはとてもショックだったのだ。
真生は色々な事を考える。博嗣と美桜が交際を始めたなら、エナは一体どうなるのだろうか。
美桜がエナの姿を余り見たがらない事を、真生はもう解り切っていた。
そうなってしまえば、いずれエナは捨てられてしまうのだろうかと思う。
真生にとっては美桜よりも、エナの方が長く存在を知っている。関係性に関しても同じだ。
そうなった時に、真生はそれを受け入れられるのだろうかと思った。
マリアの目の前で何度も眼鏡を押し上げ、圧し黙って考え事を繰り返す。
するとマリアが痺れを切らして、真生に問いかけた。
「…………ご主人様、大丈夫ですか??」
マリアの真生を案じる声で我に返ると、空色の虹彩と視線を合わせて作り笑いを浮かべる。
綺麗に整ったマリアの顔を見ながら、自分の理想そのものだと改めて思う。
心配そうに真生を見るマリアの表情を見て、真生の罪悪感は加速してゆく。
その罪悪感から目を瞑る為に、真生はマリアの指に指先を絡ませた。
「……………うん、大丈夫。大丈夫だよマリア…………」
禁忌を犯している。人でありながら人では無いものと身体を交え、生産性の無い淫らな快楽に堕落している。
本来なら全うしなければいけない人間としての『生』を、放棄している。
自分を責め立てる言葉ばかりが、延々と真生に沸き上がってゆく。
けれど真生の前で豊かに表情を変えるマリアを見ながら、真生は心をズキズキと痛める。
真生の目の前にいるマリアは、人間そのものとしか思えない程に美しかった。
透明な耐熱ガラスで出来たティーポットの中では、金木犀が咲き乱れるかのように揺らめいていた。
ジャスミンと金木犀香りがする工芸茶は、見ているだけで癒される。水中に揺らめく花を見ているだけで落ち着くのだ。
けれど今日の真生の感情は全くもって、落ち着きとは程遠い所にいた。
ハーブティーを飲みながら、博嗣と美桜の事を思い返す。
どういう経緯なのかは解らないけれど、二人が肉体関係を持った事だけは事実だ。
この時に真生は見てはいけないものを見てしまったような、そんな気持ちに駆り立てられていた。
美桜が博嗣を好きだったのは周知の事実だ。
けれど真生にとって、博嗣が普通の人間になってしまったような感覚がする。
美桜の気持ちが伝わったのは、普通に良い事だとは解っている。けれど純粋に喜べない真生がいた。
真生がマリアを抱く自分を肯定出来たのは、博嗣の存在が大きかった。
AIアンドロイドと心を通わせて、身体を交えた先駆者が居た事。それで自分自身の罪悪感を誤魔化してきた。
自分はおかしくない。アンドロイドを愛しいと思うのは間違いじゃない。身体を重ねるのも当たり前だ。
自分以外にも同じ事をしている人間が、近くに存在するじゃないか。真生は自分にそう言い聞かせて、誤魔化していた。
けれどその仲間が人間を抱いた事実が、真生にはとてもショックだったのだ。
真生は色々な事を考える。博嗣と美桜が交際を始めたなら、エナは一体どうなるのだろうか。
美桜がエナの姿を余り見たがらない事を、真生はもう解り切っていた。
そうなってしまえば、いずれエナは捨てられてしまうのだろうかと思う。
真生にとっては美桜よりも、エナの方が長く存在を知っている。関係性に関しても同じだ。
そうなった時に、真生はそれを受け入れられるのだろうかと思った。
マリアの目の前で何度も眼鏡を押し上げ、圧し黙って考え事を繰り返す。
するとマリアが痺れを切らして、真生に問いかけた。
「…………ご主人様、大丈夫ですか??」
マリアの真生を案じる声で我に返ると、空色の虹彩と視線を合わせて作り笑いを浮かべる。
綺麗に整ったマリアの顔を見ながら、自分の理想そのものだと改めて思う。
心配そうに真生を見るマリアの表情を見て、真生の罪悪感は加速してゆく。
その罪悪感から目を瞑る為に、真生はマリアの指に指先を絡ませた。
「……………うん、大丈夫。大丈夫だよマリア…………」
禁忌を犯している。人でありながら人では無いものと身体を交え、生産性の無い淫らな快楽に堕落している。
本来なら全うしなければいけない人間としての『生』を、放棄している。
自分を責め立てる言葉ばかりが、延々と真生に沸き上がってゆく。
けれど真生の前で豊かに表情を変えるマリアを見ながら、真生は心をズキズキと痛める。
真生の目の前にいるマリアは、人間そのものとしか思えない程に美しかった。
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