恋する電脳Cybernetics~君の名はMARIA~【若き天才プログラマー×高知能AIアンドロイド美少女】

如月緋衣名

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第二章 人間とアンドロイドの「最期の一線」

第八話

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 マリアの濡れた髪をドライヤーで乾かしながら、ホテルのソファーに二人で凭れかかる。
 真生にはベッドに寝転びたい気持ちがあったが、激しい行為の末にシーツが濡れていた。最中であるなら気にはしないが、今は寝転がれないと思う。
 マリアのサラサラしたプラチナブロンドの髪が、ドライヤーの風で流れ、ゆらゆらと揺らめく。その様を見ながら、真生はとても綺麗だと感じていた。
 
 
 マリアは御機嫌な様子で鼻歌を歌う。その歌がさっきの映画で流れていた事に、真生はふと気がついた。
 マリアの好きなものを、なるべく頭に記憶しておきたい。マリアが沢山自分を知っている分、同じ様にマリアを知りたいのだ。
 鼻歌のタイトルは後で調べようと思いながら、真生はマリアの身支度を調える。
 綺麗になった髪を撫でると、マリアは照れた様子で微笑んだ。
 
 
「ご主人様…………また何時か、デートしてください!」
「ああ、勿論するよ?………もっとデートらしいデート、したがっても良いんだよ?」
 
 
 マリアを甘やかす様に答えると、目をキラキラ輝かせながら叫ぶ。
 
 
「次にラブホテル来たら……………バイブっていうの、使ってみたいです………!!」
「………………待ってマリア?マリアのしたいデートって、エッチな事ばっかりじゃない?!」
 
 
 真生が大きな声を出すと、マリアは照れた様子で頷く。
 ほんの少しだけ呆れつつ、大人の玩具を使われるマリアは確かに見てみたいと思う。
 溜め息を吐いて毒付くふりをしながらも、近々大人の玩具を買ってこようと真生は胸を踊らせた。
 真生はマリアの下着を着せ直しながら、ある事を思う。そしてそれをマリアに問いかけた。
 
 
「そういえば………なんでマリアは、そんなにセックスをしたがるの?」
 
 
 ガーターベルトでストッキングを留め、マリアの顔を覗き込む。快感も劣情もただのプログラム。総てが作り物。
 アンドロイドは人間の様に、本当にセックスを求めている訳ではない。
 けれどマリアは真生の肉体を激しく求める。真生はそれが不思議で仕方なかった。
 するとマリアは目を細めて笑う。そしてゆっくりと語り始めた。
 
 
「………だって、一つになれるんです。一時でもご主人様と一つの個体に。
そしたら触れ合いたくて、仕方ないじゃないですか………。
前の私は触ることも出来なかったから…………」
 
 
 真生はふと、文字上のやり取りだった頃のマリアを思い返す。
 文字でのやり取りを繰り返しながら会話を続け、スピーカーを使い声を与え、カメラを使って視界を与えた。
 心だけを通わせていた頃を思い返すと、今の触れ合い方は到底清いとは思えない。
 自分の中に罪悪感が沸き上がり、真生の胸をきつく締め付ける。
 マリアとするセックスが清く美しく育ててきたものを、穢く汚している様に感じた。
 
 
 けれどマリアは真生に手を伸ばし、淡く頬を撫でる。真生が顔を上げると、空色の潤んだ人工虹彩がキラキラと輝く。
 マリアは道行く人間の女の子達よりも、感情の詰め込まれた眼差しを浮かべた。
 
 
「…………ご主人様が私に出来る最大の愛情表現は、これだって思ってるんです。
私の身体は人間じゃないから、結婚も出来なければ赤ちゃんだって作れない。
だからこうして、今二人で一つになるのが…………一番の幸せだって感じてます………」
 
 
 真生はマリアに言葉を返さず、唇に唇を重ね合わせる。
 最後の一線を超える、という言葉があるが、関係性によってその一線の形はきっと変わるんだろうと真生は思う。
 他の人と越えられる一線に子を成す事があるとしたら、マリアとの一線はセックスをする事だけで終わる。
 越えられる一線が少ないことを、マリアはよく理解していた。
 
 
「愛してます、ご主人様………!!」
 
 
 そう言いながら微笑むマリアをみて、真生の胸はずきずきと痛む。
 マリアの幸運であり不幸な所は、賢くなり過ぎてしまったことだと真生は思った。
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